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ゴールデン・スパイ(2012/中国・香港)

 思えば80年代から90年代にかけての、俗に言う香港映画黄金期には、映画史に残る名作や傑作と同じくらい、珍作や奇作が量産されていたと聞く。ユンファもアンディも出演作が全てスマッシュヒットを飛ばしたわけじゃなく、「どうしてこんな映画に出たんだ?」と言われたものも少なくないらしい。それはトニーやレスリーも然り。そういう映画は日本でもソフト化されないことが多く、観るには現地のソフトを当てにするしかないのだが、もうソフト化すらされずに闇へ葬り去られているってことが多いのかもな。
 あの頃から約20年が過ぎた香港映画界では、製作本数が大幅に減少し、大陸のスポンサーからの出資を受けた合作が多くなっている。その大陸でも、海外で観られる作品もあれば、これはどうも…的な作品なで何でもあるのだろうけど、はたしてこの『ゴールデン・スパイ』は誰のために作られた作品なのだろう。

Switch

 監督の名前は孫健君。聞いたことがない名前だなーと思ったら、この作品で監督デビューしたそうだ。
 ノリのいい主題歌《天機》は五月天(Mayday)の阿信と魔幻力量(Magic Power)のコラボによるものらしい。(表記は「MP魔幻力量feat.阿信×嚴爵。PVはこちら
 なお、大陸では3Dで公開されたとのこと。


 浙江博物館と台湾の故宮博物院にそれぞれ一幅ずつ収蔵されている黄公望の書画「富春山居図」が、台湾で一緒に展示されることになった。しかし、書画の片方が故宮から盗まれてしまうという非常事態が発生。この書画を狙うのはイギリス人実業家と、日本の若きヤクザ山本俊雄(ターウェイ)。特に山本は第二次大戦時の司令官だった祖父がこの絵を収集していたことから、自らの元に取り戻したいと目論んでいた。
 盗難の報を受けて、杭州ではもう一つの書画の警備が強化される。指揮を執るのは中国人壽保険集団の林雨嫣(ジンチュー)。さらに中国公安・台湾警察・香港警察の両岸三地の警察機構もこれを重視し、ミッション「天機一號」を発令。香港警察所属の特殊工作員・肖錦漢(アンディ)に台湾の書画奪還の命が下る。実は肖と雨嫣は夫婦であり、小寶という一人息子も設けているが、肖は雨嫣に自分の正体を明らかにしていなかった。
 書画は、盗品市場を仕切るマダム(スーチン・カオワー)の裁量によって山本の手に与えられた。その情報を知った肖は工作員として派遣されたという王雪晴(チーリン)と共に東京に向かうが、奪還に失敗し、愛し始めていた雪晴を失う。
 しかしそれは山本の張った罠だった。実は助かっていた雪晴の本当の名前はリサといい、山本の手下であった。さらに彼女は幼いころに火事で死んだ山本の母に瓜二つだったため、山本の寵愛を一身に受けていたのだ…。

 あらすじがもし間違ってたら申し訳ない。なんせ手元に資料がなく、大陸版wikipediaを参考に書いたので。まあ、筋はあってなしが如くというのが、正しいところかもしれない。
 3年前に二幅の富春山居図が台湾故宮の特別展で同時公開されたというトピックをネタに、中国版007をやりたかったんだろうというコンセプトはよーくわかる。それを演じるのにふさわしい俳優がアンディだと思ってオファーしたんだろうということもよーくわかる。製作側がノリノリで作ってたってこともよーくわかる。

 しかし、面白くない。そして、何もかもが破綻している。ひどい映画だった。

 まあ、普段「ひどい」という言葉は「最低」とイコールで使うことはないのだが(「泣ける」が「感動」とイコールにされるような強引さではなくてね)、これは本当にひどかった。香港での評判が散々だったとはうわさでは聞いていたし、SNSでは「この映画の狂いっぷりはすごい」というコメントが続出していたので、かなり覚悟して行ったのだが、想像の斜め上を行くひどさであった。よくこれが日本公開できたもんだよ。何かとセット販売だったの?(暴言失礼)
 もちろん、本気で金返せとかは思ってないし、こういう映画もあるんだといういい勉強にはなった。それであっても、何とかいいところを探して誉めるとかしてかばう気力も出ないほどだった。ごめんね、ここは自分のホームグラウンドだから正直に書くよ。

