香港映画

【ZINE新作】『台カルZINE Vol.2』ほか

岩手と台湾をカルチャーで結び、台湾カルチャーを深掘りする楽しみを伝える目的で2021年に結成された台湾カルチャー研究会のZINE「台カルZINE」の最新号が発行され、盛岡市内の各ブックイベントで販売しました。

【新刊】台カルZINE Vol.2 特集:NO MUSIC,NO TAIWAN(台湾カルチャー研究会)

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1号が映画なら2号は音楽!という理由での音楽特集。とはいえ台湾音楽も実に幅広く、すべてを網羅することは不可能なので、メンバー3人の偏愛音楽エッセイを中心に構成。日本でも放映された2000年代の台湾ドラマを彩ったテーマソング集があれば、台湾での村上春樹の受容を追っていたら出会った文青ポップスもあり。私はかつてこのblogでも書いてきたジェイ五月天の日本ライヴレポートのダイジェスト版と、自分が初めて触れた1990年代前半の台湾ポップスの思い出について書き下ろしました。
また、このZINEで紹介した曲を中心にしたプレイリストもspotifyでつくりました。よろしければ聴いてみてください。

 

【新刊】『このまちで えいがをみること』書局やさぐれ

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表紙はこの4月に営業を終了した、岩手県盛岡市の映画館通りにあるニッカツゴールデンビル。
かつては日活の映画館が入っていたビルで、日活撤退後も長年映画館が入っていました。
このビル自体の営業終了により映画館が閉館したことがきっかけで作ったZINEです。

11年前に香港映画の、5年前に台湾映画のZINEをそれぞれ作ってきたので、3冊目の映画ZINEはそれ以外…となるはずなのだけど、それでもここで紹介するのは、ええ、それでも入っているのですよ、香港映画+αが(^_^;)。
このZINEでは、自分が昨年観て気に入ったり気になった映画を洋邦各5作品、映画館で観た旧作5作品、そして今年上半期観た映画5作品のTwitterで書いてきた感想に加筆してまとめた感想集なのですが、このblog的な作品として『レイジング・ファイア』『時代革命』『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』そして王家衛4K作品集について取り上げております。ここで書いた長文感想のダイジェスト的にシンプルにまとめました。
長年映画好きやっておりますが、もうすでに香港映画も分かちがたく、香港・台湾映画を除いて映画の感想をまとめることって自分にとっては結構厳しいのだと改めて思いました。なお、いろいろな人に読んでもらえることを目的に作りましたので、毒は控えめです。

この新刊2作を引っ提げてまず参加したのが、6月18日(日)に岩手教育会館で開催された文学フリマ岩手8
東北唯一の文学フリマです。

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当日のブースの様子。今年は書局やさぐれと台カル研のダブルネームで参加しました。

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当日のセットリスト。既刊ZINEもまだまだ在庫あります(笑)

昨年から会場が変わったのと、出店者も一般参加者も過去最高を記録したとのことで、会場内の熱気は実に半端なかった。お隣が旅の写真集を出されていた方でお話しできたり、思わぬ出会いがあったりと忙しいながらも実りあるイベントでした。
文学フリマ岩手には初回からずっと参加していますが、実は一般でも出店でも東京は未経験。3年前の春のイベントに出店の申し込みをしたことがあるのだけどコロナ禍で中止。岩手の文フリも2年連続で中止になりました。秋は映画祭シーズンと重なるので行けないだろうけど、来年の春の東京は出店を検討しております。

その1週間後、6月25日(日)にもりおか町家物語館で開催された浜藤の酒蔵ブックマーケット2023-Summer-にも出店いたしました。

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こちらは古本市からスタートしたブックイベントで、市のアート系団体の主催です。
古本屋を経営されている方から、フリマ感覚で自宅の本を持って販売する方まで出店者は様々でZINEや読書グッズの販売のみでもOKと間口が広いイベントでいつも楽しく参加しています。
会場が住宅地にあるので来場者に子供たちも多く、今回ワンオペ故店番を手伝ってもらったOPENちゃん(写真)が人気でした。

今後のイベント参加は秋までありませんが、ZINEイベントにも出品しております。
また、新刊発行にあわせて通販も近日再開いたしますので、ご興味がありましたらよろしくお願いいたします。

そして次の新作ZINEも秋発行を目指して現在計画中。
次作は旅行記の予定です!ふふふ

 

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花椒の味(2019/香港)

マスコミが伝える7月1日をはさんだ香港の情勢は、25年前には全く想像できなかったものだった。
最後に香港へ行ったのは3年前の春休み。その時でも再開発等で変わりつつある感は覚えたのだが、その直後に反送中デモが起こり、さらにコロナ禍で国安法が成立してしまい…という状況。私は返還直後から香港に通い始め、返還前の残り香をかいだり新たな楽しみも見出したりして滞在を楽しんでいたのだけど、そんな私の香港も、もう良き思い出の中にしか存在しなくなってしまうのだろうか…。

現在日本で紹介される香港映画も、あの『十年』からたどれば、この時代を反映した若手映画人によるドキュメンタリーが多い。もちろん『乱世備忘』も『理大囲城』もオンラインでだがしっかり観ている。クラウドファンディングに参加した『憂鬱之島 Blue Island』も無事完成してこの夏東京から上映が始まるし、昨年カンヌと東京フィルメックスで特別上映されて話題を呼んだキウィ・チョウ監督の『時代革命』も上映を控えている。もちろん機会があったら劇場で観たい映画だ。
だけど、それだけじゃ寂しい。ドキュメンタリーだけではなくフィクションも観たい。もちろん『レイジング・ファイア』や『バーニング・ダウン』は面白かったけど、アクションだけじゃなくてしっかりしたドラマももっと観たい。そんなわけで、我が地元では香港が返還されて25年経った日から上映が始まっていた『花椒の味』を観に行ったのであった。

 

 

 

香港・九龍の旅行代理店で働くアラフォーのOL夏如樹(サミー・チェン)の父夏亮(ケニー・ビー)は香港島の大坑で一家火鍋という店を経営している。2017年2月、その父の訃報が如樹の元に届く。父のスマートフォンのLINEログから、台北と重慶にそれぞれ異母妹がいることを知る。亮の葬儀の日、台北からビリヤードのプロ選手如枝(メーガン・ライ)が、重慶からはオンラインセレクトショップのオーナーでインフルエンサーでもある如果(リー・シャオフェン)がやってくる。店員のロウボウから店の契約期間がまだ残っていることを知らされた如樹は、残りの期間だけ火鍋店を続けることにする。

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三姉妹もの映画で思い出すのは『宋家の三姉妹』に『恋人たちの食卓』。最近ではそのものずばり『三姉妹』という韓国映画もある。
『若草物語』の例を挙げるまでもなく、兄弟姉妹の話ともなると「最も近しい他人」ゆえの葛藤が物語を動かすことになるが、この三姉妹は出会ったばかりの頃は多少相手を怪訝に思うことはあれ、すぐ打ち解けてしまい互いに助け合うようになる。異母姉妹の愛憎ものを期待すると拍子抜けするのだろうが、テーマはそこではない。頭に「如」の字、そして木のつく漢字が共通項の彼女たちは、それぞれの現在の家族との間に問題を抱えている。如枝は再婚した母親(リウ・ルイチー)と折り合いが悪く、同じく再婚してカナダに移住した母親と別れて祖母(ウー・ウェンシュー)と重慶に残った如果は、何かと世話を焼こうとする祖母が疎ましい。そして如樹は、病弱な母と自分を置いていった父が許せない。
普通だったら、亮のような父親は軽蔑に値するだろう。如樹のような生真面目な娘ならなおさら。しかし、彼女の知る父の姿が一面的ではないのは如樹の元婚約者天恩(アンディ・ラウ)や父の友人だった麻酔医浩山(リッチー・レン)が語るエピソードや、二人の妹たちの存在からも見て取れる。そして在りし日の父を演じる阿Bの人たらし感のある笑顔が実によく、誰が見ても憎めず愛すべき存在として描かれているのが効いている。

