新寶島見聞録【3】台南編
高鐵台南駅から市街地へ
ここまでのミッション
①新しい茶楼に行く
②熱炒で三杯小巻を食べる
はクリア。
そして次のミッションは
③台南へ行く
もうこれだけでミッションは完遂であった。
…いいのか、それで。
高鐵台南駅には6時前に到着。台南の天気はあまりよくないと聞いていたので、車窓をずっと眺めていたが、南下するにつれて雲が立ち込め、雨だれが落ちてきた。
いつもならそのまま台鐵に乗り換えてしまうのだが、今回は市街地までの高鐡シャトルバスH31を利用。
高鐵駅からは市街地を経由する台北市政府までのバスがあるのだが、前回と今回の宿泊地である艸祭Book innはこのバスが泊まる孔子廟の近くにある(バス停名は建興國中)
バスだとだいたい35~40分ほどかかるが、高鐵→台鐵(25分)でも台鐵台南駅からタクシーを使う距離なので、待ち時間を考慮してもバスの方が利便性がよいと、前回の帰りで利用して気づいたのであった。
高鐵駅のバスターミナルを6時に出発し、先ごろ亡くなった許文龍氏が創業した奇美食品公司の美術館、奇美博物館や台南空港(空軍台南基地兼用)等を経由して、6時半過ぎに宿に到着してチェックイン。
3度目の投宿で、今回初めて女性専用フロアに宿泊。奥のギャラリーに面した階段から登って3階にあるため、キャリーをもって上るには少し難儀するが、奥にこんなに広くて天井が高いスペースがあったのか!と驚いた。ただ、宿泊客は思ったより少ない。複数のベッドのある個室には、家族旅行らしいグループが泊まっているのを見かけたが、それ以外の女性のドミトリー客も多くなかった。もちろん多くても諸々のリスクは上がるし、私自身も他の客とは必要最小限のコミュニケーションを取ればいいと思うタイプなので、少ない方がいいのだけど、それでも寂しいなあ…。
台南で香港を見つける(1)秘氏珈琲
何度も来ているのでわかってはいるが、台南の夜は早い。
そして8時には主要なお店はみんな閉まってしまい、後は熱炒やバーなどフード以外のお店の営業だけになってしまう。
この4年間、健康上の理由で酒を飲むのをやめたので、バー系のお店にはもう行けない。でもお腹は空いているから…と、ぽつぽつ雨の降る中、台南の台所である國華街を目指して歩いた。
案の定、主要なお店はもう閉店の準備をしていた。それでもここに来たのは、永楽市場の2階にあるカフェ、秘氏珈琲に行きたかったからだ。
この店は4年前から約1年台南に留学していた台カル研のIさんに紹介してもらったのだが、それまで何度も足を運んだ場所なのに、さすがに2階まで行くことがなかったので、まったく知ることがなかった。ああ、なんともったいない…
カウンター席は満席だったので、2階(実質上3階)席に上がると、見覚えのある壁紙やら赤いランプシェードやら。撮影に失敗したから載せられないけど、花様年華のソフトも置いてあってテンションが上がる。
そう、この雰囲気は古い香港。ここは台北の師範大学の近辺にある秘氏珈琲の支店でもある。
例によってコーヒーは飲めないので、それ以外でメニューを探したら、プーアール茶があったのでオーダー。しばらく経つと、マスターがサーバーに並々と注がれたプーアール茶とガトーショコラを持ってきてくれた。ガトーショコラは全然甘くないので、おそらくビターカカオを使っていた様子。プーアール茶は黒く濃かったが、香港の飲茶レストランで飲めるあの味を思い出させるので、とにかくうれしくて何杯も飲めたし、残すのももったいなくてタンブラーにも詰めた(!)
