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隠し玉はいつまで隠し玉なのだろう。張震飾一線天。

 SNSで回ってくる『グランドマスター』の感想で多く見かけたのは、「なぜ葉問と一線天(字幕ではカミソリ。本記事では原語名で通します)は戦わないんだ?」という不満。まあ、多くの人々がすれ違っていくのが王家衛作品だから、別に葉問と一線天が戦わなくてもこっちは全然構わないんだけど、あれだけアグレッシブなアクションを見せられちゃったら、そりゃあ期待もしたくなるわな。しかも八極拳を体得した張震自身が、八極拳の大会で優勝したとか言われちゃったらな。

Grandmaster3

   いや、ここではそんなことを言いたいんじゃない。
 ブエノスアイレス以来の王家衛作品の常連俳優となり、今や台湾を代表する中堅男優となった張震だが、なぜ彼は王家衛作品では出番を削られるのだろうか。名優を父に持ち、今は亡きエドワード・ヤンの2作で鮮烈なデビューを飾った彼は、映画3作目で王家衛に呼ばれてアルゼンチンに飛び、途中離脱したレスリーに代わって物語をなんとか支えたのに。
 ていうか、張震ってブエノスの他で王家衛とガッツリ組んだのって、DJ SHADOWの「SIX DAYS」と「若き仕立屋の恋」くらいなものか。2046ではカリーナを刺した男と未来世界のレジスタンス役だったのに、どっちも一瞬だったもんな。でも9年前のアレでは来日してたんだよね。


張震の魅力は何だろうなーと考えると、朴訥な青年から眼光鋭い刺客までなんでもこなせる役柄の幅の広さと軽やかさかな。ブエノスのチャンと今回の一線天を見てもよくわかる。
 いろいろな役どころの彼を観てきたけど、好きな役どころはなにかなあ、『地下鉄の恋』の鐘程に『ブラッド・ブラザーズ 天堂口』のマーク(物語自体はあーうーだが)に呉清源かな。どれもキャラが違うのがいい。
 しかし王家衛はなんでまた、長編で彼をうまく使わないんだろうねー。前にも書いたけど、そろそろ張震を主演に据えて撮ってもいいと思うぞ。

Tonychangchen0106

張震近影(といっても1月の一代宗師プレミアだが。右の人の半ズボンについてはここで言うことではない。単に貼りたかっただけ)

 

 さて、一線天を観ていると思いだすのは、やっぱり八極拳使いということで、パンフにも寄稿されていた中国武術研究家・松田隆智さんが原作を担当した藤原芳秀さんのマンガ『拳児』。


文庫版は全12巻か…。マーケットプレイスで探してみるってのも手かな。

 中国武術をたしなむ祖父から拳法に誘われた少年・拳児が成長して八極拳を学び、高校を中退して香港から大陸へと渡っていくこの物語(うろ覚え)は、少年サンデー連載時に少しだけ読んだ覚えがある。この本筋と同時に、八極拳の発展に寄与した武術家・李書文の挿話も描かれていたような気がする。うーむ、当時はまさか自分が香港映画にハマったり、中国語を学ぶとは思ってなかったので、きちんと読んでないんだよな。この機会に読み直したくなったなあ。

 これまで香港(というか中国でもか?)で書かれてきた中国武術としては、代表的なものは少林拳(少林寺拳法は日本独自のものだそうであしからず)、そしてこの映画と葉問二部作で描かれた詠春拳しか思いつかないが、劇中で金楼の勇さん(劉家勇)が「雑多な拳法さ」と演武していた洪家拳も映画のネタになってたかもしれない。そのへんお詳しい人はたくさんいると思うので、後で調べておいてリンク貼りましょう。

 よく考えれば『グランドマスター』は葉問の詠春拳や一線天の八極拳だけでなく、宮二の八卦掌や馬三の形意拳が登場し、それぞれの拳法を丁寧に紹介していることから、中国内外の武術家たちには称えられたらしい。この映画を作るために数多くの武術家に取材を重ねたというのも納得である。だから王家衛作品を知らない誰もが期待した「中国武術の天下一武道会」ではなく、「激動の20世紀を生きぬいた中国武術家の群像」になったのはしょうがないと思うんだけどさ。だからと言って酷評すんなよとここで弁護しておく。

 それであっても、やっぱり一線天と葉問は、戦わなくてもいいからどこかで接点は欲しかったな。国民党の特務から離脱して香港に亡命し、理髪店を開業する傍ら道場を立ち上げて暗躍したんだろうな。そしたらなおさら一線天が主人公のスピンオフが見たくなったのである。
 どうかね王家衛よ、この映画は自作では香港及び大陸で最大のヒットを放ったのだから、ここは肩の力を抜いて、澤東公司&春光映畫でいっそのこと公式スピンオフで《白玫瑰理容廳》とか作ってみるってのはどうだろうか。監督はジェフ・ラウかしっかりした若手、主演はもちろん張震、ヒロインは台湾の若手女優、脇役は現役アクション俳優、そしてカメオでトニー登場!とかさあ。やってくれたらもちろんワタシは観るよ。
 …なんてこと言ったら、いろんな人に怒られるかなあ(^_^;)。

 さて、いよいよ日本上映も最終週なので、次回更新は今までに書き落としていたことやらなんやらを書いて、一代宗師祭りの締めとしたいと思います。
 そういえば今週の木曜日は、トニーの誕生日だねー…。

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