中国映画

無名(2023/中国)

まずは私にとって(もちろんそうではないというのは承知の助)嬉しい話題から始める。

10月28日(月)から11月6日(水)まで行われる第37回東京国際映画祭コンペティション部門の審査委員長にトニー・レオンが選ばれた
数年前にベルリン国際映画祭のコンペで審査員を務めてはいるが、審査委員長に選ばれるとは予想もつかなかった(なお、華人俳優としては2019年にチャン・ツーイーが審査委員長を務めている)コンペ部門の審査員もイルディコー・エニェディ監督、キアラ・マストロヤンニ、橋本愛、そして同郷のジョニー・トー監督が決まり、どんな話し合いが繰り広げられるか不安、いや期待は高まるばかり。
『シャン・チー』で知名度を広げた後は、香港でも『風再起時』《金手指》(今年のMaking Wavesで上映されそうだけど日本公開希望)と主演作も公開されたし、昨年のヴェネチア映画祭で生涯功労金獅子賞(過去に金獅子賞受賞した3作品に出演もしている)を受賞したし、『私の20世紀』『心と体と』で知られるエニェディ監督の新作《Silent Friend》で初めて欧州作品に出演するなど。還暦を過ぎてのこの活躍も長年のファンとしては嬉しい。
近年は日本にも拠点を持ち、妻夫木聡や宮沢氷魚など日本の俳優たちとの交流もSNSで伝えられる。今年のTIFFでさらに交流を広げたら、今後は日本映画人とのコラボも実現するのかもしれない…とちょっと期待している。

しかし、主演作が日本公開してくれるのは嬉しいのだけど…とちょっと立ち止まって考えてしまう作品も実はある。
今回はそんな作品、『無名』の話である。

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中国で作られた映画がすべてプロパガンダというわけではない。長年中国周辺をウォッチしてきた身だからこそそれはよくわかっている。
しかし、ここ10年ほどの中国政府の文化的な政策や対香港対策を批判した文化人の言語封殺を見てきたり、両岸三地のスターを揃えた建国記念映画を製作したというのを見ると、プロパガンダが作られるのも当然であるか。
香港との合作も多く作ってきた中国の大手スタジオ博納影業は、2021年の『アウトブレイク 武漢奇跡の物語』(アンドリュー・ラウ監督、チャン・ハンユー主演)、2022年に『1950 鋼の第7中隊』(チェン・カイコー、ツイ・ハーク、ダンテ・ラム共同監督、ウー・ジン主演)と、現代のコロナウィルスとの戦い、朝鮮戦争における長津湖の戦いという実話を基にした作品を製作してきた。それらとこの作品をまとめて「中国勝利三部作」と称されているのだが、そう言われてしまうとプロパガンダだよな…と思ってしまう。先の2作の監督たちだって、香港映画の一時代を築いてきた名匠たちだし、カイコ―の初期のキャリアの凄さを知っている身としては、彼らはもう昔のような(だいたい2000年代前半の中港合作が増える前の頃の)映画は作ってくれないのねと思わざるを得なかったりするわけだ。
三部作の最終作としてこの映画の製作の報が伝えられたのが2021年秋。中国でのシャンチーの公開がキャンセルされたばかりの頃であり(主演のシムが大陸に対してあまりよろしくない発言をしたことが問題となった)、そのタイミングでの発表はどうなのか?とうっすら思っていたし、昨年の中国電影金鶏獎でトニーが主演男優賞を受賞したことにより(参考としてこちらを)華人俳優初の金像・金馬・金鶏で受賞した俳優になったという知らせを単純に喜んでいいのか戸惑ったこともあった。
先の2作との相違は、監督が中国映画でキャリアを積んできた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海』の程耳が務めていること。国内生え抜きの実力派が手がけるのには十分であるし、彼の過去作を気に入ってトニーが出演したというのなら、そこはいいことなのだろう。そして共演には日本でも人気急上昇中の中国の若手俳優王一博(ワン・イーボー)。それなら、先の2作と分けて、力を入れて売り込みたいわけだよね。わかる。

時は日中戦争時、舞台は上海。汪兆銘(汪精衛)政権下のスパイとして諜報活動に従事する何主任(トニー)とその部下葉(王一博)。唐部長(大鵬)や王隊長(エリック・ワン)と連携し、日本の諜報機関所属の渡部(森博之)とも密に連絡を取り合いながら、日中間のバランスを危うく取っていく。その一方で中華民国の与党である国民党と共産党の間でも秘密工作が行われ、共産党から国民党への転向を促して幹部の情報を引き出そうともする。中国軍と日本軍の衝突は激しさを増し、それと共に日本、国民党、共産党との水面下の睨み合いも激しくなっていく。

この手の抗日的な題材は中国では昔からよく取り上げられてはきているが、それがあまりにもおかしかったりグロテスクな取り上げられ方をされたりするとどうしても頭を抱えてしまうのであるが(中港合作のこの映画も然り)、渡部を始めとしたこの映画における日本軍の描き方は過去の抗日テーマの作品と比べても幾分まともに描かれていて安心した。この映画と時代的に重なるロウ・イエ監督の『サタデー・フィクション』では日本海軍の少佐と特務機関員をオダギリジョーと中島歩が演じているので安定しているが、中国で活動する森博之(東京生まれだがNYやカナダ育ちとインタビューで語っている。ちなみにパートナーはつみきみほ)が演じた渡部の重厚感は本人の中国でのキャリアも感じさせられる演技で説得力があった。日本軍の兵士役にも中国で活動する日本人俳優が加わっているそうだが、それならば日本語をもっとしっかり発音してほしかったかも…。

衣裳デザインには張叔平が参加しており、美術も重厚。アクションも苛烈で諜報もののスリリングさを楽しめる。それで止めてもいいのだが、長い間中華電影を観てきた身としては、無粋で大変申し訳ないのだが、どこかで見たことあるよな…とずーっと思ってしまったし、こういう洗練さや俳優たちの美しさや熱演があるからこそ、そうかー、これだからプロパガンダかーという考えが頭を離れなかった。共産党のスパイを取りあげた張藝謀の『崖上のスパイ』があったけど、あれはプロパガンダだと思わなかったし、先に挙げたサタデー・フィクションであったり、何主任の妻陳を演じていたのが周迅だったので『サイレント・ウォー』であったり(これは舞台が国共内戦)、国民党の女スパイ江(ジャン・シューイン)のモデルが鄧蘋茹ということからそのつながりで『ラスト、コーション』など過去の類似作品とついつい比べてしまって、どうも首をひねりがちになってしまうのだ。老害的な意見と捉えられてしまうけど、もうそれは致し方ない。美しさやカッコよさだけで許せなくなってきていて申し訳ない。
クリストファー・ノーランばりの時系列をシャッフルした展開もスタイリッシュさを出したいのかもしれないけど、あまりやりすぎるのも…と思ったことも確か。時期的に『オッペンハイマー』を観たばかりだったからなおさらそう思った。

トニーは熱演していたのはよくわかるし、全編北京語というのもチャレンジングであった(広州出身を思わせる描写があったり、ラストの香港の場面では広東語を…というのは贅沢な望みか)でもこういう役どころは以前にもあったし、難しくはなかったのだろう。共演が多くても初めて夫婦役となった周迅、すっかり重鎮となった黄磊など、知っているキャストには手を振った。

