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2022年1月

我的中華電影ベストテン2021

2016年まで「funkin'for HONGKONG十大電影」と銘打ってその年に観た中華電影のうち、気に入ったものを10作選んでいたのですが、17年以降は映画の長文の感想がなかなか書けなくなってしまいました(twitterには感想は書いているのですけどね)
ここ2年は県外の映画祭などには行けなくなり、鑑賞本数も減少気味ですが、配信で何本か観ることができたし、地元の上映も徐々に増えてきているので、今年は題名を改めて、久々にまとめてみました。
なお題名に、Twitterで書いた感想をリンクしておきます。

理大囲城

これまで25年以上東北で暮らしているのに、なぜか行く機会が全くなかった山形国際ドキュメンタリー映画祭でのオンライン上映で鑑賞。これに先立って、地元では上映がなかった『乱世備忘 僕らの雨傘運動』もオンラインでやっと鑑賞。
2019年の初夏から始まった反送中デモのうち、最も大きな動きとなった11月の香港理工大学ロックダウンでのデモ参加者と警察との攻防を記録したドキュメンタリーで、スタッフは全員匿名。かつてよく散歩した尖東の歩道橋や近くを通ったことがある理大キャンパスがこの攻防の舞台になっていることには衝撃を受けたし、大学内部に閉じ込められたデモ参加者(高校生もいた)の焦りや意見のすれ違い等も緊迫感をもって観た。当時は日本のSNSでも武力行使を是としない意見をよく見かけたけど、このデモが決して暴力に訴えたものではなかったことはよくわかるし、理解が及ぶところである。
3年前の春に行ったのが結局今のところ最後になる香港だが、新しい建物や普通話の会話がやたらと耳について気になってはいた(かくいう自分も一応普通話スピーカーだが、香港では片言の広東語か英語を使って過ごしている)直後に反送中デモが始まり、それを受けて政府や中央からのさまざまな締め付けがコロナ禍に乗じて始まってしまい、現在の状況になったことに非常に驚いている。この映画も『時代革命』も、現在香港では上映できなくなってしまった。現在の香港の状況については、近日別記事でも書いておきたいのだが、暗黒の時代に入った香港でも、決して自由を死なせてはいけないし絶望してはいけないという気持ちを持っていたいものだ。

1秒先の彼女

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《健忘村》を除くこれまでの陳玉勳作品はいずれも映画祭上映から一般公開になっていたので、今回も金馬受賞後にOAFFで上映されるのかと思っていたら、いきなり一般上映が決まって驚いた。幼いころに出会っていたアラサーで風変わりな二人のおかしな邂逅の物語。確かに初期作の『ラブゴーゴー』に通じるところは大きいけど、原点回帰というよりも進化だよね?と全ての陳玉勳作品が好きな自分は思うのであった。ついでに《健忘村》も今ならもうちょっと評価されてもいいと思うんだけどなあ…。

少年の君

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アカデミー賞国際長編映画賞ノミネート、そして20年の金像奬作品賞を受賞した香港映画。だけど舞台と俳優は中国、言語は普通話。10年代後半に『十年』や『大樹は風を招く』などに賞を与えていた金像奬がなぜ中国が舞台のこの映画に賞を与えたのか、疑問であった。香港映画で俳優としてキャリアを重ねてきたデレク・ツァン監督の作品は『恋人のディスクール』のみ観ている。この前作の『ソウルメイト/七月と安生』で単独監督デビューしているのだけど、これも舞台は中国。
これまで取り上げてきたテーマは友情やいじめと、普遍的なものである。そして鮮烈。中国製作なので、あの検閲済みの龍のマークはついているし、ラストには政府によるいじめ抑止対策の、クレジットもついていたのでプロパガンダ的にも見られそうだが、ここしばらくの中国映画が持つどこか忖度めいたものは感じられないし、制限のありそうな中でしっかり自分の描きたいことを描き切っている。周冬雨とジャクソン・イーの主演2人も、痛々しいほどの熱演を見せてくれた。
デレクの次回作はあの『三体』のnetflixドラマ版だそうで、これも楽しみである。第1話を担当とのことだが、そうするとあの場面から始めるのか…>あえてなにかは書かないでおく(読んだ人はわかっていると思うけど)

