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2021年9月

シャン・チー テン・リングスの伝説(2021/アメリカ)

サンフランシスコのホテルで駐車係をしている華人の青年ショーン(シム・リウ)。同僚で10年来の親友ケイティ(オークワフィナ)とカラオケで歌いまくって朝まで遊び歩いたりと、自由気ままな生活を謳歌していた。ある日、マカオに住む妹シャーリン(夏令/メンガー・チャン)から便りが届き、それと時を同じくしてショーンの周りに怪しげな男たちが出没するようになった。彼らは千年の永きに渡り世界の裏で暗躍してきた犯罪組織「テン・リングス」のメンバーで、その首領シュー・ウェンウー(徐文武)はショーンことシャンチー(尚氣)の実の父親だった。テン・リングスからの刺客から逃れたシャンチーは、ケイティと共にシャーリンの待つマカオに向かうが、そこには数多くの罠が仕掛けられていた…

アイアンマンやキャプテン・アメリカなど数多くのヒーローを生み出し、2010年代は彼らがチームとなって強大な敵に挑むさまを『アベンジャーズ』シリーズとして製作してきたマーベルスタジオ。ディズニーの子会社となって今や米国を始めとした世界のエンタメの頂点に上り詰めた感もあるこのスタジオが作り続けたマーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)も、2019年の『アベンジャーズ・エンドゲーム』をその集大成として一区切りを迎えた。
2020年代を迎え、ポスト・アベンジャーズの新フェーズに入ったMCU。エンドゲームで何人かのキャラクターが退場し、また新たなキャラがそこに加わることとなったが、その先陣を切ってデビューしたのが、マーベル初のアジア人ヒーロー『シャン・チー』
監督は『ショート・ターム』『ガラスの城の約束』『黒い司法』を手掛けたハワイ出身のデスティン・ダニエル・クレットン(ちなみに彼の作品の常連俳優であるブリー・ラーソンは、現在のMCUの中心をなすキャラクターのキャプテン・マーベルも演じている)タイトルロールを演じるシムは中国生まれカナダ育ちの新人俳優で、実質上の初出演映画が初主演というラッキーボーイ。
しかし、この映画で最も驚かされたのが、近年「香港のレジェンド」と称されるようになったトニー・レオンが、御年59歳にしてハリウッドデビューを飾ったこと。役の名はウェンウー。トニーにとっては初の本格的な悪役(ヴィラン)で、初の成人した子供がいる父親役である。

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ジョン・ウーが『フェイス/オフ』を監督し、チョウ・ユンファがハリウッドデビューを控えていた1997年。『ブエノスアイレス』が世界的に高い評価を受ける中、当時のトニーは日本の雑誌のインタビューで「ハリウッドに行く気はない。アジア人にはどうしても悪役が回ってくるから」というようなことをコメントしていたのをふと思い出した。共演したレスリー・チャンも別の媒体で同じようなことを言っており、両者ともその発言通りに中華圏で活動を続け、国際映画祭やアーティスト活動で知名度を広げていった。
『花様年華』『ラスト、コーション』『レッドクリフ』二部作に『グランド・マスター』と2000年代のトニーは次々と国際的な話題作には出演していったが、2010年代後半は出演作も減少した。さらには2018年には長年マネジメントを委託していた澤東公司との契約を終了し、実質上フリーになっていた。今後どのような作品に出演するのかと思っていた頃に2019年にマーベルから発表されたのが、『シャン・チー』への出演だった。長年のトニーファンとしては、これは喜ばしいというよりも意外性と驚きに満ちたニュースであった。

「ハリウッドに行く気はない」発言から24年、花様年華でカンヌ映画祭最優秀男優賞を受賞してから21年。この間の様々な変化を考えながら、なぜトニーがハリウッドに行ったのか、ということを考える一方、MCU作品の変化等も考えながら、今回は感想を書いていきたい。

