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ルージュ(1988/香港)

 4月1日をはさんで、六本木と心斎橋のシネマートではレスリー主演映画の特集上映が相次ぎ、3月31日の夜には、全国のTOHOシネマズで追悼ライヴ「継續寵愛 MISS YOU MUCH LESLIE」の生中継があった。しかし悔しいことに、地元では上映なし(仙台にある系列の映画館が上映してくれたけど、行けるわけなかった)。もっともこの日までは件の六本木で特集上映を観ていたわけだから、仕方がないわけである。しかし、青森(南部のイオンにTOHOシネマズがあった)や仙台などの入りはどーだったのだろう…(泣)。

 さて、シネマート六本木では、80~90年代の香港映画黄金期の出演作を中心とした「レスリー・チャンメモリアル」と、陳凱歌とコンビを組んだ2作&これが最終上映となった『色情男女』をセレクトした「レスリー・チャン電影節」の2つの特集上映が実施。ほとんどお馴染みの作品だし、ラインナップに王家衛作品がないのがなんとも寂しいのだが(ただしプロデュース作と合わせて全作品のソフト権を獲得した会社があるらしいので、再上映に期待)、以前ビデオで観たきりの『ルージュ』、上映期限が切れる『色情男女』、そして全くの初見となる『恋はあせらず』の3作品を観ることにしたのであった。
 そんなわけでここからはレスリー作品特集。ヘンなツッコミがあっても、笑って許してくださいませ。

 大学に入ったころ映画を観始めるようになって、台湾留学を控えていたころにサークルの先輩に悲情城市以外で中華電影をいくつか薦めてもらったのが、そのうちの1本が実はこの映画だった。香港映画にハマった頃にサークル仲間からビデオを借りて観たことがあるけど、それ以来の再見となる。

レスリーと梅姐が歌う主題歌のMV…なんだが、梅姐ヴァージョンはネタばれやんかー(苦笑)。未見の方はレスリー版だけで止めておくことをお勧めします。

 1934年の香港。とある妓楼にて芸妓の如花(梅姐)は、客として来た布地商・陳家の次男坊、通称“十二少”(レスリー)と宿命の出会いを果たす。お互いの出方を探りながらやがては恋人になり、アヘンに酔う退廃した日々を過ごしていたが、十二少には親が決めた許嫁がいた。それを悲しんだ如花は、十二少にアヘンを飲ませて無理心中を図る…。
 時は移り、現代―1984年の香港。記者である恋人チョウ(エミリー)と共に、新聞社の広告部で働くユン(アレックス・マン)は、ある日時代遅れの服装をした女性から広告を打つ依頼を受けた。その怪しさに引っかかった彼が女性を問い詰めると、彼女は幽霊、すなわち心中を図った後の如花であった。どうやら心中は失敗し、十二少はこの世に行き残ってしまったようなのだ。彼女の身の上話を聞いて同情したユンは、チョウと共に十二少を探すことになるが…。

 オープニングで紅を塗る如花のショットは印象に残っていた。梅姐は決して美人じゃない、どちらかといえばオトコ顔のファニーフェイスだと思うが、艶やかなチャイナドレスに身を包んだこの映画の彼女はとにかく魅力的だと思う。やっぱりこれは梅姐の映画だよな。
 そう言いつつも、彼女の魅力に溺れ、彼女もまた夢中になる十二少を演じるレスリーもたまらなく美しい。男装して歌う如花と十二少の出会いと相思相愛に至るまでの駆け引き、控えめな描写ながら官能的なラブシーン、どれもよかった。跡継ぎを拒んで京劇の世界に飛び込み、修行する場面はまさに覇王別姫!であるし、脚本を書かれた李碧華さんはこれを元にして『覇王別姫』を書かれたというのだから、なんとも運命的なものであるわ。十二少は美しく儚げではあるけど、守ってあげたいお坊ちゃんじゃないキャラに仕上がっているのもまた魅力的。どこかに小狡さもあったし、恋の情熱に身を焦がしながらもどっか飽きっぽいところもあるから、ただの王子様でもない。だから物語の終盤、幽霊となった如花が死なずに生き残った十二少のその後の人生と、すっかり変わり果ててしまった姿を見たときの衝撃は並大抵のものではないし、この残酷さも彼女同様に観客に突き付けてられてくるのだ。苦しいけど、それも見事なものだよなあ。

 とは言っても、メインとなるのはあくまで80年代の香港なので、現代のシーンも興味深く観た。それでも25年前だから、当時の流行がうかがい知れるねえ。悪役が多いアレックス・マンさんが平凡な新聞マンを演じていたけど、メガネにセーター姿の彼は本当に平凡な香港の好青年だったなあ。挽歌シリーズでレスリーの恋人役だったエミリーさんも、元気な女の子がよく似合ってた。最初は如花を胡散臭く思って嫌っていたチョウも、心中事件から二人の愛をたどっていくうちに、ユンと共に二人に共感を覚えていき、お互いを確認するように愛し合っていくくだりが印象的だった。
 あとはクライマックスで、十二少がいるとの情報をつかんで3人が向かったスタジオで幽霊ものの映画が撮影されていたというくだりも面白かったなあ。如花が幽霊であること、当時の香港映画のゴーストものブームももちろんあるし、この映画もまたゴーストものでありながら、変化球を投げてきているってことがわかりやすくなっているしね。 

 そして忘れちゃいけないのが、製作に成龍さんが関わっていること。今ならアンディ先生と同じことをしていたんだよね、大哥は。今は完全に大陸シフトになってしまったけど、香港映画でも自らの作品以外のプロデュースも再開してもいいんじゃないかな?アンディや王晶さんが若手監督やアン・ホイさんの文芸作品をバックアップしてるけど、成龍がそれをやってくれれば、これまた香港映画のこれからに十分貢献することになるんじゃないの?単純にそう思っちゃうのだけど。

 上記以外の他に、スタンリーさんの代表作でもあるこの映画は、香港映画史においても経典(名作)と呼べる作品。香港映画ファン以外の人にも観てほしいなあって思いますよ。

原題 :胭脂扣
監督:スタンリー・クワン 製作:レナード・ホー&ジャッキー・チェン 原作&脚本:リー・ピクワー
出演:アニタ・ムイ レスリー・チャン アレックス・マン エミリー・チュウ

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