ドラッグ・ウォー 毒戦(2013/香港・中国)
自分のフォローしている範囲だけなのだろうけど、やっぱりトーさんって人気がある。まあそうだろうなあ、王家衛みたいな寡作の作家じゃないし、 映画祭に出せるアートものも撮れれば、徹頭徹尾エンタメな作品も作れる。日本では俗に言うノワールものばかり上映されているが、恋愛ものもコメディも撮れる。
最近は『名探偵ゴッド・アイ』がコメディ路線であったけど、日本での宣伝は、えーっと(後略)。
そんなわけで、今年初めに主要都市で上映された『ドラッグ・ウォー』は、ノワールファンには安定の路線。ただ、いつものトーさんノワールと違うのは、舞台は中国であるということ。かつて『エレクション』二部作が大陸の上映を拒否されたということを覚えているのだが、やはり大陸で上映するなら、大陸向けの作品を作れってことなのかしら…などと思いながら、台湾からの帰りの機内上映で観たのであった。
ちょっと珍しい予告を発見したのでこれを貼る。
ロンドンで行われたChina International Film Festivalに出品されてたらしい。
中国・津海。公安の麻薬捜査官ジャン(孫紅雷)が体内に麻薬を隠した運び屋を検挙している頃、香港人のテンミン(古天楽)という男が衝突事故を起こして病院に運び込まれる。テンミンは津海に工場を持ち、そこで麻薬を密造していたが、工場が爆発を起こして家族が巻き込まれ、死んでしまったのだ。
中国では麻薬に関わる犯罪は間違いなく死刑となる。生き延びることを願う彼はジャンが今追っている、津海と近隣の粵江を仕切る黒社会の大物の検挙に協力することにするが…。
冒頭、長距離バスに潜入してたジャンが運び屋を捕まえ、呑み込んでたヤクの包みを吐き出させるくだりがリアルでエグい。いやまあ、実際にヤクを運ぶ時もそうらしいから、決してオーバーではないんだろうけどね。最初のうちにリアルに状況を見せておくのって、『エレクション』二部作にもどっか通ずるかな。あ、エグさもね(笑)。
あ、エグいと言っても決して嫌な意味で言ってるわけじゃないよ。頼むから誤解しないでくれよ。こういう言葉だけ見て文句言われるのはこっちもイヤなもんでね。
百戦錬磨の強者どもを次々に捕らえてきたジャンの元に突き出されたのが香港人ディーラーのテンミン。ヤクは持ち込んだりしただけでも当然重罪、最悪死刑。中国で日本人の死刑が執行されるのが、だいたいヤク絡みであることを思えば、それは納得かと。そんなこんなでいつ爆発してもおかしくない、ヤクをめぐる二人の共闘が始まる。
従来の香港映画ではとかく大陸のヤクザ等が悪役や、主人公側を脅かす存在として描かれてきたが、今回は大陸が舞台なので、悪役に立つのは香港人である。まあ、トーさんはこれまでも反社会的な人間を主人公に据えてきているので、これに文句を言うことはないだろう。そうなるど、テンミンとジャンがどのように話を転がしていって、どんな結末を迎えるかという点に興味がわく。
妻子を失っても自分の商売にこだわるテンミンと、巨大な売薬組織に立ち向かって自らも危険に晒されるジャン。社会情勢とかイデオロギーとかの現実問題は置いといて、非常に濃く骨太なノワールとなっている。大陸のインディペンデント映画人も自国の闇をバイオレントに描くことができるが(ジャンクーの新作『罪の手ざわり』(リンク先音が出ます)ってそういう路線だよね?未見だけど)、トーさんが今までの映画作りのなかで培ってきたエンターテイメント性も、このようにうまく大陸の映画作りに載せることが可能なのね、と感心した。まあ、今の大陸の検閲制度やら何やら考えたら、ラストはああでなきゃいけないだろうしね。
そして待ってましたとばかりに登場するのが、香港から来た7人のヤクのディーラー(林雪、カートン、ミッシェル・イエ他)。ここまたメンツが豪華なので、もっと活躍してくれてもよかったのよ、などとも思えるけど、まあ、それはまた別の話なのかもね。
しかし、古天楽と孫紅雷。これが初めての共演じゃないけど、どう見ても同い歳には見えないんだよねえ…と意味なくため息をついて、この感想は終わる。なんかシンプルですいません。
監督&製作:ジョニー・トー 製作&脚本:ワイ・カーファイ 脚本:ヤウ・ナイホイ
出演:ルイス・クー スン・ホンレイ クリスタル・ホアン ウォレス・チョン ラム・シュー ラム・カートン ミッシェル・イエ
| 固定リンク | 0
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 盗月者(2024/香港)(2024.12.30)
- 台カルシアター『赤い糸 輪廻のひみつ』上映会@岩手県公会堂(2024.12.21)
- 無名(2023/中国)(2024.08.16)
「香港映画」カテゴリの記事
- 恭喜新年 萬事如意@2025(2025.02.11)
- 盗月者(2024/香港)(2024.12.30)
- 【ZINE新作】21世紀香港電影新潮流(2024.01.22)
コメント