★ここから先は『シャン・チー』本編及び複数のMCU作品の内容に触れています。
なお、タイトルは『シャン・チー』ですが、中国人名は音で日本語表記する場合は名前に「・」を入れないので基本的に「シャンチー」と表記します。


1・自分の知識内だけで試論的に述べてみるMCU映画としてのシャンチー

私は香港映画を始めとする中華電影迷を名乗ってはいるが、実質上は洋邦及び公開規模を問わず、地元の映画館で公開される映画は何でも観る傾向にある。MCU映画も例外ではなく、いくつかのシリーズを見落としてはいるが、8割方は観てきたと思う。お気に入りのキャラクターであった『アイアンマン』でも、の公開時に別のblogでかなりふざけまくった感想を書いているくらいなので、参考としてリンクを貼っておく。

スーパーヒーロー映画といえば、どうしても勧善懲悪と思いがちである。世界各国のメディアで多くのヒーローが誕生した20世紀は、冷戦構造で敵味方がはっきり分かれていたこともあり、それでも問題はない実に牧歌的な時代であった。
そんなヒーローたちに囲まれて、我々は成長してきた。
21世紀になり、冷戦の終了から世界の対立が変化し、過去10年間でも新たな分断と対立が表面化してきた。そんな時マーベルが製作した映画は、一癖も二癖もある多種多様なヒーローたちの物語であり、社会状況の変化とともにその内容をアップデートさせてきた。2010年代後半のハリウッドで問題提起されたダイバーシティ(多様性)やインクルージョン(属性の包括)、metooムーブメントを受けてブラックパンサーやキャプテン・マーベルが新たに登場したり、ブラックウィドウの初登場時からの大きな変化や、アントマンと共に戦うワスプの登場など前線で戦う女性キャラクターも増え、時代の変化をうまく読み取ってシリーズを広げてきた。
また、MCU以外に目を向けると、ハリウッドでは主要スタッフもキャストもすべてアジア人という『クレイジー・リッチ!』の大ヒットが起こり、さらに中国での映画市場が世界2位の位置につけるなど、米国内外的にもアジア(特に中国語圏)の存在が大きくなってきていた。(それはつい最近発生した国内でのアジア人差別というネガティブな動きも含んでの話でもあろう)
全宇宙の人口半減という企みを持った最大の敵サノスを迎え撃ったインフィニティ・ウォー&エンドゲームで2010年代のフェーズを一区切りし、トニー・スタークやスティーブ・ロジャース、ナターシャ・ロマノフなどのアベンジャーズ初期メンバーが「退場」した後、次に語る物語には世界の流れも見据えた多様性や多文化共生が必要と見たのだろう。それで、ブルース・リーがアメリカを始め世界を席巻していた1970年代生まれのこのカンフーヒーローが満を持して登場することになった。もちろん、先に挙げたような中国市場を狙っていることもあるだろう。

一方、マーベルと双璧をなすアメコミブランドであるDCコミックスの作品では『ダークナイト』シリーズや『スーサイド・スクワッド』などで、ジョーカーやハーレイ・クインなどかなり個性の強いヴィランが活躍し、タイトルロールとして独立した作品もある。もちろんマーベルでも、先に挙げたサノス、ソーに対するロキ、スパイダーマンシリーズから生まれたヴェノムなど魅力的なヴィランが登場しているが、DCのジョーカーのように、近年はヴィランにもドラマティックな背景を設定して主人公と対峙させる傾向にある。もともと、シャンチーは父親が英国の作家によって生み出された怪人フー・マンチューの息子としてコミック版で設定されており、やがてその名前が使えなくなったために実際にコミックに登場することはなくなったという。しかし彼はマンダリンと名を変えてアイアンマンに自らの組織テン・リングスを率いて登場することになったため、その設定をさらに映画に生かしたのが、今回のウェンウーとなったという。そして、この役にトニーを迎えるために加えられた設定が、まさに彼にしか演じられない役どころとなっていたのに驚いた。クレットン監督も加わった脚本陣も、そのスタッフも、本当にトニーに惚れ込んで三顧の礼を尽くしたのではないか、と考えてしまった。