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↑これは公開時に劇場で掲出されていたスチール。地元の映画好きにも好評な作品でした。
それなら『七月と安生』も上映してほしかったなあ…配信で観るしかないのか。

日常対話

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リンクはTV版の感想で失礼します。クラウドファンディング特典のトーク付き限定配信で観たのですが、なぜか感想をtweetしていなかった…

ホウちゃんのプロデュースでTV版が先行して製作され(NHKBS1で放映された『母と私』2015年製作)その後長編劇場版として製作。独立映像制作者の黃惠偵監督が、 葬儀業を営むレズビアンの母との修復を試みるためにカメラを回して自らと母の姿を撮ったドキュメンタリー。これまでの恋人たちが語る母の姿が興味深く、やがて語られる女性の抑圧に衝撃を受ける。今でこそLGBTQ+の権利を守り、多様性を重んじる台湾でも、かつての女性の扱いはやはりどこの国とも同じようなもの。監督が母との関係や彼女の過去を振り返ることで、台湾の個人史が現代史と重なるし、そこから知ることも大きいし、いろいろと考えられる。

血観音

JAIHOの配信で鑑賞。これも台湾の現代史に考えが及ぶ映画。舞台となる年代はちょうど自分が留学していた頃であった。戒厳令解除からしばらく経っていたが、まだ国民党が実権を握っていた頃だった。TVでたまたま観た省議会中継の議員の暴れっぷりにあきれた記憶がある。そして劇中での暗殺や怪死事件が当時実際にあった複数の事件を基にしているというのに闇を感じた…
JAIHOではOAFFやTIFFで上映された作品が観られてうれしいけど、だいたい期間限定配信なので、いつも最終日ギリギリに観てしまう癖を直したいところである。

私たちの青春、台湾

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先の記事でも触れたとおり、金馬奬で長編ドキュメンタリー賞を受賞した時の傅榆監督のスピーチが大陸側で物議を醸した作品。オードリー・タンのインタビュー本『オードリー・タンの思考』でもこの映画が紹介されていた。
14年の太陽花学運に参加した学生たちの栄光(と言っていいのか)と挫折、そして彼らを追った監督自身の心情も語られ、セルフドキュメンタリー的な面もあった。学生たちがジョシュアとアグネスに面会する場面があったが、二人の現在を思ってしまって胸が痛かった。2014年からの香港と台湾が現在こうなってしまうとは。そして今後はどう変わっていくのか。

羊飼いと風船

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祝、ペマツェテン作品日本初公開!
フィルメックスの常連で、ソンタルジャと共にチベット映画を確立した彼の作品が地元の映画館で観られるのは実に素晴らしきこと。
中国映枠に入れてはいけない気もするけど、王家衛が過去作をプロデュースしてるし、中華圏という枠で観られる作品だから、ということで。

坊やの人形

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風が踊る

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今年はホウちゃんの過去作品をまとめて観られたのも実に有意義だった。

映画 真・三国無双

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元ネタのゲームは全く知りません。ゲームだから三国の英雄たちがびしばし超能力を発揮するってことですよねそうですよね。
古天樂の呂布はいい感じの貫禄でカッコえかったけど、ハンギュンの関羽…それでいいのか、セクスィー関羽…
まあそれでも日本公開の意義はあったと思う。最近日本で作られた劉備がぼやきまくる某三国志映画に比べたら百倍も千倍もいい。
そして東京と大阪の他、唯一の地方公開を果たしてくれた地元の劇場・盛岡中央劇場には大いに感謝しております(なおこの劇場で近日『レイジング・ファイア』が上映されます。中劇のニコファンの方による熱いレコメン記事をみんな見てあげて)