家族という存在は安心感をもたらせば、それ以上に煩わしくも面倒くさくもなる。そこは如枝と如果の各パートで描かれる。
この妹二人のキャラの作り方が面白い。ドラマ『アニキに恋して』の男装女子役が印象深いメーガン演じる如枝の職業がビリヤード選手というのが台湾の体育会系的イメージがあってハマっているし、『芳華』の李曉峰演じる如果は中国の裕福な家の若いお嬢さんらしさがあるし、突拍子もないファッションも楽しい。(下の写真、これもしかして特攻服?と思ったのだがいかに)

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如枝は父の応援を励みにビリヤード選手としてのキャリアを積んできたが、母は賞金で生活を賄うことに不安を覚えるし、かいがいしく世話を焼く如果に対して祖母は安定を求めて結婚をすすめる。これは彼女たちだけの悩みではなく、かつての、あるいは現在進行中の世界中の娘たちが直面する問題。いずれも女親が娘/孫娘に対して抱く幸せの定型に見えるし、彼女たちなりの幸せが違うことですれ違いを産む。あるいは如枝の母も如果の祖母もまだまだ手放したくない故の干渉だろうけど、妹たちがそれを考える場として長姉の如樹がいる火鍋店にやってくることでこれまでの自分を見直し、次に進もうとする。その辛さと優しさを火鍋の辛さで語り、いずれもよい関係を結んでいくのがよい。
もちろん、如樹の思い悩みも、火鍋店に関わることで頑なな心がほどけていき、父の幻影に出会うことで和解していく。そして三姉妹は店から旅立つのだが、この家族の繋がりと解散が自然な形で描かれている。とかく「家族の絆」を強調し、文字通り縛りつけた果ての悲劇がたびたびおこる現代の家族関係において、これくらいの向き合い方でちょうどいいと思うのだ。

また、家族関係とはまた違う如樹と天恩、そして浩山という2人の男たちとのそれぞれの関係。これが恋愛に発展しにくい関係として描かれているのが実に現代的で興味深かった。
サミーはアンディとリッチーのそれぞれとも共演経験があるし、特にアンディとはロマンティックコメディからスリラーに至るまで何度も恋人同士を演じているので、一度婚約を破棄しながらも、新居になるはずの部屋に住まわせてもらうなどのつながりを保った「友人」として関係を続ける如樹と天恩の場面には、その婚約破棄の描写がないためになぜ?とあれこれ考えが及ぶ。しかし婚約破棄に至っても天恩は如樹への思いが思っているので、この物語の後によりを戻すこともあるのだろうが、この気まずく別れない関係は現実に難しくあっても、多少の憧れは感じるところがある。
リッチー演じる浩山は如樹とは父を知る人として知り合って距離を近づけていくが、メッセンジャーとしての役割を果たして、彼の望む次の人生へと向かう。つまり如樹は両者とも劇中ではわりとサラリとした付き合い方をしていくのだが、こんな描写もラブコメに持ち込むことなくさりげなく描かれていたので、とても新鮮に思えた。

この映画は香港映画にしては珍しい原作つきで、その原作を読んだプロデューサーのアン・ホイがヘイワード・マックを指名して製作したという。そんなわけで「アン・ホイ作品」を強調して語られることが多いようだが、それでも《九降風:烈日當風》や《前度 ex》を監督し、パン・ホーチョンの『恋の紫煙』の脚本を手掛けたヘイワードの作品として見事に仕上がっていると思う。コロナ禍と共に電検(検閲)の義務が課せられてしまい、製作本数が激減している香港映画の現状に非常に辛さを感じるが、今後の香港映画界での活躍を大いに期待したい監督がまた一人増えた。
だからまだまだ「香港映画絶対不死」と言い続けていきたい。

 

原題(英題):花椒之味(Fagara)
製作:アン・ホイ ジュリア・チュー 監督&脚本&編集:ヘイワード・マック 撮影監督:イップ・シウケイ 美術&スタイリング:チャン・シウホン 音楽:波多野裕介
出演:サミー・チェン メーガン・ライ リー・シャオフォン リウ・ルイチー ウー・イェンシュー ケニー・ビー リッチー・レン アンディ・ラウ 

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大阪アジアン映画祭とこれからの中華電影上映

今年の第17回大阪アジアン映画祭(以下OAFF)では、昨年末に香港で公開されて話題になったアニタ・ムイの伝記映画『アニタ』がスペシャルメンションと観客賞を、昨年の香港亞洲電影節で上映された香港映画『はじめて好きになった人』が後日関西ローカルでTV放映されるABCテレビ賞をそれぞれ受賞したそうです。恭喜!

 

 

OAFFは、10年前に参加したのが最初で今のところ最後。そういえば4年前にもnoteこんな記事を書いていました。
この時期のTwitterのTLによく流れてくるのが「OAFF、東京でも開催すればいいのに」といったような東京近辺からのtweet。
すいません、大変申し訳ございませんが、田舎モンが以下太字にして言っていいですか?

「おめだづなに寝言ゆうとんだ、イベントは今のままでも東京一極集中しすぎてるでねーの。TIFFもフィルメックスも台湾巨匠傑作選もシネマート中華祭りも未体験ゾーンも国立映画アーカイヴ特集上映もあんのにはあ、ごだごだ贅沢ゆうでねえ!」

はい、失礼いたしました。正気に戻ります。

北東北の地方都市在住の映画ファンとして、地元で十分な映画館とスクリーンの数が揃っていても、小規模な配給会社によるアート館のみの上映が多い中華電影は滅多に映画館でかからないので、それがフラストレーションになっていました。地元で観られない映画は仙台に遠征したり、帰省中なら東京まで観に行ったりもしていました。だけど今はコロナ禍。昨年も一昨年も映画祭には行けてません。
もちろん、以前も書いた通り配信でカバーして観てはいるのですが、それだけではやはり物足りません。映画は映画館で観る習慣を25年以上続けているので、どうしても小さな画面での鑑賞に満足できません。

そんな不毛な状況ですが、それでも最近は少し希望を感じています。それはOAFF上映作の日本公開と、地方まで回ってくる作品が少しずつ増えていることです。

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OAFF2020で上映されたサミー・チェン主演の香港映画『花椒の味』は、昨年11月に新宿武蔵野館で上映されましたが、そこから半年以上経った6月に中央映画劇場略して中劇で上映されます。やったあ!
(前回感想を書いたこれも中劇で上映。実はこの館のスタッフさんに熱烈なニコファンがいらして、上映時のblogが半端なく熱いのでぜひぜひご一読ください)昨年は同年上映の『少年の君』や『夕霧花園』も地元で上映がありましたし、さらに一昨年は2019年上映の『淪落の人』も上映されました。花椒と淪落は武蔵野館の配給部門武蔵野エンタテインメント配給。東京公開開始後半年でソフト化されることが多かった単館系作品が、時間をかけても全国公開で持ってきてもらえるのって本当にありがたいです。

映画祭でいち早く観て、みんなで盛り上がれることは楽しい。その場でしか上映できない映画を観られるのも本当に貴重な体験。
だけど、中華電影迷としての一番の願いは、イベントに参加したみんなが楽しんだ映画に配給がついて、それが日本全国の映画館にかかってくれることなんです。
私が住む北東北の地方都市に上映が回ってきて、地元の同好の士の皆様に観てね観てねとアピールしながら映画館に通い、鑑賞後は地元のカフェやレストランで食事しながら一人でかみしめたり、あるいは友人とあれこれ話し合ったりできることは本当に楽しいです。