カウンターに下がってマスターにプーアール茶の美味しさを褒め、お礼を言ったら、そのお茶を分けてもらえた。これは予想外で嬉しかった。看板猫もいた。今回はゆっくりできなかったけど、次回はカウンターでマスターともっとお話ができたらいいな…と思い、店を後にした。
市場を出たところでも猫さんに遭遇。台湾各地の街には犬が落ちていると言われるくらいだが、最近は猫を見かける方が多い。
そんなふうにしみじみしながら宿に戻ったが、やはりお茶とケーキだけでは空腹は収まらず、宿近くのセブンイレブンでレトルト粥を買って宿のキッチンで食べることに。
帰宿して、フロントスタッフさんに「晩餐何食べたの?」と言われて粥を見せたらものすごく気の毒がられてしまった…。でも、この4年間ずっと戻りたくて仕方がなかったので、食事よりもここにいられることがまずは嬉しかった。
ドミトリーの消灯は10時とこちらも早め。疲れもあるので、それに合わせて早く寝ることにした。
8月8日(火・4日目)
目覚めたのは朝の5時。
まだ夜は明けていない。
いや、明けていないどころか、窓の外からは明らかに激しく降る雨音が。
この時期は、大型の台風が台湾付近に停滞していたころ。だから旅の最中におそらく一度は大雨にあたるだろうという嫌な予感があった。そしてその予感は的中した。
もともと4日目は予定もちゃんと立てておらず、天候次第で動くつもりであった。雨の降り方も降ったりやんだりの亜熱帯気候特有の降り方。この時期の香港でもお馴染み、いやそれ以上に激しく降っていたので、午前中は宿に滞在してこれまで汗を書いてきた衣類を洗濯しながら、映画を見て過ごすことにした。
かつて宿では早餐のサービスがあったのだが、コロナ禍もあったのだろうか、そのサービスもなくなっていた。ということは宿泊客は自前で早餐を取らねばならない。
かつて素泊まりのホステルに投宿した際は、近隣に牛肉湯の店があり、サバヒー粥を食べに行ったりしたが、雨の降りがひどいので近場で済ませたかった。ということで、宿の並びになる克林台包で肉包とペットボトルの烏龍茶を買い、キッチンでフリーフードのクラッカーをもらって食べた。件の家族連れは大きな肉包を蒸し器で温めなおして家族で分け合って食べていた。うらやましかった…。
宿では洗濯機が9時半から使えるので、屋上のランドリースペースに上がって、これまで着ていた衣類をすべて洗う。使い慣れない液体洗剤やコインの入れ方に戸惑ったが、スタッフさんをつかまえて両替してもらってなんとか起動。2回に分けて洗ったのでトータルは1時間半くらい。
待ち時間は映画を観ようと思ってプライムビデオのアプリを起動したが、DLしたはずの無料作品が再生できない。ああ、そうか。無料作品は各国で異なるから、国境をまたぐとそれが無効になるのか!でも有料でレンタルしていた『運命のマッチアップ』は生きていたので、それを観ることにした。
王家衛プロデュースで『共犯』や『光にふれる』を撮ったチャン・ロンジー監督作品。いずれも青春ものだけど、この2作とは趣を異にしていて面白い。バスケットボール台湾代表になった実在の兄弟選手をモデルにストレートな青春映画。中学でのトラブルと父親の失踪がもとで進学とバスケを諦めた二人がそれぞれ別の高校にスカウトされ、高校リーグで勝ち上がっていく筋書きはあまりにもオーソドックスだけど、耳の障害を抱えながら弱小校で頭角を現す兄と強豪校で実力を発揮する弟のコントラストとそれでも強く結びつく兄弟愛がとてもよろしい。
音楽もカッコいいよ。
私はまだまだ台南を知らない
昼近くになって雨が小やみになったので、外に出た。
ここ数年台湾に来ればだいたい台南に寄っているし、赤崁樓や安平等主な名所には行ってしまっている。あと行ってみたかったのは遠方の國立台湾歴史博物館や玉井などだが、どちらも行くのには時間がかかる。だからまだ足を運んでいない知事官邸生活館に行き、ついでに成功大学方面を散策することにした。
ここはかつて昭和天皇が皇太子時代に台湾を訪問されたときに宿泊された建物である旧台南州庁。
かなり年季の入った木造建築で、階段を歩く時にも注意が必要だったが、20世紀初頭からの歴史を感じさせる建物である。
2階はギャラリーになっていて、多分期間限定で陶器の展示販売が行われていた。
