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2024年12月

盗月者(2024/香港)

90年代の四大天王以来、長らくアイドル不在の時代が続いた香港エンタメ界に現れたのがMIRROR
ViuTVのリアリティ番組『全民造星』の出演者12人がグループとして2018年にデビューし、反送中デモや民主化運動、コロナ禍で施行された国安法等大きな社会的事件にさらされた香港で瞬く間に人気を集めてトップアイドルとなり、社会現象となったグループである。日本でも2021年頃から国際報道番組(fromりえさんのtweet)やラジオ番組等で伝えられるようになり、ミュージシャンとしてもソニーに籍を置いている。
一番有名なのはドラマ『おっさんずラブ』香港リメイク版《大叔的愛》でアンソン・ローとイーダン・ルイがそれぞれ主演したことか(あと一人は《逆流大叔》『トワイライト・ウォリアーズ』のケニー・ウォン)


このドラマは実は未見なので(オリジナルもあまりきちんと観ていなかったもんで、落ち着いたらなんとかして観ようと思っている)それ以外で彼らに親しむ手段としては歌になるわけで、Spotifyでお気に入りにして聴いている。
というわけでいくつかMVも貼っておく。


BOSS


WARRIOR

THE FIRST TAKEには2回登場。ジェレミー(今年日本でソロライブを実施)とジョール、アンソンとギョン・トウによる「Rumours」

もっと詳しいことは検索するとわかるのでそちらに譲りましょう。
香港発の日本語webマガジンHONG KONG LEI連載こちらのシリーズコラムなどで取り上げられているし。

歌は聴けてもドラマや配信バラエティまで手が回らない自分にとって、大画面でじっくり腰を落ち着けて観ることができる映画は実に有難いコンテンツであり、あるグループのメンバーを覚えたくても人数が多すぎて顔と名前の一致が苦手な自分にとっては(年取ったからじゃなくて実は若い頃からそうだった)、グループの誰かが映画に出てくれることは顔を覚える絶好のチャンスだったりする。
そんなわけで、今年の大阪アジアン映画祭でジャパンプレミアされ、そこから半年後に日本公開されたこの『盗月者』は、そんな私にとって非常に有り難い映画であった。

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旺角の時計店で働くアンティーク時計の修理工馬文舜(マー/イーダン・ルイ)は中古時計の部品を用いて本物と変わりない偽アンティーク時計を作り上げる特技を持っている。彼の憧れはアポロ計画で月に降り立ったバズ・オルドリンが身に着けていたという時計、通称ムーンウォッチの43番。そんな彼は盗品時計の売買を親から受け継いで仕切る莱叔(ロイ/ギョン・トウ)に呼び出され、詐欺行為の弱みを握られて時計の窃盗をするように言われる。他のメンバーはロイの父親のもとで長年働いてきた大賊(タイツァー/ルイス・チョン)と爆破のエキスパート渠王(マリオ/マイケル・ニン)そして元鍵師の母と兄を持つ李錦佑(ヤウ/アンソン・ロー)。ターゲットは銀座の時計専門店・時計物語に保管され、オークションにかけられる予定のピカソが所蔵していた3本の腕時計。綿密な計画を立て、中国人富裕層を装って店を信頼させ、時計が保管されるVIPルームに入りこめた4人。旧日本軍の書類庫だった特別な金庫にピカソの時計が収蔵されていることを確認したマーは、同じ金庫にムーンウォッチの43番があるのを見つけ、心をかき乱される。

 

たとえアイドル映画であっても香港ではきちんとジャンル映画にも適応させて得意の分野に落とし込んでいくので、香港映画好きにとってはそれがまた嬉しかったりする。
モチーフとなったのは2010年に銀座の天賞堂で発生した香港人窃盗団による事件らしいが、これに様々な実話を組み込んで物語は構成されている(リンク先は映画ライター中山治美さんの記事)。強盗を主題とした映画は香港のみならず世界中に多くあるし、アクションやノワール的展開も絡めやすいし娯楽性の高い題材だ。裏切りや罠もあり、最後まで読めない展開にもワクワクする。
加えて日本(しかも東京のど真ん中!)ロケとくればもう楽しさは保証付き。時計店のロケは実際に銀座(一部上野)にある時計店で撮影されているのも強みだし、ミッションの中継地点として登場する場末の簡易郵便局(!)が川崎の湾岸にある船宿だったりとなかなか思いつかないアイディアを盛り込んでいるのがいい。25年前にロケが行われた『東京攻略』を何だか思い出させる(あの映画で映し出された渋谷の風景はもうすっかり変わってしまった…)日本側キャストも米国、韓国、カナダ、ロシアなどの映画に出演して国際的なキャリアを積む俳優ばかりで(『1秒先の彼』にもチョイ役で出演した台湾ルーツの朝井大智も出演)それぞれの熱演も楽しい。

