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2022年8月

わが心の台湾―『台湾の日々』『ブラックノイズ 荒聞』『台湾紀行』より

今回はジャンルちがいの台湾本3冊を読んでの大人の読書体験記です。小中高校生には全く参考にならないと思われますので、パクり等はなさらぬよう(誰もそんなことしません)

ここ数年、天野健太郎さんの遺志を継いだ太台本屋さんのご活躍や、クラウドファンディングの企画実現等で台湾本が出版ラッシュになっているので、この状況はとても喜ばしく思っています。喜ばしくはあるのですが、本当に出版ラッシュとなっているので、気がついたら買って読んではいるものの、長文の感想が追いつかないです。各々の本の感想はブクログには書いてはいるので、お暇な方はどうぞ。

台湾に行けなくなって2年半、最後に行ってから3年半。その間イベントがあったり料理を作ったり サークルで研究をやったりZINEを出したりと、台湾にふれる機会は多かったのですが、それが多くなるほど、自分はどれだけ台湾を「知って」いるのかということを考えるようになりました。
戒厳令が終了したとはいえ、まだまだ国民党独裁の色が濃かった90年代初頭に台湾に行って以来(途中の空白期も入れて)気づけば30年も台湾と関わってきました。小説ドラマの『路』では、90年代後半~2007年という時期を描いていたけど、その頃もはさんでの30年だから、自分が初めて住んだ頃を思い起こせば、変化も大きいようで意外と変わっていなかったり…とあれこれ考えてしまうのでした。
そんなことが頭にあったせいか、この夏たまたま続けて読んだ3冊の台湾本から、自分にとっての台湾への思いやそこからいろいろ派生してあれこれを考えてしまいました。

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『台湾の日々』(左)の著者、青木由香さんは私と同世代だけど、自分の方が多少上。そして初めて行った時期が10年違ったので、同世代でもやはり見ていたものも行った目的も全然違います。
当時は戒厳令が明けたばかりで、まだ日本語が公共の電波で禁止された頃に留学で初めて台湾の地を踏んだ身として、今思い返せば全体的に楽しい思い出が多かったのではあるが、抗日運動に巻き込まれたり、日本統治期のことに対して不勉強でいろいろ戸惑ってしまったことも思い出される。当時仲の良かった台湾人のルームメイトたちは、就職後日本に留学したりして会える機会もあったのだが、こちらが多忙で連絡できなくなったりして縁が途絶えてしまい、とてももったいないことをしてしまいました。
それでも、台湾には何度か岩手の友人たちと一緒に来ていたし、18年前から弟が南投縣の山の中の町で働きだして、親族訪問という名目で再び通い始めるようになり、さらには高鐡の開通で容易に南部へアクセスできるようになって、台南や懇丁などが「心のご近所」となりました。そして新しい台湾の友人も増えました。

青木さんはこの20年間での在住で台湾の急激な変化を身近でご覧になってきた方。その上で現地で本を出し、「一人台湾観光局」を務め、2010年代からの台湾ブームにおける日本への情報発信で大活躍されているが、実は彼女の本はあまり読んでこなかった。主に観光方面、特に女性向けの「おいしい、かわいい、ほっこり台湾」的な情報発信が多かったので、リピーター的にはね…と感じたからなんだけど、この20年様々な経験をされてきて、そこからあれこれ選び抜いての発信だったんだろうな、と今になって思うのでした。

雑貨やスイーツだけでなく台湾人の生活やスピリットに注目し、「台湾」を生活に取り入れようというテーマで抱えているこの本はコロナ禍を受けて刊行され、暮らしの図鑑というシリーズの1冊となっています。ここ10年ほどの「謝謝」から「朋友」として台湾に関心を持つためにはとてもよいテキストになっております。ここで紹介されている項目も暮らしに取り入れる知恵も興味深く読みました。でも、これを全部真似しなくても、それぞれできる範囲で取り入れて、あとは自分の経験や思い出から実践していけばオッケイでしょう。
例えば私だったら、日本でも人気のヂェン先生の日常着を買わなくても、手元には現地で買ったチャイナブラウスも伝統デザインのチャイナスーツがあるのでそれを着るし、赤が苦手なのでペパーミントグリーンを取り入れてみるし、台湾料理(上の写真右のレシピ集も最近重宝してます)も電鍋がなくても、手持ちの電気調理器で代用、等々。