そのまま成功大学を目指したが、天気は好転し暑さと日差しが戻ってきたので、学内の散策は諦めた。次行けるかな…
台南で香港を見つける(2)檀島香港茶餐廳
調子に乗って成功大学からずんずんと歩き、1時間経ってたどり着いたのが巨大ショッピングモール、南紡購物中心。
ここは台南最大のショッピングモールで、もちろん誠品生活も入っている。
時間も午後2時を過ぎ、午餐というよりおやつになってしまうな…と思いつつショップリストを眺めていると、「檀島」という懐かしさを感じる文字に出会った。香港でよく入った檀島珈琲の海外展開店(多分)、檀島香港茶餐廳である。新光三越等デパートやショッピングモールに多く出店しているらしい。
ここに来て注文するのはもうこれしかない。既にカロリーやコレステロール値を心配する年頃になってしまったが、それでも食べたい菠蘿油。
重ねて言うが、これは決して台湾メロンパンではない。香港メロンパンとも呼ばないでほしい。
飲み物はもちろん冰檸檬茶。
これだけでは当然足りないので、蝦餃も注文した。こういう点心があるのが海外展開店の強みだよね。
台南は既に私の心のご近所と化しているが、もちろん香港にだって心は置いている。今はあんな状況になっているし、私の愛した風景も失われつつあるのは承知だが、好きな街(台南)で好きな街(香港)のことを思いながら久々の味を堪能した。
そういえば、数年前のことだけど、台南には香港から移住した人が割と多いという話を聞いた。
実際に香港出身の人たちと知り合いになる機会はなかったけど、もし出会えたら台南のどこが気に入ってるのかというのを聞いてみたいところ。
そしていつもの街角へ
南紡のエントランスからタクシーを呼んでもらって、今度は林百貨へ。やはりいつもの場所に行かねば。
ここでお土産等を購入し、これまたいつもの街角である正興街を目指す。
4年前に訪れた時はリノベ工事が始まったばかりだった西市場。外見はだいぶ復元されていたけど、この時点では完全復活という感じではなかった様子。内部の布市場は通常営業だったので少し冷やかす。
この近辺ではかつての佳佳西市場旅店(2018年夏閉館)が新しいホテルへと改装されつつあったのと、特有種商行の台南店が閉店していたのを確認。
全美戯院のアドトラックは李安監督の作品の看板で飾られていた。
全美の看板職人さんの仕事にも今注目が集まっているらしい(その一人、顔振發さんについての記事はこれ)
いつまでもここにいたい、台南の夜
陽も傾いてきたので帰宿することに。でもその前に、喉も乾いたので宿近くの莉莉水果店で果物を買った。
ここは宿のロビー(飲食可)
ブックカフェな雰囲気を楽しみながら味わった。
めったに食べない黄色いスイカはテンション上がるよ。
晩餐はテイクアウトすることにして、ガイドブックで見つけた肉伯火鶏肉飯まで歩いて買いに行った。
うん、これは失敗がないチョイス!
でも帰宿してこれを見せたら、スタッフさんに「あそこはチェーンだよ。聞いてくれたらもっと美味しいお店が近くにあったら教えてあげたのに」と言われてしまった…先に聞けばよかったのかー!
でも鶏肉飯も美味しかったからいいか。今度は必ず教えてもらおう。
晩餐の後はしばし散歩。
その後は宿に戻ってラウンジでお茶を飲み、ジャーナルをまとめながらベランダから外を眺めていた。
光って見えるのは、4年前にオープンした台南市美術館2館。
私が台湾で一番好きな街である台南。来る前はあそこに行って買い物して食べて云々といろいろ考えるのだが、こうして来てしまうと、ただ来られただけでもう満足してしまうし、今回のように雨に降られてどこにも行けなくなってしまってもそれほど不満に思ってない。明日帰国するのは本当に残念だけど、できることならいつまでもここにいたい。
そんなふうにぼんやり考えながら熱風にあてられてたら、ドミの消灯時間が近づいてきた。7時台の高鐡を予約しているので、朝6時のシャトルバスに乗らなければならない。急いで戻って荷物整理をし、11時に寝た。
8月9日(水・5日目)
前日の夜から雨は降りだしてはいたが、5時に目覚めた時には大きな音を立てて激しく降っていた。
同じ時期の香港でも見られる短時間のスコールのような雨。これはタイミングを見て出ていかなければならない。
そして出発の朝
