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侯孝賢的40年(台湾映画祭in仙台で初期作品を観ました)

10月に久々に仙台まで出かけて、フォーラム仙台で台湾映画祭2021を鑑賞し、サンモール一番町商店街で開催されていたDiscover Taiwan 2021にも寄って楽しみました。
この映画祭の作品は、今年の台湾巨匠傑作選から侯孝賢監督&プロデュース作品を中心に選択され、合わせて新作映画(『親愛なる君へ』『恋の病』)も上映するセレクション形式。ここ数年間で上映権が切れてしまう作品が多いのが残念ですが(春で『恋恋風塵』が切れました)ちょうど最終上映ぎりぎりだった『冬冬の夏休み』を含めたホウちゃんの初期作品がまとめて鑑賞できたので良かったです。

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『風櫃の少年』は6年前のフィルメックス以来の再見。
展開がわかっているので、今回は寂れた膨湖島を駆け回る悪ガキどもの服の着こなし等の身体の見せ方、島に強く吹きつける風の音、フィクスで撮影された長回しの画面(建物の構造を生かした人物の動かし方、見せ方がよかった)など、画面作りやサウンドに注目しながら観ていた。失敗ばかりでどうもうまく行かないし、兵役を控え一緒に馬鹿騒ぎできる時間は短いけれど、それでも精一杯生きて愛して短い少年期を楽しもうという80年代初頭の若者たちの姿はどんな時代にも場所でもどこかに響くところがある。
先の感想にも書いた通り、若き豆導こと鈕承澤や庹宗華が見られるのも楽しみではあるけど、豆導、ああ豆導よ…(あえて具体的には言わず) 

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風櫃に続く『冬冬の夏休み』はスクリーンでは初見。
これも学生時代に論文の資料として観て以来。
冬冬と婷婷の兄妹の父親役はヤンちゃんことエドワード・ヤン監督で、音楽も担当。ということは、小学校の卒業式で流れる「仰げば尊し」で始まり「赤とんぼ」で終わる選曲もやはり彼によるものなのだろうか。小学校最後の夏の子供らしいノスタルジアより祖父母や叔父などの大人たちの事情が前面に出ているので、子供映画的には感じないし、子供たちも子供扱いされていないようにも見える。
夏休みの舞台となる銅鑼駅は苗栗より2駅南にいったところだが、80年代だからか台北とあまり離れていなくても田舎感は満載。冬冬の祖父の病院が駅近くの統治時代からある雰囲気の大きな屋敷なので、祖父の街での立ち位置もわかる。ドラ息子の叔父、普通に怖い強盗コンビ、そして頭の弱い若い女性の寒子(ヤン・リーイン)のような存在も当時の田舎的と思って観た。寒子といえば、妊娠が判明して堕胎をさせるかどうかという場面には改めてショックを受けた。当時の彼女のような女性の立場ってやはりこういうものだったのかと。
こちらも画面の作り方には改めて注目してみた。じっくりと画を見せる少し長めのショットや、2つの部屋の様子を柱を使って画面を割るように見せたりするので、一つの場面としての印象も強くなる。風櫃同様、台湾ニューシネマの定番というだけでなく、よい映画のお手本的な意義もある映画。

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写真家を目指すCM製作スタッフ幸慧(鳳飛飛)と事故により一時的に失明した研修医金台(ケニー・ビー、以下阿B)の恋を描く『風が踊る』は初見の作品。初期三部作の1本であり、澎湖→台北→鹿谷と場所を変えて歌と共に進行する愛らしきラブストーリー。
私が知っている阿Bは香港映画にハマった90年代以降なので、ああ、阿B若い…と思ったのは言うまでもない。彼が演じる金台の設定や、CM業界で働く幸慧が兄の要請で彼の務める鹿谷の小学校で短期間の代用教員を務めるなど、物語の進行がかなり強引に感じたのだけどそこは目をつぶりましょう(笑)現在の建物になる前の素朴な台北駅等、80年代台北のロケも見所。『冬冬』にも出た立派なレンガ建築の台大病院も登場。
ところで鹿谷は南投縣で凍頂烏龍茶の生産地として有名なところ。今はどんな景色が見えるのだろうか。

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台湾ニューシネマの記念碑的作品である『坊やの人形』は、黄春明(代表作の『さよなら・再見』を学生時代に読んでいた)の短編を映画化したオムニバスで、それぞれ60年代台湾の庶民生活を描いている。ホウちゃんが監督したのはタイトルにもなっている『坊やの人形』。嘉義に近い竹崎を舞台に、職にあぶれた青年が、妻子を養うために映画館に自らを売り込み、新聞記事で読んだ日本のサンドウィッチマンを真似して映画を宣伝して回るという話。貧しさの中にある喜びや切なさが強く感じられた。映画的にはもちろん第1話がとにかく素晴らしいのだけど、第2話の世知辛さや衝撃的な結末、第3話の思わぬ展開にも注目した。働く男の甲斐性がテーマのようで、男たちの喜怒哀楽が強め。
ところでこれらの4作品でよく観かけたのが、現在も映画界で活躍する楊麗音(風櫃、冬冬、坊やの人形第1話に出演)と当時は売れっ子子役だった顔正國(冬冬、風が躍る、坊や第3話出演)。特に顔正國は近年三池崇史監督の『初恋』に台湾マフィア役で出演しており、観ていたのに教えてもらうまですっかり忘れていた。さらに20年くらい前に薬物使用で逮捕され、服役して芸能界に復帰したということも教えてもらって初めて知ったのであった。

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今回は観られなかった上映作品をいくつか。まずは『台北ストーリー』
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こちらの写真も再掲。

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そして『童年往事』。これも昔TV放映(しかも地上波)で観たきりだったからスクリーンで観たかった。
東京では毎年同じ作品ばっかりやってるとよく言われる傑作選だけど、地方まで持ってきてもらえる機会は本当に少ないので、こうして上映してもらえるのは本当に嬉しいのですよ。

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これも上映してくれたんですよ。観たかった…

再見である風櫃と冬冬は、以前も書いたように学生時代が初見。卒業しても台湾に通ったりして、歴史的背景や具体的な地名を覚えていくうちに、ちょっとした場面でもその裏にあるものやら何やらいろいろ考えるようになり、昔と見方がずいぶん変わってきた。この見方が学生時代にあれば、もっと良い卒論が書けたのに…と思っても後の祭り。でも、学生時代に親しんだものを、今も変わらない思いで親しめるのは嬉しいものである。

そういえば、戒厳令が解除されてもう30年も過ぎた(今年で35年になる)。
ホウちゃんが『悲情城市』を製作したのは、戒厳令の解除により白色テロのきっかけとなった2.28事件を描けることができたからだが、戒厳令の末期に今回観た初期作品群を発表できたことに、ちょっと気がついたことがある。
実は2年前に地元の上映会でヴィクトル・エリセの『ミツバチのささやき』を観たのだが、この作品が当時のスペインの独裁政治の末期に作られていた(1973年)ということを聞いて、台湾ニューシネマの登場期と当時の台湾の時代背景に似ていると鑑賞時に感じたのであった。『ミツバチ』には当時の政治への批判を匂わせるところがあったそうで、そのような視点はホウちゃんの初期作品群にはないように思えたのだが、時代と社会の転換を背景に登場したという点ではわずかに重なるところがあるのかもしれない。

ということを新たに考えつつ観たけど、最後のはあくまでも個人的意見であるのでご了承を。

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