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山河ノスタルジア(2015/中国・日本・フランス)

 先に書いた『台湾新電影時代』の中で、「台湾映画に比べて中国映画は人間が描けていない」という論評をした映画人がいた。あれ?かつての第五世代は政府やら検閲に文句をつけられようとしても、自分の描きたいテーマをもってスクリーンに人間をうつしだしてきたんじゃないのか?などと、多少昔のことを知っている人間はついそう思いがちなのだが、その中心人物であった張藝謀も陳凱歌も、今やすっかり大作映画の巨匠になっちゃったので、今の時代でなら彼らがそう言うのもまあわからなくはないかな、と多少思い直した。

 ここ数年では中国映画もかなりエンタメ方面によってきたものが日本でも紹介されるようになったが(香港との合作の急激な増加も、もちろんその背景にはあるのだろうけど)、そんな中でも映画作家の作品が引き続き紹介されるのは今や貴重な機会となった気がする。それなら好むと好まざるとにかかわらずしっかり観なきゃ、って気持ちを持っている。特にジャンクーは、中華圏映画の上映がすっかりなくなってしまった地方都市で、ジャッキー作品と同じように日本で公開されたらかならずこっちでもやるという感じになっているのでね、と以前書いたことをまた書いてみる。
 そんなわけで新作『山河ノスタルジア』を観た。

 
 

 1999年、汾陽。ペットショップボーイズの「Go West」に合わせて踊る男女の中にいる沈涛(趙涛)。彼女と実業家の晉生(張譯)、鉱山工の梁建軍(梁景東)は中学の同級生。二人とも涛に想いを寄せているが、彼女は野心を持つ晉生のプロポーズを受け入れてしまう。二人は結婚し、失意の建軍は内モンゴルの鉱山へ転職する。やがて涛は男の子を産み、晉生は米ドルにちなんで「到樂(ダオラー)」という名前をつける。しかしその幸せも束の間、涛と晉生は離婚し、ダオラーは晉生に引き取られて上海に移り住む。
 2014年。涛は汾陽でガソリンスタンド会社経営により実業家として成功し、高級マンションに暮らしてはいたが、最愛の息子の不在に寂しさを覚えていた。久々に汾陽を訪れた建軍とも再会するが、昔のような関係には戻れないことを知る。そんな中、友人を訪ねて出かけた父親が旅先で急死。涛は上海からダオラーを呼び出し、しばらく一緒に生活するが、息子は幼いころに別れた母親を本当の母親と思えない。そして、涛に間もなく父と共にオーストラリアに移住することを告げる。
 2025年、オーストラリア。ダオラー(董子健)は19歳の大学生になっていた。晉生は銃刀法の改正に乗じて、本物の銃を売りさばいて大金持ちになっていた。すっかり中国語を忘れてしまい、父とも話ができなくなってしまった彼は、カナダから移住してきた香港出身の中国語教師ミア(シルヴィア)と出会い、彼女の講座を受けることになる。
 母親と同年代のミアとダオラーはたちまち恋に落ちてしまう。彼女との恋愛で彼が得たものは、遠く離れてしまった故郷と、全く覚えていない母への郷愁だった…。


PSB版はリアルタイムで聴いたので曲は知ってたけど、このMVなかなか強烈…。

「Go West」がかなり印象的な使われ方をしていると聞いていたけど、確かにファーストシーンで涛たちが踊るのに合わせてこの曲がかかるのは強烈。2年前のドキュメンタリーで、彼は自らの映画の原体験や青春時代を語っていたけど、当時の中国の地方都市のいかにも田舎ーな風景とこの曲とのマッチングに、これで同時代感を覚えても間違いではないのだ、と改めて思わされた。
 でも印象的だったのは断然こっちの方。サリー姐さんのこの曲。
こっちの方がジャンクーらしいし、90年代の中華好きには親しみ持てるよね?

 先のドキュメンタリーでは『プラットホーム』の現代版を作ると言っていたけど、この第1部がまさにそれか、と思った。時代はあれより10年後になるけど、主人公の三人がリアルタイムで青春を送り、ジャンクーも経験した時代。そういえば建軍役の梁景東もプラットホームに出ていたんだっけ。これを経てもう一度見直すと、印象も変わるんだろうな。それもあって、涛が中心になる第1部と第2部はいかにもジャンクーらしい。

 だけど、それらよりよかったと思ったのが、ダオラーが主人公となる第3部だったりする。そしてこれがあるからこそ、ジャンクーが何を描きたかったのかハッキリした。それは愛だった。愛と言っても、男女間の恋愛も含む、母性愛に親子愛、そして故郷への愛。西へ行こうと踊りながらも、結局は故郷に留まる涛と、母の思い出が薄く、自由な地に生きても不自由を感じるダオラーを結ぶのがその愛で、個々の想いにそれが集約される。そこにグッと掴まれるし、ラストで雪の舞う汾陽の地で中年になった涛が再び「Go West」を踊るのは、ある意味方角的には西を目指して舞い戻ってくるだろうダオラーとの再会を期待されるようにも感じるしね。

 とかなんとか言いつつも、実はシルヴィア姐さんがよかったんですよ。
ご本人のキャリアを彷彿とさせ、かつ40歳年下の男の子と恋に落ちてしまう役どころだから。しかもちゃんとそこに説得力があるからいい。ああ、あと20年くらいしたらワタシもこーゆー女になりたい(無理)。
 あと、ダオラーを演じた董子健も印象的だった。ググってみたら東京倶樂部さんで紹介されていて、『カンフーハッスル』のあの粥麺屋のおっちゃんがお父ちゃんと知って驚き。1993年生まれとなると、日本だと菅田将暉くんや福士蒼汰くんと同じか。現在台湾で公開中の《六弄咖啡館》にも出演しているとのことなので、今後いろんな映画で顔を観る機会が増えそうだな。
 しかし、ちょっと前ではジャンクー映画って趙涛を始めいつも同じ面々(今回も韓三明はもちろん出ていた)だったのに、ここ数作はメジャーな俳優がどんどん出演してくるよなあ。『カンフー・ジャングル』でも書いたけど、王寶強を知ったのも『罪の手ざわり』からだったわけだし。まあ、こういう進化は嫌いじゃないし、それあっても我が道を行ってる感はあるわけなのでね。

 とりとめのない感想になりそうなので、ここで締めますか。
でも最後に音楽について。ここしばらくは行定勲監督作品でお名前を目にすることが多かった半野喜弘さんが久々にジャンクー作品に復帰。最近のホウちゃんとジャンクー作品の音楽は林強と彼がそれぞれやっているって感じを受けるけど、画面に馴染むサントラは割と気にいってます。初監督作品の『雨にゆれる女』が今年公開予定とのことで、フィルメックスで上映があったり、ホウちゃんやジャンクーと何かしら絡んで展開できたら面白いかなーと希望しております。ああ、なんかものすごく話題が離れてしまった。まあこういう時でしか書けないので、許してくだされ。

原題&英題:山河故人(Mountains may depart)
監督&脚本:ジャ・ジャンクー 製作:市山尚三 撮影:ユー・リクウァイ 音楽:半野喜弘
出演:チャオ・タオ チャン・イー リャン・ジンドン トン・ズージエン シルヴィア・チャン

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