これからも日本で中華電影が上映され続けてほしいので、地元で上映される映画はもちろん、できれば遠征でも観て、支えていきます。
あとはこちらに来なかった映画の上映会も行いたいです。そのためにはどうすればいいか、いろいろと策を練っています。

このコロナ禍が早く収束して、また映画祭で関東や関西の同好の士の皆様にお会いして一緒にもりあがれる日が来ますように。
そして、また香港や台湾に行けますように。

そうそう、これも言わなきゃね。
『アニタ』の日本公開を強く願います。

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レイジング・ファイア(2020/香港・中国)

昨年は開催中止となったため、2020年と21年の香港での上映作品をノミネート対象とした第40回香港電影金像奬のノミネート作品が先ごろ発表され(リンクはアジアンパラダイスより。授賞式は4月17日(日)に開催予定)、作品賞・監督賞始め全8部門にノミネートされた『レイジング・ファイア』。

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21世紀の香港アクション映画を代表する人物となり、ハリウッド進出も順調なドニー・イェンと、香港返還直前にデビューを果たし、俳優や歌手のみならず、近年は料理番組でシェフとしても活躍するニコラス・ツェーという、21世紀香港映画のアイコンである2人が主演。そして監督は『ジェネックス・コップ』『香港国際警察 NEW POLICE STORY』『レクイエム 最後の銃弾』など、このblogでも感想を書いてきた多数の作品を手掛けた“香港の爆発王”ベニー・チャン。反送中デモが起こった2019年に撮影を終え、香港及び中国で上映が始まって間もない2020年8月に58歳でこの世を去り、本作が遺作となった。

 

 

東九龍警察本部に所属する張崇邦警部(ドニ―)と、彼の部下として働いている邱剛敖(ニコ)。自らの正義を信じ、悪人の逮捕に全力をかける邦を敖は尊敬していたが、大手銀行の霍会長の誘拐事件で二人の運命は大きく分かれる。2人の容疑者が特定された後、そのうちの一人の何を追った敖とその仲間たちが、司徒副総監(ベン・ユエン)の命令を受けて会長の居場所を暴行により白状させ、さらには殺してしまったことが大きな問題となり、敖たちは裁かれて実刑を受ける。
4年後、邦は誘拐犯の残りの1人の王の逮捕に執念を燃やしていたが、有力者の息子の逮捕の件でクレームが入り、捜査を外される。彼の代わりに同僚の姚(レイ・ロイ)が王とベトナムマフィアの麻薬取引現場に赴くが、その現場で麻薬が強奪され、姚たち捜査班も襲撃される。彼らを襲ったのは出所した敖と元警官たちだった。

この映画が撮影された2019年の香港といえば、先に書いた通り反送中デモに端を発した14年以来の民主化運動の再燃と、市民運動の徹底排除を貫いた香港政府の対立により、警官がデモ隊に催涙弾を撃ち、学生たちを投打する映像をニュースやドキュメンタリー等で見て大きな衝撃を受けたことが思い出される。14年の雨傘運動時同様、市民の安全を守る警察が政府を守る側に守ってしまったことに大きな失望を抱いたのは市民でなくても同じだった。そんなマイナスイメージが香港警察についてしまった今、どうこの映画を受け入れたらいいのか?と、ついついそんなことを観る前には考えてしまった。
しかし、10年代は『コールド・ウォー』2部作のように警察内部の問題をテーマにした映画も多かったし、この映画でも上層部の命令により起こった悲劇から警察内部の腐敗を匂わせているので、とりあえず現実と距離を置きつつ、でも重ねて考えてもいいように思う。それを思えば、近年のヒーローにしてはストイックに正義を貫き、自らの組織にもその追求を止めない邦も、命令に従ったことがかえって罪となり、復讐を以て組織とかつての上司に怒りを突きつける敖も、彼らそれぞれのやり方で警察に異議申し立てをしているのではないか、と私は考える。
(ところで映画界でも現在の警察をそのまま描くのではなく、ドニーさんとアンディW主演の『追龍』のように過去に題材を求めたり、19年冬に台湾で観た『廉政風雲 煙幕』のように廉政公署を舞台に犯罪者とのチェイスを描く作品が10年代後半にはあったので、やはりそのあたりは意識されていたのかとも思うのだが、実際はどうだろう?)

ベニーさんといえば先に挙げたような、大規模な爆発を得意としており、『WHO AM I!?』などの成龍とのコラボレーション、そして《衝鋒隊:怒火街頭》に始まる警察ものが代表作と言われるけど、デビュー作はあの『アンディ・ラウの逃避行/天若有情』だし、『新少林寺』や『コール・オブ・ヒーローズ』のような時代ものも撮れるオールラウンダー。ドニーさんとは90年代のTVシリーズでコンビを組んだとのこと。ベニーさんを語るのに欠かせない人物は成龍を始め様々いるが、やはりここでは『ジェネックスコップ』以来主演や助演で多く出演してきたニコを取り上げたい。

ここ数年のニコといえば、大陸のドラマへの出演の他、料理番組のホストを務めてシェフとして腕を振るい、そこから生まれたグルメ&スイーツブランド・鋒味をプロデュースしている。かつて中環にクッキーショップの路面店を出していたけど、コロナ禍で撤退し、現在は通販のみで対応の様子。

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2017年春の香港で撮影。

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看板スイーツのひとつ、茶餐廳曲奇(クッキー)
辛いクッキー等面白いフレーバーもあり。

私自身も出演作はジェイとW主演の『ブラッド・ウェポン』(2012)以来か、その後何かあったっけか?というくらいで本当に久々のニコであったが、先に挙げたジェネックス、ニューポリ、新少林寺の他、ゲスト出演の『プロジェクトBB』やショーン・ユーやジェイシー・チャンと組んだ『インビジブル・ターゲット』など、2000年代のベニーさん監督作品の数々を思い出し、歳は重ねどもあの頃の若さと変わらぬ熱さのニコに、この20年間に彼が経験した様々なこと(必ずしもいいことばかりではなかったが)もあって、ついつい本人の実人生を重ねてみたくなった…というのはオーバーであるか。
敖は自らの正義を貫く先輩の邦を慕う一方、上層部の命令に逆らえず(エリートの設定なので出世に係わる面も大きいのかも)それに引き裂かれて起こった悲劇により邦も含めて警察への憎悪を抱いた復讐鬼と化すのだが、その憎しみの暴走は邦の頑なな正義にもナイフを突きつけていくので正義は絶対的なものなのか?ということにも考えが及ぶし、説得力もある。
そんな敖を激しく演じてくれたら、もうニコすごい…と語彙力が消失したようなことしか言えないではないか。デビュー直後から彼を観てきた身としても!本当に久々のアクション映画での演技ということもあって、ニコの熱演が本当に嬉しかった。

 

こちらも久々にニコが歌う主題歌のMV。ドニーさんが特技のピアノを披露しているのもまた楽しい。

ドニーさんは誰がなんといっても宇宙最強。この映画自体が単純な勧善懲悪でないとはいえ、最後に彼が勝つのはもちろんわかっている。では彼とニコはどう戦っていくのか、というのも見せ場である。
アクション監督をドニーさん自身が務めているから、ベニーさんお得意の爆発描写に彼の格闘が加わるわけで、激烈さは増し増しである。それと同時に、近年の潮流でもある感情や物語に応じたアクションもしっかり実践されている。彼を中心に、カーアクションは李忠志さん、銃撃戦は谷軒昭さん、そしてクライマックスの格闘を谷垣健治さんと、香港を代表するコーディネーターたちが集って取り組んでいるから迫力もありエモーショナルである。特に広東道での激しい銃撃戦(香港島にセットを組んで実景と合成したそうだが違和感はなかった)から、古い教会に舞台を移してからの邦と敖の格闘は、ドニーさんの方が圧倒的にパワーが上というのもわかっていながらも、ニコが互角に戦えていたし、熱量もあって見ごたえ充分。この作品の前に谷垣さんが参加されていたるろけんファイナル(るろうに剣心最終章The Final)で繰り広げられた剣心と縁のクライマックスの格闘場面も非常に熱く見入ってしまっていたので、ああやっぱり格闘はいいよねーと語彙力が消失気味になってしまうのであった…。

