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2025年5月

春光乍洩九龍縦横記(その4)

3月28日(金)

起床して気づいたのは、朝なのに暗いこと。香港の日の出は日本より少し遅いと感じているのだが、晴天だった先の2日とは明らかに違う。若者女子たちは今日も皆寝ていて、人によっては8時まで寝ているくらいだから、毎日夜遊びしているのだろうかなどと思いながら寝不足なのに早く起きてしまう高年女子である(自分で書いててアホっぽいと思うが気にするな)

バスタオル共々、前日分の衣類を洗濯機にかけ、ランドリー隣接のキッチンの冷蔵庫から前日入れた叉焼雞扒飯のパックを出し、電子レンジで温めた。パックはジップロックコンテナより少し薄いくらいのプラスチックだったので、容器ごと温められたのは有難かった(実は出先の餐廳で食事もお菓子も食べ残すかもしれないと思って、外出時には日本から持ってきたコンテナを持ち歩いていたのだが、ほとんど使わなかった)
台湾でもよく使われるジャスミンライスは、冷えると美味しくないけど、温めると食感が復活して美味しい。出来立てじゃないけど、肉の触感もいい具合。このお米を食べて、香港や台湾に来たと実感できる。

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この日は実質最終日。
もしかして雨が降るかもしれないので、午前中から昼は近場から回って、雨に当たらないように街中メインの移動にした。まずはホステルの裏にあるガーデンヒルを攻略。
ホステルの前に立つ香港を代表するベーカリー、嘉頓(ガーデンベーカリー)の本社ビルを初めて見た時は感動した。その名の由来が、後ろに控える嘉頓山(ガーデンヒル)であったことを今さらながら知ったので、諸々の施設が開く前に踏破してみた。といっても標高は大したことはない。

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丘の途中から見る美荷樓。H型の建物がユースホステルのHにもMei HoのHにも見える

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屋上はちょっとした公園になってる

下山するとちょうど10時。泊まっていながらこれまでなかなか見る時間がなかった美荷樓生活館が開館していたので見学。もともとは団地だったこの建物は、50年代の石硤尾の大火事を受けて被災者を収容する目的で建てられたといい、広東省から移民したジョン・ウー監督が少年〜青年期を過ごし『桃さんのしあわせ』の桃姐もここで過ごしたという設定を原案のロジャー・リーさんが明かしているとか。
50年代から80年代くらいまでの暮らしが展示されている。九龍の東側の生活は九龍城砦展で体験したが、同時期の西九龍の様子もよくわかる。2000年に入って、牛頭角や観塘などにある古い団地群が解体されて再開発され、フォトスポットにもなっている彩虹の団地もそろそろ取り壊しの話もあるという。返還前後は「借り住まいの地」と呼ばれていた香港だが、返還10年を過ぎたあたりから団地や地域の再開発を機に古いものを残そうとする運動やそれにまつわる思い出を残す試みが目立っている。借り物から故郷へと香港のアイデンティティが変わっていることを改めて強く意識した。

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ウーさんのコメント

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こちらはロジャー・リー氏のコメント

続いてMTRで旺角へ向かう。インスタで見かけてチェックしていたレスリー・チャンのアルバム『為妳鐘情』発売40周年の記念展示が行われるというインテリアショップGiormaniを訪問。春休みに香港へ行くとレスリー関連イベントがいつも行われているが、日程がこちらのスケジュールと合わないことが多くて、これまではなかなか足を運べなかったし、数日後は彼の命日…と考えるとどうしても切なくなるのであった。でも九龍城砦でも80年代のアイコンとしてレスリーの「Monica」が使われるので、今年のイベントは気軽に行けそうかも、と早速行ってみた。そしたら気合を入れすぎて開店15分前に着いてしまった。なぜだ、熱烈なファンじゃないはずなのに。しかもコーナーに入れるようになっても設営はまだ続いている。これは香港では別に珍しいことではないが、私が初日一番乗り客で本当にいいのか?と自問自答しながらライヴのパネルやアナログレコード展示をじっくりと見た。2000年の春に北京(だったと思う)で開催されたライヴの映像も流れていて、新旧取り混ぜた曲の数々に聴き入った。この後のワールドツアーの東京ライヴに行った時のことも思い出したなあ…

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展示を楽しみ、係の人に撮影してもらってただのレスリーファンと化した後は一息つきたくなってショップ付属のカフェでホットの正山小種を飲んでしばし休息。ああ、この旅で初めて温かい無糖の飲み物を飲んだよ…

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外に出ると予報が変わったようですっかり晴天。この天気なら遠出できる!と思いつき、まずは資金の両替の為に尖沙咀の重慶大廈へ。残していた日本円を両替したら2日前より円安が進んでいて寂しい金額になっておりタメイキ。しかし、以前弟から20年以上前の中国留学中に使っていたという人民元をもらっていて、両替できるかもしれないと持ってきていたのを思い出したので、一番高額の100元札を2枚出したら受け取ってもらえ、なんと200元が212ドルになって返ってきた。人民元の強さを改めて思い知った(こらこら)