番外 シャン・チー テン・リングスの伝説

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はい、番外です。昨年唯一このblogで感想が書けた映画だけど、番外です。
中華電影へのリスペクトが込められていてもやっぱりマーベル映画だし、久々にトニーへの愛も激しく確認できたけど、まあいろいろあるし。(そして勢い余ってこんなファンフィクションまで書いてしまったので、よろしければ読んで脱力してくださいませ)
続編製作が決定したのは嬉しいけど、次のキャストには噂されているあの人よりも四大天王クラスを出してほしいなあ。

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第58回金馬奬受賞結果について、いろいろ考える。

11月27日に台湾で実施された第58回金馬奬。
その受賞結果の詳細はアジアンパラダイスさんをご参照ください。

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長年blogを書いてきましたが、実は今まで金馬奬についての記事を書いたことがありませんでした。
香港映画を中心にblogを運営してきたので、金像奬は気にしても金馬までカバーする余裕がなかったというのが一番の原因でしょうか。
ここ数年来、金馬奬のストリーミング中継を観ているのですが、今年は、というかここ何年かは受賞結果も非常に興味深いものがあったので、今回は初めて金馬奬について書いてみます。 

今年の金馬奬のトピックとして、個人的に次の3つを挙げます。

  • 鐘孟宏(チョン・モンホン)監督最新作『瀑布』が最優秀作品賞他最多6部門受賞
  • 『十年』のキウィ・チョウ監督のドキュメンタリー『時代革命』の最優秀ドキュメンタリー賞受賞
  • 俳優デビュー30年の張震(チャン・チェン)4度のノミネートを経て『The Soul:繋がれる魂』で遂に最優秀主演男優賞受賞

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澤東電影SNSより

2019年までは東京フィルメックスと金馬奬が中心イベントとなる台湾最大の映画祭・台北金馬影展の開催時期が重なってので、webで中継される授賞式は、当日に映画鑑賞等が入ってしまうと見られないことが多かったのだが、2020年からフィルメックスがTIFFの協賛企画になって日程が繰り上がったことで、20年と21年の授賞式はリアルタイムで鑑賞できました。TIFFとフィルメックスにはノミネート作が出品されることもあり(今年のノミネート作では『瀑布』がフィルメックスに、『アメリカン・ガール』『テロライザーズ』がTIFFに出品)さらにここ数年は公開後にnetflix等でも配信されるので、一般公開決定前にノミネート作を観ることも可能になった。
加えて今年は、ラジオではおそらく初めて本格的に金馬奬が紹介(TBSのアフター6ジャンクションに江口洋子さんがご出演)されたり、ここ数年の金馬奬の傾向が変わったこと、後日記事に書く予定の香港映画の状況など注目に値するトピックが多かったため、今年は例年に増して受賞結果が気になったのでした。

 

 

『瀑布』は今年のヴェネチア映画祭オリゾンティ部門でプレミア上映された長編第6作。前作『ひとつの太陽』も19年に作品賞を受賞。
コロナ禍の現在を舞台に、母(アリッサ・チア、主演女優賞受賞)と娘(王淨/ワン・ジン、主演女優賞ノミネート)の関係をみつめた物語とのことで、フィルメックスで鑑賞された方々にも好評だった様子。モンホンさんは自分で撮影する人で、これまで「中島長雄」名義で撮影監督を務めていたのだけど、今作ではその名前を使わないほか、作風にもこれまでとかなり変化が見られるということなので、そこが気になるところ。昨年の台湾映画の興収成績では7位だそうです(アジアンパラダイスより)
『ひとつの太陽』はTIFF上映後、Netflixで配信が始まったのですが、この作品も今年初めに配信が始まるそうです。
(…netflixにまだ加入していないのだけど、これを機に加入してしまおうか考え中。なお過去作品はJAIHOで『ゴッドスピード』が期間限定で配信、プロデュース作の『大仏+』も期間限定配信
なお、アリッサ・チアはドラマ『悪との距離』で知りました。


 