この作品は完成時から「このくらい大規模なロケができる香港の警察映画はもう当分撮れない」と言われていたが、その後のコロナ禍による行動制限、そして国安法等の法律改正により、本当にこのレベルの映画が作れるかどうか心配になってきた。そしてベニーさんが亡くなられているという事実も、これに加えてずっしりと重くのしかかってくる。
香港映画の未来はどうなるのか。これについては、またの機会に書いてみたい。

最後に、改めてベニー・チャン監督のご冥福をお祈りいたします。

原題:怒火
製作・監督:ベニー・チャン 製作・アクション監督:ドニー・イェン 撮影:フォン・ユンマン 音楽:ニコラ・エレナ スタントコーディネーター:ニッキー・リー クー・ヒンチウ 谷垣健治
出演:ドニー・イェン ニコラス・ツェー チン・ラン パトリック・タム レイ・ロイ ベン・ユエン ベン・ラム ケン・ロー カルロス・チェン サイモン・ヤム

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我的中華電影ベストテン2021

2016年まで「funkin'for HONGKONG十大電影」と銘打ってその年に観た中華電影のうち、気に入ったものを10作選んでいたのですが、17年以降は映画の長文の感想がなかなか書けなくなってしまいました(twitterには感想は書いているのですけどね)
ここ2年は県外の映画祭などには行けなくなり、鑑賞本数も減少気味ですが、配信で何本か観ることができたし、地元の上映も徐々に増えてきているので、今年は題名を改めて、久々にまとめてみました。
なお題名に、Twitterで書いた感想をリンクしておきます。

理大囲城

これまで25年以上東北で暮らしているのに、なぜか行く機会が全くなかった山形国際ドキュメンタリー映画祭でのオンライン上映で鑑賞。これに先立って、地元では上映がなかった『乱世備忘 僕らの雨傘運動』もオンラインでやっと鑑賞。
2019年の初夏から始まった反送中デモのうち、最も大きな動きとなった11月の香港理工大学ロックダウンでのデモ参加者と警察との攻防を記録したドキュメンタリーで、スタッフは全員匿名。かつてよく散歩した尖東の歩道橋や近くを通ったことがある理大キャンパスがこの攻防の舞台になっていることには衝撃を受けたし、大学内部に閉じ込められたデモ参加者(高校生もいた)の焦りや意見のすれ違い等も緊迫感をもって観た。当時は日本のSNSでも武力行使を是としない意見をよく見かけたけど、このデモが決して暴力に訴えたものではなかったことはよくわかるし、理解が及ぶところである。
3年前の春に行ったのが結局今のところ最後になる香港だが、新しい建物や普通話の会話がやたらと耳について気になってはいた(かくいう自分も一応普通話スピーカーだが、香港では片言の広東語か英語を使って過ごしている)直後に反送中デモが始まり、それを受けて政府や中央からのさまざまな締め付けがコロナ禍に乗じて始まってしまい、現在の状況になったことに非常に驚いている。この映画も『時代革命』も、現在香港では上映できなくなってしまった。現在の香港の状況については、近日別記事でも書いておきたいのだが、暗黒の時代に入った香港でも、決して自由を死なせてはいけないし絶望してはいけないという気持ちを持っていたいものだ。

1秒先の彼女

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《健忘村》を除くこれまでの陳玉勳作品はいずれも映画祭上映から一般公開になっていたので、今回も金馬受賞後にOAFFで上映されるのかと思っていたら、いきなり一般上映が決まって驚いた。幼いころに出会っていたアラサーで風変わりな二人のおかしな邂逅の物語。確かに初期作の『ラブゴーゴー』に通じるところは大きいけど、原点回帰というよりも進化だよね?と全ての陳玉勳作品が好きな自分は思うのであった。ついでに《健忘村》も今ならもうちょっと評価されてもいいと思うんだけどなあ…。

少年の君

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アカデミー賞国際長編映画賞ノミネート、そして20年の金像奬作品賞を受賞した香港映画。だけど舞台と俳優は中国、言語は普通話。10年代後半に『十年』や『大樹は風を招く』などに賞を与えていた金像奬がなぜ中国が舞台のこの映画に賞を与えたのか、疑問であった。香港映画で俳優としてキャリアを重ねてきたデレク・ツァン監督の作品は『恋人のディスクール』のみ観ている。この前作の『ソウルメイト/七月と安生』で単独監督デビューしているのだけど、これも舞台は中国。
これまで取り上げてきたテーマは友情やいじめと、普遍的なものである。そして鮮烈。中国製作なので、あの検閲済みの龍のマークはついているし、ラストには政府によるいじめ抑止対策の、クレジットもついていたのでプロパガンダ的にも見られそうだが、ここしばらくの中国映画が持つどこか忖度めいたものは感じられないし、制限のありそうな中でしっかり自分の描きたいことを描き切っている。周冬雨とジャクソン・イーの主演2人も、痛々しいほどの熱演を見せてくれた。
デレクの次回作はあの『三体』のnetflixドラマ版だそうで、これも楽しみである。第1話を担当とのことだが、そうするとあの場面から始めるのか…>あえてなにかは書かないでおく(読んだ人はわかっていると思うけど)

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↑これは公開時に劇場で掲出されていたスチール。地元の映画好きにも好評な作品でした。
それなら『七月と安生』も上映してほしかったなあ…配信で観るしかないのか。

日常対話

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リンクはTV版の感想で失礼します。クラウドファンディング特典のトーク付き限定配信で観たのですが、なぜか感想をtweetしていなかった…

ホウちゃんのプロデュースでTV版が先行して製作され(NHKBS1で放映された『母と私』2015年製作)その後長編劇場版として製作。独立映像制作者の黃惠偵監督が、 葬儀業を営むレズビアンの母との修復を試みるためにカメラを回して自らと母の姿を撮ったドキュメンタリー。これまでの恋人たちが語る母の姿が興味深く、やがて語られる女性の抑圧に衝撃を受ける。今でこそLGBTQ+の権利を守り、多様性を重んじる台湾でも、かつての女性の扱いはやはりどこの国とも同じようなもの。監督が母との関係や彼女の過去を振り返ることで、台湾の個人史が現代史と重なるし、そこから知ることも大きいし、いろいろと考えられる。

血観音

JAIHOの配信で鑑賞。これも台湾の現代史に考えが及ぶ映画。舞台となる年代はちょうど自分が留学していた頃であった。戒厳令解除からしばらく経っていたが、まだ国民党が実権を握っていた頃だった。TVでたまたま観た省議会中継の議員の暴れっぷりにあきれた記憶がある。そして劇中での暗殺や怪死事件が当時実際にあった複数の事件を基にしているというのに闇を感じた…
JAIHOではOAFFやTIFFで上映された作品が観られてうれしいけど、だいたい期間限定配信なので、いつも最終日ギリギリに観てしまう癖を直したいところである。

