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ファイアー・レスキュー(2013/香港)

 最近強制撤去により終結した香港のデモで一番衝撃だったのは、これまで映画では市民の味方として描かれてきた警察官たちが、デモに集まった人々に実弾ではないものの催涙弾を放ったことだった。もちろん、武器を持っているわけでもない市民を攻撃することに葛藤を覚えた警官も少なくないのだろうけど、映像でそれを見せつけられてしまうと、内外へのショックは半端ないものだと思える。これにより、ネット上の香港映画ファンの間でも「当分香港警察ものは観たくない」という意見もでた。映画なんて所詮はフィクションじゃないか、といえば済むのだろうけど、その気持はわからないわけではない。

 で、警官とともに市民のヒーローと呼べるのが、消防官。
ジョニー・トー監督の1996年作品『ファイヤーライン』は4人の消防官それぞれの群像劇からクライマックスの工場火災へと収束していく展開が見事だった。香港の消防官映画もこれの他に多少はあるのだろうけど、すいません今の段階では思い浮かびません。そんなわけでかなり久々に消防官映画が出たなと思ったのが、『じじぃドラゴン』で注目され、後に感想をアップする『西遊記 はじまりのはじまり』で星仔とタッグを組んだデレク・クォックの『ファイアー・レスキュー』

 何永森(ホー・ウィンサム/ニコ)、游邦潮(ヤウ・ポンチウ/ショーン)、葉志輝(イップ・チーファイ/安志杰)は消防学校の同期で、固い絆で結ばれた親友同士だった。ある日、3人は屯門で起こった火災現場で、上巻の命令を無視して救助に飛び込んだ。しかし、査問委員会で3人の言い分はそれぞれ異なり、結果、正直に命令違反を告白したチウが懲戒、知らないと答えたサムは訓告、上司の命令に従ったと答えたイップはお咎め無しとなり、そのまま決裂してしまった。
 1年後、3人は揃って龍鼓灘消防署に勤務となるが、イップは署長に、サムは大隊長だが内勤、そしてチウは隊長とそれぞれ立場も変わってしまった。サムは転勤を控えているが、1年前のことに納得しておらず、CAの恋人ともうまく行ってなかった。チウも離婚した妻との子を引き取り育てている。サムの後任として、新人のチョン(ウィリアム・チェン)と大陸で消防官をしていたホイ(胡軍)が入隊し、伝説のレスキュー隊員と呼ばれるリー監督(ヤムヤム)のしごきを受ける。
 12月24日、サムの最後の勤務の日。管内の火力発電所の近隣にある工場で火事が起こる。現場に向かったサムたちはすぐに鎮火させるが、発電所につながるガスパイプが裏にあることから二次災害の可能性に気づき、イップに消火継続を提案するが却下される。その日は強風が吹き、供養の線香から飛び散った火の粉がガスパイプ近くで漏れていた油に引火し、予想通り再び火災が発生する。サムは自己判断で出場を決める。
 火災発生に気づいた発電所の技師楊琳(白冰)も消防署に連絡し、ホイと共に内部から被害の拡大を食い止めようとする。しかし、火災発生に気づかない発電所のマン所長(パトリック・タム)が彼らの前に立ちふさがり、サムとチウの前には上官無視の行動をなじるイップが現れるが…。

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 「消防士の目的は消火ではなく、救助だ」「火災現場で恐ろしいものは火ではない、煙だ」。このような言葉(パンフレットによると、これはデレクさんが製作にあたって多くの消防士から聞いた言葉によるらしいが)が最初に表示されて展開するのは、次から次へと押し寄せる困難に立ち向かいながら、人を救うことに全力を傾ける消防官たちの姿。

 実は先のあらすじで書いたのは本編のほんの一部にすぎず、次から次へと緊急事態が起こり、最悪の状況まで陥ってしまう。しかもわかりやすくフラグ立てまくり。いいのかなー、そんなので(苦笑)。しかも観ている当人も東日本大震災で長時間の停電を経験しているので、フラグ立てまくりのややご都合主義的な展開であっても、これをどうも絵空事とは捉えたくないのだ。劇中の発電所の場面で判断ミスによる被害拡大などが描かれているので、なおさらそう感じてしまうし。

 物語の中心となるのは、サム・チウ・イップの3人の葛藤だが、それにベテランのリー監督や大陸で悲劇に巻き込まれたホイの過去が加わるので、力のあるヤムヤム&胡軍の存在感が際立つので、どうしても後者に引っ張られてしまう感がある。前者の葛藤が比較的早くカタがついてしまう(それも悲劇的な結末で)のは、まさか後者ありきなのでは…というのは単に偶然か。まあ、胡軍&ヤムヤムの加入によって、職業映画に義侠心がプラスされ、結果的に警察映画以上のハードボイルド感満載の漢の映画になったのは悪くないけどね。それならチウの息子のパートは残しておいても、サムと恋人のくだりはなくてもいいと思ったな。それがあったからサムが最後に取った行動がわからなくもない、と見られるのだろうけど。

 撮影では本物の消防服を使用し、キャストにも消防学校での訓練が課されたというので、消火・救助活動はCGや特撮が入っているにしろ、かなりリアルに迫るものでそれはそれでいいかも。手持ちカメラも臨場感を増幅しているけど、ただマスクをかぶっちゃうと誰が誰やらになってしまうのがきつかったですねー。声じゃないと判断できない(胡軍は普通話でしゃべってくれるからすぐわかるけど)

 いろいろ言っちゃったけど、何のかの言いつつも王道の消防映画であり、庶民の味方である人間たちを描くデレクさんの持ち味はちゃんと生かされている作品。こんな大作を撮るようになったとは、なんだか感慨深いね…などとちょっとしみじみしたりする。
 あ、でも邦題はデレクさん自らが考案した『消火のヒーロー(だったかな)』でよかったと思います。わかりやすいじゃん(笑)。

原題:救火英雄(as the light goes out)
監督&脚本:デレク・クォック 製作総指揮:アルバート・ヨン 音楽:テディ・ロビン&トミー・ワイ
出演:ニコラス・ツェー ショーン・ユー サイモン・ヤム フー・ジュン アンディ・オン バイ・ピン ウィリアム・チェン パトリック・タム

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