コールド・ウォー 香港警察 二つの正義(2012/香港)
映画鑑賞に大切なのは「観るチャンス」だと思ったのは、この『コールド・ウォー』を香港で見逃した時である。2年前の11月からの香港公開時に話題となってロングラン上映になったのは知っていたのに、クリスマス旅行では久々の香港で嬉しくなり、すっかり遊び呆けていたので、観に行くのを忘れていたのだった。去年の金像奨で最優秀作品賞を取った時は、ああ、なんで現地で観てこなかったのだろうってホントに後悔したもんなあ。
日本での公開規模は案の定小さいのだが、監督コンビのインタビューが複数のウェブメディアで紹介されたり、沢木耕太郎さんの映画コラム(要会員登録)で取り上げられたので評価は高いってことはわかっていた。我が地元でもアート系作品上映希望アンケートのエントリーに入っていたので、もう大いに喜んで複数の票を投じた。…でも結局上映できないみたい。残念だ。
それが早いうちにわかっていたので、休み中に無理してでも観に行かないともうチャンスがないかもしれない、と思い、年が明けてすぐ六本木に観に行ったのであった。
ここしばらくの香港映画は『○戦』流行り。ニコとジェイは『逆戦(ブラッド・ウェポン)』、総合格闘技は『激戦』、中国で麻薬は『毒戦(ドラッグ・ウォー)』なので、原題で覚えるのも大変かもしれない?(笑)
旺角の映画館で起こった爆発と、警邏中の5人の警官が拉致されるという2つの事件が同時に発生した12月の香港。2つの事件には何らかの関連性があるらしい。警察の最高責任者である長官が出張中のため、2人の副長官―現場出身で叩き上げの「行動班」のリー(51歳・梁家輝)と事務職出身の「管理班」のラウ(44歳・アーロン)のいずれかが指揮を執ることになる。その任を買って出たのはリーで、部下で警視正のアルバート(カートン)と共に動き、テロ事件とみなして非常事態を宣言する。
しかし、香港警察には「親族の家族が関与した事件の指揮は執れない」という規則がある。実は拉致された警官の中には、リーの息子ジョー(エディ)がいたのだ。一緒に拉致された警官の一人が重体で発見されたこともあり、指揮権をめぐってリーとラウは激しく対立する。やがて長官からリー解任の一報が入り、ラウは臨時長官となる。部下の管理班警視正ヴィンセント(ガーロッ)と共にアルバートを副指揮官に任命し、両班で共同戦線を敷く。
犯人側から身代金の要求が入った。要求額は「5人の命の値段」。ラウたちは9320万元と見積もるが、正式な要求額は3333万元。残り約6000万元を輸送車で警察の金庫室に戻し、ラウは身代金を持って受け渡し現場に行く。その際犯人と激しい銃撃戦が始まり、ヴィンセントが犠牲となってしまう。さらに輸送車から金が強奪されるという事態も起こるが、ジョーたち4人の警官は解放され、救出された。
事件はこれで解決されたかに見えたが、汚職捜査機関の「廉政公署(ICAC)」の調査主任ビリー(アーリフ・リー)が動き出す。ICACに匿名の密告が入り、ラウに収賄の容疑がかけられたのだ…。
冒頭、香港警察のHPにアクセスするという設定で、行動班・管理班双方の主な登場人物がわかりやすく紹介されるのがありがたい。最近は日本の刑事ドラマも警察管内や警察庁との複雑な関係を描いた作品が多いし(踊る大捜査線や相棒ってそうだよね?)、国外の組織だからなおさら複雑に感じそうだしね。
題名は劇中で使われる警官奪還の作戦名だけど、同時にラウとリーの、あるいはビリーたちICACと警察との戦いにもかけられているように思える。中盤で激しい銃撃戦などの、香港警察ものには欠かせないアクションが挿入されているのにもかかわらず、12月の風のようなクールさと静けさと緊張が映画の全編に漂っている。 だから、これまでのポリスアクションものとはどこか一線を画した出来になっているし、ノワールものでは決して終わらなかった10年前の『インファナル・アフェア』以来の傑作と言われたのもよくわかる。日本の警察ドラマではこの手のテーマが珍しくなくても、香港映画でこれをやってくれたら確かに新鮮だ。
中心になるのが警察上層部及びICACなので、必然的に登場人物のスーツ率は高くなる。香港警察内のドレスコードはそれほど厳格じゃなさそうだけど(現にヴィンセントは警視正という高い身分だけどノーネクタイのカジュアルだし)、ほとんどがビシッとカッコよく着こなしてくれていたので、スーツ好きとしては観てて嬉しかったですねー(笑)。後は眼鏡着用率がもう少し高くてもよかった。※意見には個人差があります。
理性的な役が多いカーファイとエネルギッシュで熱いイメージのアーロンが、お互い逆の役どころになっているのも新鮮で面白い。アーロン演じるラウが、事務職の内勤でキャリアを積んで出世し、警察改革に経費節減を盛り込もうとしているというのも意外だしね。カーファイが坊主頭+髭で武侠映画っぽいルックスなのだが、これは太極二部作で頭を丸めた後に撮影したからだろうか?
90年代香港映画で活躍した二人が、警察管理職に就く役柄になった(保安局課長を演じた特別出演のアンディも然り)のに時代を感じてしみじみとなったけど、 若い世代だって登場させないとやっぱり意味がない。そんなわけで現時点での香港若手俳優から『李小龍』のアーリフと、台湾ドラマから香港映画に進出したエディ。
アーリフはまだまだ青さが抜けず、(考えたら《歳月神偸》では高校生役だったわけだし)調査主任役をするには迫力が足りないと思ったけど、今後の活躍が期待できそうだ。エディはこれまでの作品でも癖のある役どころが多いせいか、ラストになんかやらかすだろうと実はちょっと思ってた(笑)。坊主頭だった理由は恐らく父親と以下同文。
カーファイの下につくカートンと、SDTのアンディ・オン。アーロンの部下のガーロッと、IT担当のテレンス。安心安定の脇役もいい。
メインキャラ唯一の女性が広報課主任役のチャーリーなのだが、ラウの元恋人という設定があったのはパンフ見るまでわからなかった。重要ポストに女性がいる率は日本以上に高そうだから、そういう設定はなくてもいいかも。
元警察の人間の犯行とわかり、内部にも協力者がいることも匂わせて一旦幕は引かれたものの、今後作られる続編では、これがどう展開して行くのだろうか。大陸との合作で膨らむ香港映画界の潮流の中で、オール香港ロケ、2時間以内の上映時間、独創的なストーリーと演出という、香港映画で守られるべきフォーマットのようなこの作品を作ったのが、美術スタッフと助監督出身のキャリアが長い新人監督コンビというのも興味深い。この作品の登場が、今後の香港映画界にどう影響していくかも大いに楽しみである。
原題:寒戦
製作:ビル・コン アイビー・ホー 監督&脚本:リョン・ロクマン&サニー・ルク 音楽:ピーター・カム 編集:コー・チーリョン アクション指導&出演:チン・ガーロッ
出演:レオン・カーファイ アーロン・クォック チャーリー・ヤン エディ・ポン アーリフ・リー ラム・カートン アンディ・オン テレンス・イン トニー・ホー マイケル・ウォン アンディ・ラウ
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