私たちの青春、台湾

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先の記事でも触れたとおり、金馬奬で長編ドキュメンタリー賞を受賞した時の傅榆監督のスピーチが大陸側で物議を醸した作品。オードリー・タンのインタビュー本『オードリー・タンの思考』でもこの映画が紹介されていた。
14年の太陽花学運に参加した学生たちの栄光(と言っていいのか)と挫折、そして彼らを追った監督自身の心情も語られ、セルフドキュメンタリー的な面もあった。学生たちがジョシュアとアグネスに面会する場面があったが、二人の現在を思ってしまって胸が痛かった。2014年からの香港と台湾が現在こうなってしまうとは。そして今後はどう変わっていくのか。

羊飼いと風船

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祝、ペマツェテン作品日本初公開!
フィルメックスの常連で、ソンタルジャと共にチベット映画を確立した彼の作品が地元の映画館で観られるのは実に素晴らしきこと。
中国映枠に入れてはいけない気もするけど、王家衛が過去作をプロデュースしてるし、中華圏という枠で観られる作品だから、ということで。

坊やの人形

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風が踊る

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今年はホウちゃんの過去作品をまとめて観られたのも実に有意義だった。

映画 真・三国無双

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元ネタのゲームは全く知りません。ゲームだから三国の英雄たちがびしばし超能力を発揮するってことですよねそうですよね。
古天樂の呂布はいい感じの貫禄でカッコえかったけど、ハンギュンの関羽…それでいいのか、セクスィー関羽…
まあそれでも日本公開の意義はあったと思う。最近日本で作られた劉備がぼやきまくる某三国志映画に比べたら百倍も千倍もいい。
そして東京と大阪の他、唯一の地方公開を果たしてくれた地元の劇場・盛岡中央劇場には大いに感謝しております(なおこの劇場で近日『レイジング・ファイア』が上映されます。中劇のニコファンの方による熱いレコメン記事をみんな見てあげて)

番外 シャン・チー テン・リングスの伝説

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はい、番外です。昨年唯一このblogで感想が書けた映画だけど、番外です。
中華電影へのリスペクトが込められていてもやっぱりマーベル映画だし、久々にトニーへの愛も激しく確認できたけど、まあいろいろあるし。(そして勢い余ってこんなファンフィクションまで書いてしまったので、よろしければ読んで脱力してくださいませ)
続編製作が決定したのは嬉しいけど、次のキャストには噂されているあの人よりも四大天王クラスを出してほしいなあ。

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第58回金馬奬受賞結果について、いろいろ考える。

11月27日に台湾で実施された第58回金馬奬。
その受賞結果の詳細はアジアンパラダイスさんをご参照ください。

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長年blogを書いてきましたが、実は今まで金馬奬についての記事を書いたことがありませんでした。
香港映画を中心にblogを運営してきたので、金像奬は気にしても金馬までカバーする余裕がなかったというのが一番の原因でしょうか。
ここ数年来、金馬奬のストリーミング中継を観ているのですが、今年は、というかここ何年かは受賞結果も非常に興味深いものがあったので、今回は初めて金馬奬について書いてみます。 

今年の金馬奬のトピックとして、個人的に次の3つを挙げます。

  • 鐘孟宏(チョン・モンホン)監督最新作『瀑布』が最優秀作品賞他最多6部門受賞
  • 『十年』のキウィ・チョウ監督のドキュメンタリー『時代革命』の最優秀ドキュメンタリー賞受賞
  • 俳優デビュー30年の張震(チャン・チェン)4度のノミネートを経て『The Soul:繋がれる魂』で遂に最優秀主演男優賞受賞

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澤東電影SNSより

2019年までは東京フィルメックスと金馬奬が中心イベントとなる台湾最大の映画祭・台北金馬影展の開催時期が重なってので、webで中継される授賞式は、当日に映画鑑賞等が入ってしまうと見られないことが多かったのだが、2020年からフィルメックスがTIFFの協賛企画になって日程が繰り上がったことで、20年と21年の授賞式はリアルタイムで鑑賞できました。TIFFとフィルメックスにはノミネート作が出品されることもあり(今年のノミネート作では『瀑布』がフィルメックスに、『アメリカン・ガール』『テロライザーズ』がTIFFに出品)さらにここ数年は公開後にnetflix等でも配信されるので、一般公開決定前にノミネート作を観ることも可能になった。
加えて今年は、ラジオではおそらく初めて本格的に金馬奬が紹介(TBSのアフター6ジャンクションに江口洋子さんがご出演)されたり、ここ数年の金馬奬の傾向が変わったこと、後日記事に書く予定の香港映画の状況など注目に値するトピックが多かったため、今年は例年に増して受賞結果が気になったのでした。

 

 

『瀑布』は今年のヴェネチア映画祭オリゾンティ部門でプレミア上映された長編第6作。前作『ひとつの太陽』も19年に作品賞を受賞。
コロナ禍の現在を舞台に、母(アリッサ・チア、主演女優賞受賞)と娘(王淨/ワン・ジン、主演女優賞ノミネート)の関係をみつめた物語とのことで、フィルメックスで鑑賞された方々にも好評だった様子。モンホンさんは自分で撮影する人で、これまで「中島長雄」名義で撮影監督を務めていたのだけど、今作ではその名前を使わないほか、作風にもこれまでとかなり変化が見られるということなので、そこが気になるところ。昨年の台湾映画の興収成績では7位だそうです(アジアンパラダイスより)
『ひとつの太陽』はTIFF上映後、Netflixで配信が始まったのですが、この作品も今年初めに配信が始まるそうです。
(…netflixにまだ加入していないのだけど、これを機に加入してしまおうか考え中。なお過去作品はJAIHOで『ゴッドスピード』が期間限定で配信、プロデュース作の『大仏+』も期間限定配信
なお、アリッサ・チアはドラマ『悪との距離』で知りました。


 

張震が主演男優賞を受賞した『The Soul:繋がれる魂』は『目撃者 闇の中の瞳』(未見)の程偉豪監督作品で、こちらもNetflixで配信中。
張震といえば、昨年はかつて出演していたサントリー烏龍茶のCMスチールを撮影した上田義彦氏が監督した『椿の庭』や、18年にカンヌで共に審査員を務めたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『デューン 砂の惑星』など中華圏以外の出演作品が続けて公開されたけど、ホームグラウンドである台湾ではこれまでは無冠の帝王だったのが意外でした。
受賞スピーチではヤンちゃんに感謝の言葉を送っていたのが印象的でした。出会いの作品であった『牯嶺街少年殺人事件』ももちろん最優秀作品賞受賞作。

香港映画勢で最優秀脚色賞を受賞した《濁水漂流》は、TIFFで『トレイシー』が上映されているジュン・リー監督の新作。

金馬影展でも上映された《花果飄零》で監督賞を受賞したクララ・ロー監督は、マカオ出身で現在はオーストラリア在住。日本では『あの愛をもういちど』が紹介されています。あとは『アジアン・ビート(香港編)オータム・ムーン』も。11年前にTIFFで上映された『香港四重奏』の1編「レッドアース」を観ていました。香港とマカオを舞台にしながら、どちらでもまだ上映されていないという作品。
そして『時代革命』は納得の最優秀ドキュメンタリー賞受賞。サプライズでのワールドプレミアはカンヌ、シークレット上映だったフィルメックスを経て影展では3か国目の上映で、毎回満席だったようです。かつて18年に『私たちの青春、台湾』が同じ賞を受賞した時、傅楡監督のスピーチにあった「台湾独立」に対して大陸からの審査員団が抗議して翌年から作品出品を取りやめさせ、現在のノミネート及び受賞状況に至っていることから、政治的なメッセージが強い作品も優れていれば賞を与え、危機的状況にある香港に対して文化を守ろうとする姿勢を取ってくれたのは本当に嬉しいものです。
もともとこの賞には、中国大陸の影響下にない映画の製作促進を目的として1962年に創設されたというので、ここ2年ほどの受賞状況は当初の目的にかなったものでしょう。また中国語圏で作られた映画(合作含む)をノミネート対象としていることもあるので、ここ10年ほどのマレーシアやシンガポールで製作された中国語映画がよく受賞しているのもその影響にあることもわかります。
しかし、大陸の映画がノミネート対象として追加された26年前は、中国との合作やロケも多かったし、大陸でも政府の干渉を受けながらもメッセージ性の高い映画を作る同志のような映画人も多かったのに、と思うと、政治的な力が背景にある意味も考えてしまうものです。