張震が主演男優賞を受賞した『The Soul:繋がれる魂』は『目撃者 闇の中の瞳』(未見)の程偉豪監督作品で、こちらもNetflixで配信中。
張震といえば、昨年はかつて出演していたサントリー烏龍茶のCMスチールを撮影した上田義彦氏が監督した『椿の庭』や、18年にカンヌで共に審査員を務めたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『デューン 砂の惑星』など中華圏以外の出演作品が続けて公開されたけど、ホームグラウンドである台湾ではこれまでは無冠の帝王だったのが意外でした。
受賞スピーチではヤンちゃんに感謝の言葉を送っていたのが印象的でした。出会いの作品であった『牯嶺街少年殺人事件』ももちろん最優秀作品賞受賞作。

香港映画勢で最優秀脚色賞を受賞した《濁水漂流》は、TIFFで『トレイシー』が上映されているジュン・リー監督の新作。

金馬影展でも上映された《花果飄零》で監督賞を受賞したクララ・ロー監督は、マカオ出身で現在はオーストラリア在住。日本では『あの愛をもういちど』が紹介されています。あとは『アジアン・ビート(香港編)オータム・ムーン』も。11年前にTIFFで上映された『香港四重奏』の1編「レッドアース」を観ていました。香港とマカオを舞台にしながら、どちらでもまだ上映されていないという作品。
そして『時代革命』は納得の最優秀ドキュメンタリー賞受賞。サプライズでのワールドプレミアはカンヌ、シークレット上映だったフィルメックスを経て影展では3か国目の上映で、毎回満席だったようです。かつて18年に『私たちの青春、台湾』が同じ賞を受賞した時、傅楡監督のスピーチにあった「台湾独立」に対して大陸からの審査員団が抗議して翌年から作品出品を取りやめさせ、現在のノミネート及び受賞状況に至っていることから、政治的なメッセージが強い作品も優れていれば賞を与え、危機的状況にある香港に対して文化を守ろうとする姿勢を取ってくれたのは本当に嬉しいものです。
もともとこの賞には、中国大陸の影響下にない映画の製作促進を目的として1962年に創設されたというので、ここ2年ほどの受賞状況は当初の目的にかなったものでしょう。また中国語圏で作られた映画(合作含む)をノミネート対象としていることもあるので、ここ10年ほどのマレーシアやシンガポールで製作された中国語映画がよく受賞しているのもその影響にあることもわかります。
しかし、大陸の映画がノミネート対象として追加された26年前は、中国との合作やロケも多かったし、大陸でも政府の干渉を受けながらもメッセージ性の高い映画を作る同志のような映画人も多かったのに、と思うと、政治的な力が背景にある意味も考えてしまうものです。

と、ついついシリアスな方に考えがちになりますが、近年の台湾および香港映画の動向を知るには大いに参考となる金馬奬。
ノミネート及び受賞した未公開作品はこの春の大阪アジアン映画祭でも上映されるのでしょう。
最後に、個人的に観てみたい作品を2作挙げます。

 

ギデンズ監督第3作《月老》は、『あの頃、君を追いかけた』以来のタッグとなるコー・チェントンと『私の少女時代』のヴィヴィアン・ソンが主演。視覚効果賞等受賞。突然死んでしまった青年が月老(縁結びの神)となって地上に戻り、悪戦苦闘するファンタジー…のはずだけど、ホラー味ももちろんある様子。『瀑布』以降売れっ子となった王淨、KANO監督馬志翔も出演。

 

《詭扯》はTVドラマやMVの演出でキャリアを築いてきた許富翔監督の長編第1作で、韓国のホラーコメディのリメイク。富川ファンタスティック映画祭に出品されて審査員賞を受賞。主演はチェン・ボーリン。
昨年日本公開の『1秒先の彼女』で主演を務め、『ひとつの太陽』で最優秀助演男優賞を受賞した劉冠廷がこの作品で2年ぶりに助演男優賞を受賞。彼が演じる老楊、予告編でどこかで見たような衣裳を着て腕にギプスを…と思ったら、無間道三部作の陳永仁にリスペクトをささげた造形だそうで、もうこれは笑えと言われているようなものではないか(メイキングはこちらから)

