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赤い糸 輪廻のひみつ(2021/台湾)

昨年のTIFFで楽しく観たギデンズ監督最新作『ミス・シャンプー』Netflixでも配信中)の前作となる『赤い糸 輪廻のひみつ』
これも2021年の金馬奬にノミネートされており、視覚効果・メイク&コスチュームデザイン、音響効果の3部門で最優秀賞を受賞している。ここ数年、金馬奬をチェックすると面白そうな作品が多くノミネートされているので、これらに配給権がついて日本で公開されてほしいと常々願っていた。
しかし、ここ数年の話題作が日本の劇場で一般公開されることは少なくなった。台湾本国でも公開後すぐnetflixで全世界配信され、日本語字幕付きで気軽に観られるようになったとはいえ、劇場でかけてみんなで観られることを前提とした劇映画はやはり劇場で楽しく観たい。そう思っていた時にこの映画の日本公開が決まった。

この映画はこれまで『台北セブン・ラブ』や『赤い服の少女』を紹介してきた台湾映画社さんと『日常対話』を配給し、関連書籍の翻訳も手掛けてきた台湾映画同好会さんの共同配給。個人会社での配給で、権利の関係上劇場公開のみという(おそらく)異例のケース。台湾映画社代表の葉山さんが上映権獲得と劇場公開に関してのインタビューに答えており、こちらのnoteを読んだが、台湾ブームと言われても観光やグルメが定着してもt台湾エンタメがなかなか定着しない、シネフィルにも台湾映画といえばニューシネマは注目されるのにそれ以外は…と同じように歯痒く思ったことがあったので、大きく首を縦に振ったものだった。
公開に先立ってクラウドファンディングも行われていたのでもちろん参加した。現在のところ公開劇場も一部地域だが、全国で上映されてほしいと願っているので、その応援も兼ねての感想記事である。ネタバレは極力控えるようにする。

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原題でもある「月老」は台湾の縁結びの神様として知られる「月下老人」のこと。台北の霞海城隍廟や台南の大天后宮他多くの廟に祭られている神様だが、この映画に登場する月老は冥界にやってきた死者が徳を積むために従事する神職として設定されている。落雷で命を落とし、生前の記憶を失くした主人公の孝綸(クー・チェンドン)は元カレに殺されたピンキー(王淨)とバディとなり、現世で人々を赤い糸でつないでいく。
この冥界の世界観とデザインがユニーク。死神は黒いスーツと帽子にマント、という割と定番スタイルだけど、冥界の門番である牛頭(陸明君)と馬頭(ホンジュラス)はミリタリー風のスーツとマントをまとい、(死んだときの)年齢・性別がそれぞれバラバラな月老たちはグレーのセットアップを着ている。彼らを率いるリーダーの一人を演じる侯彥西はなぜか『ジョジョの奇妙な冒険』の東方仗助のようなリーゼントスタイルなので全体的に高校の制服感増し増し。死んだ人間が現世にやってくるといえば最近ネトフリで実写版が配信されている『幽☆遊☆白書』も思い出されて、この「わかる人にはわかりゃええ( ̄ー ̄)」ってところにはニヤリとする。

善行を行って徳を積む二人の前に老犬の阿魯が現れたことで、孝綸は生前の記憶を取り戻す。阿魯は彼と初恋の人である幼馴染の小咪(ビビアン・ソン)を結びつけた犬であり、寿命で命尽きようとしていた。その頃冥界では500年間牛頭を務めていた前世の盗賊・鬼頭成(馬志翔)が怨霊となって冥界を脱走し、前世で自分を裏切った仲間たちの生まれ変わりを探し出して復讐していた。その怨念は小咪にも向けられる…!

冥界ファンタジーの趣で開幕する物語は、この再会で見覚えのある展開に突入する。『あの頃、君を追いかけた』でお馴染み、ギデンズ名物ともいえる(?)おバカ男子の恋物語である。ああ、やっぱり男子っておバカ…と笑っていたら、鬼頭成の登場で前作『怪怪怪怪物!』的なホラー展開となる(『怪怪怪怪物!』といえば、鑑賞当初は爽快さと胸糞悪さが入り混じる何とも言えない気持ちを抱いたのだが、実は製作当時のギデンズが自らのスキャンダルにより激しいバッシングを受け、そこで生じた怨みを原動力として作ったという話を最近知った。だからあんなに胸糞悪いのか…)

このように先の読めない物語なのだが、テーマは生命賛歌といえる。台湾に根づく道教や仏教をベースに、笑ってドキドキして恐怖におののいて、気がついたら感動しているド直球のエンタメで謳われる生命賛歌。どんな命でも等しく、それを救えば善となる。世界で起こる戦争等で命が失われていく現状を見ているから、その大切さや生きることの尊さを感じたのかもしれない。邦題の由来となっている、韋禮安による主題歌《如果可以》もこのテーマを体現していてよい。これは藤井風が台湾ライヴで歌いたくなるのもわかる。


Weibird本人が歌う日本語ヴァージョンもあるのでこちらも是非。

映画監督デビューも果たしたチェンドンの安定したバカ男子っぷり(誉めてます)とギデンズ作品への登板が続くビビアンはそれぞれかわいらしく、『返校』のミステリアスさをかなぐり捨てた王淨のはじけっぷりも楽しい。他のキャストもギデンズ作品常連から、馬志翔と共に『セデック・バレ』に出演したセデック族のラカ・ウマウまで、台湾映画&ドラマに親しみのある人なら思わず手を振りたくなる面々が揃う。

現在の台湾映画の勢いを象徴するこの作品、台湾好きだけど映画は…という人にも、もちろん台湾に特段興味のない人にも観てもらいたい。
重ねて言うけど、日本では劇場でしか観られない作品なので、東京や大阪だけでなく、日本全国津々浦々で上映されてたくさんの人に観てほしい。東北では香港&台湾映画を必ず上映してくれるフォーラム仙台で2月上映が予定されているけど、我が岩手でも是非上映してほしい…

今年は日本全国で中華圏の映画がたくさん上映されますように…

原題:月老/Till We Meet Again
監督・原作・脚本:ギデンズ・コー
出演:クー・チェンドン ビビアン・ソン ワン・ジン マー・ジーシアン ホウ・イェンシー チェン・ユー ルー・ミンジュン ホンジュラス ユージェニー・リウ ラカ・ウマウ

☆本blogは今年で開設20年。
ここ数年記事もなかなか更新できませんでしたが、アニバーサリーイヤーなので、なるべく更新できるように頑張ります。

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