« 導火線(2007/香港) | トップページ | TIFF、フィルメックス、そして冬の特集上映に思ふ。 »

太極 ゼロ/ヒーロー(2012/中国=香港)

 中国映画バブルの一角を担っている感があるのが、実在の武術家を主人公にした大胆なフィクション。
 生真面目な日本人にとっては、実在の人物なら史実を取り上げてくれよと言いたくなるのもわかる。でもまあ、日本にだって坂本龍馬や織田信長が主人公のフィクションも複数あるわけだし(3年前の大河ドラマなんてまさに好例)、同じ葉問が主人公の映画でも、どれが一番史実に近いとかにこだわったり、ド兄さんやトニーや秋生さんではどれがいいというわけじゃないからね。そのへんは十分理解してほしいもんである。伝記ものには、いろんなバリエーションがあっていいのよ。

 さて、我らがステことスティーブン・フォン監督が挑んだのは、楊式太極拳の創始者・楊露禅の生涯。まあ、太極拳なら日本にも愛好家が多いし、馴染みはあるからねー、なーんて気楽に思ってたのだが、予告編を観て度肝を抜いた。

え?頭に角がある異形の男が大暴れするスチームパンク時代劇だと!
それじゃ観なきゃじゃないか!

 時は清朝。ある富豪(アンドリューさん)とその妻(すーちー)との間に男の子が誕生。しかしその子の頭には角のような突起があった。富豪は異形の子供を見放してしまい、母親はやむなく一人で育てることにした。
 露禅と名づけられた子供は、人の動きを一目見ただけで完コピできるという特技を持っていたが、「角」を叩かれると正気を失い、恐るべきパワーで周囲を破壊してしまうという欠点も持っていた。街中で大暴れした彼は非難され、母は責任を取って自害した。天涯孤独になった露禅は街に居合わせた大道芸人に拾われたが、実はその芸人こそ、清朝に反旗を翻す秘教・天理教の頭目だった。
 成長した露禅(袁曉超)は清朝軍を壊滅させるほどの力を持っていたが、全ての力を出し切るとすぐ倒れてしまう。天理教の軍医董(梁小龍)は露禅の角が彼の命に大きく関わると診断し、凶暴なパワーをコントロールするために、河北省の陳家溝へ行き、陳家拳の棟梁・陳長興の元で内功を鍛えるように忠告する。
 天理教軍から離れ、一人陳家溝にやってくる露禅。しかし村の人々は彼の訪問を歓迎せず、長興の娘で薬局を営む玉娘(angelababy)も、父親の不在を理由に彼を追い返す。露禅は村はずれに住む商人(梁家輝)に助けられ、よそ者の修行が許されないとされる陳家拳の習得を目指して、村の達人たち(熊欣欣他)と対決する。
 一方、玉娘の幼馴染で洋行帰りのエンジニア方子敬(エディ・ポン)は、村に科学と産業の重要性を説いて回るが、相手にされない。東インド会社で中国の産業開発と鉄道建設を命じられている彼は、会社から提供された鉄道敷設マシン「トロイ」を村に向かわせる。これまでだれも見たことがなかった鉄の怪物に村人はおののくが、これを倒したら陳家拳を習得できると言われた露禅は、玉娘と共にトロイに立ち向かう…。

 冒頭は天理教の軍団と清朝軍との戦いで、ステ監督演じる天理教軍兵士に頭を叩かれ、「露禅ー!これが終わったら飯にするぞー!」との呼びかけをバックに、猛烈に敵軍に走り込み、バッタバッタとなぎ倒す露禅の姿。そこから彼の数奇な過去がモノクロサイレントと豪華ゲスト陣(しかもいちいち字幕で説明つき)によって怒涛のように語られる長ーいアヴァンタイトルには笑った。
 物語的には武術ものの定番を踏襲しているので、はっきりいえばありきたりなんだけど、5年前の北京武術大会で優勝してこれが俳優デビューとなる(?)袁曉超や、最近映画にもよく出るようになったangelababyとエディ・ポンなどの若手の頑張りがとっても新鮮。特にエディは台湾出身ながらここ最近は香港映画での活躍が目立ち、新たな黄飛鴻シリーズの主演にも上がっているとのうわさも聞くので、今後が楽しみ。まあ、今回は悪役(それもマヌケ)なんだけどね。そんな彼らにぶつけてくる人々が、梁小龍さんやらくまきんきんやら、子供武術家だったりなので、これまたお約束だけど面白い。

