« 台湾人作家の見る日本×日本人翻訳家の見る台湾@不忍ブックストリートweek2016 | トップページ | 山河ノスタルジア(2015/中国・日本・フランス) »

台湾新電影時代(2014/台湾)

 2014年に続いて開催の「台湾巨匠傑作選2016」で上映されたドキュメンタリー『台湾新電影時代』。前回の特集上映は都合により観ることができなかったのだが、せめて新作くらいは観たいと思い、連休に新宿まで観に行った作品。

 1980年代、世界の映画祭で注目を集めた台湾ニューシネマ(新電影)。その中心にいた侯侯孝賢やエドワード・ヤンの旧作をはさみつつ、彼らの作品に衝撃と影響を受けた世界の映画人たちのインタビューで綴られたドキュメンタリー。タイのアピチャッポン・ウィーラセタクンから始まり、フランスのオリヴィエ・アサイヤス、『悲情城市』が金獅子賞を受賞したヴェネチア映画祭の元ディレクターのマルコ・ミュラー、欧米におけるアジア映画評論の第一人者&翻訳者トニー・レインズを経て、日本からはホウちゃんの『珈琲時光』で彼の撮影現場を経験した浅野忠信くん、東京フィルメックスディレクターの市山尚三さん、映画人からは是枝裕和さんと黒沢清さん、そして佐藤忠男さんが登場。さらに大陸からはジャ・ジャンクーと田壮壮、そしてアイ・ウェイウェイまで登場。そうそう、香港からはシュウ・ケイさんやアン・ホイさんもいたかな。台湾人だけどシルヴィアさんも香港サイドで見ちゃっていいだろうか?


 インタビューの間にMRTの高架や山あいを走る台鐵の景色、『恋恋風塵』劇中の列車の場面が挿入されるので、まるで電車で世界旅行をするような気分で観ることもできる。
 取材者がほんとうに様々なスタンスなのが面白い。同世代のアピチャッポンやジャンクーはいかに台湾ニューシネマから影響を受けたかを彼らなりの熱さで語り、台湾ニューシネマを発見し注目した欧米人たちはあの頃の衝撃を話し合う。香港や大陸の映画人たちは自分たちの作品と比べながら語る。特に大陸の評論家達による「中国映画には台湾映画のような人間が描かれていない作品が多い。『覇王別姫』なんかそうじゃん」みたいなクロストークには笑った。と言うか苦笑いしつつこのヤローって思ったのが本音かな。

 全体的にアジアの映画人の話に共感するのは、自分自身もアジア人だしねってのがあるのだけど、一番興味深かったのが日本の映画人たちの話だった。実際に現場に関わった人も多いし、佐藤さんのように80年代から多くの作品を観てきた方もいる。キヨシは「ボクはエドワード・ヤンが好き」と語っていたが、確かにヤンちゃんの旧作を見直しながらキヨシ作品を観てみると、どこか似たような雰囲気を覚える。
 そして、ホウちゃんとヤンちゃんをとりあげた『映画が時代を写す時―侯孝賢とエドワード・ヤン』(1993)をTVディレクター時代に演出していた是枝さん。このドキュメンタリー自体は観ていないけど、彼が早い時期から台湾映画に関心を寄せていたことは知っていたし、実際の作品にもホウちゃん的な味わいを見ることができるので、ワタシも好きな日本の他監督である。
 その彼の亡きお父上が台湾出身の湾生だと知ったのは実はつい最近だったりする。インタビューでもその件について語られているけど、昨年たまたまどこかで嘉義農林を出られたと聞いて、なんという偶然!と驚いたもので。『童年往事』に寄せて、嘉農を出てそのまま出征し、シベリアで敗戦を迎えて帰国したお父上が、パイナップルは台湾のほうが美味しかったと言っていたという思い出を語っていたのだけど、これもまた一つの童年往事のような、などと思ってしまったのだった。いつか台湾をモチーフに映画を撮ってほしいなあ。

 ところで「自分の作品はニューシネマとは思わない」と語っていたミンリャンを含め、台湾映画にはうっかりすると記憶が遠のいてしまう(つまりいつの間にか寝てしまう)ことが多少あって、こりゃまずいなーと思うことがたびたびあるのだが、最初のほうで確かアピチャッポンが「観ていると気持よくてついまどろんで寝てしまうことがあるのだが、それは決して惜しいと思わない」というようなことを言っていたので、そうか、それはあながち間違いではないのか、と思い直したのは調子良すぎるでしょうか?(笑)
 今は旧作のリマスター版上映も多いし、昔観て記憶がとぎれとぎれになっても再見してその良さを確認できる時代なので、やはり「午前十時の映画祭」で上映される作品と同じように、これらの台湾映画の秀作も定番のようにたくさん上映されてほしい。ええ、大都市圏だけじゃなくて、地方でもね!

 で、そろそろ日本で観られることを期待してもいいんですよね、『牯嶺街少年殺人事件』については?

原題&英題:光陰的故事―台湾新電影(Flowers of Taipei - Taiwan New Cinema)
監督:シエ・チンリン 製作総指揮:シャオ・イエ 製作:アンジェリカ・ワン
出演:ホウ・シャオシェン ツァイ・ミンリャン ジャ・ジャンクー アピチャッポン・ウィーラセタクン オリヴィエ・アサイヤス マルコ・ミュラー トニー・レインズ ワン・ビン ティエン・チュアンチュアン アイ・ウェイウェイ シュウ・ケイ アン・ホイ シルヴィア・チャン 浅野忠信 市山尚三 佐藤忠男 黒沢清 是枝裕和

| |

« 台湾人作家の見る日本×日本人翻訳家の見る台湾@不忍ブックストリートweek2016 | トップページ | 山河ノスタルジア(2015/中国・日本・フランス) »

映画・テレビ」カテゴリの記事

台湾映画」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 台湾新電影時代(2014/台湾):

« 台湾人作家の見る日本×日本人翻訳家の見る台湾@不忍ブックストリートweek2016 | トップページ | 山河ノスタルジア(2015/中国・日本・フランス) »