そして、もっとも力が入っていたといえる、これが日本のスクリーン初登場となる王一博。
現在BS&CSや配信で人気を集めている中国ドラマに全く触れていないので、その人気の凄さを実感できないのだが(申し訳ない)トニーと二枚看板を張れる実力と切れ味よさそうな所作は人気出るのがわかるし、日本での宣伝でもグッズ作りたくなるわけだよな、と納得した。『ボーン・トゥ・フライ』『熱烈』など主演作の日本公開も続いているので今後知名度がどんどん上がるといいね。

しかし、この映画を観て改めて感じたのが、自分がすっかり中国映画の実情に疎くなってしまったことだったりする…。
プロパガンダやらなんやらといわず、何でも観ればいいのだろうけど…
うーむ。今後も精進しよう。
(それでもクレジットに出る「(中国香港)」などのカッコつき国籍を見て頭を抱えてしまうのだろうな…)

中文題:Hidden Blade
監督&脚本&編集:チェン・アル 撮影:ツァイ・タオ
出演:トニー・レオン ワン・イーボー ジョウ・シュン ホアン・レイ エリック・ワン ダー・ポン チャン・ジンイー ジャン・シューイン 森 博之  

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【東京国際映画祭2023】雪豹/ムービー・エンペラー/ミス・シャンプー

実に4年ぶりに参加した今年の東京国際映画祭

今年はトニー・レオンのマスタークラスが開催されたのだけど、残念ながら日程が合わずに断念。
ワールド・フォーカスではアジアン・シネラマ-香港フォーカス(上記のトニーのイベントもこの一環)台湾映画ルネッサンス2023と香港&台湾映画の特集でかなり充実していたのだが、日程と相談した結果、5作品(チベット、中国、台湾×2、香港)を鑑賞。
ここではまず3作品の感想を。

『雪豹』2023/中国・チベット

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中国で国家一級保護動物(=天然記念物)に指定されている雪豹が、チベットのある家畜業者の家の羊を襲って殺した。
一家の兄(ジンパ)は怒って雪豹を殺すと息巻くが、役人が到着するまで羊の柵に留まる雪豹を追い出せない。僧である弟(ツェテン・タシ)は「雪豹法師」とあだ名がつくほど雪豹を愛していて、当然兄とは対立する立場にある。弟の伝手でこの事件を取材しにやってきた県のTVクルーと役人も加わって騒動は堂々巡りに。雪豹を憎む者、愛して守りたい者、それを客観的に見る者それぞれの視点から物語が語られる。

これを観て真っ先に思い出したのが、現在全国各地で起こっている熊害。地元でも死者が出るほど深刻な問題になっているが、動物愛護の観点から殺すなというクレームも入り、なおかつ相手は凶暴でいつどこで出てくるか予想もつかないので、多方面で対応に苦慮している状況はよくわかる。もちろんこの物語の状況と完全に一致できるような状況ではないけど、人間の営みと自然の驚異が隣り合わせになっている現代社会のバランスの危うさを考えると、どの国にも同じような課題があるのかもしれない。

チベット族として初めて北京電影学院で映画を学び、チベット人によるチベット映画を確立させたペマツェテン監督は、自らが暮らすチベットを辺境のエキゾチックな地として捉えることなく、その地の人々の生き様を普遍的な視点で描いてきた。しかもシリアスになりずぎず、ユーモアも適度に交えてくるのもよい。今年53歳で亡くなったのは非常に残念だが、この映画の他にまだ多くの未発表作があり、息子さんやスタッフたちがその意志を引き継いで世に出してくれるだろうから、これから登場する新作にも期待する。
そして日本ではまだ『羊飼いと風船』のみの一般公開なので、今年の東京グランプリ受賞をよい機会に、東京フィルメックスで上映された過去作『オールド・ドッグ』 『タルロ』 『轢き殺された羊』なども合わせて作品が日本で公開されることを望んている(自分も先の2本が未見なもので)

(追記)フィルメックスの神谷ディレクターがインタビューで来年1月下旬から2月上旬にかけて、ヒューマントラストシネマ有楽町にてペマツェテン監督作品の特集上映を行うと答えているので、これがなんとか全国上映に結び付いてくれないかと期待している。

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Q&Aにはジンパ(左)、TV局の若手クルーを演じた熊梓淇(ション・ズーチー)雪豹法師役のツェテン・タシが参加。

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『ムービー・エンペラー』 2023/中国

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今やもうベテランな、香港映画界を代表する俳優にしてプロデューサーのアンディが、かつてプロデュースした『クレイジー・ストーン』などのコメディを作り続けてきた中国の寧浩(ニン・ハオ)監督と今度は主演俳優としてコンビを組んだ「スターはつらいよ」物語。
近年の中国映画の勢いと政治的状況を見ると、どうしても中国映画に対して抵抗感を持ってしまうのだが、とりあえずその気持ちを横に置いて観ると、デリケートな部分をうまく避けて作られた良質のコメディであった。未知の仕事に悪戦苦闘する往年のスターの物語としてスタンダードなプロットだし、SNSでの炎上等アップトゥデイトなトピックもしっかり盛り込んでいて、自らの非をわかっていながらなかなか謝れない様などについつい笑ってしまう。

香港の大スターでありながら無冠の帝王、私生活でも崖っぷちな主人公ダニーが、中国の若手監督のインディペンデント映画に出演して映画祭出品の野心を抱くも、思う通りに事は進まず…。アンディ本人と重ねてみるときっとファンは怒るのかもしれないけど、中国映画の撮影あるあるを多分に盛り込み、40年に渡る彼のキャリアを基に、本人もきっとノリノリでスタッフにアイディアをたくさん提案して楽しんで作っていただろうことが伺える。さんざんな目にあってもその態度や行動を貶すこともないし、ちゃんと愛をもって主人公を描いている。
『クレイジー…』の感想を読み直すと「中国映画に洗練という語はない」などとかなりひどいことを言っているが、あれから16年も経てばそれは大きく変わるものである。海より深く反省せざるを得ない。

『ミス・シャンプー』2023/台湾

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前作の『赤い糸 輪廻のひみつ(月老)』の日本公開を前にして上映されたギデンズ監督第4作は、「すいません、おかゆいところはありませんか?(請問,還有哪裡需要加強)」という原題が示す通り、美容室を舞台にしたラブコメディ。ここしばらくホラーテイストの作品が続いていたので、いろんな意味で原点に帰った感も覚えた。特に下ネタ方面で(笑)

組の頭をタイ人刺客に殺され、自らも命を狙われるヤクザのタイ(台湾のアーティスト、春風ことダニエル・ホン)が逃げ込んだ美容院で残業していた美容師見習のフェン(ビビアン・ソン)に一目ぼれ。シャンプーが得意だが絶望的もとい独創的なカットセンスの持ち主で、楽天モンキーズの野球選手鄭旭翔を熱烈に推すフェン会いたさにタイは美容院に通い、フェンも彼にひかれていく。
黙っていればなかなかハードボイルド感を持ってるタイが、フェンに出会ってとんでもないカットをされて恋に落ちてからの壊れっぷりがおかしく楽しい。男らしさの極致みたいなヤクザ稼業で女性関係も場数を踏んできたはずなのに、一気に高校生男子レベルまで幼稚化もとい純情化してしまうのが笑える。そうなると当然下ネタも過剰となるので、久々に「いやーホント男ってバカだよねー」と言いながら楽しく観られたのは言うまでもない。『あの頃』と比べると二人はお互い大人なので、ヤる前は下ネタ満々でも事は(もちろん)あっさり省略して描かれるので実にすがすがしい。タイの舎弟のひとりにはお馴染みクー・チェンドン、その他脇のキャストもかなり楽しい。そして近年のポストクレジット(エンドタイトルの後に映画が続くあのシステム)を意識したようなエンドタイトルの仕掛けには大爆笑。台湾や香港ではエンドタイトル時にさっさと場内が明るくなって追い出しを催促されることが多いのだが、台湾上映時に最後まで観た人ってどれくらいいるのだろうか…

(続く。次回は『Old Fox』『白日の下』の感想をUP)

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大阪アジアン映画祭とこれからの中華電影上映

今年の第17回大阪アジアン映画祭(以下OAFF)では、昨年末に香港で公開されて話題になったアニタ・ムイの伝記映画『アニタ』がスペシャルメンションと観客賞を、昨年の香港亞洲電影節で上映された香港映画『はじめて好きになった人』が後日関西ローカルでTV放映されるABCテレビ賞をそれぞれ受賞したそうです。恭喜!