2・世界よ、これがトニー・レオンだートニー・レオンによる愛の映画としてのシャンチー

千年不老で権力欲の権化(という表現でいいかどうか…)である犯罪組織テン・リングスの首領ウェンウー。
これまでマーベルコミックに登場したテン・リングスの首領はマンダリン始め様々な名前で呼ばれてきたが、みな彼の偽名で替え玉も使っている(そのうちの一人、偽マンダリンことトレヴァーを演じたのが『アイアンマン3』に続いて登場のベン・キングスレー御大!)ので、正体は謎のままだった。
この謎に満ちた存在であるウェンウーは、常に笑みを浮かべており、何を考えているのかわからないところがある。その一方で妻でありシャンチー&シャーリン兄妹の母であるインリー(映麗/ファラ・チャン)を失ったことで、息子を自分の跡取りとして厳しく鍛え、暗殺者として育ててしまう一種の激しさがある。確かにこれはネグレクトとしか思えないし、シャンチーにとってのウェンウーは毒親と言われるのも大きくうなずける。本当に迷惑な父ちゃんである。
しかし、この映画を「トニー・レオンの映画」として観てみると、シャンチーには申し訳ないが、このウェンウーがトニーが演じるに相応しい、実に魅力的なキャラクターに仕上がっていたのだ。ずるい。こんなキャラクターを生み出してしまうのって本当にずるい。そして簡単に彼をヴィランなどと呼んじゃいけない。とつい感情的になってしまって申し訳ない。

千年間も悪事を尽くしてきたウェンウーが狙った豊かな村での運命の出会い。映画の冒頭で展開される勇敢な戦士インリーとの舞うような戦いには、この男が本当に邪悪な盗賊なのかと疑ってしまうほどの美しさを見出せる。後半の舞台にもなる大羅(ダーロー)村の色彩は実に美しく『グリーン・デスティニー』や『HERO 英雄』を思い出させる。この戦いで彼は打ちのめされ、そして彼女を愛してしまう。千年生きてきた先にウェンウーが見つけたのはこの愛である、という描き方は、トニーが数々の愛に生きる男を演じた姿を何回も観てきた我々には非常に説得力がある。そして、その愛が彼の手から失われてしまったらどうなるか、ということもよくわかる。
すでに30年近くトニーに付き合っている我々にはすっかりお馴染みの展開であるのだが、これをハリウッドの、しかもマーベルコミック映画として堂々と取り上げたのはお見事である。悪に染まった男がこれまでの人生を捨てるくらいの価値観の変換をその愛から得て、彼女を失った故の悲しみと狂気を描くのは、これまでのヒーローものでもあまり見たことがない。作り手もトニーだからこそ演じられるキャラクターとしてウェンウーを設定したことには、心から敬意を表したい。
約10年前に『アベンジャーズ』が公開されたとき、「日本よ、これが映画だ。」という上から目線のコピーが物議を醸したが、それを受けてあえて言わせてもらおう。

世界よ、これがトニー・レオンだ。

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3・香港映画は死なないーシャンチーにおける中華電影へのリスペクト