《大叔的愛》コンビであるイーダンとアンソンは、時計オタクの天才職人と母親想いの天才鍵師というそれぞれ特徴も複雑さのあるキャラがぴったりハマっている。おそらく当て書きなのだろうけど、アイドルらしい見せ場があるのがいい。特別出演枠のギョン・トウが演じるロイは字幕では「ロイ叔父貴」とあり、実際メンバー最年少なのになぜ叔父貴?とはなるのだが、もともと父親が手がけていた盗品売買業を「叔父貴」という名前もろとも引き継いだからと気づけば、それは賢いのだかそれとも馬(後略)かと思ってしまう。しかもかなり気が荒くクレイジーなキャラで、よくこれできたなー、いや楽しかったんだろうなー。
そしてアイドル映画に欠かせないのは名わき役たちなのだが、この映画でその任を請け負うのは新世代香港映画のキーパーソンでもある『星くずの片隅で』のルイス・チョンと『九龍猟奇殺人事件』『宵闇真珠』の白只(マイケル・ニン)。窃盗団として裏の世界で暗躍しつつ、時代による江湖の移り変わりに複雑な心境を抱きながら仕事に挑む役どころ。ルイスの演技は安定感があるし、白只は一部ではポスト林雪などと言われていたけど、ユーモラスさよりもハードボイルド感を漂わせているので個性は明らかに違うし、こちらも観ていて安心できる。時計屋の権叔父さんを演じるベン・ユエン、障害を持つ内勤郵便局員童童役ソー・チュンワイも印象的。

監督のユエン・キムワイはカリーナ・ラムの元パートナーとしか認識してませんでした、すみません。監督はこれで3作目だそうだけど、往年の香港娯楽映画にオマージュを捧げたような作りになってた印象。クラシックなスマートさといい感じの懐かしさがある。ハリウッド大作を好んで観てきたとインタビューにあるのでそこはなんとなく頷ける。もうすっかり香港映画界を代表する音楽家となった波多野裕介さんの音楽もよい。

緩さもあるけど総じて楽しかったこの映画は、地方でも1週間だけだったけど上映があったので運よくロードショーで観ることができた。年明けから上映される地方もまだまだある。
デビューから6年経ち、今年はCNNでも紹介されていたMIRRORだけど、日本ではまだまだ知名度は…だし(香港のBTSとか安易に言われそう)ローカルアイドルでありながらもその良さを活かしてもっと知られてほしいと思っているので、香港映画の現在を知ってもらう意味もあってこの映画を推していきたい。往年の香港映画が好きな人にも、新しさを求める人にも、そして香港映画を日本で観てもらうために頑張っている人々の思いも受け取って、今後も好きな映画を勧めていきたい。

あともう少しMIRRORも知りたい。沼にハマるまででなくても、知らない人に的確に説明してお勧めできるくらいには知りたい。
そしたらやっぱりなんとか時間を作って《大叔的愛》も観るかな、ちゃんとお金を払って。

英題:THE MOON THI4V3S
監督・製作・脚本:ユエン・キムワイ 製作総指揮:アルバート・リョン 音楽:波多野裕介
出演:アンソン・ロー イーダン・ルイ ルイス・チョン マイケル・ニン ギョン・トウ ベン・ユエン ルナ・ショウ ソー・チュンワイ 田邊和也 朝井大智 山本修夢  

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1秒先の彼女(2020/台湾)1秒先の彼(2023/日本)

