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恋はあせらず(1994/香港)

 今回の上京で、この『恋はあせらず』を含むレスリー作品3本を観て改めて思ったことがある。レスリーって、決して女子にとっての理想である「王子様」ではない役どころが意外と少ないんだよなあってことに気付いたのだ。
 それではっきり気づいたよ、ワタシが「レスリー様」という一部で使われる敬称が苦手な理由がね(笑)。

↑じぇじぇ、画像がないじぇ。なんとももったいないじぇ。

 日本のドラマや映画で登場する女性にとっての「王子様」って、まさに文字通り「そんなヤツいねーよ!」って輩ばかり。ここ十数年観ていると、確かに「イケメン」と呼ばれるカッコええ俳優は増えたけど、顔がいいだけじゃこっちは惚れない。味のある顔立ちだったり、癖のある演技をしてくれる男優には好印象を抱く。てゆーかむしろイケメンじゃない方が惚れる。
 で、今さら言うのもなんだけど、それを考えれば香港や台湾はまさにそういう俳優の宝庫なんだよね。だからこそ、ワタシは香港映画を好み、ファンを続けられるのかもしれない。

 閑話休題。レスリーの演じる役どころが決して王子様ではない問題(ただし某合作の彼は完全に王子様扱いだったのは言うまでもない。これを一番言いたかったんだよ)だが、『ルージュ』にしても『色情男女』にしても、前者は美しいけど実は結構な弱腰男、後者は行き詰ってる一応リア充の映画バカという役どころなので、カッコよさってものは全然ない。そして弱点ばかりがやたらと目立つので、現実にいたらホントにしょうもない輩である。それでも憎めないし、むしろかわいいと感じてしまうのが、レスリーという個性がなせる技なのかな、と今になって思うのである。

 調子に乗ってしでかしたことが原因で保険会社を首になった小狡いお調子者のウィン(レスリー)。学生時代の親友で、老人介護施設でアルバイトしながら現代中国音楽家としての成功を夢見るファイ(カーファイ)と2人の友人(マイケル・ウォン、黄子華)の助けを借りようとしては失敗し、彼らを巻き込んで、不幸にしていく。三人とも彼を疎ましく思い、縁を切りたいと思っているのだが、自分の妹が彼に好意を寄せているサンはそれでもついつい彼に付き合ってしまう。
 ある日、ウィンとファイはカフェでバリバリのキャリアウーマンであるウィニー(ロザムンド)に出会い、ファイは彼女に一目ぼれ。一方ウィンは彼女の携帯電話をすり替えて社長(ケネス・ツァン)に取り入り彼女の働く不動産会社に入社し、彼女の仕事の邪魔をしながらみるみるうちに出世街道を突っ走る。しかし、社長の次の目的が、ファイの勤めるホームであることがわかり…。

 どうしようもなくわがままでお調子者でムカつくのに、どういうわけか憎めない。この映画のウィンはまさにそういうキャラ。こういうキャラが演じられるのはレスリー本人のキャラクターによるところも大きいだろう。逆に日本の俳優では王子様は演じられても、こんなキャラは演じられないでしょ?香港の映画人はそのへんわかってるよなーというように思う。そして大陸の監督が、彼に耽美的な役どころを要求するのも同時にわかる気がしたよ。

 レスリーのことばかり言ってないで、他の俳優のことなども書かなきゃな。
同じ年に公開された『楽園の瑕』と同じコンビなのに、この違いや緊張感のなさはいったいなんなの?といいたくなるのが家輝さん。芸術家肌のフリーターという役どころはアクセント(なのか?)にはなっているけど、とことんお人好しで終始ウィンに振り回される。考えりゃ家輝さんの代表作って、おそらく一般的には『ラ・マン/愛人』(どうでもいい個人情報だが、偶然にも今この原作2部作を読進中)なんだろうけど、これまでいろんな映画で彼の演技を見てきたら、アレは家輝さんのキャリアの中でも数少ない例外じゃないかって気がしてきた(*意見には個人差があります)。
 マイケルは相変わらずの安定感で、いつの間にか英語しゃべってる勇敢な警察官だし、ジーワーも小商いで稼いで思いっきり損をする小市民役がよく似合う。そして一応ヒロインのロザムン。この方もしっかり者のお嬢さんだけど、どうも恋愛沙汰までは進行しにくいキャラってのはお約束だよなー、といった具合の安定感のよさ。まあこれは決してつまらないものではないし、90年代初頭の、ローカルな香港映画がまだまだ元気だったころの懐かしさも呼ぶもんなんだろうな。

 そうそう、時代のことについても書かねば。自分的には実はここが一番の注目どころだったんだよ。1994年といえば、日本(特に東京近郊)じゃバブル崩壊の影響がじわじわと出てきて、20年に及ぶ不況の始まりの年でもあったんだけど、香港では3年後の返還を控え、大きな変化を迎えようとしていた頃のはず。ワンチャイ三部作を観ていてもわかるのだが、90年代初頭から返還直前に作られた香港映画はほぼすべてと言っていいほど、作品の背景に返還が影響しているように感じている。この映画の登場人物たちもそれぞれの人生を生きながら、ラストの展開で大きな転換を迎える。「世の中は金だ」といわんばかりに調子よく世間を渡り歩くウィンも、夢を追いながら目の前にある安定感に心が揺らぐファイも、みんな人生が変わっていくが、それでも友情は変わらない。日本では70年代に一世を風靡した中村雅俊のドラマ『男たちの旅(香港題・前程錦繍)』の主題歌を熱唱する4人の男たちは、どんなに友情が薄れてしまったり、世の中の変化で自分の運命がガラッと変わってしまっても、それでも長く付き合っていくんだろうなあ。
 そして20年後の彼らの姿を観たい、と思っても…もう再結集できないという悲しさよ。それを思うと、楽しく笑える映画も途端に切なくなってしまうので、このへんで締めよう。

予告編が見つからなかったので、『俺たちの旅』つながりで、オリジナルの雅俊さんとアーロンが共演した2年前のチャリティコンサートの動画を。これもまた胸をギュッと掴むのである…。

 最後に大きな疑問。ところでこの映画のどこが、「恋はあせらず」なの?
恋にあせっていたのは、むしろウィンよりファイじゃないの?

原題&英題:錦繍前程
監督&脚本:ゴードン・チャン 製作:チャールズ・ヒョン ウォン・ジン 脚本:チャン・ヒンカイ
出演:レスリー・チャン レオン・カーファイ ロザムンド・クワン マイケル・ウォン ウォン・ジーワー

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