名探偵ゴッド・アイ(2013/香港)
この作品の前に監督した『ドラッグ・ウォー』も今年に入って公開されるなど、新作がコンスタントに日本上映されるようになってきたトーさん。それでも、まだまだ認知度は低い気がする。どうかもうちょっとメジャーになってほしいんだよなあ、そうすれば全国でもちゃんと作品が上映できるんだよ。
まあそれはともかく、この『名探偵ゴッド・アイ』は、アンディとサミーのトーさん作品におけるゴールデンコンビの復活であり、ワイ・カーファイさんも製作と脚本に加わっているので、これはかなりクレイジーな作品だろうなーと期待して観た。
ジョンストン(アンディ)はかつて刑事だったが、4年前に失明し、今は未解決事件の情報提供による報奨金を得るために探偵をしていた。旺角で発生した連続洗剤ぶちまけ事件の犯人を匂いと音で確定したのだが、親友にして元同僚の司徒(グオ・タオ)に妨害される。
彼の部下で航空警備隊から転身したホー(サミー)はジョンストンの手腕に惚れこみ、弟子入りして少女期に起こった幼馴染のシウマンの失踪事件の解明を依頼する。しかしグルメで癇癪持ちで気まぐれなジョンストンは未解決事件の解明のために彼女をこき使い、死体置き場での検視官殺しや連続女性失踪事件等の捜査に付き合わせるが…。
とまあ、あらすじは簡単に説明できるのだが、なんせ脚本にワイさんが入っているせいか(ってそれはいつものことじゃないかというツッコミはなしで)、はたまた黄金コンビの復活のせいか、7年前の『マッド探偵』にならってなのか、非常にエキセントリックでクレイジーなプロットが炸裂する。だってホーが警官を目指すきっかけとなった、失踪したシウマンの家庭環境からして、もう尋常じゃない。母娘三代がことごとく恋愛に強く依存する体質からなのか、母親も祖母も自分を裏切った男をぶち殺すだけでなく、塩漬けにしたり素揚げにしたりするという猟奇的行為に走るのだから。(※以上はネタバレですが、エグいのがダメな人はある程度覚悟して観た方がいいと思ってあえて書きました。どうかお許しを)
これ以降は猟奇事件があれやこれやと続出し、シウマン失踪事件の真相にたどり着くまでに迷走することもあるのだが、一見エグくてもそれが許せてしまうのは、この映画が基本的にジョンストンとホーの恋愛ものであるからである。しかもジョンストンは「心の目」で被害者と会話しながら想像力で推理を組み立てるタイプ、ホーは武闘派で脳筋タイプという、両者ともかなりエキセントリックなキャラクターだから、捜査をしながら恋愛を育てていく過程もどこか精神的にSMプレイ(笑)。そんなわけでなぜか笑える、というか、やっぱりこの二人だとコメディになっちゃうんだよね。
ジョンストンについてもう少し言えば、盲目というハンデを背負いながらも、グルメで感情の起伏が激しいという点で悲壮感があまりなくて、かなり面白いキャラになってる。そして高級レストランのフレンチから朝食で簡単に作ったインスタントラーメンまでなんでもかんでも美味しそうに食べるのだから、観ていてこっちまでお腹が空いてしまうんだよね。そんな彼もホーには全く恋心を抱かず、失明前に手がけた捜査の時に出会ったダンス教師(高圓圓)に片思いをしているので、ただの名探偵ではない普通っぽさがまたいい。
そんなわけで恋愛ものという土台があるせいか、一歩間違えれば破綻しそうなプロットもなんとか踏みとどまって上手くまとまっているのは、トーさんの力技とアンディ&サミーのアンサンブルのなせる技だろう。林雪だってちゃんと登場するのだから、トーさんブランドとして非常にしっかりした作品になっていると思う。
ただ、それでもこの作品がダメって感じる人はいるんじゃないかな。香港映画初心者には簡単に勧められないので、このトリオ(orカルテット?)の作品では、まずは『Needing You』からですよね。
しかし、この映画を狂っていると言ってはいけない。それ以上にとんでもない映画を、この年末年始で観てしまってひどく頭を抱えてしまったのだから。
その映画についてはいずれ後ほど日を改めて。
原題(英題):盲探(Blind Detective)
製作&監督:ジョニー・トー 製作&脚本:ワイ・カーファイ 脚本:ヤウ・ナイホイ 音楽:ハル・フォクストン・ベケット
出演:アンディ・ラウ サミー・チェン グオ・タオ カオ・ユアンユアン ラム・シュー
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