「台湾(香港)映画のリメイク。私の苦手な言葉です」

と、『シン・ウルトラマン』のメフィラス風につぶやいてこの記事を始めたい。
申し訳ない。

近年はアジア圏でのドラマや映画のリメイクが盛んで、何も知らずに観ていた民放のドラマの原作が韓国ドラマだったというのも珍しくなくなった。21世紀に入ってからこれまでずっと中華圏の映画を追いかけて見まくり、感想を書いて騒いできたこのblogだが、その間香港映画のリメイクと称する作品にも多く出会ってきた。しかしオリジナルを知っていると、それが妙な具合にローカライズされてしまうことに違和感はあったし、さらにはリメイクばかりがもてはやされてオリジナルが尊重されないものを多く見てきた。
もう実名で書いてしまうが、『星願』が『星に願いを。』、『つきせぬ思い』が『タイヨウのうた』として日本でリメイクされてきたが、それらにはオリジナルへの敬意が感じられずにがっかりしたものだった。なお『タイヨウのうた』のWikipediaを見たら「当初は1993年の香港映画、『つきせぬ想い(新不了情)』のリメイクとして企画されていたが、古い映画でありそのままのリメイクでは今の時代に合わないとの判断」とあり、なんじゃそりゃ、となった…最終的にはリメイク云々は消えたと思うのだが、それでもいい気分はしない。
日本だけでなく、ハリウッドも同様で『インファナル・アフェア』が『ディパーテッド』になってオスカーとか受賞してるが、それもまたオリジナルへの敬意が微塵も感じられないどころか、インタビューでマーティン・スコセッシが香港映画に何の思い入れもなく乱暴だ云々と抜かしていたので、返す刀で彼が大嫌いになった。世界中から賞賛される名匠であっても未だにディパの恨みは根深い。
(後にTVドラマ『ダブルフェイス』として日本でリメイクされたが、もうディパで底を見ていたから、オリジナルへの敬意はかなり感じられてよかった。でも放映時のSNSで「韓国映画のリメイク」と流れてきたときにはもう頭を抱えるしかなかった…)

台湾映画のリメイクとしては、『あの頃、君を追いかけた』がある。オリジナルは台湾で観ていてなぜか地元上映してくれないことを今でも恨んでいるのだが(マジで)リメイクは主演の人の人気もあってしっかり上映した。

という前置きはさておき、2018年の中台合作《健忘村》が中台関係悪化のあおりを受けて興行的に失敗した陳玉勳が、長年温めていた脚本を基に作り上げ、原点回帰と高評価を受けて2020年の金馬奬でキャリア初の最優秀作品賞を受賞したのが《消失的情人節(消えたバレンタインデー)》という原題の『1秒先の彼女(以下イチカノ)』で、日本では翌年夏に公開。さらにその翌年の2022年、舞台と主人公の設定を変え、山下敦弘監督、宮藤官九郎脚本でリメイクされたのが『1秒先の彼(以下イチカレ)』。
あまりにも素早い動きだったので当時は大いに驚いたのだが、滅多にない機会なので一緒に感想を書きたい。

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人よりワンテンポ行動が速い30歳の郵便局員曉淇(リー・ペイユー)がダンスインストラクター文森(ダンカン・チョウ)に恋をした。旧暦の七夕に行われる市主催のサマーバレンタインイベントに一緒に参加しようと約束をし、当日の朝、彼女はルンルン気分でバスに乗り込む。しかし気づくと既に翌日の朝。彼女は「その日」が消えてしまったのに気がついた。覚えのない日焼け、覚えのない写真、そして突然に思い出した私書箱の鍵。消えたバレンタインデーの謎を探るため、彼女は実家の新竹、そして私書箱のある嘉義縣東石に向かう。その鍵を握るのは、人よりワンテンポ行動が遅い同世代のバス運転手阿泰(劉冠廷)。

 

物語の構想自体は『ラブゴーゴー』の頃に既にあったとか(そしてこの構想のリメイクもプロットの段階で動いていたらしい)
途中16年のブランクはあるものの、『熱帯魚』からの映画監督25年のキャリアで、陳玉勳の作風は基本的にあまり変わっていないのかもしれないと思ったのは、最近25年以上ぶりに熱帯魚を見直したからだったりする。
どこか冴えない主人公が突然降りかかった出来事に翻弄され、悪戦苦闘する姿はとにかく笑いを呼び起こすが、どこかしらに切なさを残す。
『熱帯魚』では誘拐、『ラブゴーゴー』では恋がそれにあたるし、『祝宴!シェフ』でいうなら元カレの逃亡&宴会料理選手権出場。曉淇を翻弄するのは自分自身の恋と、自分が思いを寄せられる恋。しかも自分のワンテンポ速いタイミングが更に彼女を翻弄すると共におかしな奇跡を生む。加えて行動がワンテンポ遅いと、その分遅い1秒が溜まっていつか1日分のアディショナルタイムが生まれるという設定は誰も思いつかないであろうイベントであったが、そのくらいはあっても文句は言わない。だって映画だから(アバウト)。

