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ふたたび、香港映画は死なない。

各国の映画賞レースでも一番遅い開催となる香港電影金像奬。
今年は4月16日に第38回の授賞式が開催され、『インファナル・アフェア』三部作の脚本家として知られるフェリックス・チョン監督、チョウ・ユンファ&アーロン・クォック主演の《無雙》(TIFF上映題『プロジェクト・グーテンベルク』以下グーテンベルク)が最優秀作品賞を始め、監督賞など7冠に輝きました。受賞結果等の詳細はアジアンパラダイスさんのblogをご参照ください。

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グーテンベルクは来年、新宿武蔵野館での日本公開決定。改めて邦題もつけ直されるようです。
上映時には今回の受賞結果が宣伝に使われるのでしょう。

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今年の大阪アジアン映画祭で観客賞を受賞し、現在香港で上映中の『みじめな人』はアンソニー・ウォンの主演男優賞、クリセル・コンサンジの新人俳優賞、オリヴァー・チャンの新人監督賞と3部門受賞。
これは観られなかったので、日本公開希望。

今年の授賞式は、意外にも追悼コーナーから開幕。金庸、レイモンド・チョウ、リンゴ・ラム、西城秀樹(!いや出演作ありますしね)などこの1年に亡くなった映画人を振り返ってから、登場したのはベイビージョン・チョイ始め、『レイジー・ヘイジー・クレイジー』のフィッシュ・リウやアシーナ・クォック、『G殺』のハンナ・チャンなど、ここ数年で登場した香港映画を彩る新世代俳優たち。今年は彼らが司会を務めるという面白い構成でした。プレゼンターも、今年のテーマ「Keep Rolling」の発想の元となった日本の大ヒット作『カメラを止めるな!』の主演俳優コンビ、返還直後の香港映画界を支えたニコラス・ツェー&スティーブン・フォン&ダニエル・ウー&サム・リーのジェネックスコップ4人組、錢嘉樂&小豪兄弟、そしてアンディ・ラウ&ソン・ヘギョfrom韓国など、賑やかな面々でした。

今年のノミネートの特徴は、新人監督による香港ローカルの作品が多数ノミネートされていたこと。グーテンベルクやダンテ・ラムの『オペレーション・レッド・シー』は中国資本の入った合作ですが、障害を負い車椅子生活となった男性と彼を介護するフィリピン出身の家政婦の友情を描いた『みじめな人』、生首だけの娼婦の怪死体の発見から始まる奇妙で過激な青春ドラマの『G殺』(チャップマン・トー&ハンナ・チャン主演)リストラの危機にさらされた中年男子たちが端午節のドラゴンボートレースに人生を賭けるン・ジャンユー主演の《逆流大叔》、TIFFで上映された、男として人生を生きてきた中年トランス女性の目覚めを描く『トレイシー』(フィリップ・キョン主演、音楽は21年ぶりの香港映画参加となる『あまちゃん』『いだてん』の大友良英さん!)など、新人監督による作品が目立ちました。
(トレイシー・G殺・逆流は鑑賞済みなので、別記事で簡単な感想をUPします)
近年の金像奬の流れとして、新人監督の手がける香港ローカルの映画への高い評価があり、特に今年は新人監督の当たり年のようにも感じたので、これらの作品が多く獲ってくるのではないかと思われたのですが、結果としてみじめな人が先に書いた3部門、逆流が中堅バンドのRubberBandによる主題歌とサントラの2部門、そしてトレイシーが両助演賞(カラ・ワイ&ベン・ユエン)の2部門受賞にとどまりました。