そこから歩いて半島先端にあるK11 MUSEAへ行き、映画館のアートハウスで座席予約をして、再び啓徳へ。AIRSIDEの城砦展に再び行き、ショップでお土産としてグッズを購入。見たら実景写真集が入荷していたのだけど、この先の遠出で持って歩くのはきついし、誠品書店や油麻地のKubrickで購入できるかと思ってその場では購入せず。屯馬線から観塘線に乗り換え、車窓から懐かしき裕民坊の跡地を眺めて悲しくなりながら、数駅先の油塘で下車。そこから海沿いにある茶果嶺道を北方向から逆に歩いた。

今では東九龍もMTRが開通して便利になったが、海沿いに面し、低層の住宅で構成される茶果嶺村は、香港最後の村といわれるくらいであり、九龍城砦のような三不管ではないにしろ、近代化からは取り残されたまま時が過ぎ、近年再開発が始まったので(参考:デイリー新潮) 村自体が大きく変わろうとしているところ。映画のロケ地にもよく使われる場所で、以前から言ったみたいと思っていた。今回行かないと次はもうないかも…というところなので、思い切って行き、小さな村の路地を迷惑にならないようにそっと歩いた。

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午後の日差しにばてそうになり、開いていた冰室に入って凍檸檬茶を注文。街中のそれとは違う、時代感漂うインテリアにラジオから流れるレスリーの曲が80年代のムードを盛り上げる。
この店は茶果嶺の老舗である榮華冰室。数年前からご主人が体調を崩されて休業していたので、それを心配していた人がSNSで多かったとのことだが、今年になって再開したそうでよかった。午餐を取っていないのに、空腹ではなかったので飲み物だけにしたのだが、今思えばもっとゆっくりしたかった。次のスケジュールと夕方からの映画の予約を入れてしまったので、そこは致し方なかったか。

行きとは逆のルートで尖沙咀に戻り、この旅でやっと行けたのが文化中心と星光大道。
今年の香港国際映画祭は4月開催で、ビジュアルの展示が少なく、探しきれなかったのが本当に残念。プログラムは英皇戯院で入手できたし、今年の映画祭アンバサダーだったアンジェラ・ユン、特集上映があったルイス・クーのビジュアル掲出は香港島側にあったのは知っていたのだけど、今回の旅では全く港島側に行かなかった(!)ので出会えなかったのよ。

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代わりに文化中心に展示されていた香港コメディ映画特集のサイネージを。『月夜の願い』『新世紀Mr.Boo!』『プロジェクトBB』など

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6年前に行ったときは表示もすり減っていて悲しく感じた星光大道も、ちゃんとリニューアルされていたようで安心。城砦関係人物の手形をどうぞ。

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古天樂(&サイン:通称トルネードポテト)

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アーロン

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サモハン

その後、K11アートハウスに行き、ニック・チョン監督&主演、テレンス・ラウ共演の『贖罪の悪夢』を鑑賞。

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映画が終わるともうすっかり夜。では星光行の誠品で写真集を…と歩いて行ってみたら、在庫はなし。ではKubrickは?と油麻地まで行き、水果市場を通り過ぎて行ってみたらここにもなし。ではまたAIRSIDEに戻らなきゃいけないのか!と啓徳まで行って購入。日本円で7,000円ほどしたが後悔はしなかった…それから約1か月後、日本語版の発売を知る前までは(いやそれでも買いますよ、はい)

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夜の果欄。まだ幾つか店は開いていた

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香港に来るといつも通ってしまうブロードウェイシネマテークも、行ったのはこの晩だけだった

最後の晩餐はここでだな、と思い、城砦展隣接のフードコーナーで注文したが、叉焼飯はすでになく、スープがあったのでいただいた。寂しい晩餐となった。なぜAIRSIDEのフードコートに行かなかったのだ、自分よ。

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スープの名前を聞き忘れた。多分メニューの一番左…

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この日の昼撮影した駄菓子コーナー

帰りはホステルの反対側にある石硤尾で下車。帰り道に惠康があったので、思い出して叉焼醤と祝君早安タオルを購入。安くてなぜかホッとし、帰宿。カフェで凍檸檬茶を頼み、最後の夜をしみじみ過ごす。

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名残惜しさを覚えながらドミトリーに戻ってパッキング。

大して買い物をしていなかったのでキャリーは重くもならなかったのだが、ここである選択ミスをしたことにより、翌日に大きなやらかしが発生したのであった…

3月29日(土)

起床5時半。まだ寝ている女子たちの迷惑にならないように着替えて最終パッキングをし、6時になってドミを退室し、チェックアウト。帰りはエアポートバスに乗りたくてフロントでバス停を教えてもらい、7時ころのバスに乗ればいいかなとか余裕かましていたが、その余裕がその後いろいろやらかしにつながった。

まずバスに乗る前に早餐用のフードを買いたかったのだが店を探しきれず。ホステルに戻ってキャリーを引き取り、バス停のあるらしい通りにいってもエアポートバスの表記はなく。結局MTR駅沿いにあるエアポートバスのバス停でしばし待ったところ7時半になっても全く捕まらず。これなヤバいと思って駅に駆け込み、AELで空港にたどり着いたのが9時前。チェックインカウンターでキャリーを預け、すぐさま出国検査に行ったが、手荷物検査で引っかかった。割れるのが不安で手荷物にした叉焼醤が持込の限度を超えていたのでチェックインで預けてもらえと言われたのだ。しかし再びチェックインカウンターに行くと無問題だからそのまま通れと言われ、再検査したらまた引っかかる。実は以前SNSで「瓶の叉焼醤は機内持ち込み限度を超えるので厳重にパッキングしてチェックイン荷物に預けるべし」と見かけていたのだが、それをすっかり忘れていたのた。怒りの講義も空しく瓶は取り上げられた。職員さんに対してキレた自分も大人げなかった。反省。