阿泰が得た「その日」を、子供の頃に出会った曉淇と使いたいという気持ちはよくわかる。ワンテンポ遅いというだけでなく、恋に奥手そうなタイプだからなおさらだ。そこで彼女をバスに乗せて東石に向かい、二人だけの時間を過ごす様はかわいらしく見えた。だから台湾公開→全世界配信後にその場面が「女性の身体権を侵害している」と批判されたことを知って驚いた。自分が身体権に対して鈍感だったから気づきもしなかったのは当然のことだが、そういう観点で見たら、確かにあの場面はもう少し控えめにできたのかもしれない。(そういえば別の映画でも昏睡状態の女性に恋をした男がどうのこうのするというプロットがあって、それが結構な巨匠の作品なので萎えた>それ以外の作品は観てるけど)そんな欠点があったとしても、恋することに対する思いをうまく描いているから、そこで許したいものである。阿泰が曉淇に変な気を起こして一線を超えなかったのだから、それを良しとしてあげて(あれで超えたらもろに変態の世界だからねえ)

曉淇を演じるペイユーも、阿泰を演じる劉冠廷も、ただただかわいいだけではなく、どこかにちょっとした陰を感じさせる二人をうまく演じている。これが先に書いた「笑った後に残る切なさ」。曉淇は子供の頃に父親が蒸発しており、阿泰は交通事故で両親を失っている。そしてそれぞれ人よりはみ出ていることを自覚している。彼ら以外にはみ出したまま生きていたのが他ならぬ曉淇の父であり、「その日」の終わりに阿泰と彼が出会い、これまでの空白を埋めるように蒸発前に頼まれていたお使いの緑豆豆花を阿泰に託す場面には、曉淇が失い、父が手放した彼女への愛の切なさを感じた。エンディングはサクセスやハッピーエンドでなくていい。どんなにトラブルが起こって踏んだり蹴ったりであっても、愛と切なさを抱いてちょっとでも幸せになれるようにあればいい。そんなことを思う。

原題:消失的情人節(My Missing Valentine)
監督&脚本:チェン・ユーシュン 製作:イエ・ルーフェン リー・リエ
出演:リー・ペイホイ リウ・グアンティン ダンカン・チョウ ヘイ・ジャージャー リン・メイシウ マー・ジーシアン

そんなオリジナルを基に、舞台は京都に、主人公の二人は男女逆転と大胆に設定を変えたのが『1秒先の彼』。
宮藤官九郎(以下クドカン)は脚本作品として『あまちゃん』や『いだてん』が好きだけど、面白くはあるが諸手を挙げて支持しているわけではない。テイストも陳玉勳というよりむしろギデンズやパン・ホーチョンの方が近いのではと思っていたので、リメイクに手を挙げたのは意外だった。山下監督も多作な方で、近年では野木亜紀子脚本の『カラオケ行こ!』や実写演出を担当した共同監督作のアニメ『化け猫あんずちゃん』が面白かったけど、すでに評価も定まっている彼がリメイクに(以下同文)となったのは言うまでもない。

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人よりワンテンポ行動が速く口が悪い京都・洛中で働く郵便局員ハジメ(岡田将生)が、ストリートシンガーの桜子(福室莉音)に恋をした。週末に故郷の宇治で行われる花火大会に行こうと約束をして、ルンルン気分でその日を迎える。しかし気づくと既に翌日の朝。彼は「その日」が消えてしまったのに気がついた。覚えのない日焼け、覚えのない写真。そして私書箱の鍵。彼は消えた日曜日の謎を探るため、宇治と私書箱のある舞鶴の郵便局に向かう。その鍵を握るのは、人よりワンテンポ行動が遅い舞鶴出身の大学生レイカ(清原果耶)。

 

結論として、さすがにベテランかつアジア圏でも評価されてる2人であるからか、オリジナルへのリスペクトが感じられたよいリメイクであったと思う。男女を逆転させたことで、クライマックスのデートの場面はオリジナルで物議を醸したポイントをうまーくスルーできたし、レイカが大学生設定になったら「消えた1日」をつなぐバスは誰が運転するんだ?と不思議に思ってたら、ある事情でそれに巻き込まれたバス運転手(荒川良々)が独自に設定されて、これもいいアクセントになった(その一方、やはり日本オリジナルキャラだったハジメの妹とその相方のギャル&チャラ男ははたして必要だったか?と思ったが)ハジメの速さとレイカの遅さの秘密も独自解釈だったけど、それはお互いの名前の総画数にあったって、いったいどうやったらそんなアホなネタが思いつくんだよ!と頭を抱えながら心で大笑いした。あ、でもこんなことはクドカンしか思いつかないのか。