 

 

OAFFは、10年前に参加したのが最初で今のところ最後。そういえば4年前にもnoteこんな記事を書いていました。
この時期のTwitterのTLによく流れてくるのが「OAFF、東京でも開催すればいいのに」といったような東京近辺からのtweet。
すいません、大変申し訳ございませんが、田舎モンが以下太字にして言っていいですか?

「おめだづなに寝言ゆうとんだ、イベントは今のままでも東京一極集中しすぎてるでねーの。TIFFもフィルメックスも台湾巨匠傑作選もシネマート中華祭りも未体験ゾーンも国立映画アーカイヴ特集上映もあんのにはあ、ごだごだ贅沢ゆうでねえ!」

はい、失礼いたしました。正気に戻ります。

北東北の地方都市在住の映画ファンとして、地元で十分な映画館とスクリーンの数が揃っていても、小規模な配給会社によるアート館のみの上映が多い中華電影は滅多に映画館でかからないので、それがフラストレーションになっていました。地元で観られない映画は仙台に遠征したり、帰省中なら東京まで観に行ったりもしていました。だけど今はコロナ禍。昨年も一昨年も映画祭には行けてません。
もちろん、以前も書いた通り配信でカバーして観てはいるのですが、それだけではやはり物足りません。映画は映画館で観る習慣を25年以上続けているので、どうしても小さな画面での鑑賞に満足できません。

そんな不毛な状況ですが、それでも最近は少し希望を感じています。それはOAFF上映作の日本公開と、地方まで回ってくる作品が少しずつ増えていることです。

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OAFF2020で上映されたサミー・チェン主演の香港映画『花椒の味』は、昨年11月に新宿武蔵野館で上映されましたが、そこから半年以上経った6月に中央映画劇場略して中劇で上映されます。やったあ!
(前回感想を書いたこれも中劇で上映。実はこの館のスタッフさんに熱烈なニコファンがいらして、上映時のblogが半端なく熱いのでぜひぜひご一読ください)昨年は同年上映の『少年の君』や『夕霧花園』も地元で上映がありましたし、さらに一昨年は2019年上映の『淪落の人』も上映されました。花椒と淪落は武蔵野館の配給部門武蔵野エンタテインメント配給。東京公開開始後半年でソフト化されることが多かった単館系作品が、時間をかけても全国公開で持ってきてもらえるのって本当にありがたいです。

映画祭でいち早く観て、みんなで盛り上がれることは楽しい。その場でしか上映できない映画を観られるのも本当に貴重な体験。
だけど、中華電影迷としての一番の願いは、イベントに参加したみんなが楽しんだ映画に配給がついて、それが日本全国の映画館にかかってくれることなんです。
私が住む北東北の地方都市に上映が回ってきて、地元の同好の士の皆様に観てね観てねとアピールしながら映画館に通い、鑑賞後は地元のカフェやレストランで食事しながら一人でかみしめたり、あるいは友人とあれこれ話し合ったりできることは本当に楽しいです。

これからも日本で中華電影が上映され続けてほしいので、地元で上映される映画はもちろん、できれば遠征でも観て、支えていきます。
あとはこちらに来なかった映画の上映会も行いたいです。そのためにはどうすればいいか、いろいろと策を練っています。

このコロナ禍が早く収束して、また映画祭で関東や関西の同好の士の皆様にお会いして一緒にもりあがれる日が来ますように。
そして、また香港や台湾に行けますように。

そうそう、これも言わなきゃね。
『アニタ』の日本公開を強く願います。

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レイジング・ファイア(2020/香港・中国)

昨年は開催中止となったため、2020年と21年の香港での上映作品をノミネート対象とした第40回香港電影金像奬のノミネート作品が先ごろ発表され(リンクはアジアンパラダイスより。授賞式は4月17日(日)に開催予定)、作品賞・監督賞始め全8部門にノミネートされた『レイジング・ファイア』。

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21世紀の香港アクション映画を代表する人物となり、ハリウッド進出も順調なドニー・イェンと、香港返還直前にデビューを果たし、俳優や歌手のみならず、近年は料理番組でシェフとしても活躍するニコラス・ツェーという、21世紀香港映画のアイコンである2人が主演。そして監督は『ジェネックス・コップ』『香港国際警察 NEW POLICE STORY』『レクイエム 最後の銃弾』など、このblogでも感想を書いてきた多数の作品を手掛けた“香港の爆発王”ベニー・チャン。反送中デモが起こった2019年に撮影を終え、香港及び中国で上映が始まって間もない2020年8月に58歳でこの世を去り、本作が遺作となった。

 

 

東九龍警察本部に所属する張崇邦警部(ドニ―)と、彼の部下として働いている邱剛敖(ニコ)。自らの正義を信じ、悪人の逮捕に全力をかける邦を敖は尊敬していたが、大手銀行の霍会長の誘拐事件で二人の運命は大きく分かれる。2人の容疑者が特定された後、そのうちの一人の何を追った敖とその仲間たちが、司徒副総監(ベン・ユエン)の命令を受けて会長の居場所を暴行により白状させ、さらには殺してしまったことが大きな問題となり、敖たちは裁かれて実刑を受ける。
4年後、邦は誘拐犯の残りの1人の王の逮捕に執念を燃やしていたが、有力者の息子の逮捕の件でクレームが入り、捜査を外される。彼の代わりに同僚の姚(レイ・ロイ)が王とベトナムマフィアの麻薬取引現場に赴くが、その現場で麻薬が強奪され、姚たち捜査班も襲撃される。彼らを襲ったのは出所した敖と元警官たちだった。

この映画が撮影された2019年の香港といえば、先に書いた通り反送中デモに端を発した14年以来の民主化運動の再燃と、市民運動の徹底排除を貫いた香港政府の対立により、警官がデモ隊に催涙弾を撃ち、学生たちを投打する映像をニュースやドキュメンタリー等で見て大きな衝撃を受けたことが思い出される。14年の雨傘運動時同様、市民の安全を守る警察が政府を守る側に守ってしまったことに大きな失望を抱いたのは市民でなくても同じだった。そんなマイナスイメージが香港警察についてしまった今、どうこの映画を受け入れたらいいのか?と、ついついそんなことを観る前には考えてしまった。
しかし、10年代は『コールド・ウォー』2部作のように警察内部の問題をテーマにした映画も多かったし、この映画でも上層部の命令により起こった悲劇から警察内部の腐敗を匂わせているので、とりあえず現実と距離を置きつつ、でも重ねて考えてもいいように思う。それを思えば、近年のヒーローにしてはストイックに正義を貫き、自らの組織にもその追求を止めない邦も、命令に従ったことがかえって罪となり、復讐を以て組織とかつての上司に怒りを突きつける敖も、彼らそれぞれのやり方で警察に異議申し立てをしているのではないか、と私は考える。
(ところで映画界でも現在の警察をそのまま描くのではなく、ドニーさんとアンディW主演の『追龍』のように過去に題材を求めたり、19年冬に台湾で観た『廉政風雲 煙幕』のように廉政公署を舞台に犯罪者とのチェイスを描く作品が10年代後半にはあったので、やはりそのあたりは意識されていたのかとも思うのだが、実際はどうだろう?)

