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盗月者(2024/香港)

90年代の四大天王以来、長らくアイドル不在の時代が続いた香港エンタメ界に現れたのがMIRROR
ViuTVのリアリティ番組『全民造星』の出演者12人がグループとして2018年にデビューし、反送中デモや民主化運動、コロナ禍で施行された国安法等大きな社会的事件にさらされた香港で瞬く間に人気を集めてトップアイドルとなり、社会現象となったグループである。日本でも2021年頃から国際報道番組(fromりえさんのtweet)やラジオ番組等で伝えられるようになり、ミュージシャンとしてもソニーに籍を置いている。
一番有名なのはドラマ『おっさんずラブ』香港リメイク版《大叔的愛》でアンソン・ローとイーダン・ルイがそれぞれ主演したことか(あと一人は《逆流大叔》『トワイライト・ウォリアーズ』のケニー・ウォン)


このドラマは実は未見なので(オリジナルもあまりきちんと観ていなかったもんで、落ち着いたらなんとかして観ようと思っている)それ以外で彼らに親しむ手段としては歌になるわけで、Spotifyでお気に入りにして聴いている。
というわけでいくつかMVも貼っておく。


BOSS


WARRIOR

THE FIRST TAKEには2回登場。ジェレミー(今年日本でソロライブを実施)とジョール、アンソンとギョン・トウによる「Rumours」

もっと詳しいことは検索するとわかるのでそちらに譲りましょう。
香港発の日本語webマガジンHONG KONG LEI連載こちらのシリーズコラムなどで取り上げられているし。

歌は聴けてもドラマや配信バラエティまで手が回らない自分にとって、大画面でじっくり腰を落ち着けて観ることができる映画は実に有難いコンテンツであり、あるグループのメンバーを覚えたくても人数が多すぎて顔と名前の一致が苦手な自分にとっては(年取ったからじゃなくて実は若い頃からそうだった)、グループの誰かが映画に出てくれることは顔を覚える絶好のチャンスだったりする。
そんなわけで、今年の大阪アジアン映画祭でジャパンプレミアされ、そこから半年後に日本公開されたこの『盗月者』は、そんな私にとって非常に有り難い映画であった。

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旺角の時計店で働くアンティーク時計の修理工馬文舜(マー/イーダン・ルイ)は中古時計の部品を用いて本物と変わりない偽アンティーク時計を作り上げる特技を持っている。彼の憧れはアポロ計画で月に降り立ったバズ・オルドリンが身に着けていたという時計、通称ムーンウォッチの43番。そんな彼は盗品時計の売買を親から受け継いで仕切る莱叔(ロイ/ギョン・トウ)に呼び出され、詐欺行為の弱みを握られて時計の窃盗をするように言われる。他のメンバーはロイの父親のもとで長年働いてきた大賊(タイツァー/ルイス・チョン)と爆破のエキスパート渠王(マリオ/マイケル・ニン)そして元鍵師の母と兄を持つ李錦佑(ヤウ/アンソン・ロー)。ターゲットは銀座の時計専門店・時計物語に保管され、オークションにかけられる予定のピカソが所蔵していた3本の腕時計。綿密な計画を立て、中国人富裕層を装って店を信頼させ、時計が保管されるVIPルームに入りこめた4人。旧日本軍の書類庫だった特別な金庫にピカソの時計が収蔵されていることを確認したマーは、同じ金庫にムーンウォッチの43番があるのを見つけ、心をかき乱される。

 