 主人公は中国をしょって立つヒーロー、敵は凶悪な変態日本人、勧善懲悪で最後は香港も台湾もまとめて中国萬歳という流れは、典型的な大陸製抗日エンターテインメントの形なのだろうし、かつて香港や台湾で抗日映画が大量に作られてきたという事実も知っている。ただ、最近はちゃんと時代考証をしたり、日本人をただの悪人に描かない作品もあるわけだから、それほど目くじら立てることはなくなってきたと思う。(ただ、第二次大戦中で敵が日本人設定だった『大冒険家』を観たときに、ラストで空襲直後(原爆投下後だったかもしれない)の焼け野原の日本で、けがを負って泣き叫んでる子供たちの記録映像らしきものが引用された時には観ててきつかったし、知らなくても知っててもこういう使い方は勘弁してほしいと思ったことが例外かな)
 でも、この映画の敵役である山本はかなりひどいキャラクターだったわー。部下はスポーツ万能でエロいお姉ちゃんたち(もちろんいろいろと残酷に大活躍)、アジトには胎児の絵があしらわれていて悪趣味全開、少年時代に家を出ようとした母を焼き殺し、極悪非道の限りをつくすサドで不能でマザコンのド変態。まあ、この程度のキャラはB級悪趣味映画には珍しくないのだろうし、日本人俳優ならこんな役なんともないとばかり演じてくれるひとはいそうなんだけど(と何人か考えたがここで名は挙げない)、いかんせんどっか古臭いし、突き抜け感も全くない。何よりあの佟大為にこういう役どころを振らせるってのが無謀。やってて楽しかったか大為よ?キミの持ち味は、全然イケメンじゃない上にその親しみやすい兄ちゃん的な魅力だと思うのだが、イメージ変えたかったのか?それにしてもねえ。
ひどいのは山本だけじゃない。途中でフェイドアウトするイギリス人実業家も、これいつの時代の悪役よって描写だったし(女体盛りみたいなこともしてたなあ。未だにあるのか)、ドバイもそれほど魅力的には映らなかった。
 ヒロインのチーリンも突き抜け感がなかったなあ。色気をふりふり頑張ってはいたけど、コスプレはもっと必要以上にやってもよかったし、行動も読みやすかったもんな。それなら一応固い役職のくせに冒頭の意味ないノースリエプロン家事姿のジンチューの方が役得だった(個人的意見です)。
 そしてアンディだが…、まあ、100本以上の作品に出ているとはいえ、昔はもっととんでもない作品に出ていたんだろうねえ。でもねえ、いまこういうとんでもない作品に出ちゃうってのはねえ…。謝って回ったとかいう記事をネットで見かけたけど、その気持ちはわかるよ、うん。

 個々のひどさを挙げてもこれ以上あるのだが、映画全体はもちろん、編集やらなんやらの細かいところでも「え?」と思わせられるところがあり、そういう雑さも輪をかけて気になった。とどめはこれが3D作品として作られたこともね。最新技術を駆使し、莫大な製作費をかけて作られたのに、出来上がったのは往年の抗日映画の雰囲気を漂わせつつもセンスが古い冒険活劇。B級好みな方々が擁護したがる気持ちはわかるし、この作品をよくぞ日本でかけた配給元の勇気も称えたいけど、いかんせんもうそういう時代じゃないでしょ、いくら日本も欧米も30年前に戻ったようなセンスの映画を作っているからとはいえ(これも特になんだかは言わない)とつっこんで、観終わった後はどーっと疲れてしまった。

 まあ、中国側の中華思想的な映画の作りかたとか、文化の違いとかについて、文句を言ってもなんもならない。これはしょうがないよねーと割り切りながら観るのが一番賢明かもしれないけど、香港映画初心者にはこれを勧めたくないし、自分でもこの手の作品に免疫がないってことが分かった。この映画を楽しんだ人には気分が悪くなるような感想を書いてしまって申し訳ないけど、これと比べてもっと面白い大陸×香港映画はまだあるもんな、という確認ができたということで、どうかこの記事での数々の暴言をお許しください。本当にすいません。大人気なくてすいません。なんせこちとら地方の場末のアマチュアブロガーですから。

 つーか二度と観ないよ、こんな映画。あはははははははは。以上。

原題&英題:天機 富春山居圖(Switch)
製作:ハン・サンピン 製作&監督&脚本:ソン・ジエンジュン
出演:アンディ・ラウ リン・チーリン トン・ターウェイ チャン・ジンチュー スーチン・カオワー

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