トニーだけではなく、この映画には香港映画を愛する我々にはお馴染みの俳優たちも続々登場する。
闇の力を封じ込めて守る大羅村の長で、インリーの姉でもあるインナン(映南)を演じるのは、25年に近いハリウッドでのキャリアを誇るミシェル・ヨー。彼女と共に村を守り、ケイティを戦士として鍛えるのは、こちらもお馴染みのユン・ワー。香港映画好きならトニーと共に「我らが」と称したくなるレジェンドたちの登場には大いに胸をワクワクさせられて、作り手の香港映画へのリスペクトが強く感じられるのがよい。
先に挙げたインリーとの出会いの場面には『グランド・マスター』での宮二との手合わせも思い出させるし、男女等しく鍛錬に励む大羅村の場面は、キン・フーやツイ・ハークが描く時代劇も彷彿とさせる。インナン&インリー姉妹やシャーリンがともかく武芸に秀でているというのがまさに武侠映画。ついでにテン・リングスが指輪ではなくて腕輪であるというのも『カンフーハッスル』等を彷彿とさせていい。(参考としてtonboriさんの感想もどうぞ)もちろん、序盤でシャンチーがテン・リングスの武闘派レーザー・フィスト(フロリアン・ムンテアヌ)と繰り広げるバス内のバトルは黄金期のジャッキー・チェン作品のようだし、シャンチーの教育係だったデス・ディーラー(アンディ・リー)の仮面は歌舞伎や京劇と同時に『レジェンド・オブ・ヒーロー 中華英雄』に登場する鬼僕も思い出した。その他、シャンチーやシャーリンの部屋を飾るポスターに至るまで見ればきりがないが、ともかく全面的に70年代から2000年初頭までの香港映画および中華電影に対するオマージュとリスペクトが詰まっている。これはもうお見事。シャーリンの髪からハリウッドのバトル系アジアンガールのアイコンでもあった色メッシュが排除されたり、クレジット等に怪しげなオリエンタル的フォントが使われなかったのも「よくわかってる」しるしでもある。

香港映画好きとして、現在大陸が香港に強いている検閲の強化は本当に残念で悔しく、黄金期のような楽しい香港映画が今後登場するのかと考えるとどうしても不安になる。それもあって、個人的には香港映画のテイストを少しでも感じさせるもの(例えば『るろうに剣心』シリーズ)を観てしまうと、もうそれを全力で支持してしまう傾向にある。かつて黄金期の香港映画を支えた人々は去ってしまい、現在は若手監督たちが珠玉の作品を生み出しつつも厳しい状況にあり、一方香港映画人を多く起用した大陸での作品も…といろいろ考えることが多く、香港映画の未来を考えては切なくもなってしまうのだが、華人を始めとしたアジアの映画好きの根幹にある香港映画的なスピリットをちゃんと生かしてくれたスタッフに感謝している。
そして、アクションコーディネーターのひとりが『ゴージャス』を始めとした成龍作品で大活躍したブラッド・アラン。彼はこの映画の公開直前に急逝。ご冥福をお祈りいたします。

4・がんばれシム、ひっかき回せオークワフィナ ニューキッズたちのこととかその他いろいろ

言いたいことはだいたい言ったので、このへんで締めてもいいのだがやはりもう少し。キャストについて。
タイトルロールのくせに今まで全く触れてこなかったシャンチー。シムには大変申し訳ないが(通算二度目)、ティザービジュアルを見て思い切り叫んだ。
「あのトニー・レオンからこの息子が生まれるなんてありえない!」と。
ジャッキーの例を挙げるまでもなく、カンフーヒーローはファニーフェイスである方が親しみが増す(例えば『カンフー・ジャングル』の王寶強もアクションスターであるが、ファニーフェイスを活かした『唐人街探偵』シリーズや『新喜劇王』などコメディを得意とする)のは確かなことだ。それであっても地味である。ほぼ映画初出演が初主演という、まさに朝ドラヒロイン(比喩としては「仮面ライダーシリーズの主演」の方が適しているのだろうが、新人の登竜門としての知名度は朝ドラの方が大きいのであえてこちら)的なサクセスを果たしたとしてもやはり地味である。これだけ地味地味言っているが、決してけなしているのではない。実際演技を見てみると、ちゃんと身体も動くし、本人も意欲的にに取り組んだことがよくわかるし、まだまだ伸びしろはある印象。なによりハリウッドもアジア系の新星を求めているのだろうから(アジア系男優としてすぐ思い出せるのは韓国系のジョン・チョーやマレーシアにルーツがあるヘンリー・ゴールディングあたり。もちろん香港で活躍してきた米国生まれのダニエル・ウーも忘れてはいけない)今後も多種多様な作品で活躍することを望む。
『オーシャンズ8』『クレイジー・リッチ!』等で強烈な個性を発揮するオークワフィナはここでも大活躍。彼女の演技はハリウッドのアジア系女子キャラのステロタイプをどんどん破壊しまくるようで見ていて実に痛快(個人的には繊細さを見せた『フェアウェル』が好きだけど)怖いもの知らずでやかましいけど頼りになるし、シャンチーの運命に付き合ううちに自身も勇敢な戦士として成長する姿は見所あるし、むしろ彼を喰っている。ケイティはMCUの新たなトリックスターになっていくのかな。
その他、やはりこれがハリウッドデビューとなった南京出身のメンガー・チャン(中国名が張夢兒というので、むしろ”メンアル”だと思うのだが、このままの表記でいくのだろう。シムも中国名だと「思慕」らしいし)日本ではJJモデルとしても活躍したという(!)ファラ・チャン等、ニューキッズな華人俳優が一気に登場。
あと、ニューキッズと言っていいのかだが、こんな子も登場。
トレヴァーの相棒にしてインリーに懐いていた(らしい)大羅村の不思議な生き物、モーリス。