黙っていればイケメンだが口を開けば毒を吐く、もうわかりやすく残念なイケメンであるハジメ(皇一)役の岡田将生(以下マサキ)の近年の活躍っぷりはすごいもので、カンヌからアカデミー賞までを沸かせた『ドライブ・マイ・カー』は言うまでもなく、今年はドラマ『虎に翼』や『ザ・トラベルナース』、映画は『ゴールドボーイ(原作は中国のミステリーYA小説!)』『アングリー・スクワッド』などでそれぞれ印象的な役どころを演じてきた。恵まれた容姿を持っていながらも決して白馬の皇子様的キャラにはならず、癖が強く陰がある裁判官、仕事に誇りを持つ自信家の看護師、欲望のためには殺人をも厭わない青年、飄々とした天才詐欺師などを演じてきて大いにハマっていた。山下監督とはキャリア初期の映画『天然コケッコー』(未見)、クドカンとは映画化もされたドラマ『ゆとりですがなにか』でコンビを組んでいたけど、ハジメのキャラには『ゆとり』の影響が見えるかな、と件のドラマを楽しんで観ていた身として思う。
マイペースだが意外と頑固で意志が固いレイカ(長宗我部麗華)は13歳でデビューして以来着実にキャリアを重ねてきた清原果耶。朝ドラヒロインも務め、その演技はとかく「すごい透明感」とやらだけで語られがちだが、コメディエンヌとしてもハマるし、桜子との対決場面も見せてくれるので安心して見られる。ここから『青春18×2』のヒロインに起用されるのはなんかいい流れ。今後も台湾に縁のある作品に出演してほしい。

というふうにリメイクも楽しく観られたことは観られたが、それでもやはりオリジナルにはかなわないし、どう突き詰めてもクドカン&山下監督の味わいになるのは仕方がないよね、とも思わされる。でもお互いにリスペクトしあい、尊重もしている点では、理想のリメイクだったと思うよ。

中文題:快一秒的他
監督:山下敦弘 脚本:宮藤官九郎
出演:岡田将生 清原果耶 福室莉音 荒川良々 羽野晶紀 加藤雅也

ところでこの作品のみならず、近年は中華圏と日本映画がお互いにリメイクしあうのが一つの流れになっているようである。
今年の中国映画市場で大ヒットを飛ばした『YOLO 百元の恋』は、安藤サクラが渾身の演技を見せた『百円の恋』(2014)のリメイクであり、ジェイ・チョウの初監督作品『言えない秘密』(2007)は京本大我と古川琴音主演でリメイクされた。
いずれも観たけど、リメイクが(オリジナルを超えはしなくとも)成功するのは作り手がオリジナルを大切にしたうえでのリスペクトであると改めて思ったのであった。というわけでこれらのリメイクについてはあまり触れないでおく。
はい、以上。

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台カルシアター『赤い糸 輪廻のひみつ』上映会@岩手県公会堂

2021年10月に結成した台湾カルチャー研究会は、岩手県をベースに、岩手と台湾をカルチャーで結び、旅やグルメなどからもう一歩進んだ台湾を知り、カルチャーから台湾を深掘りする楽しみを広く伝えることを目的とした小さな同好会。主な活動として台カルZINEの発行、盛岡台湾Happy Fesでのプレゼン発表などを行い、24年9月に「カルチャーゴガク」岩手編を開催しました。

そして満を持して、来年から「台カルシアター」と銘打って上映会を行います。
作品は北東北初上映となる『赤い糸 輪廻のひみつ』(リンク先は当blogで書いた感想です。ややネタバレ)

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台湾の若者と交流して気づかされるのが、マンガやアニメなどの日本のポップカルチャーへの関心が非常に高いことです。日本と台湾の高校生とのオンライン交流会では、日本の生徒でもなかなか知らない新作アニメの話をする台湾の生徒に出会うことがあるとも聞きます。アニメやマンガはほぼリアルタイムで全世界配信されるので、台湾の若者はそれを楽しみ、日本に興味をもってくれます。

