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ヒーロー・ネバー・ダイ(1998/香港)

☆今年初めての更新です。
この1月で本blogも開設11年を迎えます。昨年は本業が忙しく、blog更新もかなり減りましたが、今年は劇場で観られる機会がなくとも、WOWOW放映等でカバーして昨年よりも多く中華電影を観ていきたいと思います。

 さて、今や香港映画を代表する監督となったジョニー・トーですが、コメディや恋愛映画も難なくこなす異常に幅広い作風から、男たちの濃ゆい友情や非情な対立をスタイリッシュに描く作風が際立つようになったのが、プロデュースした『ロンゲストナイト』《非常突然》を経ていわゆる「ダークトリロジー」と呼ばれる系列の最終作として自ら監督したこの『ヒーロー・ネバー・ダイ』からなのかな、と観て思った次第。

 実はこの映画が日本で初映された頃、もちろん現役の香港電影迷ではありましたが、観てませんでした。ええ、ずーっと今になるまで。サークルのミーティングでもちょっと話題が出たけど、劇場での上映までは実現しなかったんだよね。今考えればもったいない気がするけど、まあ当時は明星中心で上映作が決まっていたところもあったから流れちゃったのもわかるし、トーさんがこんなに化けるとは思わなかったもんなあ。

 香港の黒社会を仕切る二大勢力のボスの元でそれぞれ働いているヒットマンのジャック(りよん)とチャウ(ラウちん)は、敵対しながらもお互いの銃の腕を認め合い、友情を築いていく。だが、タイで両者の組織が衝突して激しい抗争が起こってしまい、二人とも重傷を負う。特にチャウは脚に大きな怪我を負い、膝から下が切断されてしまう。しかも二人のボスは部下たちを見捨てて和解してしまう。さらにジャックの恋人(フィオナ・リョン)は刺客に狙われたジャックの代わりに大やけどを負い、チャウの恋人(ヨーヨー・モン)は彼の復讐に手を貸した際に銃殺されてしまう。すべてを失い、どん底で生きるジャックとチャウは手を組み、それぞれ銃を手に最後の戦いに向かう…。

Heroneverdies1

 いやー、16年前の作品かあ…。日本では1999年の秋に劇場公開されて以来のリバイバルというから、りよんもラウちんも若いわけよ。初映当時は今よりも多種多様な香港映画が公開されていたから、サークルで上映されるものもセレクトしやすかった。その中で上映してたのは、コメディやラブストーリー(そういえばあの☆月もこの年に公開されておりましたのう…)が多かった気がする。そんな状況の中で激烈な銃撃戦と痛みを感じるこの作品が落ちちゃったのは、まあわからなくもないのかな。サークルメンバーにはりよん迷の方ももちろんいたのだけど、それでも落ちちゃったってのが不思議。

 時代背景を考えれば、ウーさんが香港からハリウッドに渡って成功を収め、香港返還を挟んで香港映画の製作・上映本数が減少していった頃に作られた作品なので、ウーさんの後を継いでトーさんがノワール路線を始めたと考えたことがあるのだけど、両者は似ているようで全く違うということを感じている。簡単にいえば、ウーさんは熱く、トーさんはクールだってことなんだけど、それは個々のキャラクターの違いや撮影スタイルが作品に反映されていると考えていいのだろうか?
 とはいえ、ウーさんもトーさんも男たちの関係をホモソーシャル的に描くのはうまい。昨年相次いで亡くなられた高倉健さんと菅原文太さんについて四方田犬彦さんがこんな文章を書かれていたのだけど、この映画でもジャックとチャウの敵対しながら互いを認め合う濃密なホモソーシャルっぷりが実にいい具合に描かれていて面白かった。ただ、この二人は序盤ではそれぞれ恋人がいるので、禁欲的ではないのよね…といいつつ、彼女たちも中盤で退場してしまうのだけど。

 あと、興味深かったのは場面転換の際に、近作よりも思い切った省略がなされていて、それが効果的になっていること。上映時間98分という短さ(とはいえもっと短い作品も多いよな)もあるのかもしれないが、チャウとジャックの関係性が急速に強まっていく様や、互いの苦悩や再会をあっさり省略することは、観客に想像を委ねてクライマックスを安心して楽しんでもらえるいい作りになってる。今は全世界的に上映時間が2時間越えてきてるけど、それは何でも説明しちゃうからなのかな。しょうがないのかもしれないけど、この映画みたいに観客を信頼してくれる映画がもっと出てきてほしい。

Heroneverdies2

クリスマスシーズンには、こんなツリーがシネマートにあったよ。

 最後にミーハーな話で締めるけど、りよんとラウちん、自分としてはどっちがよかったかなーと思うと、これがラウちんだったりするんだよ。りよんのクールさやスタイリッシュさは今まで彼の映画をいろいろ観てきた中ではもちろんピカイチなんだけど、どっか泥臭さのあるラウちんのチャウがもう魅力的で、これはホントに彼にとっての適役だし、トーさん映画の常連となるよなあと思ったもんでしてね。ま、こんな締めにて失礼いたしました。

Heroneverdies3

 蛇足:もし震災前にこの映画を観ていたら、4年前の早春のあの日々にTVから流れていた『上を向いて歩こう』をあの頃とは全く違う気持ちで聞けたのかなと思ったのだけど、それはまた別の話になるかな。
ああ、あれからもう4年か…。

原題:眞心英雄
監督:ジョニー・トー 製作:ワイ・カーファイ 脚本:セト・カムユェン&ヤウ・ナイホイ 音楽:レイモンド・ウォン
出演:レオン・ライ ラウ・チンワン フィオナ・リョン ヨーヨー・モン ラム・シュー ウォン・ティンラム

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