Maurice
まさかこの子が山海経に登場する帝江(渾沌)がモデルであったとは。
それに全く気付かない中文系出身者は深く深く反省している。(参考として達而録のこの記事をどうぞ)

ここまでかなり絶賛しているが、それでも不満に思う個所はいくつかあるので、個人的に欠点と思うところをいくつか。
まず、中国市場を狙ったこともあって劇中は中国語(北京語)台詞がほぼ半分という試みは実にいいのだが、トニーの中国語台詞は広東語で聞きたかった。ケイティとおばあちゃん(『007は二度死ね』等に出演したベテラン華人俳優ツァイ・チン)との、英語と北京語の掛け合いがよかったので、ここでは多言語が飛び交う香港映画に倣って、トニーだけでも広東語ダイアログでもよかったと思う(蛇足だが、そういえば多言語会話は現在公開中の日本映画『ドライブ・マイ・カー』でも実験的に展開されていた。演技者のバックボーンを伺わせる表現方法として今後も有効だと思う)
あとは完全ネタバレで書くが、最終決戦となるダークゲ―トの魔物とシュー家の人々と対決場面。最大の危機であるし、ここでウェンウーが退場するのは展開的に致し方ないのだが、その後がどこか間延びしてしまった感もあった。別れの場面はもう少しタメというか情が感じさせられる場面に仕上げてほしかった。それを求めるのはあまりにも贅沢だろうか。あの魔物もここ10年くらいの怪獣映画に見られるどこかキモい(口が悪くて失礼)造形だったのも興ざめであったかな。モーリスを始めとした大羅村の魔物たちやシャンチーが呼び寄せた神龍の造形がなんとかギリギリ中華風味のラインを保っていて感心しただけ、そのあたりは残念だった。

5・とりあえずMCUは脇に置いといて、CEOケヴィン・ファイギに直訴したいこと

運命を変えた大羅村の戦いからサンフランシスコに帰還したシャンチーとケイティのもとにやってきたのは、マカオでニアミスしていたチベット僧のウォン(『ドクター・ストレンジ』の中華系イギリス人俳優ベネディクト・ウォン)。彼が二人に引き合わせたのはキャロル・ダンヴァースとブルース・バナー。兄は父から腕輪を継承し、妹は組織を受け継いだ。「指パッチン」後の地球と宇宙にまた新たな危機が迫ろうとしていることを匂わせ、テン・リングスの再来を宣言してこの物語は幕を閉じる。
こうしてMCUの新フェーズが幕を開け、『ノマドランド』で称賛を受けた華人女性初のオスカー監督クロエ・ジャオの手がける『エターナルズ』(メインキャストに『クレイジー・リッチ!』のジェンマ・チャンと韓国のマ・ドンソクが参加)やトム・ホランド主演の『スパイダーマン』シリーズの新作がこの後に続くとのことだが、あまり事を広げたくないのでMCUは脇に置いておく。