では、私たちからはどんな種類の台湾カルチャーにふれることができるでしょうか。近年は文学、建築、ポップスと、台湾初のカルチャーが日本の雑誌やネットメディアで紹介される機会が増え、観光やグルメだけではない台湾の多様なカルチャーに容易にアクセスできるようになりましたが、その中でも映画やドラマは、以前から日本に紹介されており、それぞれのファンも獲得しています。

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特に映画は、戒厳令が解除された1980年代後半から、すぐれた作品が作られるようになり、「台湾ニューシネマ」と呼ばれて世界中の映画祭で高い評価を受け、日本でもアート系ミニシアターで上映されてきました。ちなみに観光地として大人気の九份も、もともとは『恋恋風塵』と『悲情城市』という2本の映画がこの時代に撮影されたことから注目を浴びたことがきっかけで開発されました。
さらに90年代から現在に至るまで、民主化によりこれまで語られなかった白色テロや日本統治時代の歴史も見直され、映画としても取り上げられる一方、思春期の少年少女の恋愛や生き方を瑞々しく描いた青春映画も多く作られました。2000年代には日本のマンガを原作としたTVドラマも多く製作され、『花より男子』や『山田太郎ものがたり』がヒット。台湾での注目を受けて日本でも改めてドラマ化されたこともあります。

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そして2011年、ネット小説家として活動していたクリエーターの九把刀(ギデンズ・コー)が、1990年代から10年間に渡る自らの青春時代を基に書いた自伝的小説を原作に作った『あの頃、君を追いかけた』が台湾と香港で大ヒットします。(この映画は日本でも公開されて注目を浴び、2018年には齋藤飛鳥と山田裕貴の主演でリメイクされました)また今年大ヒットした『青春18×2 君へと続く道』は日本の藤井道人監督が手掛けていますが、両作とも劇中で『スラムダンク』など日本のマンガやゲームなどが登場することから、このように映画から台湾から日本がどう見られ、親しまれているかもわかります。

しかし、邦画やアニメ、ハリウッド大作の上映がシネコンや劇場上映の多くを占めている現在、特に地方で台湾映画が映画館で上映される機会は非常に少ないものです。稀に『青春18×2』や『KANO』のようにロードショー公開される作品はありますが、それでも地方における知名度はまだまだ低いです。リメイク版『あの頃』は齋藤飛鳥の人気で劇場公開もにぎわっていましたが、それを見て「ああ、オリジナルも面白いのに、なぜ上映されなかった…」と思ったものです。

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この『赤い糸』は2021年9月に台湾で公開されて大ヒットしたギデンズ・コー監督の第3作です。当初から日本公開を目指して主題歌の日本語セルフカバーヴァージョンが製作されましたが、日本の主要配給会社からはどこも手が挙がらなかったそうです。配信等の権利は日本でも有名な某大手映画会社が獲得したのですが、その関係で日本での配給は劇場上映のみとなってしまったとのこと。劇場公開は昨年12月から始まり、全国主要都市で上映されています。

ギデンズ・コー作品のトレードマークは、若者たちのちょっとおバカな、でもひたむきな若者たちの恋愛模様。それに加えて中華圏では縁結びの神様として知られる「月下老人」の伝説をモチーフとしているので、神様はもちろん冥界の番人や閻魔大王や悪霊も登場します。つまり、あの世とこの世を舞台にして愛と命の尊さをおバカな恋愛にのせて描いた壮大な生命讃歌がこの映画ではうたわれているのです。神様や悪霊だけでなく、犬も大活躍します。
ファンタジーであり恋愛ものでありホラーであり犬映画という、なんとも欲張りなこの映画、現在のところ日本では配信・ソフト化の権利がありません。そのため、劇場やこのような上映会でしか観ることができません。
盛岡初上陸の純愛冥界ファンタジーを、旧正月にみんなで楽しみましょう。

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台湾稀代のヒットメーカー、ギデンズ・コー監督作盛岡初上陸!
縁結びの神様〈月老(ユエラオ)〉が導く純愛冥界ファンタジー

台カルシアター『赤い糸 輪廻のひみつ』上映会
2025年1月31日(金)18:00開場 18:30上映開始
会場:岩手県公会堂26号室(岩手県盛岡市)
観賞料金1,000円
チケット予約はpeatixより
主催:台湾カルチャー研究会

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