そんなこんなで悲しみに暮れながら搭乗口までの遠い道を行き、たどり着いたのは予定時刻ギリギリ。どこかで何か食べる余裕もなく搭乗した。飛行機は定刻の10時05分に離陸。

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この旅最大のやらかしにやさぐれまくり、それなら最後の午餐になる機内食は贅沢してもいいよね?と思って、残していた香港ドルで荷葉飯(機内食のため蓮の葉なし)とプーアール熟茶を購入していただいたら、いくらか怒りと悲しみはおさまった。

帰りに観たのはアンディ&ルイス主演の『ホワイト・ストーム(掃毒2)』。往路はヤバいルイスだったが復路はゲスいルイスか…となり、ああ信一と同じ手をしているとか、お姉ちゃん侍らせてるの違和感あるとか、かつての黒社会の師弟が反目しあってからの怒涛の展開に目が点になったり、ルイスを追いかける警官たちの一人に『ラスト・ダンス』のミシェル・ワイがいて手を振ったのに…といろいろ言ってたら、監督がハーマン・ヤウだったことに気づいて全て腑に落ちたのだった。

仙台空港には予定通り14時20分に到着。ほぼ同じ時間に着いていた香港航空と荷物の受け取りがダブったけど、なんとかキャリーを受け取って仙台駅に向かう。
その間にチェックしたSNSに、こんなpostがあった。

盛岡ルミエールにトワイライト・ウォリアーズ観に来たら、行列ができてて非常階段口に並んで今待ってる!」

この前日からわが地元では城砦の上映が始まったのだが、土曜の1回目の上映はなんとほぼ満席だったとのこと。
この知らせによって朝からのやさぐれ気分は吹っ飛び、とっても嬉しくなったのは言うまでもなく、仙台駅近くの書店で城砦キャスト来日時のインタビューとグラビアが掲載されたananを買って、盛岡に帰還したのだった。

旅を終えて

思えば前回の旅(残念ながらこちらで記事にはできなかった。一部は有料だけどnoteにあり)から2カ月後、反送中運動からのデモが始まり、全く予想もつかない方向に進んでいき、コロナ禍の中で国安法が施行されるなど、この6年間の香港は激動した。ネオンも9割ほど取り外され、それでも夜の街はなんとか歩けたけど、あの華やかさがなくなったのは寂しかった。街全体も人は多くともどこか雰囲気が違う。尖沙咀には行ったけど、島には全く行かなかったので、全体を見たわけではない。今後もあれこれと変わっていきそうだ。変わってしまうからこそ、行ける時にはなるべく行こう、と思ったのだった。まあ、物価は高いのだけど…というわけで、

次の旅への備忘録

・バス路線を把握する
・甘いものを摂りすぎない
・食事はスーパーの惣菜コーナーやコンビニのホットスナックをチェックせよ
・ドミトリーは至れり尽せりではない、特に熱に強いカップ的な物は持ってけ
・暑くなければ食べきれないフードは打包して持ち帰って翌日レンチンしよう
・衣服は乾燥機に耐えられる種のものを少なめに持っていく
・歩きすぎない
・歩きすぎない
・歩きすぎない

…って結局歩いてしまうので本当に気をつけよう。寝られなくなるし。

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☆この旅行記を再構成したZINEを製作します。詳細は後ほど。

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春光乍洩九龍縦横記(その3)

3月27日(木)

起床6時。曇り空のまま明るくなってきたが、同宿する若者女子たちは今日もまだ眠っている。
そっと起きだしてテラスに行き、ここ数年の朝の習慣になっているストレッチをして、プロテインを飲んで部屋に帰ろうとしたら客室エリアに入るために使うタッチ式のルームキーがない。通りかかったスタッフに事情を話して開けてもらい、フロントで新しいキーをもらってドミに戻ったら、あらまあ枕元にキーが置きっぱなしだったよ。

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この日は昼に《破・地獄(ラスト・ダンス)》を観に行くので朝はゆっくりめの行動。前日はかなり汗もかいたので、洗濯機を回してから早餐を取ることにした。あらかじめオクトパス支払い(洗濯・乾燥各30ドル)を確認していたのだが、説明をよく読まなかったために洗濯物を入れる前にタッチ支払いをして空洗いさせた(泣)仕方なく隣のマシンに入れて支払いなおし、仕上がる間に美荷・時光でサテビーフヌードルセットをいただく。その後、乾燥機を45分にセットしてドミに戻ったが、実際の乾燥所要時間は45分以上かかった。

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こちらがそのサテビーフヌードルセット。飲み物は凍檸檬茶。