と、ついついシリアスな方に考えがちになりますが、近年の台湾および香港映画の動向を知るには大いに参考となる金馬奬。
ノミネート及び受賞した未公開作品はこの春の大阪アジアン映画祭でも上映されるのでしょう。
最後に、個人的に観てみたい作品を2作挙げます。

 

ギデンズ監督第3作《月老》は、『あの頃、君を追いかけた』以来のタッグとなるコー・チェントンと『私の少女時代』のヴィヴィアン・ソンが主演。視覚効果賞等受賞。突然死んでしまった青年が月老(縁結びの神)となって地上に戻り、悪戦苦闘するファンタジー…のはずだけど、ホラー味ももちろんある様子。『瀑布』以降売れっ子となった王淨、KANO監督馬志翔も出演。

 

《詭扯》はTVドラマやMVの演出でキャリアを築いてきた許富翔監督の長編第1作で、韓国のホラーコメディのリメイク。富川ファンタスティック映画祭に出品されて審査員賞を受賞。主演はチェン・ボーリン。
昨年日本公開の『1秒先の彼女』で主演を務め、『ひとつの太陽』で最優秀助演男優賞を受賞した劉冠廷がこの作品で2年ぶりに助演男優賞を受賞。彼が演じる老楊、予告編でどこかで見たような衣裳を着て腕にギプスを…と思ったら、無間道三部作の陳永仁にリスペクトをささげた造形だそうで、もうこれは笑えと言われているようなものではないか(メイキングはこちらから)

ラストは授賞式のオープニングフィルムについて。
埋め込みができないのでリンクのみの紹介ですが、『坊やの人形』のオマージュを捧げるようにサンドウィッチマンとして映画館で働きながら、いつか李安監督(今期まで金馬奬主席を務めた)と一緒に映画を撮りたいと夢見る青年(司会を務めた林柏宏)の物語で、全編に五月天の「知足」が流れる(そして林柏宏が熱唱する)かわいらしい短編でした。

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〈香港抗議の記録 A Film on Hong Kong Protests〉を世界から日本へ

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あけましておめでとうございます。
このblogを始めてもうすぐ16年になります。ここ数年は多忙でまとまった文章を書くのも難しくなりましたが、できるだけ書いていきたいです。

さて、新年最初のエントリです。
ここしばらくの香港のことについては以前にも書いた通りですが、香港政府と警察の横暴、そして中央政府が裏にいる「中国化」の進行と民主活動の弾圧が進むばかりで、コロナ禍でどうしようもない事態になっているのが悲しく、ニュースを聞くたびに胸が痛くなります。2014年の雨傘運動に始まる香港の抗議活動から、映画『十年』『乱世備忘 僕らの雨傘運動』が生まれ、そして昨年の抗議活動をまとめた『香港画』というドキュメンタリーも生まれました。

そして現在『乱世備忘』と『十年』のクリエイターが、新たな映画『BlueIsland 憂鬱之島』を製作しています。この映画を日本の配給会社太秦(最近は『私たちの青春、台湾』『台湾、街かどの人形劇』などを配給)が中心となって世界に発信していこうとするクラウドファンディングが始まっています。

香港の抗議活動を継続的に取材されているジャーナリスト堀潤さん(ドキュメンタリー『わたしは分断を許さない』ショートショートフィルム『STAND WITH HK』監督)のtweetを引用いたします。
クラウドファンディングページはこちらからもどうぞ。

香港映画の黄金期は80年代から90年代。その間に香港映画を好きになって四半世紀が過ぎました。
実に人生の半分以上、香港映画と一緒に生きてきたようなものです。だから、自分を育ててくれたような香港映画に、今できることがしたいのです。そう思って、このクラウドファンディングに参加しました。最低1,000円から支援できるので、参加のハードルは決して高くはないです。支援の際に寄せたコメントをここにも掲載します。

映画や旅で親しんできた愛する街香港の現在を憂いております。 非常に厳しい局面にありますが、映画『男たちの挽歌』の英題のように、BETTER TOMORROWが香港に訪れることを願ってやみません。応援しています。実現しますように。

今年の5月5日までの募集だそうです。香港が好きな方、映画が好きな方、どうかよろしくお願いします。

もう一つ、ここで今年の目標を挙げます。
それは、地元での香港映画や台湾映画の上映会を企画・開催することです。
上記に挙げた作品のうち、当地では未上映のものが幾つかあります。重いテーマを含んだものもあるので、気軽に観てねとは言えないのですが、自分が観たいものもあるし、それでも、なんとか観てもらって気づきを起こしたり話したりもしたいのです。
目標というより野望みたいなものですが、それでもなんとか頑張ってみます。

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【32ndTIFF2019】『チェリー・レイン7番地』ほか観た映画の感想

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今年も映画祭の秋がやってまいりました。
まずは、先ごろ参加してきました第32回東京国際映画祭で観た映画の感想を。
今年は観たい作品が2日間にまとまっていたので、悩まずにチケットが取れました。

『チェリー・レイン7番地』

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『美少年の恋』『華の愛・遊園驚夢』(TIFF出品作)の楊凡(ヨン・ファン)監督の新作はなんとアニメーション。先ごろのヴェネチア国際映画祭ではコンペティション部門に選出され、最優秀脚本賞を獲得。1964年に台湾から香港へ移住してきた監督の自伝的要素も入っていて、60年代香港を舞台に繰り広げられる、家庭教師のバイトをする香港大学の青年(アレックス・ラム)とバイト先の女子高校生(ヴィッキー・チャオ)、そしてその母親(シルヴィア・チャン)との三角関係を描くヨン・ファンらしい耽美的な作品。

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  1967年香港の風景も空気も再現するにはもうアニメという手法を使うのしかないのだろう。広東語・普通話・上海語が入り混じるダイアログ、愛欲と自由と古今東西の名作も入り混じるムード、シルヴィアさんやヴィッキーからフルーツ・チャン監督に至るまでの豪華声優陣はとても贅沢。
質問はアニメに詳しい方々から多く発せられていた。(今年は話題を呼んだ世界のアニメ映画の一般公開も多かったし、実際にアニメーターさんが多く参加されていた様子)キャラは3Dで作って2D化するという手法を使ったらしいけど、こういうのはあまりないのだろうか?楊凡さん、「アニメはよく知らないし、アニメファンにもアート映画ファンにも観てもらえないような作品」と言われていたけど、これはなかなか面白い挑戦だと思いますよ。完成まで7年かかったとか。

そして、発掘した『美少年の恋』のプレスシートにサインを頂いたのでした。
『遊園驚夢』のパンフや《涙王子》のソフトジャケットを持参していた方もおられました。

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今見ると、なかなか感慨深いものを覚えるこのビジュアル。
彦祖ことダニエル・ウーはハリウッドで活躍中、ステことスティーブン・フォンは映画監督としても順調だし、なんといってもこの映画で初共演したすーちーと夫婦になったというのが一番大きい…。
楊凡さんにこのプレスを見せたら「おお…」と驚かれていましたよ。

『ファストフード店の住人たち』

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アジアの未来部門に出品されたこの映画は、TIFFがワールドプレミア。
主演のアーロン・クォックとミリアム・ヨンは初日のレッドカーペットとプレミア上映にはそろって参加。
2度目の上映にはアーロンとこの作品が監督デビューとなるウォン・シンファン(広東語の発音だとシンファンよりヒンファンの方が近いようですが…)がゲストで参加しました。