シャトルバスは6時10分発。雨が小降りになったので、6時前にチェックアウト。
また泊まりに来るよ、艸祭。それまでまだここにあってほしい。
高鐡台南站に着き、バスから一歩降りたら猛烈な雨が降ってきた。咄嗟に傘を差したけど、足元は当然びしょ濡れ。建物に入って間もなくすぐ止んだので、タイミングが悪かったとしかいえない。
早餐は駅でテイクアウトして高鐡で食べよう、と1階のモスバーガーに並び、ここはやっぱり台湾オリジナルの朝モスメニューだよねーとオーダーしたら、バーガー類は時間がかかると言われたのですぐ出してもらえるエビかつサンドイッチにした(これも日本では食べられない台湾オリジナルではあるはず)薬も飲むのでセブンでミネラルウォーターも購入。
曇ってはいるが、北上していくと空は明るくなる。もう雨の心配はなさそうだ。
定刻に桃園に着き、MRTに乗り換えてフライトの2時間半前に空港に入り、いざチェックイン…とカウンターのボードを見て気が遠くなった。
フライト時間が1時間遅くなっている…。荷物は多いし、何して待っていればいいのだオレよ…あ、充電すればいいのか。
と、カウンター前のバッテリーチャージができるベンチに陣取って1時間待った。
荷物を預けて軽くなったら、到着ロビー地下の7-11まで行ってWi-Fiを返却し、すぐ戻って保安検査を受けて出国。
そして街中では買えなかったお土産を買いに、搭乗開始時間を気にしながら搭乗口よりかなり離れた売店までダッシュしたのであった…。
飛行機は定時より1時間遅れ、13:30くらいに離陸。
午餐は虎航機内食の定番、焦がし鶏肉飯。
プライムビデオも観られなかったので、持ってきた文庫本を読みつつウトウトしながら過ごしていた。
花巻には6時40分くらいに到着。ちょうど陽も暮れた頃。
土曜日に昼にデッキの反対側から見た風景を、今度は機内から見た。
歓迎ありがとうございます、花巻温泉の皆さん。
盛岡行きのバスは19時30分発というので、乗車して待っていたところ、バスの前で台湾人家族が困っているようだったのでどこへ行きたいか聞いたところ、花巻の市街地に行きたかったらしく、このバスで花巻空港駅前で降りて一関行の東北本線に乗れば市街地まで行けることを中国語で教えてあげた。台湾人旅客はほとんど団体だったようだが、個人客でも来る人がいるのはなぜか嬉しく感じた。
盛岡に着き、晩餐して帰宅したのは21時過ぎ。自宅にたどり着いて4年半ぶりの台湾旅行はこれで完結。
離れても、私の心は台湾に
4年ぶりに訪れた台湾。変わっていないようで変わったし、以前ほど気楽に行けるわけではなくなったというのがこの旅での総括である。
特にエアチケットの高騰がなんといっても痛かった。日本では物価も高騰し、サラリーも上がらずと家計に打撃を与える要素はやはり多く、加えて円安と戦争による燃料費の高騰等も要因ではある。来年の春にまた行けるかどうかと思い、虎航とよく使っていたANAで3月下旬のエアチケットを調べてみたら、今までではもう信じられない価格が出てきて絶句した…。台湾人旅行客の日本人気は相変わらず、むしろコロナ禍以前よりも来日は増加しているのは実感できるのだけど、日本からの来台客は逆に少なくなったそうで台湾側は来て来て!とアピールしているそうだ。でもさ、こんなにエアチケットが高ければ気軽に行けないですよ、ホント…。
そんなわけで、今度行くとしたらまた来年になるか、あるいは再来年になるかという具合である。
その間、また何か世界的に大きな事件があったりしたら困る。もちろん俗にいう「台湾有事」なんていうのも御免だ(ただ、日本の一部のいわゆる「識者」たちは中台間のこれまでの歴史やスタンス等をあまり深く考えずに台湾有事云々と言っているように感じて複雑な気持ちになる)安心して海外に出られるように願うし、そのためにはやはり戦争なんかやってはいけない。もちろん台湾有事をあおってはいけない。
せっかく自由に行けるようになっても、こんな感じでまた物理的に離れてしまいそうだが、それでも私の心は台湾に置いておきたい。
というわけで、台湾旅行記はこれにて完結。
(近日、この記事を基にして台湾旅行記ZINEを作成。
詳細は後日UP)
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