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諸々片付いて10時に出発。前日に続いて尖沙咀のiSQUAREで《破・地獄》。
HKMovie6アプリで確認するとThe CORONETという座席数が少ないスクリーンが出てくるのだが、行ってみて座席を取ると、なんと190ドルで一瞬驚く。でもよく聞くとフードセット込みで「何にする?」と聞かれたので、アボカドドッグとポップコーン、アイスオレンジティーをチョイス。

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ポップコーンバケットは香港国際映画祭仕様。今年は映画の名セリフがちりばめられていて、「もう一度やり直そう(広東語/ブエノスアイレス)」や「私は海より深く人を好きなことなんて…(日本語/海よりもまだ深く)」はわかった。

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そしてシートはクッションとブランケット付きだし、スクリーンはでかい。これならあの値段も納得。しかし日本でもプレミアムスクリーンに入ったことなかったので、香港でデビューというのはありがたい。おかげでずったりのめり込んで観られた。

映画の後は尖東まで出て、屯馬線で錦田へ。
ここには客家式邸宅が並ぶ吉慶園がある、とセサミスペースMさんの『Hong Kong 旅歩き』というエッセイで読んでいたのだが、そのことはすっかり忘れていて(すみません)昨年の香港映画祭で観たサミー主演の『流水落花』の舞台及びロケ地であり、その風景が岩手にあまりにも似ていたことで「香港の岩手!香港に岩手があった!」と勝手に騒ぎ(しかもカー・シンフォン監督にもわざわざ言うくらいだった。何かわかりにくくてすみません監督ってここで謝るな)一度行ってみようと思ったのだった。

錦上路駅で下車し、マップで中心街を調べてバスに乗車。駅の反対側は高層マンション群の建設が進んでいるが、駅を離れたら低層の建物が並び、台湾の地方のロードサイドを彷彿とさせる。中心街で降り、川を渡って山の見える方向へと歩いてみる。

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目の前に見える山は香港街道地方指南によると雞公嶺(圭角山)という山。さすがに山に登る気にはなれなかったが、周辺なら回れるかと思ってしばし散歩。わき道に入ってずんずん進むとあたりはすっかり農地で、どこも有機野菜農園と書いてある。これではますます岩手ではないか、と思って歩いてた。しかし、川に戻ってふと遠くの橋を見ればずらっと並んでた五星紅旗……街のあちこちでは「中華人員共和国建国75周年」という過去のイベントポスターも見かけた。それは決して間違いではないことなのだが…と心でため息をつく。

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歩いているとよく見かけた看板なので書店なの?と思って行ったら休みだった。

帰りは駅まで歩き、やはり香港というより台湾っぽい街並みを感じ(多分吉慶園の近くも通っているが気づかなかったようだ)1回乗り換えて深水埗へ。まだ早い時間に戻れたし、久々に甜品を食べたくなったので、緑林甜品でマンゴープリンの楊枝甘露かけをいただいた。いつもの流れなら豆腐花なのだが、久々に楊枝甘露を食べたかったのでまあいいか。

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帰宿してストレッチしながら少し休憩。昼に映画を観たので、夜は深水埗を歩くことにした。夕闇に沈んでいく街は美しいなあと思いながら、晩餐のいただける店を探し、華園冰室という茶餐廳に入って、叉焼雞扒飯を注文した。この旅で初めての米飯であった。

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しかし!完食できなかった。これで残して帰るのもなんか悔しいので、店員さんに「打包(テイクアウト)」とお願いして持ち帰り用のパックをもらい(有料・2ドル)残したご飯と叉焼と雞扒をつめ、セットの凍檸檬茶は全部飲んで店を出た。日本でも食べ切れなかったらテイクアウトしているので(例えば地元の某有名そば店のカツ丼。美味しいし好きだけどボリュームが半端ない…)特に抵抗はないのだ。

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途中西九龍中心にもふらっと寄ったけど、疲れてもいたのでまっすぐ帰宿し、宿の売店で大紅袍のペットボトルを買ってテラスで飲んだ。
気温は高くて外で過ごせるのは良いのだが、疲れている時だからこそ、とにかく、熱いお茶が飲みたかった…。

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深水埗の夕方をどうぞ

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春光乍洩九龍縦横記(その2)

3月26日(水・承前)

MTRで尖沙咀まで出て、重慶大厦で両替。複数の両替店を回り、複数の店がつけてた515ドルより高い店がなかったので、そのうちの1店で両替。6年前の春は620ドルくらいだった記憶があるのだが…
尖沙咀東まで歩いてMRT屯馬線に乗って啓徳へ。5年前に開通したばかりの路線で、かつてのKCR東線が延長して名称変更したもの。もちろん初めて乗る路線。
AIRSIDEは駅直結。九龍城砦展は1階(日本で言う2階)なのでエスカレーターで上る。

確かにそこにあった。新しいショッピングモールの一角に、九龍城砦への入り口があった。

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龍城髪廊と名付けられた龍捲風の理髪店。丸刈りからパーマまであらゆる髪型に対応可能。鏡周りが楽しいことになってる。

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さすがにここに座って写真を撮る勇気はなかった…というかもしかして座るの禁止?