ラストは授賞式のオープニングフィルムについて。
埋め込みができないのでリンクのみの紹介ですが、『坊やの人形』のオマージュを捧げるようにサンドウィッチマンとして映画館で働きながら、いつか李安監督(今期まで金馬奬主席を務めた)と一緒に映画を撮りたいと夢見る青年(司会を務めた林柏宏)の物語で、全編に五月天の「知足」が流れる(そして林柏宏が熱唱する)かわいらしい短編でした。

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侯孝賢的40年(台湾映画祭in仙台で初期作品を観ました)

10月に久々に仙台まで出かけて、フォーラム仙台で台湾映画祭2021を鑑賞し、サンモール一番町商店街で開催されていたDiscover Taiwan 2021にも寄って楽しみました。
この映画祭の作品は、今年の台湾巨匠傑作選から侯孝賢監督&プロデュース作品を中心に選択され、合わせて新作映画(『親愛なる君へ』『恋の病』)も上映するセレクション形式。ここ数年間で上映権が切れてしまう作品が多いのが残念ですが(春で『恋恋風塵』が切れました)ちょうど最終上映ぎりぎりだった『冬冬の夏休み』を含めたホウちゃんの初期作品がまとめて鑑賞できたので良かったです。

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『風櫃の少年』は6年前のフィルメックス以来の再見。
展開がわかっているので、今回は寂れた膨湖島を駆け回る悪ガキどもの服の着こなし等の身体の見せ方、島に強く吹きつける風の音、フィクスで撮影された長回しの画面(建物の構造を生かした人物の動かし方、見せ方がよかった)など、画面作りやサウンドに注目しながら観ていた。失敗ばかりでどうもうまく行かないし、兵役を控え一緒に馬鹿騒ぎできる時間は短いけれど、それでも精一杯生きて愛して短い少年期を楽しもうという80年代初頭の若者たちの姿はどんな時代にも場所でもどこかに響くところがある。
先の感想にも書いた通り、若き豆導こと鈕承澤や庹宗華が見られるのも楽しみではあるけど、豆導、ああ豆導よ…(あえて具体的には言わず) 

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風櫃に続く『冬冬の夏休み』はスクリーンでは初見。
これも学生時代に論文の資料として観て以来。
冬冬と婷婷の兄妹の父親役はヤンちゃんことエドワード・ヤン監督で、音楽も担当。ということは、小学校の卒業式で流れる「仰げば尊し」で始まり「赤とんぼ」で終わる選曲もやはり彼によるものなのだろうか。小学校最後の夏の子供らしいノスタルジアより祖父母や叔父などの大人たちの事情が前面に出ているので、子供映画的には感じないし、子供たちも子供扱いされていないようにも見える。
夏休みの舞台となる銅鑼駅は苗栗より2駅南にいったところだが、80年代だからか台北とあまり離れていなくても田舎感は満載。冬冬の祖父の病院が駅近くの統治時代からある雰囲気の大きな屋敷なので、祖父の街での立ち位置もわかる。ドラ息子の叔父、普通に怖い強盗コンビ、そして頭の弱い若い女性の寒子(ヤン・リーイン)のような存在も当時の田舎的と思って観た。寒子といえば、妊娠が判明して堕胎をさせるかどうかという場面には改めてショックを受けた。当時の彼女のような女性の立場ってやはりこういうものだったのかと。
こちらも画面の作り方には改めて注目してみた。じっくりと画を見せる少し長めのショットや、2つの部屋の様子を柱を使って画面を割るように見せたりするので、一つの場面としての印象も強くなる。風櫃同様、台湾ニューシネマの定番というだけでなく、よい映画のお手本的な意義もある映画。

