黄金時代(2014/中国)
祝、湯唯小姐ご結婚!
お相手は主演した韓国映画『レイトオータム』の監督だそうだけど、すまんその映画観てないわ。『色、戒』で世界的に有名になって7年、日本での公開作も少ないので、某映画メディアでの報道記事のヘッドラインがあまりにひどくて萎えたのだけど、どうかお幸せに。
でも韓国ばっかじゃなく、香港映画にも出なさいねー。
さて、そんな湯唯ちゃんを主演に迎え、中華民国期の文壇を代表する夭折の女性作家、蕭紅の生涯を描いた『黄金時代』は、桃さんのヒットも記憶に新しいアン・ホイ監督の最新作。
民国初期に東北部で生まれ、ハルピンから青島、上海、南京、そして香港へと漂流して肺結核で31歳の生涯を終えた蕭紅(湯唯)。その短い生涯の中で、親に反発して駆け落ちをした挙句、勘当されて極貧状態に陥った少女期、貧しさの中で書き上げた散文が当時の文壇に評価され、作家仲間の蕭軍(ウィリアム・フォン)と恋に落ちた時代、すでに中国を代表する作家となっていた魯迅(王志文)との交流、蕭軍とのすれ違いの始まりと日本滞在、共産党員である作家仲間・丁玲の長征への同行、蕭軍との別離と再婚、香港での暮らし…と、激動の時代を濃く短く生きた様が3時間で語られる。
観たのは仕事後そのまま上京した月曜の夜。結構疲れ気味だったから途中で寝ちゃったらどーしよー?とかなり心配していたのだが、途中で眠気を誘われることなく、非常に興味深く観ることができてよかった。文芸映画なのに、割とエンタメ的な作りになっていたからかなあ?
主人公の蕭紅自身が自らの生年と没年を告げるオープニングから「ん?」と思ったが、彼女によるモノローグの他、登場人物の中でも作家仲間たちが時にドキュメンタリーの証言シーンのようにその時の状況や心境を語り、またある時は劇中の場面から観客に語りかける。後者はこの秋公開されたクリント・イーストウッド御大の新作『ジャージー・ボーイズ』でも使われていた技法。
早くにデビューしたものの、生前はあまり評価されなかったらしい蕭紅の姿を過剰に感情移入することなく客観的に描くのに、これは効果的だったと思う。あと、歴史的事件を絡めるのも明らかに直接的なもののみだったのも好感。日本への静養旅行や夏目漱石について論戦する文化人たちも、抗日戦争も割と同じ目線で描かれてたような。
興味深く思えたのは蕭紅と魯迅、そして丁玲との関係。
翻訳家の水野衛子さんによるこのblog記事を読んでいても、この両者との関係は劇中でも力を入れて描いていたことがわかる。
魯迅はだいたい誰でも中高の国語の授業で通っているはずだからわかりやすいだろうけど、晩年のエピソードとしては初めて知ったのは言うまでもない。奥方の許広平があまりいい顔をしてなかったのも、魯迅が蕭紅に好意を抱いていたということが匂わせられて面白い。
丁玲は共産党員として活動し、その後失脚して名誉回復という波瀾万丈の人生を歩んでいた女性で、在学中に近代中国文学を選んでいたら確実に研究していただろうなという人物だけど、おそらく研究だけじゃイメージが結べなくて苦労するんじゃないかな。そんな彼女の描写に力が入っていたのも、蕭紅と対比しやすくてありがたかった。思えば、あれだけバリバリの共産党員として描かれていたのに、抵抗感なくあの丁玲を受け入れられたのは、彼女の後の人生のこともあるのだろうな。
えーと、実はワタシ、大学の主専攻が中文だったのですが、文学じゃなくて語学専攻、しかも研究が地域・文化研究だったので、見事なまでに中国近代文学をスルーしてきたんですよ。お恥ずかしい話で申し訳ない。魯迅はもちろんのこと、丁玲も中国事情の授業で名前を聞いていた程度の知識。だから、そういう身にとってはこの映画は興味深く、学生時代の授業を思い出させてくれたりで観てて嬉しいものでした。
しかし、ここまでわかりやすく意欲的な映画なのに、中国大陸ではコケたと聞いてビックリ。文芸映画として出来もいいのに、やっぱり上映時間が長いから?なんだかもったいない。日本でも一般上映は難しいかな。うーん。
でも、いい作品です。大学生の観客がどれくらいいたかどうかはわからないけど、この映画がきっかけで蕭紅を研究する学生さんがいたら嬉しいなって思う。こういう論文もあるしね。
英題:The Golden Era
監督&脚本:アン・ホイ
出演:タン・ウェイ ウィリアム・フォン シア・ライ チュウ・ヤーウェン ワン・ジーウェン
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