ベニーさんといえば先に挙げたような、大規模な爆発を得意としており、『WHO AM I!?』などの成龍とのコラボレーション、そして《衝鋒隊:怒火街頭》に始まる警察ものが代表作と言われるけど、デビュー作はあの『アンディ・ラウの逃避行/天若有情』だし、『新少林寺』や『コール・オブ・ヒーローズ』のような時代ものも撮れるオールラウンダー。ドニーさんとは90年代のTVシリーズでコンビを組んだとのこと。ベニーさんを語るのに欠かせない人物は成龍を始め様々いるが、やはりここでは『ジェネックスコップ』以来主演や助演で多く出演してきたニコを取り上げたい。

ここ数年のニコといえば、大陸のドラマへの出演の他、料理番組のホストを務めてシェフとして腕を振るい、そこから生まれたグルメ&スイーツブランド・鋒味をプロデュースしている。かつて中環にクッキーショップの路面店を出していたけど、コロナ禍で撤退し、現在は通販のみで対応の様子。

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2017年春の香港で撮影。

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看板スイーツのひとつ、茶餐廳曲奇(クッキー)
辛いクッキー等面白いフレーバーもあり。

私自身も出演作はジェイとW主演の『ブラッド・ウェポン』(2012)以来か、その後何かあったっけか?というくらいで本当に久々のニコであったが、先に挙げたジェネックス、ニューポリ、新少林寺の他、ゲスト出演の『プロジェクトBB』やショーン・ユーやジェイシー・チャンと組んだ『インビジブル・ターゲット』など、2000年代のベニーさん監督作品の数々を思い出し、歳は重ねどもあの頃の若さと変わらぬ熱さのニコに、この20年間に彼が経験した様々なこと(必ずしもいいことばかりではなかったが)もあって、ついつい本人の実人生を重ねてみたくなった…というのはオーバーであるか。
敖は自らの正義を貫く先輩の邦を慕う一方、上層部の命令に逆らえず(エリートの設定なので出世に係わる面も大きいのかも)それに引き裂かれて起こった悲劇により邦も含めて警察への憎悪を抱いた復讐鬼と化すのだが、その憎しみの暴走は邦の頑なな正義にもナイフを突きつけていくので正義は絶対的なものなのか?ということにも考えが及ぶし、説得力もある。
そんな敖を激しく演じてくれたら、もうニコすごい…と語彙力が消失したようなことしか言えないではないか。デビュー直後から彼を観てきた身としても!本当に久々のアクション映画での演技ということもあって、ニコの熱演が本当に嬉しかった。

 

こちらも久々にニコが歌う主題歌のMV。ドニーさんが特技のピアノを披露しているのもまた楽しい。

ドニーさんは誰がなんといっても宇宙最強。この映画自体が単純な勧善懲悪でないとはいえ、最後に彼が勝つのはもちろんわかっている。では彼とニコはどう戦っていくのか、というのも見せ場である。
アクション監督をドニーさん自身が務めているから、ベニーさんお得意の爆発描写に彼の格闘が加わるわけで、激烈さは増し増しである。それと同時に、近年の潮流でもある感情や物語に応じたアクションもしっかり実践されている。彼を中心に、カーアクションは李忠志さん、銃撃戦は谷軒昭さん、そしてクライマックスの格闘を谷垣健治さんと、香港を代表するコーディネーターたちが集って取り組んでいるから迫力もありエモーショナルである。特に広東道での激しい銃撃戦(香港島にセットを組んで実景と合成したそうだが違和感はなかった)から、古い教会に舞台を移してからの邦と敖の格闘は、ドニーさんの方が圧倒的にパワーが上というのもわかっていながらも、ニコが互角に戦えていたし、熱量もあって見ごたえ充分。この作品の前に谷垣さんが参加されていたるろけんファイナル(るろうに剣心最終章The Final)で繰り広げられた剣心と縁のクライマックスの格闘場面も非常に熱く見入ってしまっていたので、ああやっぱり格闘はいいよねーと語彙力が消失気味になってしまうのであった…。

この作品は完成時から「このくらい大規模なロケができる香港の警察映画はもう当分撮れない」と言われていたが、その後のコロナ禍による行動制限、そして国安法等の法律改正により、本当にこのレベルの映画が作れるかどうか心配になってきた。そしてベニーさんが亡くなられているという事実も、これに加えてずっしりと重くのしかかってくる。
香港映画の未来はどうなるのか。これについては、またの機会に書いてみたい。

最後に、改めてベニー・チャン監督のご冥福をお祈りいたします。

原題:怒火
製作・監督:ベニー・チャン 製作・アクション監督:ドニー・イェン 撮影:フォン・ユンマン 音楽:ニコラ・エレナ スタントコーディネーター:ニッキー・リー クー・ヒンチウ 谷垣健治
出演:ドニー・イェン ニコラス・ツェー チン・ラン パトリック・タム レイ・ロイ ベン・ユエン ベン・ラム ケン・ロー カルロス・チェン サイモン・ヤム

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我的中華電影ベストテン2021

2016年まで「funkin'for HONGKONG十大電影」と銘打ってその年に観た中華電影のうち、気に入ったものを10作選んでいたのですが、17年以降は映画の長文の感想がなかなか書けなくなってしまいました(twitterには感想は書いているのですけどね)
ここ2年は県外の映画祭などには行けなくなり、鑑賞本数も減少気味ですが、配信で何本か観ることができたし、地元の上映も徐々に増えてきているので、今年は題名を改めて、久々にまとめてみました。
なお題名に、Twitterで書いた感想をリンクしておきます。

理大囲城

これまで25年以上東北で暮らしているのに、なぜか行く機会が全くなかった山形国際ドキュメンタリー映画祭でのオンライン上映で鑑賞。これに先立って、地元では上映がなかった『乱世備忘 僕らの雨傘運動』もオンラインでやっと鑑賞。
2019年の初夏から始まった反送中デモのうち、最も大きな動きとなった11月の香港理工大学ロックダウンでのデモ参加者と警察との攻防を記録したドキュメンタリーで、スタッフは全員匿名。かつてよく散歩した尖東の歩道橋や近くを通ったことがある理大キャンパスがこの攻防の舞台になっていることには衝撃を受けたし、大学内部に閉じ込められたデモ参加者(高校生もいた)の焦りや意見のすれ違い等も緊迫感をもって観た。当時は日本のSNSでも武力行使を是としない意見をよく見かけたけど、このデモが決して暴力に訴えたものではなかったことはよくわかるし、理解が及ぶところである。
3年前の春に行ったのが結局今のところ最後になる香港だが、新しい建物や普通話の会話がやたらと耳について気になってはいた(かくいう自分も一応普通話スピーカーだが、香港では片言の広東語か英語を使って過ごしている)直後に反送中デモが始まり、それを受けて政府や中央からのさまざまな締め付けがコロナ禍に乗じて始まってしまい、現在の状況になったことに非常に驚いている。この映画も『時代革命』も、現在香港では上映できなくなってしまった。現在の香港の状況については、近日別記事でも書いておきたいのだが、暗黒の時代に入った香港でも、決して自由を死なせてはいけないし絶望してはいけないという気持ちを持っていたいものだ。