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写真家を目指すCM製作スタッフ幸慧(鳳飛飛)と事故により一時的に失明した研修医金台(ケニー・ビー、以下阿B)の恋を描く『風が踊る』は初見の作品。初期三部作の1本であり、澎湖→台北→鹿谷と場所を変えて歌と共に進行する愛らしきラブストーリー。
私が知っている阿Bは香港映画にハマった90年代以降なので、ああ、阿B若い…と思ったのは言うまでもない。彼が演じる金台の設定や、CM業界で働く幸慧が兄の要請で彼の務める鹿谷の小学校で短期間の代用教員を務めるなど、物語の進行がかなり強引に感じたのだけどそこは目をつぶりましょう(笑)現在の建物になる前の素朴な台北駅等、80年代台北のロケも見所。『冬冬』にも出た立派なレンガ建築の台大病院も登場。
ところで鹿谷は南投縣で凍頂烏龍茶の生産地として有名なところ。今はどんな景色が見えるのだろうか。

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台湾ニューシネマの記念碑的作品である『坊やの人形』は、黄春明(代表作の『さよなら・再見』を学生時代に読んでいた)の短編を映画化したオムニバスで、それぞれ60年代台湾の庶民生活を描いている。ホウちゃんが監督したのはタイトルにもなっている『坊やの人形』。嘉義に近い竹崎を舞台に、職にあぶれた青年が、妻子を養うために映画館に自らを売り込み、新聞記事で読んだ日本のサンドウィッチマンを真似して映画を宣伝して回るという話。貧しさの中にある喜びや切なさが強く感じられた。映画的にはもちろん第1話がとにかく素晴らしいのだけど、第2話の世知辛さや衝撃的な結末、第3話の思わぬ展開にも注目した。働く男の甲斐性がテーマのようで、男たちの喜怒哀楽が強め。
ところでこれらの4作品でよく観かけたのが、現在も映画界で活躍する楊麗音(風櫃、冬冬、坊やの人形第1話に出演)と当時は売れっ子子役だった顔正國(冬冬、風が躍る、坊や第3話出演)。特に顔正國は近年三池崇史監督の『初恋』に台湾マフィア役で出演しており、観ていたのに教えてもらうまですっかり忘れていた。さらに20年くらい前に薬物使用で逮捕され、服役して芸能界に復帰したということも教えてもらって初めて知ったのであった。

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今回は観られなかった上映作品をいくつか。まずは『台北ストーリー』
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こちらの写真も再掲。

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そして『童年往事』。これも昔TV放映(しかも地上波)で観たきりだったからスクリーンで観たかった。
東京では毎年同じ作品ばっかりやってるとよく言われる傑作選だけど、地方まで持ってきてもらえる機会は本当に少ないので、こうして上映してもらえるのは本当に嬉しいのですよ。

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これも上映してくれたんですよ。観たかった…

再見である風櫃と冬冬は、以前も書いたように学生時代が初見。卒業しても台湾に通ったりして、歴史的背景や具体的な地名を覚えていくうちに、ちょっとした場面でもその裏にあるものやら何やらいろいろ考えるようになり、昔と見方がずいぶん変わってきた。この見方が学生時代にあれば、もっと良い卒論が書けたのに…と思っても後の祭り。でも、学生時代に親しんだものを、今も変わらない思いで親しめるのは嬉しいものである。

そういえば、戒厳令が解除されてもう30年も過ぎた(今年で35年になる)。
ホウちゃんが『悲情城市』を製作したのは、戒厳令の解除により白色テロのきっかけとなった2.28事件を描けることができたからだが、戒厳令の末期に今回観た初期作品群を発表できたことに、ちょっと気がついたことがある。
実は2年前に地元の上映会でヴィクトル・エリセの『ミツバチのささやき』を観たのだが、この作品が当時のスペインの独裁政治の末期に作られていた(1973年)ということを聞いて、台湾ニューシネマの登場期と当時の台湾の時代背景に似ていると鑑賞時に感じたのであった。『ミツバチ』には当時の政治への批判を匂わせるところがあったそうで、そのような視点はホウちゃんの初期作品群にはないように思えたのだが、時代と社会の転換を背景に登場したという点ではわずかに重なるところがあるのかもしれない。

ということを新たに考えつつ観たけど、最後のはあくまでも個人的意見であるのでご了承を。

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