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24時間営業のファストフード店にたむろする訳ありの人々と、彼らの困りごとを解決すべく奔走する元投資コンサルタントのホームレス(アーロン)と彼の友人であるカラオケバーの歌手(ミリアム)の物語。このアジアの未来部門を中心にTIFFレポートを書かれている翻訳家・映画評論家の斎藤敦子さんのblog「新・シネマに包まれて」でも触れられています。

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今年一番楽しみにしていたのがこの映画。これまでTIFFでは『父子』 『プロジェクト・グーテンベルク』とアーロン主演作が上映されているけど、ゲストとしてのTIFF参加は意外にもこれが初めてとのこと。
香港では2006年からマックの24時間営業が始まったが、世界で初めてそれをやったのは日本だったという記事も着想のヒントとなったとか。深夜のファストフード店に集まる人々のささやかな連帯感は微笑ましいけど苦難を乗り越えられても貧困は希望を砕く。
最近、ヴォネガットの言う「親切は愛にも勝る」という言葉を何かにつけて思い出すのだが、転落して一文無しになった博(アーロン)が仲間の世話を焼いてはどうしようもないところまで追い込まれてしまうのにも、その言葉は重なった。あとどこか「幸福な王子」的なものも覚えたかな。
ウォン・シンファン監督は新人ではあるけど、助監督などで現場の長い方とのこと。日本でも公開された『誰がための日々』これから公開の『淪落の人』に連なる香港社会派電影系列と見てよさそう。貧困問題はいずれにもある。どうか希望が持てるような世界であってほしい。

『ひとつの太陽』

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『失魂』 『ゴッドスピード』の鐘孟宏(チョン・モンホン)監督の新作で、今年のTIFFでは唯一の台湾映画。
台湾での上映開始日と映画祭が重なったとのことで、モンホンさんの来日はなし。残念だった…。
罪を犯して逮捕される次男と、彼を拒絶する父親。そして長男は思いもよらぬ行動へ…と途中まで観ていて、これは台湾版『葛城事件』だなと思った。父と息子たちの葛藤とそこで起こる悲劇はよく似てはいるけど、ディテールやキャラの性格はもちろん違う。こちらは後半は意外な展開を見せるし、同じモチーフでも作り手が違うと全く変わる。
残酷な一方、ユーモアもあるし、過ちを犯した人間への受容も描かれている。とっ散らかっているという感想も見かけたけど、ラストには衝撃を受けてもどこか希望は少し感じる作りになっているのは受け入れやすい。


『ある妊婦の秘密の日記』

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『レイジー・ヘイジー・クレイジー』で衝撃のデビューを飾ったジョディ・ロック監督の第2作のテーマは「妊娠」。

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これもワールドプレミア上映で、フォ

 

フォトセッションでは製作のジャクリーン・リウさんや、このたび日本に拠点を移して映画製作を行う撮影のジャムくんも大集合。

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周りから過剰な期待をかけられる一方で、妊娠なんかしたくない!出来たら堕ろす!という毒づきから始まるダダ・チャン演じる香港女子の一大妊娠記。日本でも仕事を持つ者の妊娠と子育てで大きな問題があるだけに、ここまでサポートしてもらえるのはうらやましいと思った。
劇中にはルイス・チョン演じる男性の妊婦アドバイザーが登場し、主人公夫婦の周りにやたらと出没。妊娠アドバイザーは実在する職業らしいけど、男性はいないらしい(当たり前か)
面白かったのが、妊娠した妻を持つ夫たちによるパパクラブ。オヤジの会とは似て異なるし、以前ネットに回ってきて話題になっていたメキシコのウィチョル族に伝えられるアステカ法出産(出産時に妻が痛みを感じた時、夫の睾丸に結びつけたロープを引っ張ると以下かいてて痛いので略)がネタになってるのはさすがである。
パパクラブのメンバーには、これまたSNSで話題になった、平成ライダー全変身ポーズを決められる男子・豆腐くん(しかも台詞は一応全部日本語。発音不明瞭なのはまあしょうがない)がいて笑った笑った。妊婦あるあるが詰まっている作品。今回も楽しい作品で気持ちよく笑ってTIFF収めをしました。

次の映画祭は今月23日から行われる東京フィルメックス
ワタシはミディ・ジー監督の新作『ニーナ・ウー』と、いまだに「マギーの元旦那」呼ばわりしてしまうオリヴィエ・アサイヤスによるホウ・シャオシェンのドキュメンタリー『HHH』そしてそのホウちゃんとトニーが再びタッグを組んだ『フラワーズ・オブ・シャンハイ』のデジタルリマスター版を観に行きます。

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誘拐捜査・九龍猟奇殺人事件【未公開映画の感想】

これまで観てきた2年分の映画のうち、tweetはしたけど、独立した記事が書けなかったものをまとめてUPします。
まずはタイトルの2作。2017年くらいから、WOWOWで未公開中華電影の放映も目立つようになってきたので、よく観ていました。

『誘拐捜査』


中国で実際に起こった俳優誘拐事件を基にした映画。監督は成龍さん主演の中国映画を多く手がけるディン・シェン。
香港の映画スター吾先生誘拐をめぐる警察と犯人、そして吾先生と誘拐犯との駆け引き。成龍さん出演作を手がけてる監督さんだと思うけど、ポリストレジェンドをさらにリアルに寄せたような感じだったな。実際に誘拐された俳優さんも出演し、刑事役リウ・イエの上司役で出演していた。
吾先生は香港スターだけど大陸出身であっと驚く背景を背負っているのだけど、それゆえにもしかして…という期待をさせてしまうのはあえてなのか?親友の北京在住の実業家が林雪ってのは美味しい。『ブレイドマスター』の王千源はなかなか曲者。でも本来は《健忘村》のようなコメディ演技のほうが得意分野らしい。
派手ではなく、あえてリアルさで見せたのは好感度高いし、これならシネマート系の中華祭りでやってもよかった気はするんだけど、それでやるには華が足りなかったかもしれないな。でも、ドラマとしてしっかりした作品だったので、観てて安心した。北京の元宵節の風景もいい。

『九龍猟奇殺人事件/踏血尋梅』



少女の殺人事件から見えてくる、人間の孤独と哀しみを描いた映画だった。憧れの香港で夢を叶えられず落ちていく少女と、幼い頃に事故で母親を失い、失意のまま成長した男が出会ったことで起こった悲劇は確かに猟奇的だが、お互い何かを求めていたと見ると印象が変わる。
主演はアーロンだけど、決して派手じゃないし、むしろ彼の役どころは狂言回し的。渦中の男女を演じる白只(マイケル・ニン。『宵闇真珠』にも出演)と春夏(『シェッド・スキン・パパ』のジェシー・リー)が本当に熱演で、アクションよりリアリティを求めた映画のトーンともマッチしていた。グロい場面や台詞もあるけど、それほど気持ち悪くはならなかった。TVで観たからだろうか?うーむ。
撮影にドイル兄、あとウィリアム叔父さんの名前も見たので、映像的にも見ごたえある。いい映画なんだけど、派手でもなくむしろ地味な展開なので一般公開はキツかったんだろうな。ただTLによると、WOWOW放映版は98分の短縮版で、120分のディレクターズカット版があるらしい。これも観たい。
当事者の王佳梅(ジェシー)は湖南省生まれという設定で、広東語も割とすんなりしゃべりつつ時々キッツい湖南訛りで喋るというキャラで、普通話話さないのは珍しいなと思ったのだけど、ある場面でしゃべっていたのは意味があるのかな?と思った。