1秒先の彼女

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《健忘村》を除くこれまでの陳玉勳作品はいずれも映画祭上映から一般公開になっていたので、今回も金馬受賞後にOAFFで上映されるのかと思っていたら、いきなり一般上映が決まって驚いた。幼いころに出会っていたアラサーで風変わりな二人のおかしな邂逅の物語。確かに初期作の『ラブゴーゴー』に通じるところは大きいけど、原点回帰というよりも進化だよね?と全ての陳玉勳作品が好きな自分は思うのであった。ついでに《健忘村》も今ならもうちょっと評価されてもいいと思うんだけどなあ…。

少年の君

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アカデミー賞国際長編映画賞ノミネート、そして20年の金像奬作品賞を受賞した香港映画。だけど舞台と俳優は中国、言語は普通話。10年代後半に『十年』や『大樹は風を招く』などに賞を与えていた金像奬がなぜ中国が舞台のこの映画に賞を与えたのか、疑問であった。香港映画で俳優としてキャリアを重ねてきたデレク・ツァン監督の作品は『恋人のディスクール』のみ観ている。この前作の『ソウルメイト/七月と安生』で単独監督デビューしているのだけど、これも舞台は中国。
これまで取り上げてきたテーマは友情やいじめと、普遍的なものである。そして鮮烈。中国製作なので、あの検閲済みの龍のマークはついているし、ラストには政府によるいじめ抑止対策の、クレジットもついていたのでプロパガンダ的にも見られそうだが、ここしばらくの中国映画が持つどこか忖度めいたものは感じられないし、制限のありそうな中でしっかり自分の描きたいことを描き切っている。周冬雨とジャクソン・イーの主演2人も、痛々しいほどの熱演を見せてくれた。
デレクの次回作はあの『三体』のnetflixドラマ版だそうで、これも楽しみである。第1話を担当とのことだが、そうするとあの場面から始めるのか…>あえてなにかは書かないでおく(読んだ人はわかっていると思うけど)

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↑これは公開時に劇場で掲出されていたスチール。地元の映画好きにも好評な作品でした。
それなら『七月と安生』も上映してほしかったなあ…配信で観るしかないのか。

日常対話

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リンクはTV版の感想で失礼します。クラウドファンディング特典のトーク付き限定配信で観たのですが、なぜか感想をtweetしていなかった…

ホウちゃんのプロデュースでTV版が先行して製作され(NHKBS1で放映された『母と私』2015年製作)その後長編劇場版として製作。独立映像制作者の黃惠偵監督が、 葬儀業を営むレズビアンの母との修復を試みるためにカメラを回して自らと母の姿を撮ったドキュメンタリー。これまでの恋人たちが語る母の姿が興味深く、やがて語られる女性の抑圧に衝撃を受ける。今でこそLGBTQ+の権利を守り、多様性を重んじる台湾でも、かつての女性の扱いはやはりどこの国とも同じようなもの。監督が母との関係や彼女の過去を振り返ることで、台湾の個人史が現代史と重なるし、そこから知ることも大きいし、いろいろと考えられる。

血観音

JAIHOの配信で鑑賞。これも台湾の現代史に考えが及ぶ映画。舞台となる年代はちょうど自分が留学していた頃であった。戒厳令解除からしばらく経っていたが、まだ国民党が実権を握っていた頃だった。TVでたまたま観た省議会中継の議員の暴れっぷりにあきれた記憶がある。そして劇中での暗殺や怪死事件が当時実際にあった複数の事件を基にしているというのに闇を感じた…
JAIHOではOAFFやTIFFで上映された作品が観られてうれしいけど、だいたい期間限定配信なので、いつも最終日ギリギリに観てしまう癖を直したいところである。

私たちの青春、台湾

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先の記事でも触れたとおり、金馬奬で長編ドキュメンタリー賞を受賞した時の傅榆監督のスピーチが大陸側で物議を醸した作品。オードリー・タンのインタビュー本『オードリー・タンの思考』でもこの映画が紹介されていた。
14年の太陽花学運に参加した学生たちの栄光(と言っていいのか)と挫折、そして彼らを追った監督自身の心情も語られ、セルフドキュメンタリー的な面もあった。学生たちがジョシュアとアグネスに面会する場面があったが、二人の現在を思ってしまって胸が痛かった。2014年からの香港と台湾が現在こうなってしまうとは。そして今後はどう変わっていくのか。

羊飼いと風船

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祝、ペマツェテン作品日本初公開!
フィルメックスの常連で、ソンタルジャと共にチベット映画を確立した彼の作品が地元の映画館で観られるのは実に素晴らしきこと。
中国映枠に入れてはいけない気もするけど、王家衛が過去作をプロデュースしてるし、中華圏という枠で観られる作品だから、ということで。

坊やの人形

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風が踊る

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今年はホウちゃんの過去作品をまとめて観られたのも実に有意義だった。

映画 真・三国無双

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元ネタのゲームは全く知りません。ゲームだから三国の英雄たちがびしばし超能力を発揮するってことですよねそうですよね。
古天樂の呂布はいい感じの貫禄でカッコえかったけど、ハンギュンの関羽…それでいいのか、セクスィー関羽…
まあそれでも日本公開の意義はあったと思う。最近日本で作られた劉備がぼやきまくる某三国志映画に比べたら百倍も千倍もいい。
そして東京と大阪の他、唯一の地方公開を果たしてくれた地元の劇場・盛岡中央劇場には大いに感謝しております(なおこの劇場で近日『レイジング・ファイア』が上映されます。中劇のニコファンの方による熱いレコメン記事をみんな見てあげて)

番外 シャン・チー テン・リングスの伝説

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はい、番外です。昨年唯一このblogで感想が書けた映画だけど、番外です。
中華電影へのリスペクトが込められていてもやっぱりマーベル映画だし、久々にトニーへの愛も激しく確認できたけど、まあいろいろあるし。(そして勢い余ってこんなファンフィクションまで書いてしまったので、よろしければ読んで脱力してくださいませ)
続編製作が決定したのは嬉しいけど、次のキャストには噂されているあの人よりも四大天王クラスを出してほしいなあ。

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誘拐捜査・九龍猟奇殺人事件【未公開映画の感想】

これまで観てきた2年分の映画のうち、tweetはしたけど、独立した記事が書けなかったものをまとめてUPします。
まずはタイトルの2作。2017年くらいから、WOWOWで未公開中華電影の放映も目立つようになってきたので、よく観ていました。

『誘拐捜査』


中国で実際に起こった俳優誘拐事件を基にした映画。監督は成龍さん主演の中国映画を多く手がけるディン・シェン。
香港の映画スター吾先生誘拐をめぐる警察と犯人、そして吾先生と誘拐犯との駆け引き。成龍さん出演作を手がけてる監督さんだと思うけど、ポリストレジェンドをさらにリアルに寄せたような感じだったな。実際に誘拐された俳優さんも出演し、刑事役リウ・イエの上司役で出演していた。
吾先生は香港スターだけど大陸出身であっと驚く背景を背負っているのだけど、それゆえにもしかして…という期待をさせてしまうのはあえてなのか?親友の北京在住の実業家が林雪ってのは美味しい。『ブレイドマスター』の王千源はなかなか曲者。でも本来は《健忘村》のようなコメディ演技のほうが得意分野らしい。
派手ではなく、あえてリアルさで見せたのは好感度高いし、これならシネマート系の中華祭りでやってもよかった気はするんだけど、それでやるには華が足りなかったかもしれないな。でも、ドラマとしてしっかりした作品だったので、観てて安心した。北京の元宵節の風景もいい。