SNSに流れてくる動画や記事を読む限り、ともかくトニーが絶賛されまくっているのだが、クレットン監督やシムたちスタッフやキャストはもとより、マーベルCEOのケヴィン・ファイギまでこんなことを言っていて腰を抜かした。

「たくさんの映画スターや伝説的人物とご一緒してきましたが、セットで彼をお見かけした時、ほとんど言葉を失ってしまいました。まるで空から降りてきた異世界のスターのようだったから」

マーベルのえらい人が、ただのファンになっておる…
というわけで、この1作だけで世界中にトニーのファンを爆発的に広げてしまったのは確かなので、できることならファイギCEOに以下のことを直訴したい。
MCUシリーズからのスピンオフとして、ウェンウーの1000年間の人生を描いた『テン・リングス The Beginning』の製作を。それも配信ドラマではなくちゃんとした映画で。これ以上注文をつけるときりがなくなるので、とりあえずこのことだけは直訴する。どうか前向きな検討を願いたい。

終わりに

最初に提示した「かつてハリウッドに行くつもりがないトニー・レオンがなぜシャンチーに出演したのか?」という問題に対しては、ここまで考えると、全てが良いタイミングが揃っていたということで結論にしたい。先にも挙げたハリウッド及びMCUのアップデート、スタッフ陣の熱いラブコールはもちろん、マネジメントの変更、年齢的なタイミング、そして映画業界の変化など、様々な要因がハリウッド進出にいい方向に向かったということで、『悲情城市』『恋する惑星』から長年ファンをしている身としては、この成功とハリウッドデビューを心から喜んでいる。今後は数本の映画撮影に加え、久々のドラマ参加も控えている(何とかして観たい…)そうで、あくまでも香港を拠点に場所を問わない活動をしていくようなので、コロナ禍明けが待ち遠しくなる。

しかし、若いころから侯孝賢や王家衛といった世界的に評価の高い中華圏の監督作品に参加し、カンヌ映画祭でアジア人として2人目の最優秀男優賞を受け、『インファナル・アフェア』はハリウッドと日本でリメイクされ、日本も資本参加した『レッドクリフ』二部作の主演も務めてきた香港を代表するこの俳優が、たった1本の大作映画(しかもアメコミ原作)で一気に知名度が上がり、言うなれば「再発見」されてしまったことには複雑な気持ちを抱いてしまう。それもまたハリウッドの威力のすごさでもあるのだが。
それでも、新たに彼を知った人には過去作というお楽しみがたくさんある。トニーは1990年代の香港映画黄金期と台湾ニューシネマ最晩期、2000年代の大作中国映画にそれぞれ代表作がある現代アジア映画史の重要人物でもあるし、出演ジャンルも多岐にわかるので、若き頃の彼の活躍に是非魅了されてほしい。そして、いろいろと話ができればとても嬉しい。

 

期間限定公開のようですが、これはやはり載せずにはいられない。
「ネタバレ厳禁!」とのことですが、このblogは鑑賞後に読んでもらうことを想定としていますので、どうかお許しください、ボス。

監督&脚本:デスティン・ダニエル・クレットン 製作:ケヴィン・ファイギ&ジョナサン・シュワルツ 脚本:デイヴ・キャラハム&アンドリュー・ハナム 撮影監督:ウィリアム・ホープ プロダクションデザイナー:スー・チャン 衣裳:キム・バレット 音楽:ジョエル・P・ウェスト
出演:シム・リウ オークワフィナ メンガー・チャン ファラ・チャン フロリアン・ムンテアヌ ベネディクト・ウォン ユン・ワー ベン・キングスレー ミシェル・ヨー トニー・レオン 

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