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非分熟女・逆流大叔・G殺・入鐵籠【2019年春香港で観た映画】

前の記事の続編です。
ここからは香港で観た映画の感想。

《非分熟女》

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この春の大阪アジアン映画祭でプレミア上映されたこの映画、香港では4月4日からの上映でしたが、運良く優先場があったので鑑賞。
監督は初OAFFで観て好きだった『ビッグ・ブルー・レイク』のツァン・ツイシャン。
一言で言えばセックスと食とポールダンスで語るあらほー女子(シャーリーン・チョイ、以下阿Sa)の成長記といったところか。阿Saの相手役は《引爆點》などの台湾の俳優ウー・カンレンだが、個人的にはもしかして初見かも

産婦人科の看護師として仕事に邁進し、結婚はしたもののセックスレスが原因で離婚した主人公が親の病のために家(茶餐廳)に戻り、そこから次に進むという展開は『ビッグ・ブルー…』と同じだけど、今回はかなりセクシュアルな要素が多い。茶餐廳にシェフとしてやってきた男(カンレン)と恋に落ちて、かなり大胆な彼とのセックスシーンも展開するのだけど、撮り方にイヤらしさがなく上手かったので感心したし、展開的にもセックスだけが強調されなかったので好感を持った。性によって解放されていくけど、それに溺れず生き方の糧として一歩進むというのがいい。
しかしアイドルだった阿Saがこんな役どころを演じるようになるなんて…と思わずトオイメになったのは言うまでもなかったのでした。
旧友に誘われてレッスンを始めたポールダンスを踊る場面もあって、これもまたステキであった。もっとも彼女のダンスはエロティックより健康的に感じたけど。

《逆流大叔》

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昨年夏公開されて高い評価を受け、4月に実施される香港電影金像奬では、作品賞を始め10部門にノミネート。
金像奬授賞式を前にしたティーチイン付き上映@香港藝術中心古天樂電影院で鑑賞。(実はアニエス・ベー・シアターの時も含めて初めて行ったシアターでした)
『地下鉄』や『モンスターハント2』など多くの香港映画の脚本を手がけてきた作家、サニー・チャンの初監督作品で、主演はン・ジャンユー。ジャンユーはプロデュースも兼ねてます。製作は古天楽の天下一電影で、藝術中心の映像ホールの名前が昨年夏に古天樂電影院となってのこけら落とし上映作品だったとのこと。

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レイオフに揺れるネットプロバイダー会社の技師たち(ジャンユーら)とその上司が、会社の命令で端午節のドラゴンボートレースに出場。家族や恋人との間にそれぞれの事情や悩みを抱える彼らはボートの練習を経て友情を深めるが…という話。
雨傘運動の時によく歌われた「獅子山下」や、お馴染『男たちの挽歌』がネタとして上がったり(上写真のユニフォーム参照)、香港人のスピリットをコメディ仕立てて描いている映画。挽歌ネタはちょこちょこ出てくるので楽しく、これは本当に香港人男子のソウルに触れる作品なんだなと確信。

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ティーチインの模様。左が淑儀役の潘燦良さん、真ん中がサニー・チャン監督。 

ジャンユーももちろんよかったのだけど、女性みたいな名前と言われる中年男子の淑儀(当日ゲストで来た潘燦良さん。演劇畑の方で助演男優賞にノミネート)や元アスリートのウィリアム、妻の不倫に悩む上司の泰、チームを鍛える先導のドロシー(ジェニファー・ユー)などそれぞれのキャラもよかった。
音楽は年明けのJ-WAVEの香港スペシャルでも紹介された中堅バンドのRubberBand(『レクイエム・最後の銃弾』の主題歌も歌ってます)主題歌「逆流之歌」とともに金像奬では音楽賞も受賞。ラップも入る軽快な挿入歌「大叔情歌」を始め、劇伴も物語にフィットしていて感心。個人的にはかなり気に入りました。
スポーツ映画であり、人間ドラマでもあり、香港らしいサバサバさもあって終始笑って観ておりました。あー楽しかった。

しかし面白いしテーマも興味深いのに、なんで日本の映画祭はどこもこれを呼ばなかったの?福岡もTIFFもOAFFもゆうばりも一体なにやってるの?監督に「日本の映画祭でやらなかったから香港まで観に来ましたよ」って言いましたよ。ちなみにティーチインでは質問できませんでしたし、残念ながら内容もほとんど理解できませんでしたよ。・゜・(ノД`)・゜・。でもこういう機会に行けてよかったよ!

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授賞式には欠席したジャンユー。残念なので金像奬の特写フォトをば。

《G殺》

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製作は『八仙飯店之人肉饅頭』や『イップ・マン 最終章』でお馴染みハーマン・ヤウだけど、どこかしらパン・ホーチョンのテイストも感じるのは、我らがチャッピーこと、チャップマン・トーが出演しているからですか?

生首だけの娼婦の変死体、彼女を愛人にしていた悪徳刑事と、担任教師と肉体関係を持っていたその娘、刑事に関わられてしまった彼女の2人のクラスメイト。彼らの関係や行動は全てGというアルファベットの単語で繋がる。
刑事龍(チャッピー)の娘雨婷(ハンナ・チャン)はいじめられっ子、2人のクラスメイトのうち、親友のドンは自閉症でアスペルガーでゲイ、もう一人の以泰は親に捨てられた孤独なチェリストでやはりいじめられっ子。彼ら若者たちのどこか追い詰められた感じは痛々しく、対比していじめっ子たちの幼さと残酷さも強烈であった。辛いよなあ、こういうのは。
胃ガンで母を亡くした雨婷の元に来て、継母として居座った父の愛人の小梅(『ブラインド・マッサージ』『台北セブンラブ』のホアン・ルー。助演女優賞ノミネート)も最初は嫌なヤツとしか言えないのだけど、中国大陸からやってきて香港で生きてきた孤独と絶望があり、彼女の最期も合わせて全体的に皮肉が効いているのだろうけど、どこか笑い飛ばそうとするのはやはりブラックコメディなのかもしれない。

キャストで目を引いたのはやはり主演のハンナ・チャン。SPL3では可哀想な役だったけど、あの古天楽の娘役と同じ子とは思えなかった。
ワールドプレミアとなったOAFFでは橋本愛ちゃんに似ているという評判があったけど、個人的には早見あかり嬢にもちょっと似てると思いましたよ。近作はあの『カメラを止めるな!』のスタッフが香港で撮る新作で、しかも主演なので、今後の活躍が楽しみな女優さんです。

《入鐵籠》

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香港で最後に観たこの映画は、香港の実在の総合格闘家がモデルらしい。
主人公は施設育ちのジャック(エドワード・マー)と阿兎(ラム・イウシン。《九降風・烈日當空》でデビュー、『恋の紫煙』にも出ているらしい)の兄弟。格闘家の姉弟(元秋&エリック・コット)に引き取られて兄は格闘家に、弟は学校を中退してメッセンジャーをしながら地下格闘家をやっている。ある日兄がMMAのアマチュアチャンピオンと戦うことに…という話。
この時点で話は読めた感はあったのだけど、兄が負け、弟がチャンピオンと戦うことになる時、「これを兄の復讐と思ってはいけない」と言われるのが当たり前なんだけどいい。この試合の勝者は日本の修斗の選手権に出られるという設定で、ラストは、実際に修斗の全日本選手権の開催中に小田原でロケされていた様子。
ジャックの恋人リリー(ウィヨナ・ヨン)は同じ道場でグレイシー柔術を学んでいる達人というのもいいし、師母の元秋さんもカッコええ。
ベタな展開だけど、それだからこそ楽しめたし面白かった。誰も死なないし、相手役もフェアであったしね(まあ外野は騒ぐけど)

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