『九龍猟奇殺人事件/踏血尋梅』



少女の殺人事件から見えてくる、人間の孤独と哀しみを描いた映画だった。憧れの香港で夢を叶えられず落ちていく少女と、幼い頃に事故で母親を失い、失意のまま成長した男が出会ったことで起こった悲劇は確かに猟奇的だが、お互い何かを求めていたと見ると印象が変わる。
主演はアーロンだけど、決して派手じゃないし、むしろ彼の役どころは狂言回し的。渦中の男女を演じる白只(マイケル・ニン。『宵闇真珠』にも出演)と春夏(『シェッド・スキン・パパ』のジェシー・リー)が本当に熱演で、アクションよりリアリティを求めた映画のトーンともマッチしていた。グロい場面や台詞もあるけど、それほど気持ち悪くはならなかった。TVで観たからだろうか?うーむ。
撮影にドイル兄、あとウィリアム叔父さんの名前も見たので、映像的にも見ごたえある。いい映画なんだけど、派手でもなくむしろ地味な展開なので一般公開はキツかったんだろうな。ただTLによると、WOWOW放映版は98分の短縮版で、120分のディレクターズカット版があるらしい。これも観たい。
当事者の王佳梅(ジェシー)は湖南省生まれという設定で、広東語も割とすんなりしゃべりつつ時々キッツい湖南訛りで喋るというキャラで、普通話話さないのは珍しいなと思ったのだけど、ある場面でしゃべっていたのは意味があるのかな?と思った。

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天使は白をまとう(2017/中国)

原題の「嘉年華」は、カーニバルという意味で、英語の音に合わせて作られた単語らしい。中華圏では映画祭のカテゴリや小売店のバーゲンなどでこの言葉をよく見かける。英題直訳である『天使は白をまとう』は、題名の華やかなイメージを想像して見始めると、思い切り裏切られる。

舞台は中国南部のリゾート地に立つモーテル。そこに2人の小学生女子を連れて、街の党幹部が宿泊した。その翌日、モーテルに捜査が入る。どうやら泊まった小学生たちが性的暴行を受けたのではないかという疑いがかけられる。捜査を担当する検事は従業員の小米に協力を要請する。
当日夜勤に入っていた小米は18歳と自称しているが、実は最近16歳になったばかり。出生地の戸籍がない黒孩子で、一人でも暮らせるようにと暖かな南部までやってきたのだ。身分証明書を作成するには多額の費用が必要。彼女は当日の監視カメラの録画で幹部と少女たちが同じ部屋にいたことを確認していたことから、それを武器に幹部をゆすり、大金をせしめようと画策する。

海水浴にはまだ早いような早春の海辺に立つ、巨大な女性の足の像。全身こそ見えないが、赤いヒールやちらりと見える白いスカートから、その像がマリリン・モンローの像であることは容易に想像できる。その像を足の間から見上げる小米の姿がファーストシーンとなるが、事件の経過とともに像も大きく変化する。この像は中国に実際に建てられたものの、すぐ取り壊されたのを地元の少女たちが悲しがっていたという実話から想を得たと、監督のヴィヴィアン・チュウがQ&Aで話していたが、無戸籍児の小米や暴行を受けた小文が持つはずだった無垢の喪失と、マリリンが不遇の正直を経てスターになり、セックスシンボルとしてゴシップに晒されながら若くして亡くなった事実を重ね合わせていたと考えられる。(マリリンについての一般的なものと地元女子たちの認識の差も興味深かったとも)

小文も小米も心身ともに傷ついていく。訳の分からない災難が自分に降りかかり、母親になじられることも理解できずに、離婚して別居した父親の元に逃げる小文。故郷を離れて流浪し、南の地で安定した生活を手に入れたいのに、理不尽な暴力にも晒される小米。暴行事件は見えざる力が働いてあっさりと終結する。重く苦い展開は、中国だけでなく世界中の女性や子どもの受難でもある。しかし、事件の影響でモーテルがなくなり、行き場をなくして売春を強要された小米にはまだ選択する道があった。それはおぞましい場所から逃げ出すこと。傷ついてばかりの人生は嫌だ、まだ戦えるはずだという表情を見せ、捨てられたバイクに白いドレス姿で跨り、取り壊されたマリリン像と並走する姿には、先の見えなさもあったけど、希望もあると感じた。
このように、かなり皮肉めいていて、いくらでも深読みもできるこの作品があっさりと中国国内で上映が認可されたというのは考えれば不思議なものだ。ヴェネチア映画祭のコンペ部門に選出され、ジャ・ジャンクーが主催する平遙国際映画祭で最優秀賞と監督賞を受賞し、さらには金馬奨でチュウ監督が監督賞を受賞など、非常に評価が高いことが、ここ数年独立系作品に対して上映許可を出してこなかった当局の背中を押したのだろうか。チュウ監督はベルリン映画祭で金熊賞を受賞した『薄氷の殺人』のプロデューサーでもあるというので、現在の中国独立系映画の中心人物として今後とも注目したい。(フィルメックスで一緒に写真も撮ってもらったので、とちょっと自慢してみる。笑)

小米を演じたのは、劇中の年齢よりさらに若い14歳で衝撃を受けた文淇小姐。「ヴィッキー・チェン」という英語名の通り、確かにヴィッキーに似ている。台湾に生まれて北京で育ち、子役として活躍しているそうだが、なぜか実年齢以上の役どころが多いらしい。今年の金馬奨では、ヤン・ヤーチェ監督の新作《血觀音》で見事に最優秀助演女優賞を受賞。台湾はもちろん香港でも活躍してほしい若手女優。オーディションで選ばれたという小文役の周美君ちゃん(撮影当時11歳)も熱演。脇は事件の捜査にあたる検事に阿部力の奥さんといえば通じるのかな?の史可、遊園地でエンジニアをしている小文の父に耿樂、モーテルのオーナーに大活躍の陳竹昇と手堅いキャストも揃っている。
#MeToo ムーブメントもあって今や世界的な問題となった女性への暴力だが、事件発覚直前に映画として世界に披露された先見の明を感じる。この手の問題に腰が上がらない日本で、これを一般公開してくれる配給会社は現れてくれるのだろうか。

原題:嘉年華
監督&脚本:ヴィヴィアン・チュウ
出演:ヴィッキー・チェン チョウ・メイジュン シー・クー カン・ルー バンブー・チェン 

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相愛相親(2017/中国・台湾)

シルヴィア・チャン監督の『相愛相親』は、監督自身が演じる主人公・岳慧英が老いた母親を看取る場面から始まる。慧英自身も定年を間近に迎えた高校教師で、自動車教習所の教官である夫と地元TV局に勤務する成人した娘を持つ身であり、ここから物語は彼女の老い支度が始まるのかと思いきや、約20年前に亡くなった彼女の父親との合葬に、田舎に住む父の墓を守る最初の妻が猛反対するという展開になる。
そのおばあちゃんから見れば、慧英は妾の子。しかも「夫に先立たれ、その後ずっと独身を貫いた妻の貞節を称える」などという碑のある村に住んでいるものだから、村人も当然おばあちゃんの味方。おまけに娘の薇薇が撮った村での様子がテレビ局の看板番組に取り上げられることになり、さらに大騒ぎに…。

