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星くずの片隅で(2022/香港)

先日、地元の映画好き仲間たちが揃うクリスマス会に参加した。
某邦画にスタッフとして参加した経験を持ち、現在は地元TV局に勤務している若者に「『男たちの挽歌』的な香港映画でお勧めありますか?」と聞かれたので『ザ・ミッション』を薦め、トーさんの作品や無間道三部作でひとしきり盛り上がって楽しく話をした。香港映画の話もこれまであまりできなかったので、久しぶりに話せて嬉しかった。

「しかし、香港ではもうあんな映画は作れないんでしょうかねー」
彼にそう言われて、私は「まあねー、今香港の状況は厳しいけど、まったく作れなくなったってわけじゃないし。警察ものは作りにくくなったけど、その代わり弁護士ものも作るようになったしー」などと私見を述べて答えたのだが、人によっては香港映画はアクションであり、ノワールであり、成龍であり、李小龍であり、王家衛であり…というイメージで偏ってしまうのは致し方ないのかな、などと思ってしまう。

スターが揃う大作は中国との合作で、あるいはスターやベテラン監督が完全中国資本で撮るというシステムもすっかり定着してしまい、かつて成龍が言ったように「香港映画は中国映画の一部にすぎ」なくなってしまうのか…と危惧したこともあったし、なによりも反送中運動から国家安全維持法施行までのこの5年間の激動が映画も含めた香港の文化にどんな影響を及ぼしていくのか、不安で不安で仕方なかった。

しかし「香港映画」はそれでも残った。確かに派手なアクションもの等は撮りにくくなったが、若い監督たちが市井の生活を見つめ、苦難の中に希望を見つけるような作品が現れるようになり、ここ数年の大阪アジアン映画祭や東京国際映画祭から香港インディペンデント映画祭まで、大小さまざまな映画祭で上映されてきた。東京や大阪から聞こえてくるそれらの情報をうらやましく眺める日々がしばらく続いたが、やがてそれらの作品に配給がつくようになり、上京もできるようになったので、この夏に早速観に行ったのが今回取り上げる『星くずの片隅で』である。
今年の大阪アジアン映画祭では原題の『窄路微塵』で上映されている。

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 コロナ禍で静まり返った2020年の暗い香港。清掃業者のザク(ルイス・チョン)はワンオペ業務と一人暮らしの母(パトラ・アウ)の世話に追われる日々を過ごしていた。そんな彼の前に現れたのは、彼の会社のあるマンションに住む若いシングルマザーのキャンディ(アンジェラ・ユン)。彼らは雑踏が消えた香港のあらゆる場所を掃除して回る。閉店した茶餐廳から郊外の邸宅、さらには特殊清掃事案(!)までと幅広く、マスクも容易に入手できる富裕層や小さなフラットで誰にも知られず亡くなってしまう貧しき人など、その仕事の間から香港で暮らす人々の様々な姿を見ることができる。そこに見えるのはよく知られている煌びやかな摩天楼の香港ではない。

ザクもキャンディもそれぞれ暮らし向きは楽ではない。特にキャンディは一人娘のジュ―(トン・オンナー)を抱えており、彼女を喜ばせるためなら何でもする。それこそ盗みも厭わないため、その行動が清掃業に大きなダメージを与える。ザク自身もキャンディを一度遠ざけたりもするが、お互い困っているのはわかっているから、それでも手を差し伸べる。キャンディもずるさこそあるが、決して根っからのワルではない。恋愛ともいうわけではない繋がりで二人が結ばれていくのが自然に描かれ、観ているこちらもその展開を受け入れられる。そんな二人の清掃業が決して順調には行かない、現実の厳しさも一方で描かれるのだけど…。
裕福にもなれず、ここから逃げ出して移民もできないが、それでも生きていく必然がある。屋上から二人が眺めるのが、精一杯働く人々がいる工業地帯であるのも印象的。
「世の中はひどい。それに同化するな」「不運も永遠には続かない」印象的な台詞も多く、しみじみとしながら現在の香港に思いが飛ぶ。

ザク(これは愛称で「窄」という字の広東語読みらしい。本名は陳漢發)を演じるルイス・チョンはこれまでバイプレイヤーとして活躍し、近年はこの作品や『6人の食卓(飯戲攻心)』などでの主演も増えてきている。過去の出演作には観た作品も少なくないけど、一番覚えていたのは4年前のTIFFで上映された『ある妊婦の秘密の日記』での愉快な妊婦アドバイザー役だった…wikipediaを見たら『風再起時』にも出ていたのだが覚えていない…そして待機作には来年の賀歳片《飯戲攻心2》がある。

昨年の金馬奬と今年の金像奬で最優秀主演女優賞にノミネートされたアンジェラ・ユン。
初見はジェニー・シュン&クリストファー・ドイル監督、オダギリジョー共演の『宵闇真珠』だった(当時の感想はtwitterのみだったのでリンク参照)儚げでそれでいていい存在感のある役どころで印象的だった。

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モデルとして活動し、日本でも銀杏BOYSのCDジャケットや川島小鳥の写真集に登場しているそうだけど、なんといってもこのMVがかわいい。

映画公開に先立つタイミングで発表されたVaundyの「Tokimeki」MV。モチーフはオズの魔法使い。ちなみに演出は『とんかつDJアゲ太郎』『真夜中乙女戦争』の二宮健監督。
10年くらい前は若手女優不足が気になってた香港映画界だが、彼女やハンナ・チャン、ジェニファー・ユー、ステフィー・タン等次々といい女優が登場しているのはうれしいところ。

監督は『少年たちの時代革命』の共同監督でデビューした林森(ラム・サム)。この映画は例によって香港では観られず、『時代革命』『乱世備忘』のようなドキュメンタリー同様に香港の現状をストレートに伝える作品(と書いているが残念ながら観る機会がなかった…いつか観れたら感想書きます)時代革命周辺を映像で伝えた作品群からは多くの若手映画人が登場しており、彼もその一人。国安法の施行でストレートな社会批判がしずらくはなったが、それでもこの街のことを、自分たちの現在を伝えたいという気持ちがあるし、この街の映画ファンたちもそれを支持するのだろう。私もそれを支持したい。

しかし残念なのは、せっかく配給がついて日本全国で公開されたのに、私の住む岩手県では東北で唯一劇場公開されなかったこと。隣県の秋田では上映されたものの観客が少なくて…というtweetをみかけてがっかりした。確かに展開的にはしんどいところもあるし、香港の社会状況も先日のアグネスの件のようなニュースくらいでしか注目されなくなったしで、普段香港や香港映画をよく知らないという方々にどうアピールしたら考えてしまうところ。
それでも、私はこの映画をスクリーンで観たい。そしてこの映画への思いを地元で一緒に観る人とシェアしたいと思っている。せっかく上映権があるのなら、どんなにささやかでもいいから上映会をしてみたい。それほどにほれこんだ映画だった。

原題:窄路微塵(The Narrow Road)
監督:ラム・サム 脚本:フィアン・チョン 撮影:メテオ・チョン 音楽:ウォン・ヒンヤン
出演:ルイス・チョン アンジェラ・ユン パトラ・アウ トン・オンナー チュー・パクホン

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