『歩道橋の魔術師』呉 明益
今回から3月末までは、昨年から読んできた中華圏絡みの本の紹介と感想をあげていきます。とはいえ相変わらずの不定期更新となりますがご容赦を。
まずは現代台湾のベストセラーである、呉明益の『歩道橋の魔術師』から。
これは2012年に台湾で出版された連作短編集。
1961年から92年まで、台北の中心地・中華路に沿って建てられていた商業施設、中華商場。ここで育った子供たちが成長して当時を回顧する形で綴られる。今はない施設や文化や人物などに共通の思い出があることを「集體回憶」と呼ぶらしく、まさにそれ。
中心となる年代は1980年代初頭。その頃に小学生だった人々が、それぞれの中華商場での思い出を振り返る。同じ頃に少年時代を過ごしても、現在の立場はもちろん違うし、思い出だってそれぞれ異なる。だから、全てがただ甘いだけの三丁目的ノスタルジーに陥ることは決してない。親しい人の死があったり、甘く苦い恋の顛末があったり、ちょっとした怖さもあったり。そして、中華商場と街をつなぐ歩道橋に立つ魔術師。それらの出来事を反芻して、現代に生きる主人公たちがあの頃と今のつながりを思う。だから、昔はよかった的な語りではなく、異文化であるこちら側も共感ができるんだろうな。登場する人々の描写も豊かなのもいい。
冒頭のエピグラフがガルシア=マルケスなのでマジックリアリズムな点で通じるところがあったり、喪失を想うスタイルが村上春樹っぽいと感じさせたりするのだろうかと思うのだけど、これまで読んできた台湾小説はもちろん、古今東西の小説のどれにも似ていないとワタシは感じる。うん、それでいいんだと思う。
ところで、ワタシが台湾に留学していた頃には、まだ中華商場が存在していたし、一人ではなく友達と一緒だったけど、歩いてみたこともあった。数年後の取り壊しが決まっていたこともあって、古ぼけたままで時代に取り残されているように見えた。だけど、そんな建物だって、人の生きてきた証がたくさん詰まっている。それを読んで確信したのはいうまでもないのであった…って当たり前ですね。
これを読んだことでワタシも中華商場を思い出すことができた。今度台北に行って中華路を歩けば、記憶の中の建物を風景の中に見ることができるだろうか。
そして、この記憶はもう少し持続するのであった。
なぜならこれを読んで間もない頃だった昨年の夏、直木賞を受賞した東山彰良さんの『流』に再び中華商場が登場したからであった。
そんなわけで次の感想は『流』になります。よろしく。
| 固定リンク | 0
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 【ZINE新作】21世紀香港電影新潮流(2024.01.22)
- 20周年を迎えました/新作ZINE出します(2024.01.14)
- 【ZINE新作】『台カルZINE Vol.2』ほか(2023.06.26)
- 新年快樂!&イベント参加のお知らせ(2023.01.27)
- 【近況報告&お知らせ】通販部再開しました他(2022.11.12)


コメント