予告はこちら

父親の死をめぐり、最初の妻と最後の妻の子どもが争うなどというプロットは決して珍しいものではなく、総じてスキャンダラスに描かれるものであり、かつどこか古臭く感じる。しかし、この映画ではそうならなかった。20世紀後半からの中国の人々の背負った歴史も背景に匂わせつつ、急激に発展した21世紀の地方都市を舞台に、価値観や立場の違う人々のぶつかり合いから和解に至るまでを、ユーモアを交えて温かく描いている。

生真面目で家長を自認しているからこそ、愛し合っていた父と母を一緒の墓に納めたい慧英、貧しさから若いうちに別れることになってしまったけれど、死んでもなお夫を強く愛するおばあちゃん、そして慧英に反抗して家出し、恋人の阿達と共になぜかおばあちゃんのもとに住み着いてしまう薇薇の三世代の描き方が面白い。
慧英の強引さもおばあちゃんの一途さも同じ土俵に載せられているので、人によってはおばあちゃんに同情してしまう人も少なくないだろうし、その狙いも明白である。
ここで物語に客観性を呼び込むのが慧英の夫である尹孝平。妻の尻に敷かれ、家庭でも存在感が薄い、いかにも今時らしいお父さんなのだが、暴走する慧英と母親に不満ばかりを抱く薇薇の間に入って宥める役どころも果たしている。子は鎹ではなく父が鎹と言ったところか。彼を演じるのがあの田壮壮監督。『呉清源』がきっかけで面識ができ、キャスティングも想定して脚本を書いたということだが、その試みは成功していて、いいアクセントになっている。

また、岳家のファミリーアフェアも描きながら、慧英の担任するクラスで問題を抱えている学生・盧くんとその父親で売れない俳優・盧明偉と彼女の関係、西安から北京に行く途中で街にとどまり、ライヴハウスで歌うようになった歌手の阿達と薇薇の発展しない恋愛など、脇の人間関係も興味深い。これらの筋が物語にうまくハマり、慧英とおばあちゃんがそれぞれ決意をして争いを収めようとする結末に向かう。それを思うと、Love Educationという英題からは、自分と異なる人の行動や思考から相手を理解し、考えを深めて次に進むという意味がこめられていると考えられる。
発展著しい中国の地方都市の文化や生活も見え、いろいろと考えさせられながらもポジティヴ良心的な作品。『戦狼』のようなビッグバジェットではなく、第五世代のような巨匠たちの作品ともまた違う中国映画である。一般公開する価値は十分にあるので、各配給会社さんに是非期待したい。

東京フィルメックスではオープニングフィルムとして上映。
2年前に審査員を務めたシルヴィアさんが再び有楽町にやってきました。

上映時のQ&Aはこちらから。
動画は上記の題名にリンクした作品紹介ページでも観られます。

英題:Love Education
監督:シルヴィア・チャン 脚本:シルヴィア・チャン&ヨウ・シャオイン 撮影:リー・ピンビン 音楽:ケイ・ホアン
出演:シルヴィア・チャン ティエン・チュアンチュアン ラン・ユエティン ソン・ニンフォン ウー・イェンメイ タン・ウェイウェイ カン・ルー レネ・リウ

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イップ・マン 継承(2015/香港・中国)

昨年の『ローグ・ワン』と今年初めに公開された『トリプルX:再起動』という2本のハリウッド大作に次々と出演し、香港映画ファン以外にも知られるようになってきたんじゃないかと思われる我らが宇宙最強ド兄さんことドニー・イェン。
ただ、ハリウッドに出てくれたことで説明しやすくなったのはありがたいが、主演作が地方までくることは少なく、本当に悩ましいのもまた事実。現にこっちには『捜査官X』以降の主演作は全く来ていない。ファンの中には「映画館にきても入らないから、ソフトや配信で観る」などと思っている人もいるかもしれない(そんな人いないと信じたい)が、そう思うのは本当にもったいない。と、ド兄さんの出世作となったシリーズの最新作『イップ・マン 継承』を観て思ったのであった。

日中戦争を背景に、故郷の佛山を占領した日本兵との対立を中心においた2008年の『イップ・マン 序章』、戦後移住した香港で功夫の先達から認められ、彼らを見下す英国人ファイターに挑んだ2010年の『イップ・マン 葉問』から5年が経って登場した第3作。この間にはもともと企画が先行していたものの、例によっての王家衛だから完成まで13年かかった『グランド・マスター(以下一代宗師)』もやっと公開された。この他には、デニス・トー主演でハーマン・ヤウ監督の『イップ・マン 誕生』、同じくハーマンさん監督で秋生さん主演の『イップ・マン 最終章』も作られているけど、すみませんこの2本は未見です。



1作目は金像奨で作品賞も獲り、ド兄さんの熱演で映画界における葉問ブームが湧き上がったのが(ただし一代宗師は除く)もう10年近く前になるのにびっくりしているが、以前の感想にも書いているけど、実は諸手を挙げて評価しているわけじゃないんだよね、前2作は。大陸を向き始めた頃ってのもあってか、敵を中国以外の者に設定してイデオロギーやや高めな感じになってるのが引っかかった。そのあたり数年の時代ものアクション映画になぜか抗日的要素が入ってしまっていたのは、谷垣健治さんも著書で触れられていましたっけね。

今回の舞台は1950年代の香港。ド兄さん演じる葉師傳もすっかり香港の生活に馴染み、次男の葉正もやんちゃな小学生へと成長。貿易港湾都市として好景気に沸く香港での問題は地上げであり、葉正の通う小学校が標的にされることから、物語は不穏な方向へ動き出す。
この事件から出会うのは葉正の同級生の父親で、車夫をしている詠春拳使いの張天志(張晉)。向上心に燃える張天志は、いつかは葉問のように香港の武林に認められることを望んでいる。しかし生活のために闇の格闘技試合に出場し、上昇志向が強いために、やがて葉問と対立することになる。



戦時中→対戦直後→50年代香港と時代を移し、その時々の状況に応じた好敵手が要問の前に現れ、彼と拳を合わせる。先に書いたように、全2作の敵はいずれも香港(というか中国)の外からの敵であったのだが、今回は同じ香港居民であり詠春の使い手であるというところが特徴的である。それをベースにして語られる物語は、果たして強いだけでいいのかという基本中の基本でもあるのだが、対抗する張天志の事情もよく分かるだけあって、ちょっとしたボタンの掛け違いのようなすれ違いで葉問を越える野望を露わにしてしまったのは切ない。演じる張晉もまた良いキャラだからなおさらそう感じた。

しかし今回の葉問しーふーの、まあなんとエレガントなこと。
それはド兄さんが重ねたキャリアと年齢が活かされているのは言うまでもないのだけど、品格があって愛妻家で息子思いで人を尊んでご近所のマダームにもモテモテでなんとまあ隙がない。あまり品行方正なのもどうかと思うけど、まあしーふーだからそれはそれでいいか(笑)。冒頭で登場する、陳國坤演じる生意気なあの青年(とだけ言っておこう)との痛快なやりとりなどは、まさにしーふーとしての品格からなるものであったしね。
香港の武林界でもリスペクトをもらった彼が語るのは、守るための詠春という考えを受けての、未来の世代にそれを受け継ぐという決意がこめられていたこと。
こういうのがあるから、ワタシはこの映画に好感が持てたし、邦題もうまかったよなって思うのであった。