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フードコート部分にあった水槽。フィギュアの並べ方がかわいい

香港上映後の昨年秋くらいに空港で展示された再現セットを移転し、劇中で使用された衣裳や小道具の展示、メイキング動画の上映やエクストラな装飾もあって楽しい。春休みなので日本人客も少なくなかったが、おそらく漫画版キャラのコスプレしてた華人女子コンビがポーズをつけて写真を撮りまくってたのが印象的であった。

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生活感あふれまくり、信一の部屋の一部。

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「それどこで買ったんだ?」「シート―」でお馴染み、士多(売店)

物販ではソフトはもちろんのこと、作品をモチーフにした地元作家によるグッズがたくさんあり、噂になっていたキャラクターイメージの香水もあった。もちろん全部テイスティングして、一番華やかな信一(ピオニー&フリージア)にした。ミーハーで申し訳ない。
また、メインキャラを日本語入りでイラスト化したステッカーとマグネット(香港映画のイラストグッズを多く手掛けるデザインユニットMIBOROCKによるもの)があり、どれでも2種から購入できるというので、「龍兄貴を…」といったところ、販売員さんに「龍兄貴はセット購入でゲットできる」といわれたため、全種類購入したのであった。いい商売方法だな、と思ったが、ある意味それでよかったのかもしれない。

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こうして並べると、まるで私が信一推しみたいに思われるじゃないか。箱推しだぞ箱推し。ウケを狙ってもいいじゃないかにんげんだもの。

AIRSIDEを後にして向かったのは九龍寨城公園。16年前の春に友人と一緒に訪ねて以来だ。当時の印象はこんな感じ
公園化されてからまだ10年くらいだったから、薄いと感じるのは致し方ないのかもしれない。そろそろ30年、ともなると木々はしっかりと生い茂り、花々も見事に咲いている。あの城砦は姿を消してしまっても、そこには確かにあった、というところまで定着したのだろうな。一部改修が進んでいて、アートフェンスが並んでいた。

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公園脇の日本城でバスタオルとゴムサンダルを買い(理由は後述)腹も減ってきたので九龍城廣場に入り、雲風堂という餐廳に入る。下午茶メニューの西多士がアレンジバリバリでなんか甘すぎかも…と思っていたら、水餃があったので注文。

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水餃というより雲吞っぽい…openriceによればベトナム料理がメインのお店だったらしい

最寄りの宋皇臺駅(南宋最後の王の幼い兄弟が逃亡して休息を取った地として知られ、石碑が啓徳空港内にあったそうだが、第二次大戦時に日本軍が破壊したそうだ。ひどいし申し訳ない)から尖沙咀に戻ってiSQUARE英皇戯院に寄って映画のチケットを購入し、一旦深水埗に戻る。

美荷樓はユースホステルなので、タオル類がないのは予想がついていて、フェイスタオルとアウトドア用のクイックタオル(髪を乾かす時などに使用)を持ってきていたのだが、持っていくつもりだったバスタオルを忘れていた。そしてもう一つの誤算は、室内履きを忘れていたこと。それもスリッパではなく、館内やバスルームでも使えるビーチサンダルかゴムサンダルが必要であった。それらがなかったので、1日目の入浴はなかなか大変であった。そんなわけで、出かけた時に買ってきておいた。
食事に関しては1階の美荷・時光で食べるか、テラスをはさんだ向かいにあるキッチンで調理するというようになっていて、お茶用の熱湯も供給されていたのだが、お茶の葉やティーバッグがあってもカップがないので(皿などの食器はあるのに)温かいお茶が飲めないという事態になっていて、せっかくプーアール茶葉を持ってきていたのに飲めず、がっかりであった。
ここしばらくの台湾旅でドミトリーを利用していたが、設備が割と至れり尽くせりだったので、それになれてしまったのが油断のつきだったようだ。次に香港のドミトリーを利用する時には、携帯茶器セットかシエラカップを持っていかねば。

夕方に美荷樓に戻ってストレッチなどをして少し休み、再び尖沙咀に《今天看我怎麼說(私たちの話し方)》 を観に行く。平日のイブニングショーだからか、劇場は若者が多い。晩餐の時間にかかるので、ホットドッグと温かいお茶を注文して鑑賞のお供にする。

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美荷樓に戻ったのは22時頃。部屋が暗かったので、夜更かしもせずにさっさと入浴して寝る前のストレッチをし、24時前に就寝。だけど、久々の街歩きだったからか、なかなか眠れずに困ったのであった。

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春光乍洩九龍縦横記(その1)

3月25日から29日までの5日間、6年ぶりに香港へ行ってきた。

本来ならば台湾に行くつもりだったのだが、花巻はもとより仙台発のエアチケットがなかなか安くならずにずっと様子を見ていたところ、昨年末より仙台に就航した香港の3路線(香港航空、香港エクスプレス、大湾區航空)が台湾よりも安く、それに加えて啓徳空港跡地の再開発によって2年前にオープンしたショッピングモールAIRSIDEで『トワイライト・ウォリアーズ(以下九龍城砦or城砦)』ロケセットの再現展示が行われているということを知り、乗るしかない、このビッグウェーブに!という気持ちを起こしてチケットと宿を押さえたのであった。
エアは大湾區(グレーターベイ、以下GBA)航空。香港・マカオ・珠江をひとくくりにしたこの呼称がなんかひっかかるのだが、一番安かったので致し方ない。

