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【香港映画祭2023Making Waves】マッド・フェイト/毒舌弁護人

香港政府と創意香港(CREATEHK)の支援を受け、昨年より香港国際映画祭協会(HKIFFS)が世界各地で新作香港映画を巡回上映している「香港映画の新しい力 Making Waves(以下香港映画祭)」。昨年は《逆流大叔》のサニー・チャン監督作による賀歳片『6人の食卓』、大阪アジアン映画祭で好評を博した『黄昏をぶっ殺せ』などの現在進行形の香港映画新作から『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』のデジタルリマスター版などの旧作も上映。中華圏の注目作を日本で一番紹介している大阪アジアン映画祭の協力を受けているとのことで、いい作品を持ってきてくれるのは嬉しい。でも昨年はまだ首都圏に足を踏み入れることはできなかったので参加は諦めた。

今年は東京国際映画祭にも行くことにしたし、少し間をおいてではあるが、引き続き香港映画が観られるのならこの上なくうれしいことではないかと思い、張り切ってチケットを取り、年休も取った。同じ週に新幹線で2往復する羽目になったが、大きな劇場で観客の皆さんと一緒に香港映画を楽しめたらもう何もいらない。でもその代わり、残念ながら今年は東京フィルメックスの鑑賞は断念することになった。来年は行きたい…

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今年の映画祭ではMIRRORのアンソン・コン主演の『7月に帰る』『夢翔る人 色情男女』デジタルレストア版はスケジュールの関係でパスし、『レクイエム』『ホワイト・ストーム』に続くシリーズ第三弾『ホワイト・ストーム 世界の涯て』は残念ながらソールドアウト。
というわけで、上映全7作品のうち4作を鑑賞。

『マッド・フェイト』2023/香港

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狂っているのは君か、それとも僕か。
精神を病んだ両親を持ち、親同様狂うことを恐れる占い師許(ラム・カートン)とサイコパスの青年少東(MIRRORのヨン・ロクマン)、そして雨の日に現れる連続殺人鬼(チャン・チャームマン)など、まともじゃない人々が重苦しい空気を纏った香港の街を駆け抜ける。ラストまでとことん(精神的に)殴り合って(見えないが)血みどろになるソイ・チェンの濃ゆい世界を久々に浴びてクラクラしてる。カートンさんの壊れてそうで壊れてないこのギリギリのラインをいく感よ。ものすごいんだがその一方でこれはかなり楽しんでやってるのかも…とも思ふ。

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一昨年のTIFFと昨年の香港映画祭で上映された『リンボ』でもコンビを組んだソイさんとカートンが来日。
カートンさんは昨年に続いての参加だそうで、和やかであった。

ここしばらく銀河映像の作品とはご無沙汰していたせいか(製作はトーさん、脚本は游乃海さん)次々と起こる殺人事件(被害者が娼婦ばかりだったのはいろいろ思うところはある…)に流れる血に異常に興奮する少東、そして正気と狂気の狭間で少東を救うがために苦悶して進む許の姿に思い切り慄いたのだが、観終わったら、ああやっと香港映画に帰ってきたわ…となった。
長らく忘れていたよ、この世界を。いきなり両肩を掴まれてグッと引き戻された思いをした。
初めて参加した香港映画祭のトップバッターがこの映画でよかったわ。

毒舌弁護人 正義への戦い(2023/香港)

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今年の旧正月に公開され、香港映画歴代興行収入を更新したという作品。主演はベテランのスタンダップコメディアン黄子華(ウォン・ジーワー。今回は英語名のダヨ・ウォンで紹介)。香港に通ってエンタメニュースに触れると必ず登場する(ジャンユーや張達明とトリオを組んだ「髭根Show」などは見たことなくても知ってた)けど、ローカルコメディに出ているイメージがあったので、まさか日本で黄子華主演作が観られるとは思わなかった。しかもこの映画祭に先立って一般上映もされて二度ビックリした(実は発売日当夜のチケット取りに敗れて、TIFF上京時にシネマートで先に観ていたのであった>譲っていただけたのでした。多謝!)

職務怠慢を理由に裁判官から窓際職に追いやられたことをきっかけに弁護士に転職した林涼水(ジーワー)が、実子虐待殺人の罪に問われた被告の母親(ルイーズ・ウォン)の弁護を担当し、明らかに冤罪とわかりながら負けたことがきっかけとして真剣に取り組むことになり、裁判のおかしさに気づいて正義を追及していく姿が見どころ。対話で戦い、うまく話を転がすのはさすがだ。
これまで賀歳片で主演を張りながらなかなかヒットしなかったらしいが、昨年の香港映画祭で上映された『6人の食卓』(監督は《逆流大叔》のサニー・チャン)もヒットし、2年連続で主演の賀歳片が当たったことになるジーワーのすごさを十分に味わった。長年コメディアンとして慣らしてきたからこその、スーダラで口が悪くても正義感で突き進むこの役柄が本当にお見事。香港映画歴もかなり長くなったけど、これまで彼が日本に紹介されなかったのは本当に不思議。自分の中でのライヴの人のイメージが強かったし、香港でも出演を積極的に観てこなかった。ああ自分今まで何やってんだと反省。
彼だけでなく、対決するカム検事を演じた謝君豪、刑事役のボウイ・ラムさんなどのベテランから、ルイーズやフィッシュ・リウなど若手のキャストもとてもよい。ERRORのホー・カイワーが演じたパラリーガル(でよかったか?)の太子もよいキャラ。

これまで日本で公開されてこなかった香港の裁判もの(時代ものだけど今ネトフリで観られる『チャウ・シンチーの熱血弁護士』くらいか?)なので、かなり興味深く観た。これに先立って公開された《正義廻廊》など、ここしばらく香港ではリーガルものがヒットしているとのことだが、警察テーマの映画に代わって題材として注目されるようになったり、香港社会のあり様を描くのに現在最も適しているからかともいろいろ考えられる。まさに今「Everything is wrong!」と言われる状況であるのは言うまでもないし。コミカルには描くけどベッタベタではなく、基本的にはシリアスでもある。ちょっと前だきっと紹介されることのなかったタイプの映画だろうけど、こうして配給と字幕がついて観られるのは本当に有難い。

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ゲストは公式初来日となったジーワーと、長年ダンテ・ラム監督作品や、近年では『アニタ』の脚本も手掛けてきたジャック・ン監督。
Q&Aでは長年の謎(か?)だった英語名「ダヨ」命名の真相がわかってスッキリ。小学校の頃は「スティーブン」と名付けられたそうだけど、既にクラスに6人くらいいたそうだ。確かに香港でスティーブン君多すぎ問題は気になってた…(笑)「ダヨ」という名は他の兄弟と語感が似ているからつけられたとかなんとか。
本当は日本でも「ウォン・ジーワー」名義で紹介してほしかったけど、まあ自分で呼ぶからいいか、ダヨ名義でもいいんダヨ(やめなさい)

ジーワーのインタビュー記事はこれが一番詳細でわかりやすかったです。

(次回は『ブルー・ムーン』『風再起時』の感想をUP)

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