破風(2015/香港・中国)
2年前の『激戦 ハート・オブ・ファイト』以来のTIFF登場となるダンテ・ラム作品『破風』は、自転車王国台湾から始まる、サイクルロードレースにかける若者たちの熱い物語。主演は激戦に続いて登板のエディ・ポンに、『サンザシの樹の下で』のカナダ出身のショーン・ドウ、そしてK-POPグループスーパージュニアのメンバーで『墨攻』のチェ・シウォン(来年日本公開の學友さんやニックさんや張震出演の『ヘリオス 赤い諜報戦』にも出演)。…あれ?香港映画なのに香港人がメインキャストにいなくない?
プロのサイクルレーサー、仇銘(エディ・ポン)は高雄のサイクルチーム、ラディアントに加入した。同時に加入した邱田(ショーン・ドウ)と共に、韓国人エースの鄭知元(チェ・シウォン)を引っ張るアシストに抜擢され、全島レースで成績を上げる。仇銘と邱田は練習中に出会った女性アマチュアレーサー黄詩瑤(王珞丹)に恋をするが、彼女は仇銘を選ぶ。
アシストながら時に強引な突破を試みる大胆さが玉に瑕の仇銘と真面目にアシストを務める邱田、そして知元は友情を深めていくが、チームからスポンサーが撤退することになり、絶好調なはずのラディアントは解散に追い込まれる。監督の立(連凱)は仇銘に香港のチーム・アイオロスへの移籍を用意し、彼はエースとして迎えられる。邱田と知元もそれぞれ新天地へと旅立ち、香港と上海のレースでは敵同士としてレースを戦うことになる。
しかし、仇銘は大胆さが災いして悪評を呼び、邱田は心肺能力の弱さを指摘されたことから薬物に手を出してしまい、共にレース界から失脚する。仇銘は詩瑤の愛を失ってしまい、邱田は釜山で競輪選手となる。さらに詩瑤は女子スプリントレースの事故でアキレス腱を断裂してしまい、選手生命の危機に立たされる…!
いやあ、爽やかだった。ものすごく爽やかなスポーツ映画。
サイクルロードレースについては、アニメ映画『茄子 アンダルシアの夏』や近藤史恵の小説『サクリファイス』くらいでしか知識がないが(最近人気の『弱虫ペダル』は観てないんだ)、チームで走りながらも記録と表彰はエースのみという特殊性は押さえていた。それだけわかれば結構のれるし、前半の3人の友情と、後半の各自の葛藤とも対比できるなと思った。
主演がポンちゃんということで、激戦とも共通する部分が多いけど、ドロドロ感は少ないし、失脚してもすぐ立ち上がれるのは若さゆえかな。仇銘&邱田と詩瑤の恋のさや当てはいらないという意見が多かったし、気持ちはわかるけど、これがあると意外と若者への共感も呼べるんじゃないかなとも思う。※意見には個人差があります
高雄から台湾各地の美しい海岸線を走るレースの迫力は、自転車にカメラをつけて地面すれすれを走ることで生まれる。これは面白いし、音も臨場感を呼ぶ。まるで自分も一緒に走っているみたい。香港や上海に転戦する展開も同様で、韓国の競輪や2人1チームでバンクを走るレースなど、様々なタイプのレースも見せてくれる。そして、クライマックスは中国の内モンゴル、砂塵吹く中で行われる過酷なレース。これなら本物のサイクルレースも見てみたくなる。
しかし、惜しむらくはアジア各地が登場するのに、日本のロケがないこと。昨年公開された『南風』では、今治と尾道を結ぶしまなみ海道が登場したし、全国各地でロードレースも盛んなので、来てくれてもよかったのに。そしたら脇で日本のレーサーの出演もあっただろうし(劇中のレースで日本人レーサーの名前も登場するけどね)監督は香港、キャストが台湾・大陸・韓国という東アジア映画に日本が絡めないのは惜しいよ。これはきっと『ヘリオス』の時にも言う予定なので、脇に置いておく。
初回上映時のQ&Aでの話だと、ポンちゃんは撮影のために12万キロ走ったらしい。さすが鬼ダンテ(これ、いいネーミングだ…)。今回は堂々の主演で、俺様っぷりがいい感じにハマってる。これまで見てきた中ではベストかな、とは言ってもいつもながらの惚れないけどねー(笑)。そんな彼と絶妙なコンビネーションを見せるのがドウくん。サンザシを観た時、イーモウ作品では珍しい美形くんだと思ったが(こらこら)こちらも負けず嫌いな坊ちゃんがハマっている。もっと坊ちゃんでもいいのよーと思ったけど、まあええか。
恐らく一番注目度が高そうだったシウォンは、墨攻の時を全く覚えていませんでした、あはは。しかもK-POPアイドルとくれば縁遠いしさ。でも思った以上は表に出ていなかった気がする。二番手だけどむしろ控えめだったくらいだし、うまい具合にポン&ドウコンビを引き立てて好感。いやもちろん惚れる気なんか全然ないから安心してください。しかし、ヘリオスではどうなんだろうね?日本公開ではなんかイチオシされているらしいんだけど。
詩瑤を演じた王珞丹小姐、Wikipediaによると内モンゴル出身の大陸女優で、『いつか、また』やポンちゃん版黄飛鴻にも出演してるらしい。ショートカットで清々しく、男たちに寄りかかることなく、自分の情熱を持って歩いていける女の子。いくら恋愛パートいらねとか言われても、こういうキャラはステキだよ。もう一人のヒロインは高雄チームのメカニックを演じる歐陽娜娜ちゃん。普通女子のメカニックはいないとの実際のロードレースを知る人のコメントだけど、これまた映画の清涼剤となってる。
これまで香港では本格的なスポーツ映画がなかったという。そういえば全力スマッシュも少林サッカーもコメディだし、激戦はどちらかといえばアクション映画だもんな。大陸だけでなく東アジアを視野に納めたスケールと合わせて、今後の香港映画の展開の行方を示してくれるような作品。サイクルレースを前面に押し出しての日本公開を希望。そして続編ができるのなら、是非日本でもロケをしてほしい。日本の映画関係の皆さん、是非お願いいたします。
英題:To the fore
監督&脚本:ダンテ・ラム 音楽:ヘンリー・ライ
出演:エディ・ポン ショーン・ドウ チェ・シウォン ワン・ルオタン オウヤン・ナナ アンドリュー・リン
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コメント
「鬼ダンテ」…ホント、いいネーミングですね!
自転車に賭ける若者の群像は観ていて気持ち良かったけれど、
私はやはりダンテ・ラム監督にはアクションを撮って欲しいなぁ~と思いました。
TBさせていただきます。
投稿: ここなつ | 2015.12.24 18:56
ちなみに「鬼ダンテ」は同好の士の方によるネーミングです。
ワタシも『密告者』が好きなのでアクションのほうがいいとは思うのですが、『魔警』が結構辛かったので、たまにはいいと思うんですよ。次回作の『オペレーション・メコン』では戻ってくれそうですしね。
投稿: もとはし | 2015.12.24 20:58