宿は初めての深水埗。かつての団地をリノベしたユースホステル美荷樓のドミトリーがバーゲンセールしていたので予約。近年の台湾ではドミトリーに泊まることが多くなったが、香港の旅では初。いろいろ不安もあったが、行けばまあ何とかなるだろうと思った。

そんなわけで、久々すぎる私の香港の旅が始まった。

3月25日(火)

現在は国際空港となった仙台から出国するのは、7年前の2月の台湾以来だが、実は仙台からの香港行きは25年前に経験している。当時はドラゴン航空が仙台に就航しており、安価なパッケージツアーがあったので、地元の香港映画サークルの友人と共に行ったことがあった。しかし2003年のSARS流行がきっかけで路線は撤退し、数年後にチャーター便で復活しかけたものの、東日本大震災で中断され、その間にドラゴン航空はキャセイに吸収されて消滅し…という状態であった。もう二度と香港便は就航しないのではないか、とまで考えていたが、東京まで出ずに出国できることは、インバウンド効果でも実に嬉しい。

※しかし日本で数年前ベストセラーになった予言コミック『私が見た未来』が最近香港で翻訳出版され「今年の7月に日本で大地震が起こる」という噂が広まり旅行のキャンセルがあったなどの理由でGBAは現在減便、香港航空は休航。全くなんなんだか。

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昼に地元を出発し、空港アクセス線経由で仙台空港に着いたのは14時。すぐにGBAのカウンターに並んでチェックイン。Wi-Fiルータを受け取ってさっさと出国検査をすます。しかし早く入りすぎて出国ロビーでは暇を持て余した。
初めて見る白×ライトブルーの機体がGBA機。家族旅行の日本人グループや私のような個人旅客も多少いたが、ほぼ満席の機内を占めるのは圧倒的に香港人旅客。空港内の華語アナウンスは普通話のみだったが、搭乗すると広東語メインで安堵。

定時にテイクオフ。LCCはモニターがないので、アマプラからDLした『狼たちの処刑台』を観た。6年前の香港旅でも機内で観たのだが、九龍城砦大ヒット記念でルイス・クー出演作を何か観ようと思っての久しぶりの再見。感想は省略。
LCCでは飲食物の持ち込みができず(ミネラルウォーターの配布はある)なんとか頑張って空腹に耐えようとしていたが、それでも腹減ったーとなったので、合味道(カップヌードル)海鮮味を注文。フードサービスは有料なのでカード支払い。普段食べないだけあってこういう空腹時のカップヌードルは美味であった。

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こんな感じでサーブされる

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機窓から見る黄昏時があまりに美しかったので撮ってみた

定時の20時50分に香港着陸。荷物も早く受け取れたけど、手持ちの香港ドルが少なかったのでロビーに出る前に空港で両替。…しかし1万円出して受け取った額が500ドル切っていて大ショックであった。財布の中にはそれこそ400元ほどあったので、ここで換えなければよかった。ああ後悔役立たず。

ホステルの最寄りの深水埗まではAEL→青衣乗換でMTR東涌線荔景乗換→荃灣線で向かうことに。では早速オクトパスを…と改札をタッチしたら無反応。MTRカウンターに行かないとどうにもならないので、まずは切符を買って青衣へ。行けなかった6年間でオクトパスが切り替わって使えなくなってしまったので再発行してもらい、デポジット分を引いた残金を全て移してもらえた。ありがたい。

駅からは待ち合わせた友人に助けてもらいながら徒歩でホステルまで向かう。深水埗といってもいつも歩く問屋街の反対側で、ガーデンベーカリーの本社を越えて少し坂道を上ったところに、美荷樓はあった。
23時頃にチェックインして入ったドミトリーは女性専用の8人部屋、入ったら部屋は半分暗く、空いてた2段ベッドはどこも上段、そして私以外は皆普通話を話す華人若者女子(大陸か台湾か区別がつかなかったので一応こう言う)後からチェックインしてきた女子と相談してベッドを決め、暗くてどこに何を置いていいのかと思案しながら荷を解き、シャワーを浴びたらもう消灯されてしまったので、つまずかないよう注意してベッドに上って多分1時くらいに就寝。

3月26日(水)

起床7時。
今回の旅では多くの友人たちがほぼ同じ目的で同じ時期に来ていたため、何人かナンパ(違)して逢うことができたのだが、その中でも同じ宿に投宿している人が実に多かったので、待ち合わせは楽であった。というわけで、同宿の友人にあらかじめ一緒に早餐しませんかとアポを取ってロビーで待ち合わせて、街へ出かけた。

欽州街を下って西九龍中心近辺を歩き、汝州街にある鴻昌茶餐廳に入ってこの旅最初のごはん。

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まだ気温に慣れていなかったので熱檸檬茶。

おじさんと相席しながら(茶餐廳のお約束)あれこれ情報交換をし、短い時間だったけど、いろいろな話を楽しくできた。

ホステルに戻ったのは10時過ぎ、私と他1名を除いて全てチェックアウトしていて、ルームクリーニングが始まっていた。ここで思い立ってルームメイドさんにお願いをして、下段の空いていたベッドに自分のシーツを敷いてもらって寝床を交換してもらった。もちろんフロントにも事後報告。