たとえアイドル映画であっても香港ではきちんとジャンル映画にも適応させて得意の分野に落とし込んでいくので、香港映画好きにとってはそれがまた嬉しかったりする。
モチーフとなったのは2010年に銀座の天賞堂で発生した香港人窃盗団による事件らしいが、これに様々な実話を組み込んで物語は構成されている(リンク先は映画ライター中山治美さんの記事)。強盗を主題とした映画は香港のみならず世界中に多くあるし、アクションやノワール的展開も絡めやすいし娯楽性の高い題材だ。裏切りや罠もあり、最後まで読めない展開にもワクワクする。
加えて日本(しかも東京のど真ん中!)ロケとくればもう楽しさは保証付き。時計店のロケは実際に銀座(一部上野)にある時計店で撮影されているのも強みだし、ミッションの中継地点として登場する場末の簡易郵便局(!)が川崎の湾岸にある船宿だったりとなかなか思いつかないアイディアを盛り込んでいるのがいい。25年前にロケが行われた『東京攻略』を何だか思い出させる(あの映画で映し出された渋谷の風景はもうすっかり変わってしまった…)日本側キャストも米国、韓国、カナダ、ロシアなどの映画に出演して国際的なキャリアを積む俳優ばかりで(『1秒先の彼』にもチョイ役で出演した台湾ルーツの朝井大智も出演)それぞれの熱演も楽しい。

《大叔的愛》コンビであるイーダンとアンソンは、時計オタクの天才職人と母親想いの天才鍵師というそれぞれ特徴も複雑さのあるキャラがぴったりハマっている。おそらく当て書きなのだろうけど、アイドルらしい見せ場があるのがいい。特別出演枠のギョン・トウが演じるロイは字幕では「ロイ叔父貴」とあり、実際メンバー最年少なのになぜ叔父貴?とはなるのだが、もともと父親が手がけていた盗品売買業を「叔父貴」という名前もろとも引き継いだからと気づけば、それは賢いのだかそれとも馬(後略)かと思ってしまう。しかもかなり気が荒くクレイジーなキャラで、よくこれできたなー、いや楽しかったんだろうなー。
そしてアイドル映画に欠かせないのは名わき役たちなのだが、この映画でその任を請け負うのは新世代香港映画のキーパーソンでもある『星くずの片隅で』のルイス・チョンと『九龍猟奇殺人事件』『宵闇真珠』の白只(マイケル・ニン)。窃盗団として裏の世界で暗躍しつつ、時代による江湖の移り変わりに複雑な心境を抱きながら仕事に挑む役どころ。ルイスの演技は安定感があるし、白只は一部ではポスト林雪などと言われていたけど、ユーモラスさよりもハードボイルド感を漂わせているので個性は明らかに違うし、こちらも観ていて安心できる。時計屋の権叔父さんを演じるベン・ユエン、障害を持つ内勤郵便局員童童役ソー・チュンワイも印象的。

監督のユエン・キムワイはカリーナ・ラムの元パートナーとしか認識してませんでした、すみません。監督はこれで3作目だそうだけど、往年の香港娯楽映画にオマージュを捧げたような作りになってた印象。クラシックなスマートさといい感じの懐かしさがある。ハリウッド大作を好んで観てきたとインタビューにあるのでそこはなんとなく頷ける。もうすっかり香港映画界を代表する音楽家となった波多野裕介さんの音楽もよい。

緩さもあるけど総じて楽しかったこの映画は、地方でも1週間だけだったけど上映があったので運よくロードショーで観ることができた。年明けから上映される地方もまだまだある。
デビューから6年経ち、今年はCNNでも紹介されていたMIRRORだけど、日本ではまだまだ知名度は…だし(香港のBTSとか安易に言われそう)ローカルアイドルでありながらもその良さを活かしてもっと知られてほしいと思っているので、香港映画の現在を知ってもらう意味もあってこの映画を推していきたい。往年の香港映画が好きな人にも、新しさを求める人にも、そして香港映画を日本で観てもらうために頑張っている人々の思いも受け取って、今後も好きな映画を勧めていきたい。

あともう少しMIRRORも知りたい。沼にハマるまででなくても、知らない人に的確に説明してお勧めできるくらいには知りたい。
そしたらやっぱりなんとか時間を作って《大叔的愛》も観るかな、ちゃんとお金を払って。

英題:THE MOON THI4V3S
監督・製作・脚本:ユエン・キムワイ 製作総指揮:アルバート・リョン 音楽:波多野裕介
出演:アンソン・ロー イーダン・ルイ ルイス・チョン マイケル・ニン ギョン・トウ ベン・ユエン ルナ・ショウ ソー・チュンワイ 田邊和也 朝井大智 山本修夢  

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