« メコン大作戦(2016/香港・中国) | トップページ | ゴッドスピード(2016/台湾) »

シェッド・スキン・パパ(2016/香港)

 現在の東京国際映画祭には、コンペティション部門の他、アジアの新人監督を対象に賞が与えられるアジアの未来部門と、同じく日本映画の監督に与えられる日本映画スプラッシュ部門の3つがある。香港映画はだいたいアジアの未来部門でエントリーされるのだが、2011年の『夢遊〜スリープウォーカー』以来のコンペエントリーとなったのが、香港演劇界で活躍する演出家兼俳優ロイ・シートウ(司徒慧焯)監督の『シェッド・スキン・パパ』
 80年代から香港映画の脚本を手がけ、演劇に主軸を移した近年は『恋の紫煙』シリーズや『カンフー・ジャングル』に脇で出ていたそうだけど、全く気づかず(笑)。
そんな彼の俳優として一番説明しやすい役どころは、自ら脚本を手掛けたレスリーの『夜半歌聲』で演じた、ン・シンリンの婚約者役だと思う。ああ、あのキモいボンボンが、こんなに立派になって…とか意味不明に感慨深くなってすいません。

 三谷幸喜の『笑の大学』が上演されたり(近年はエリック・コット&ジャン・ラムのコンビも出演!)秋生さんやカーファイやカリーナ姐さんも舞台に立つなど、香港も演劇が盛んに上演されている。シートウさんは香港話劇團という劇団に所属して現代劇の演出を多く手がけてきているとか。
原作は2005年に発表された佃典彦氏の戯曲「ぬけがら」。翌年に岸田戯曲賞を受賞しています(ちなみに同時受賞したのが、やはり近年映画化された三浦大輔の『愛の渦』)。自らの劇団や外部公演で何度も上演しているそうですが、2年前には話劇團を迎えた日港連続上演も行ったそうです。これは知らなかった…。

 ある日突然若返っていく父親・田一雄(ジャンユー)と、父親と折り合いが悪い40代の映画監督・力行(古天楽)の物語。母親を失い、妻(蔡潔)とは離婚寸前、監督としてもヒット作が出ず、おまけに同居している父は認知症といろいろ崖っぷちに立たされている。そんな中に父は脱皮して10歳ずつ若返り、死んだ母もなぜか若い姿(春夏)で現れるようになる。

 このお父さんの若返り方が面白い。時に喧嘩っ早かったり、陽気な女ったらしだったり。しまいには母親と知り合った10代(もちろんジャンユーが自ら演じてる!)まで様々な姿を見せてくれる。それぞれの姿には、戦後間もなく移住した大陸からの移民であろう彼の背負ってきた社会が見える設定がなされていて興味深い。香港と大陸との微妙な関係とその変化もやや皮肉っぽく描かれているところもあって、そんなところにはニヤリ( ̄ー ̄)。
 そんな父の姿に戸惑い、生活を引っ掻き回されながら過ごす力行だけど、自分と同世代になってもやっぱり折り合いが悪いというのはなんともはやって感じでさらに苦笑い。でもまあ、そうやって親子はぶつかりあいながらもわかり合っていくもんであるわけだし。 



 舞台では各年代の父親を複数の俳優が演じているそうだけど、これは映像マジックが使える映画なので、80代から10代までを一人で演じるジャンユー無双が見られる。20代までは許容範囲だろうけど、まさか10代までやってくれるとは思わなかったし、それがとってもかわいい。それゆえ、各世代のぬけがらが生命を持ち、若い母親と力行と共に家族で食卓を囲む場面はやっぱり圧巻。一見シュールではあるけど、ファンタジーとして作られているので、可愛らしさとともに父親の人生と共に生活をする喜びにも溢れているようにも見えるのがよかった。

 後は使われている小道具や、全編に渡って見える飛行のモチーフも興味深い。映画監督らしく、力行のアパートの入り口には映画のポスターが貼られているのだが、それが『自転車泥棒』と『ゴッドファーザー』と『野良犬』(ちなみにアキラ黒澤はシートウさんが敬愛する監督だそうだ。Q&Aを参考のこと)で、どこか映画の内容ともリンクするところがあったり、少年時代(ちなみに演じているのはジャンユーのリアル息子ちゃん・ファインマンくん)から力行が好きだったのがガンダムで、その広東語版主題歌を「♪飛飛飛、飛飛飛、飛飛飛~」と歌ってしまうところ、そして挿入歌として使われる「虹の彼方に」。それぞれ意味があり、なおかつかわいらしい。素直にテーマが伝わる、愛らしい映画でした。

 残念ながらコンペでは入賞しなかったけど(今年は作品のレベルが高いとも言われてたしなあ)、プログラミングディレクターの谷田部吉彦さんがかなり力を入れて紹介されていたり、ジャンユー&古天楽の来日等もあって盛り上がったのが何より。久々に日本との結びつきがある香港映画というのもまたいいところ。
 香港ではこれから公開とのことで、どのように注目を集めるかも楽しみ。今後シートウさんはまた演劇の方に戻るとのことだけど、また映画を撮ってもらいたいな。日本でも演劇と映画の両方をこなす演出家も少なくないので、香港ローカルな視点を持った演劇と映画の両者に関わっていただけると香港映画ファンとしてはとっても嬉しいのでした。

原題:脱皮爸爸
監督&脚本:ロイ・シートウ 原作&脚本:佃 典彦 音楽:レオン・コー 音響:トゥー・ドゥーチー
出演:ン・ジャンユー(フランシス・ン) ルイス・クー ジェシー・リー ジャッキー・チョイ クリスタル・ティン

| |

« メコン大作戦(2016/香港・中国) | トップページ | ゴッドスピード(2016/台湾) »

映画・テレビ」カテゴリの記事

香港映画」カテゴリの記事

日本の映画祭」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: シェッド・スキン・パパ(2016/香港):

« メコン大作戦(2016/香港・中国) | トップページ | ゴッドスピード(2016/台湾) »