昼はやはり同宿の別の友人とそのご家族に、美荷樓の中にあるカフェ美荷・時光で逢う。こちらは80年代エンタメをテーマにした内装が楽しい。こちらでも楽しくお話をして、午後からはいよいよ街へ向かう。

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お約束だが床がいい

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yesカードもこのように並べて飾るとオサレである。レスリーとアーロンになぜか目がいった

その2に続く

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トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(2024/香港)

昨年の秋、東京国際映画祭で初めてこの映画を観た時は、「いやー、これはホントにすごかった!」としか言えなかった。しかし、既に現地上映を観てきた同好の士の皆様や、映画祭のために来日した(!)華人の若い電影迷たちの熱狂を同じ映画館で感じた時、コロナ禍前後のあの民主運動の顛末や国安法施行、検閲開始と激しく揺れ動いた香港でもうアクション映画は作れないのではないかとそれまでは思っていたので、その面白さを噛みしめていた。そして観終わった時、次のようなことを思いついた。
もしかしたらこれは、これまでの香港映画の到達点であり、未来でもある作品かもしれない、と。

原作は、脚本家でもある小説家・余兒による小説《九龍城寨・圍城》。これが一作目で、前日譚・後日譚と合わせた三部作(この夏、早川書房から邦訳刊行決定)小説をもとにした100巻以上にわたるコミカライズもあり、2014年には日本の外務省が主催した国際漫画賞にも入賞したとのこと。

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ジャパンプレミアとなった昨年秋の東京国際映画祭にて。左からプロデューサーのアンガス・チャン、谷垣健治アクション監督、王九役のフィリップ・ン

1980年代前半。戦争の影響で混乱するベトナムから脱出して香港へ密入国した陳洛軍(レイモンド・ラム)は油麻地の水果市場を仕切る黒社会の大ボス(サモ・ハン)に拾われたが、トラブルを起こして逃亡し、九龍城砦に逃げ込む。そこで出逢ったのは、理髪店主にして城砦の全てを仕切っている龍捲風(ルイス・クー)。身分証もなく、行き場のない洛軍は城砦で働くこととなり、龍捲風の片腕の信一(テレンス・ラム)傷だらけの顔をマスクで覆った医師の四仔(ジャーマン・チョン)廟街を仕切る虎兄貴(ケニー・ウォン)の配下にある十二少(トニー・ウー)、城砦の食品工場で働く燕芬(フィッシュ・リウ)などと知り合い、城砦の住民たちの温かさに触れていく。
龍捲風と虎兄貴はかつて、現在は城砦の地主となっている秋兄貴(リッチー・レン)と共に、城砦を掌握し恐怖で支配した黒社会の大物・雷震東に対抗し、30年前の抗争で勝利したが、秋兄貴は雷の配下で「殺人王」と呼ばれて恐れられた陳占(アーロン・クォック)に家族を殺されており、占の子供が存命であることを突き止め、復讐の機会を狙っていた。しかし、その占と龍捲風の間にはある秘密があり、それによる因縁は洛軍たちをも巻き込んで城砦を大きく揺るがしていくこととなるーーーーーー。

 

 

同胞たる兄弟が 不幸な運命に見舞われた 味方同士で殺し合う なんとむごたらしいことかーーーー

と歌う曲に合わせての開幕、香港映画界でもすっかりお馴染みになった川井憲次氏のスコアにのせて熾烈な死闘が展開するアバン、そしてプリシラ・チャンの「跳舞街」が高らかに鳴り響く冒頭から一気に80年代香港のムードに引き込まれる。19世紀前半に要塞として作られ、アヘン戦争からの英国統治、日本軍の占領などで翻弄されてきた150年以上に渡る香港の歴史の象徴というべき九龍城砦を舞台に、因縁と運命が渦巻くノワールと激烈なアクションが融合したエピックである。

私が香港に通い始めたのは返還直後からなので、九龍城砦について知識はあったものの、関心を寄せることはなかった。法治の手が及ばない無政府地帯、犯罪者が隠れ住む悪の巣窟、入り込んだらもう出られなくなる、などの都市伝説が語られている(さいたま市議会議員の吉田一郎氏が実際に城砦に住んでいた経験をよく語っている)が、それが即ち香港のネガティヴなイメージと重ねられて見られるー特に80年代から返還前の香港で印象が止まっている人などーように思われる。
確かに城砦をめぐる覇権争いや、城砦内でのヤクの取引も描かれてはいるが、この映画では殊更にその面を強調せず、たった一人で逃げ込んだ陳洛軍が出逢う城砦の人々の暮らしも丁寧に描かれる。とかくアクションばかりに目がいきがちになるが、この映画の要はこの日常描写だ。10億円かけて再現されたという城砦が生きるのは、そこに生きる人々の姿が描かれてこそである。彼らは様々な困難の中でも助け合って生き、生活を脅かす脅威が迫れば全力で戦う―それは時を越えた現在の香港にも重なるように見える。生い立ちと立ち位置の特殊性から長らくネガティブにとらえられた九龍城砦を読み直し、香港史と香港人たちのシンボルとして再定義を試みたのが、この映画が作られた意義だと考える。三丁目の夕日的な懐かしさも感じるが、そこにはしっかりと現在に続く「香港精神」もある。そこに心惹かれる。

