《血滴子》(2012/香港・中国)
ここ数年のピーター・チャンの旺盛な仕事っぷりは、『ウォーロード』や『捜査官X』のような監督作だけじゃなく、『孫文の義士団』のようなプロデュース作からもよくわかる。 つまり中国史を背景にした、鮮烈なアクション大作が続いているわけである。90年代の『月夜の願い』や金枝玉葉二部作、そして『ラヴソング』のようなかわいらしい珠玉の恋愛ものを作っていた頃にはもう戻る気はないのだろうな、残念ながら。だけど、監督はせずとも、せめてプロデュース作だけでもそういう作品を手がけてくれたらいいんだけどなあ。
《一代宗師》公開時期の調整でなかなか上映が決まらなかったと聞いた《血滴子》。そもそも監督も当初は孫文に続いてのテディさんだったのが、いろいろあって降板し、孫文を演出面でもサポートしたアンドリューさんを起用して作られたとのこと。血滴子といえば空飛ぶギロチン(『大魔術師』冒頭にも登場し、彦祖が犠牲になる。笑)だし、最初から3D上映を目的に作られたというのだから、やっぱり3Dで観るべきよね?というわけで、3Dメガネを持って九龍湾のシネコンに観に行った。
冒頭の歌が、もうねぇ…(涙)。
血滴子とは、清朝の雍正帝の元で働く暗殺集団であり、彼らが飛ばして首を落とす武器ーいわゆる空飛ぶギロチンのことでもある。リーダーの冷(イーサン)は実は漢民族であり、康熙帝(文章)と朝廷に仕える海都(ショーン)と義兄弟として育った。
冷たちは反清復明を求める人々を追いかけ、ギロチンを駆って次々と首を落としていくが、最後のひとりとなったリーダーの天狼(シャオミン)と対峙した冷は彼の首を狩れず、取り逃がしてしまう。
雍正帝は彼らに天狼の追撃を命じ、冷たちは平原に出向くが、襲撃を受けてメンバーのひとりである穆森(クリス・リー)が人質にされてしまう。
冷は天狼と出会うが、自らの出自を指摘され、彼の思想を知って動揺する。そして自らの位置に疑問を抱き始めていたその時、海都が彼らを裏切り者として追い詰めていた。朝廷では鉄砲隊が結成され、血滴子は全時代の異物として葬られようとしていた…。
観てからもう1ヶ月経っているので、あらすじはうろ覚えです。間違っていたらすみません。おじぎ
血滴子といえば、多分年期の入った香港電影迷ならショウブラザーズの『空飛ぶギロチン』なんだろうな。これ、5年前の香港レジェンドシネマフェスティバルで上映されていたそうだけど、すみません観てません。
首をスパンスパンと落とす恐怖の武器ではあるけど、絵柄としては確かに面白いんだろうな。だから何度も映画に登場したわけだ。ショウブラの映画は《刺馬》の時にも書いたけど、血みどろであってもどこか朗らか。だから、うわー怖ーって感じは案外ないのかもしれないな。
だけど、あの《刺馬》を、ヘヴィな鮮烈な男たちの物語に作り変えたピーターさんは、プロデュース作でもまた例によってヘヴィで厳しい物語にしちゃったわけのであった。…うーむ、アンドリューさんだからまた違うかもって考えてたが、それは甘かったか。もっとアクションバリバリでよかったんだけどなあ。
これまでは時に帽子のような、またある時には宇宙人の円盤のような形で描かれてきたギロチンだけど、ここでは刀と一体化し、腕に巻いて携帯できるというなかなか近未来的なビジュアルでカッコいい。オープニングで血滴子メンバーがギロチンを開き、刀に載せて飛ばそうとする場面はまるでアニメのようだったし。
でも、よかったのはそこと前半部だけかなあ。後半血滴子メンバーが捕らえられ、仲間のひとりが八つ裂きの刑に処されるくだりから辛くなってきた。作り物だとはわかっていても、見せられるとエグいなーと思ったし。こういう野蛮さがあって、その後にスマートな鉄砲集団を見せられると、うーむと悩みたくなったりして(こらこら)。
実質的主人公は、イーサン演じる冷。これが初香港&中国映画になるのだろうか。恐れを知らない前半と、真実に翻弄される後半、頑張っていたと思う。まあでもまだまだ若造かな。これからだねー。
今回意外とよかったのが天狼を演じたシャオミン。彼はどうも何か企んでるようなルックスが引っかかってしまうんだけど、『恋の紫煙2』のあの役は面白かったし、香港でもやっていける俳優になりつつあるなー。今回は特に貫禄が必要な役どころだから、印象深かったのかも。ただ、他の人の感想でいくつか見かけた、キリストのような殉教者には見えなかったなあ。
ショーンの海都は体制側の人間で、冷と共に育っているということもあるので、天狼と共に冷を揺さぶる役どころ。冷酷な悪役として描ければよかったんだろうけど、どこか中途半端な印象だった。
あとは、康熙帝が『海洋天堂』のあの文章くんとか、王羽さんの頭領は気づいて手を振った。そして野郎ばかりの中での一応の紅一点、クリス・リーは相変わらず可愛くなかったなあ。
初めて香港で3Dを観てみたが、うーむ、雪や火の粉の舞う場面はなかなか効果的だったけど、あえて3Dにする必要はなかったような。先行上映が3Dだったからなのか、初日なのにお客さんが少なかったのにびっくりしたよ。
あと、陳光榮さんの音楽は、やっぱり佐藤直紀さんにどっか似てるなと思ったりして>もちろん陳光榮さんの方が耳馴染みなのだが、旅の間にるろけん観ちゃったのがそもそもの原因かもな。
英題:The Guillotines
製作:ピーター・チャン 監督:アンドリュー・ラウ 音楽:チャン・クォンウィン
出演:ホアン・シャオミン イーサン・ルアン ショーン・ユー クリス・リー ジン・ポーラン ウェン・ジャン ジミー・ウォング
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