 しかしそこにさらにブチ込むのが、スチームパンクだったりゲーム画面のような構成のバトルってーのはいったいどーゆーことだよステ(爆笑)。
 まあ、清朝にスチームパンクってのは、徐克さんあたりもやっていそうな気もするが(後で確認しよう)、相性は意外と抜群なのでもう楽しい楽しい。時代的にはアニメ『ふしぎの海のナディア(これは一応スチームパンクだと思っている)』の後に当たるんだっけか?いわゆる「ありえねー」系の展開も、武術を習得した者ならば鉄の怪物にも立ち向かえるんじゃないの?っていう妙な説得力が出ると思うのは自分だけだろうか?まあええか。この映画でマッドサイエンティストな立場にある子敬が、自分の思いを叶えられなかった復讐のように科学力を無理やり持ち込もうとするくだりがあるので、スチームパンクの必然性もわかるのだけど、不憫だと思っても同情はしないぞ(笑)。
 あ、ゲーム的な構成ってのは特に目新しくもないかも。この映画が既にやっているので↓いや、それでも面白かったよ。反応が薄いのは単に自分がゲームに馴染んでないからです、ハイ。

 そんなこんなで、長らく不在だった陳長興の意外な正体(いや、観ればだいたい誰だかすぐわかるのだが)や、よそ者の露禅に陳家拳を習得させるために玉娘がとった手段(いや、下の予告を見ればすぐわかるのだが)に驚きつつ、続編に突入。

 新たな生活に入ってもバカなまんまの露禅であったが、ある日、長年失踪していた陳家の長兄、栽秧(ウィリアム・フォン)が妻を連れて帰ってくる。栽秧は露禅が天理教軍にいたことを挙げて村に災いをもたらすと告げると、不吉な予言を伝える鐘が村に鳴り響く。
 実は彼は子敬とつながっており、当人は東インド会社のフレミング公爵(ピーター・ストーメア)から援助を受け、先に栽秧を送り込んで露禅を村から引き離し、村に総攻撃を仕掛ける。露禅と玉娘は長興(カーファイ)と共に子敬の軍と戦い、やがて彼らは村を救うために醇親王の腹心・李乾坤(元彪)のもとに行くが…。

 前作で玉娘が露禅に陳家拳を習得させるために、自分の婿にするという手段をとったのだが、まあこれはお約束であり、当然「ワタシはアナタのことなんか全然好きじゃないから!」という態度を取られるのはやむなしだわな。基本は馬鹿キャラの露禅だけど、馬鹿ゆえに図太いといういい性格をしていて楽しい。
 そしてものすごく災いくさい栽秧兄ちゃん。不気味かつ切れ者的な登場は「おお、子敬以上の悪役登場!」とドキドキしたもんだが、いざ皮を剥いてみると、実はかなりヘナヘナ野郎でひざカックン。むしろ奥さんの方が切れ者ってオチかよ(笑)。でも栽秧も子敬と同じ過去を持ち、武術を習得できなくて技術に走っている。やっぱりかわいそうかなと思いつつ、上に同じく同情はしない。 

 見どころとしては後半からの子敬率いる大砲軍と陳家(と言っても3人でだが)のバトルと、クライマックスの李乾坤と露禅との対決。特に後者はベテランの元彪さんとの新旧対決が、なんと厨房のとんでもないところで展開されているので、実に楽しい。
 でも、1でやたら強調された、露禅の「怪珈(異形)」っぷりはもっとやらかしてもよかったと思う。まあ異形っぷりが進んじゃうと、死んじゃうってのはわかるんだけどね。あと、ゲーム的演出が控えめになったのは、1でやり過ぎたからかしらーなどと思ったりして。

 Twitterであるフォロワーさんが、カンフーとスチームパンクを詰め込み、ステが自分で会社を立ち上げて好き勝手に作ったこの映画と、この夏一部の映画ファン(実は自分も含む)の間で大いに話題になった『パシフィック・リム』には通じるものがあるのじゃないかと言っていたのだが、それには大いに同意した。…てことはステもまたヲタ監督ってことか。って安易な結論に至ってスマン。

 実はこの映画、当初は3部作の構想があったそうだが、売上が芳しくなかったとのことで、この2作で打ち切られたという話があるらしい。…まあ、それはしょうがないというしかないのか。実はワタシもかなり楽しんだのだけど、感想自体はこんなことくらいしか書けなくて申し訳ない。SF方面への目配せとかそういう配慮をすればよかったかしらと思いつつ、それでもこの続編は観たいもんだねえ。見果てぬ夢でもね。

原題:太極1  從零開始/太極2  英雄崛起

監督/製作&出演:スティーブン・フォン 製作&出演:ダニエル・ウー 製作総指揮&原作:チェン・クオフー アクション指導:サモ・ハン・キンポー 音楽:石田勝範
出演:ユエン・シャオチャオ   angelababy  レオン・カーファイ エディ・ポン スー・チー  アンドリュー・ラウ  ブルース・リャン ホン・ヤンヤン  フォン・ツイフォン ウィリアム・フォン  パトリック・ツェー ピーター・ストーメア ユン・ピョウ   

| |

« 導火線(2007/香港) | トップページ | TIFF、フィルメックス、そして冬の特集上映に思ふ。 »

映画・テレビ」カテゴリの記事

香港映画」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 太極 ゼロ/ヒーロー(2012/中国=香港):

« 導火線(2007/香港) | トップページ | TIFF、フィルメックス、そして冬の特集上映に思ふ。 »