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それと共にテーマとして語られる「継承」はキャストたちが身をもって体現する。九龍城砦の支配を目論む大ボス、自らの拳で城砦を救った龍捲風、彼と共に戦った秋兄貴と虎兄貴、そして龍捲風とは敵対しながらも特別な関係にあった「殺人王」陳占という上の世代のキャラクターには、それぞれサモ・ハン、ルイス・クー、リッチー・レン、ケニー・ウォン、アーロン・クォックと香港映画の黄金期から現在まで活躍してきた俳優たちが揃う。一番驚かされたのはリーディングロールを務めるルイスで、これまでノワールものや警察映画等で活躍はしてきたものの、アクションができる人という認識はあまりなかった(もちろんバリバリのアクションを見せている作品はこれまでも観てきているし、できないと言っているわけではない)その彼がカンフーの達人である初老の理髪店主という設定で、その彼が一撃にして洛軍を仕留める場面はワイヤーのうまさも相まって見事に決まっていたし、城砦の顔役として若者や住民たちを導く姿には包容力も感じてグッとくる。現在の香港映画界を表はもちろん裏側からもしっかりと支える重要人物となったルイスがこんな役を演じるようになるとは…と、香港映画ファンを始めた頃にデビューした彼を知っていることもあって、妙に感慨深くなった。
信一、十二少、四仔、そして洛軍のいわゆる“城砦四少”たちも個性豊か。もともと歌手で俳優としては大陸の時代劇シリーズや香港映画での脇役が多かったレイモンド(私も以前観た映画で彼を知った)『アニタ』でレスリー・チャンを演じたテレンス、アマチュア野球の香港代表だったトニー、スタントマンやアクション指導の経験があるジャーマンと経歴もそれぞれ個性的で、今後も活躍が期待できる若手たちが揃う。若手と言ってもレイモンドは40代半ばだし、最年少のトニーもアラサー。でも香港映画では演劇出身も若手も多いし、なんといっても皆さん若く見えるので年齢が高くとも特に違和感はない。
このアンサンブルで描かれる龍捲風と信一、虎兄貴と十二少、そして陳占との秘められた友情があっての龍捲風と洛軍との描き方には奥行きを感じ、キャラの良さももちろんあって、これもまたグッと心がつかまれた。
忘れてはいけないのが大ボスの腹心である王九(フィリップ・ン)。軽薄な手下のチンピラとして登場して極悪非道を重ね多くの人々を犠牲にし、どんな攻撃でも気功で防御してしまうという設定を駆使してラスボスとしてクライマックスに君臨する。しかしSNSでは「気功ギャル」と称されるし、ファンキーさも感じてなぜか憎む気にはなれない。その他に戦う叉焼飯屋の阿七(ジョセフ・ラウ)、燕芬と魚蛋妹など、脇の脇までよいキャラ揃いで、誰にでも容易に感情移入ができる。

ここまでドラマとキャラで書いてきたが、我らが谷垣健治アクション監督が手がけるアクションにだって注目。兄貴世代が体得するクラシックなスタイルから、城砦四少たちによる現代的なバトルスタイルまで、香港アクション映画の歴史を凝縮したような見せ場には実に興奮する。それに加えて日本映画での代表作であるるろけんシリーズへのオマージュを感じさせたりもするので、もうニヤニヤしっぱなし。

このようにあれこれ書いてしまいたくなる作品で、このまま書き続けているとそれこそ1冊本ができてしまいそうなので(というか本気で作ろうと思っている、マジで)、このあたりでとどめておきたいが、この映画が魅力的なのは、多種多様なアクションや、見事に再現された九龍城砦のディテールが引き起こす「あの頃の香港」の懐かしさに加えて、これまでの香港映画が築きあげてきた手法を用いて「香港の現在」を体現しようと試みているからだと考えている。それがあったから、ここまでヒットしたし、日本でも大きな広がりを見せたのだと思う。とにかく、これまで香港映画を観たことがない人にも観てもらえているのが嬉しいし、SNSでの盛り上がりも実に楽しい。もっともっと盛り上がってロングラン上映してほしいし、多くの人に香港映画の魅力を知ってほしい。

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でも最後にこれだけは言いたい。

誰が言い出したか知らないけど、SNSでこの映画についての言及でよく見かける「トワウォ」って略称が実に嫌。字の座りも声に出しても強引な略称過ぎて違和感しかない。使いたくないし見たくもない(でも目に入ってしまう)
四字で表したいのなら「九龍城砦」を使ってほしい。漢字の使える国じゃないか、ここは。

原題/英題:九龍城寨之圍城/Twilight of the Warriors:Walled in

監督:ソイ・チェン 製作:ジョン・チョン ウィルソン・イップ他 脚本:アウ・キンイ―他 原作ユー・イー《九龍城寨》 音楽:川井憲次 アクション監督:谷垣健治

出演:ルイス・クー レイモンド・ラム テレンス・ラウ トニー・ウー ジャーマン・チョン フィリップ・ン フィッシュ・リウ ジョセフ・ラウ チュー・パクホン セシリア・チョイ ケニー・ウォン リッチー・レン サモ・ハン アーロン・クォック

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