タイムラインがざわつき始めたのは、グーテンベルクの各部門での受賞が重なり始めた頃。
日本ではすでにTIFFで上映されており、映画祭で観たファンも多かったようですが、受賞に値するほどの作品か?的なコメントを見かけるようになりました。『インファナル・アフェア』の大ヒットから監督に転身し、この10年で盗聴犯シリーズや『サイレント・ウォー』などを監督してきた(最新作は製作を手がけた《廉政風雲 煙幕》)フェリックスさんは意外にも監督としては初受賞だったのですが、製作には大陸のBONAが入った港中合作であり、ここしばらくの香港で評価された作品から比べると、明らかに大作であったので、先に上げたようなコメントが多かったのかもしれません。
私は昨年のTIFFで観られなかったので、香港でBDを購入してきました。あまり偏見を持ちたくないので、しばらく時間をおいてから鑑賞して、判断したいです。
昨年のこのnoteの記事でも書いたのですが、『十年』(16年)『大樹は風を招く』(17年)の作品賞受賞が中国大陸で報道されなかったのは、いずれも香港人監督がローカルなテーマで取り上げられ、しかも前者が雨傘運動を受けて生まれた大陸批判も込められた作品だったからでした。でもその頃から、意欲的なテーマを取り上げた新人監督の力作も増えてきましたし、これまでショーン・ユー以降の世代がなかなか出てこなかった(特に女優は大陸や台湾出身者がヒロインを務めることも多かった)俳優たちも、べビジョンや『29歳問題』のクリッシー・チャウ、『空手道』のステフィー・タンに逆流始め今年は複数の作品と賞でノミネートされたジェニファー・ユーなど、次世代の俳優たちが頭角を現してきました。
(今年の主演女優賞は中国出身のクロエ・マーヤンでしたが、主演作の『三人の夫』はニンフォマニアックな女性の性的な受難と彼女を愛して共に生きる三人の「夫」の姿が香港の過去から未来を象徴するようにも見えるフルーツ・チャンの会心作で、18キロの増量で大地の女神を思わせるような娼婦を演じて過酷なセックスシーンに取り組んだクロエの女優根性には、境界を超えて感服するしかなかったです)
このようにフルーツさんの新作も含めて、今年はローカルで香港ならではのテーマが多く目立ち、それが香港っ子や我々のような映画ファンにも支持されたのですが、その中でグーテンベルクが最多受賞したのはなぜだろうか?と授賞式の翌日からあれこれ考えました。

ウィキペディア日本語版に受賞作一覧があったので、ここしばらくの作品賞を眺めていると、「香港電影結束」と大陸ネットメディアに言われたのが『ウォーロード』(08年)の頃。ここ10年は『グランド・マスター』(14年)や『黄金時代』(15年)のような大陸を舞台にした大作も多い一方、『燃えよ!じじぃドラゴン』(11年)や『桃さんのしあわせ』(12年)など、香港を主な舞台となる佳作が作品賞を受賞していました。監督賞はツイ・ハークやアン・ホイ等ベテランが多く受賞していますが、新人や若手も賞を獲るようになり『コールド・ウォー』が作品賞を受賞した13年にはこの作品を初めて手がけた監督コンビ(と言っても映画現場ではベテランのスタッフですが)も受賞し、『大樹』の時も『十年』を手かげたジェヴォンズ・アウも含んだ監督トリオも受賞しています。

こういう流れを見ると、香港映画は十年代の初めから様々な試みをしており、15年以降は若手の作り手を集めた特集上映や政府のバックアップを得て商業作デビューを果たした監督たちが、それぞれ結果を出してきたのが今回のノミネートに現れたのではないかと考えます。その中で、2000年代からの香港映画の流れを脚本などで主流となって支えたインファナル・アフェアチームの功績を讃え、返還からの20年での大きな変化に一区切りをつけるための、グーテンベルクの受賞だったのではないか、と思えるようになりました。
作品賞の授与でBONA側のプロデューサーの普通話の長いスピーチを聞いて、「あーこれってもしかして大陸側への忖度?」などと最初は思ったのですが、「謝謝香港電影」と何度も繰り返した姿や、フェリックスさん自身がずっと香港を拠点にしてきたことを考えると、たとえ合作であって中国大陸で受け入れられたにしても、この作品はやはり香港映画であり、大陸でもその恩恵を受けてそれに報いるべく製作に情熱を注いだ映画人がいるのだから、一概に批判的に観てしまってはいけないのだろうと反省しました。
「香港映画結束」から10年。この間様々な出来事があっても、香港映画は規模こそ大きくはないものの、新しい世代が登場し、語られるテーマも多様化しました。これらの作品や若いスタッフやキャストがそのまま世界で評価されるのには、まだまだ時間はかかるかもしれません。プレゼンターのカメ止め俳優コンビが「香港映画といえば、ジャッキー・チェン?」と香港人にとってはもう遺跡みたいなもので、30年くらい変わらずに聞かされてきたことを言っていたけど、そんな認識を一気に払拭させる力作が登場することを期待します。
社会制度の変化で不満や意義も増え、古いものがなくなりつつあり、2047年はどんどん近づいてくるけど、そうであっても香港映画は死なない。それを希望と思って、これからも新作を楽しみにします。

ところで10年代前半は金像奬の中継もなぜか大陸のネットメディア経由で発信されていました。当時は回線も重く、RTHKのネットラジオ中継も併用しながら苦労して受賞結果を得た記憶もあります。しかし『十年』のノミネートに大陸メディアが反発し、中継媒体が変わって全世界対象の最新アプリ(opensky)が導入されて見やすくなって、本当にありがたいです。アジア・フィルム・アワードも同じアプリで配信されたし、日本の映画祭のコンペティションや授賞式もopenskyなどを利用して世界発信してもいいんじゃないかって思うんだけどねー。

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