史実では、葉問の妻永成は彼が香港に渡っても佛山に残り、そこで一生を終えたというのであるが(だから一代宗師ではそのへんは忠実である)、ここでは彼女も一緒に香港で暮らしているという設定になっている。この永成(熊黛林)と葉問との愛もシリーズの見どころであるのだけど、今回は永成が胃ガンにより余命わずかとなったことも物語に絡んでくる。佛山の苦難の時代からずっと葉問のそばにいて、彼が危機を冒して戦う姿をずっと見てきただけあるので、病を抱えながらも、小学校をめぐるいざこざや、「詠春正宗」を名乗ってはなんとか戦いの場に引っ張り出そうとする張天志に向かう葉問を大いに心配する。だけど夫である彼も彼女の気持ちは痛いほどわかっているので、最期の時を一緒に過ごそうとする。フィクションではあるけど、こういうエピソードもバトルと並べても浮いてはいないのだから、今回はとても良くバランスの取れた構成だった。
製作発表当初はマイク・タイソンの特別出演で話題になったけど、これも物語から浮かずに処理できたのもよかったしね(まあ、タイソン自身のルックに「そういう顔にタトゥー入れたイギリス人不動産屋さんはさすがにおらんだろ?」という気にはなったが、映画だから気にするな)

そして最後にこれだけはいいたい。
今こそこのシリーズはド兄さんの代表作となり、この3作目はシリーズでも最高傑作となった。でもだからといって、一部にある「ド兄さんの葉問こそ唯一」という意見には納得できないし、返す刀で一代宗師を批判されたくない。むしろしたら倒してやる、と逆上する。
それはここでも書いてきたように、一代宗師が先行しているわけだし、どちらも同じ葉問であっても、アプローチも違えば演技も違う。だからこそ、アクションや娯楽性だけで同じまな板に乗せて論じることは意味がない。同じ映画としてエールを送り合っているようにも見えるから、比べることなどできないのだ。そこを心得ないといけないと思う。

原題:葉問3(Ip Man3)
監督:ウィルソン・イップ 製作:レイモンド・ウォン 脚本:エドモンド・ウォン 撮影:ケニー・ツェー アクション指導:ユエン・ウーピン 音楽:川井憲次
出演:ドニー・イェン リン・ホン マックス・チャン パトリック・タム ベイビージョン・チョイ チャン・クォックワン マイク・タイソン ケント・チェン

注:youtubeの仕様が変わり、縮小できないまま予告を貼ってしまいましたが、画面上のタイトルをクリックorタップすれば該当ページが開きますので、そちらでご覧下さい。

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《健忘村》(2017/台湾・中国)

3年前、『祝宴!シェフ』で16年ぶりに台湾映画界に復帰を果たした陳玉勳。もう面白くて大好きで、思えばこの映画があったから台南に通うようになったと言ってもいいくらいなんだが、大ヒットを飛ばした次は何年後?また10年開くの?と思ったら、さすがにそんなことはなかった。と言うかFBをチェックして驚いた。え、今やホウちゃんのミューズとして知られるすーちーが主演?そして時代劇?で、題名が健忘村?

時は清末民国初期。幼いころに父親とともにある村に移り住んだ秋蓉(すーちー)は王村長の息子丁遠(トニー・ヤン)と将来の約束を交わしたが、彼は3年待てと行って村を出てしまい、彼女が気に入らない村長は秋蓉と物売りの朱大餅を無理やり結婚させてしまう。
ある日、行商から帰ってきた大餅が死んでいるのが発見された。正確に言えばこれは、戻らない丁遠を待ち続けながら大餅にこき使われる生活に絶望した秋蓉が死のうとしてネズミ捕り薬を混ぜた包子を大餅が食べてしまったという事故であった。秋蓉に思いを寄せる萬大侠(ジョセフ)は彼女をかばうが、村長は秋容が殺したと疑う。
そんなギスギスした村に、天虹真人と名乗る怪しい男・田貴(王千源)がやってきて、周代から伝わる万能機器で、人々の悩みや煩悩を忘れさせる「忘憂神器」を村人に見せる。村長は彼を疑って幽閉するが、最悪の状態から脱したい秋容は迷いながらも彼を信じる。しかし、散々な目に遭わされた田貴は、忘憂機器を悪用して全ての村人の記憶を奪い、秋容を自分の妻に仕立てて村長に収まり、村を支配してしまう。
のんきで不自然なパラダイスと化した村。どうしてもここを支配下に置きたい隣村の実力者石剝皮(エリックとっつぁん)は郵便配達に身をやつした侠客集団の頭領・烏雲(林美秀)を村に送り込む。実はこの集団に丁遠が加わっており、先んじて村に帰るのだが、当然ながら村はすっかり変わっていて、これまた大騒ぎになり…。



すーちーが台湾語で語る予告編をどーぞ。しかしこのサムネイルだけ見ればなんかるろけんっぽい。ってなぜ侠女じゃなくるろけんを思い出す…。

予告にもある「村長好~♪」のポーズ付き挨拶は笑えるんだけど、中盤でまーさーかーそーゆー展開かあ!と驚愕>予告だけだとすーちーだけがそうなったのかと思ったので。
悲しいことは忘れたいけど、もしも誰もがみんな忘れてしまったら?というのがテーマかな、と思って観ていた。今回は初の中国との合作&初の時代劇でしかも賀歳片ということで、いつものようなひねりを加えずに割とストレートに行ったのかな、と思ったりして。とは言ってもちょっとブラックユーモアも効いている。小ネタの応酬も相変わらずだけど、祝宴よりは抑えめになっているのは、大陸向け対策?
でもねー、その大陸向きっていうのがあってなのかな、もちろん大笑いはできたんだけど、なにか物足りなかった。何が物足りなかったって、ユーシュン作品の魅力はやはり台湾ローカルのコテコテ感にあるのだから、それが大作になって出しづらくなったんだろうなってことなんだけど。コテコテにするなら、台詞を全編台湾語にしちゃうのも手だったか?(こらこら)
しかも大陸では上映前にこんなことになっちゃうし。あの映画には特に政治的メッセージは感じなかったけどなあ。多分ない…と思うんだが、深読みは…あまりするまい。

物足りない物足りないとは言うけど、それでもキャストの演技は楽しかったですよ。
この撮影が終わってからステと見事なゴールインを果たしたすーちーは、刺客の次にこれなので、いやあもうかわいいかわいい。大陸から呼ばれた王千源は『ブレイド・マスター』や近日感想を書く予定のアンディ主演『誘拐捜査』などでシリアスな演技を見せていたけど、何やっぱりコメディアンだったの?まあコメディアン顔だとは思っていたけどね。(それを言うたら王寶強もコメディアン顔か?)
前作の“台湾のビヨンセ”っぷりが未だに強烈な林美秀は、今回はうって変わって本編ではほとんど笑わない女刺客(!)。もちろん観てる分には笑えるんですけどね。彼女の部下たちのボイパ(ボイスパフォーマンスね)は楽しい。これで威嚇したりするもんだからなおさらね。
でも今回一番面白かったのがジョセフかなー。初見からどシリアスな役どころばかり続いてたからだろうけど、今回彼が演じた萬大侠はもう見事なまでの脳筋キャラで、件の立派な二の腕も見事にその威力を見せる。笑えるジョセフをほぼ初めて観たからってのもあるんだけど、クライマックスはホントに笑った笑った。

まあ、感想はこんな感じかなあ。結構さっくりしててすみません。もう一度観たら感想も変わるかも。
んじゃ、最後は楽しくこれで締めますか。

英題:The Village of No Return
製作:リー・リエ&イエ・ルーフェン 監督&脚本:チェン・ユーシュン
出演:スー・チー ジョセフ・チャン ワン・チエンユエン リン・メイシウ トニー・ヤン クー・ユールン エリック・ツァン  

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