まあ台湾に行けない日々が当分続くのは覚悟していますが、台湾がこっち来いよと思えば、たとえ身近に台湾カフェが少なかろうが、雑貨が容易に入手できなかろうが、自分なりの「台湾」を暮らしに取り入れてなんとか正気で生きていこうってことで。
というわけで、次へ。

最近、台湾ホラー映画が流行りと聞くけど、昨年公開の『返校』を始め、どうもビビりな自分はそれに食指が動かない。
ホラーといえば、数年前のTIFFでギデンズの『怪怪怪怪物!』を観たけど、主人公のいじめられっ子の復讐ものとして観たものの、観た直後の爽快感から劇中に描かれるいじめや人物の描写の残酷さや、主人公たちの前に現れる怪物姉妹の来歴が恐ろしく、これティーンホラーとして無邪気に楽しんじゃいけないんじゃないの?と頭を抱えたことがあった。そんなわけで台湾のホラー映画はいろいろな意味で容赦がない、というのが私のイメージ(※意見には個人差があります)

さて、では台湾のホラーノベルはどうなのか。
この『ブラックノイズ 荒聞』はホラーではあるけど、個人的にはそれほどホラー感は覚えなかった。
もちろん、主人公のタクシー運転手呉士盛の荒んだ生活を描いた冒頭から、彼の妻郭湘瑩が幻聴に悩まされて奇行に走った末に怪死を遂げるに至るまではいったいどう展開するのかわからないという意味で恐ろしかった。しかし、郭湘瑩を担当したソーシャルワーカーや呉士盛が事件の背景を調べ始めてからの展開には驚かされた。ここに絡んでくるのが道教に原住民族の言い伝え、日本統治時代に起きた怪事件、そして魔神仔(モシナ)と呼ばれる台湾の化け物。これらがミックスされた渾沌とした展開になるのだけど、それが実に興味深く、恐怖感なく面白く読み終えた。
貞子ならぬ「ミナコ」と呼ばれる謎の幽霊も登場するので、リング的なホラーを求めてこれを読むと、肩透かしを食らわされるのだろうけど、歴史的背景や他民族国家としての呪術や民俗的背景を盛り込んでくるのは面白い。台湾には怪談がないというわけではなく、中国語でいうところの「鬼」の話はいくつかあるし、それをモチーフとした小説もあるので(李昂短編集『海峡を渡る幽霊』にもあった)そういうつながりで読むことができる。
そういえばこの小説を含め、これまで読んだ「鬼」の話に登場する幽霊はだいたい女性。そして彼女たちは死ぬまでに酷く残酷な扱いを受けていたことが背景にあり、その受難が恨みのきっかけになることや、昔の女性の扱いの低さを改めて考えてしまった…(主人公の親は統治時代に大陸東北部に渡っていたことがあり、そこで雇われていた下女のくだりなど、これは実際にあったことだろうなと考えるとね。

 というわけで、そこからのつながりでいつか読みたいのがこの本。

台湾の妖怪といえば、かつて民俗学者の弟に「台湾にはこれまで土着の妖怪がいることはあまり伝えられてなくて、日本の妖怪伝説の面白さに影響されてキャラ化していったようなものだからね」といわれていたけど、果たしてこれはどんなものか。なお著者は水木しげる作品と『遠野物語』に関心があるとのことで、こういう面からも注目したい次第。

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そしてこの本。なんと今さら読みました。しかも我が人生初の司馬遼太郎です。祖母も両親も愛読していたのに、自分はこの歳までスルーしてきましたよ!
この『台湾紀行』のために、司馬遼太郎が台湾に渡ったのは1993年冬から数回にかけてのこと。
歴史小説家として多くの著書を著し、日本だけでなく中国史も押さえているからこそ書ける紀行文だと思ったのは、清朝以前からのこの島の歴史も統治時代のそれもフラットにとりあげ、それを示したうえで統治時代に育った自分と同世代の「老台北」たちに若者たち、そして当時は国民党総統だった李登輝氏と語らい、各地を旅して原住民族の集落をたずねたり日本統治の逸話など、さまざまな要素がうまくまとめられていたからだ。そして思ったほど政治的思想も感じられないと思うのだが、どうだろうか?
ともかく、あの頃の台湾ってそうだった、とか、そうかそうだったのか!と思い出させることが多い1冊でしたよ。

こんな感じで徒然に3冊の感想を書きましたが、一見テーマもアプローチもバラバラだけど、自分の中ではいろいろつながりも感じられた3冊で、今後の台湾カルチャー深掘りの参考図書となるし、ここから「わが心の台湾」をもっと広げていきたいなと思える本たちでした。

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