相愛相親(2017/中国・台湾)
シルヴィア・チャン監督の『相愛相親』は、監督自身が演じる主人公・岳慧英が老いた母親を看取る場面から始まる。慧英自身も定年を間近に迎えた高校教師で、自動車教習所の教官である夫と地元TV局に勤務する成人した娘を持つ身であり、ここから物語は彼女の老い支度が始まるのかと思いきや、約20年前に亡くなった彼女の父親との合葬に、田舎に住む父の墓を守る最初の妻が猛反対するという展開になる。
そのおばあちゃんから見れば、慧英は妾の子。しかも「夫に先立たれ、その後ずっと独身を貫いた妻の貞節を称える」などという碑のある村に住んでいるものだから、村人も当然おばあちゃんの味方。おまけに娘の薇薇が撮った村での様子がテレビ局の看板番組に取り上げられることになり、さらに大騒ぎに…。
予告はこちら。
父親の死をめぐり、最初の妻と最後の妻の子どもが争うなどというプロットは決して珍しいものではなく、総じてスキャンダラスに描かれるものであり、かつどこか古臭く感じる。しかし、この映画ではそうならなかった。20世紀後半からの中国の人々の背負った歴史も背景に匂わせつつ、急激に発展した21世紀の地方都市を舞台に、価値観や立場の違う人々のぶつかり合いから和解に至るまでを、ユーモアを交えて温かく描いている。
生真面目で家長を自認しているからこそ、愛し合っていた父と母を一緒の墓に納めたい慧英、貧しさから若いうちに別れることになってしまったけれど、死んでもなお夫を強く愛するおばあちゃん、そして慧英に反抗して家出し、恋人の阿達と共になぜかおばあちゃんのもとに住み着いてしまう薇薇の三世代の描き方が面白い。
慧英の強引さもおばあちゃんの一途さも同じ土俵に載せられているので、人によってはおばあちゃんに同情してしまう人も少なくないだろうし、その狙いも明白である。
ここで物語に客観性を呼び込むのが慧英の夫である尹孝平。妻の尻に敷かれ、家庭でも存在感が薄い、いかにも今時らしいお父さんなのだが、暴走する慧英と母親に不満ばかりを抱く薇薇の間に入って宥める役どころも果たしている。子は鎹ではなく父が鎹と言ったところか。彼を演じるのがあの田壮壮監督。『呉清源』がきっかけで面識ができ、キャスティングも想定して脚本を書いたということだが、その試みは成功していて、いいアクセントになっている。
また、岳家のファミリーアフェアも描きながら、慧英の担任するクラスで問題を抱えている学生・盧くんとその父親で売れない俳優・盧明偉と彼女の関係、西安から北京に行く途中で街にとどまり、ライヴハウスで歌うようになった歌手の阿達と薇薇の発展しない恋愛など、脇の人間関係も興味深い。これらの筋が物語にうまくハマり、慧英とおばあちゃんがそれぞれ決意をして争いを収めようとする結末に向かう。それを思うと、Love Educationという英題からは、自分と異なる人の行動や思考から相手を理解し、考えを深めて次に進むという意味がこめられていると考えられる。
発展著しい中国の地方都市の文化や生活も見え、いろいろと考えさせられながらもポジティヴ良心的な作品。『戦狼』のようなビッグバジェットではなく、第五世代のような巨匠たちの作品ともまた違う中国映画である。一般公開する価値は十分にあるので、各配給会社さんに是非期待したい。
東京フィルメックスではオープニングフィルムとして上映。
2年前に審査員を務めたシルヴィアさんが再び有楽町にやってきました。
上映時のQ&Aはこちらから。
動画は上記の題名にリンクした作品紹介ページでも観られます。
英題:Love Education
監督:シルヴィア・チャン 脚本:シルヴィア・チャン&ヨウ・シャオイン 撮影:リー・ピンビン 音楽:ケイ・ホアン
出演:シルヴィア・チャン ティエン・チュアンチュアン ラン・ユエティン ソン・ニンフォン ウー・イェンメイ タン・ウェイウェイ カン・ルー レネ・リウ
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