マイウェイ―《美好2012》より(2012/香港)
東京国際映画祭には様々な協賛企画がある。今回はかなりブーイング食らってたあの伝説の字幕でお馴染、東京・中国映画週間もその一つであるが、トーさんの《単身男女》があったのもかかわらず今回はそのへんの作品はぜーんぶパス。いや、確かにワタシは尖閣諸島は日本のものとは思っているのだけど、決してそれによる反中活動をしたわけではございませんことよ(苦笑)。
そんなことはどうでもいいとして、今年はその協賛企画の一つに「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア」によるアジア中心の短編作品を集めた「フォーカス・オン・アジア」があった。そこで、現在東京で『桃さんのしあわせ』が公開中(我が地元でも新春早々公開。待ち遠しい!)のアン・ホイ監督が、今年の香港国際映画祭の企画で作ったオムニバス短編集「美好2012」の一編『マイウェイ』が上映されるというので、観に行くことにした。
冒頭から化粧をし、寝転んでストッキングをはき、女性の声色を作る男(ジャンユー)の姿が映し出される。彼―チャウはヒールをはいて街に繰り出し、映画を観に行く。その後、友人たちに会いに行くが、話題を聞いてみると、その彼女たちはどうやら性転換した性同一性障害者らしい。チャウは女性としてふるまうが、どうも事情を知らない周りの人々からは、そのように扱ってもらえない。
実はチャウには別れた妻(ジェイド・リョン)と大きな息子がいた。チャウが慰謝料を払って別れたものの、元妻の暮らし向きは楽ではなく、彼女はチャウに電話して激しく責める。チャウは離婚直前から、性転換手術直後のこと、そして妻と結婚したばかりのことなどをあれこれと思い出す…。
○某ちうぶではここで全編観られます。ただし字幕は香港仕様なので注意。
まー確かに性転換するのがあの強面ジャンユーだから、誰もがビックリするか、大笑いかなのだろう。以前『楊貴妃になりたかった男たち』を読んだ時にも書いたが、なぜ香港の男優は映画で女装したがるのか?というのを思い出したのも言うまでもない。
ただ、この場合はただの女装でなく、性同一性障害であったという点が読み取れる。結婚をして子供をもうけるまで、常に男性としての振る舞いを強要されたチャウが、妻を愛していながらも自分は女性として生きたいという気持ちを大きく募らせていたのではないか、と読み取ることは大いに可能だ。そして、自分を責めながらも、別れた妻が自分を愛しているということも同様だ。確かに夫婦ではいられなくなった二人だけど、性転換手術直後、同じ境遇の友人に囲まれたチャウのベッドから少し引いた座ったものの、彼女たちを見つめる妻の目には恐れや哀しみではなく、かつての伴侶の新たな出発を少し祝うような表情がどこかしらにあったように見えたのが、救いだったような気がする。
こんな元夫婦の生きざまを20分間で描いた作品であるけど、アン・ホイさんはこのデリケートなテーマとそれを演じるスターたちを、これまでと全く同じように、実に自然に暖かく映している。低所得者の多い地区で暮らす人々も、高齢独身者と彼の家のメイドの介護問題も、同じ香港の街で暮らす人々としてつながっている。性同一性障害というか、この手のトランスセクシュアル問題が香港ではどう認識されているかということは不明なんだけど、市井の人々の暮らしの一つの形として淡々と、でも暖かく描いているのがいい。さすがのアン・ホイ姐さんだ。ところでチャウの友人たちを演じていた人々は、実際に性転換された人もいるんだよね?とエンドクレジットを見ていて気になった次第。
ジャンユーの怪演につい目が行きがちなんだけど、奥さん役のジェイドさんにも注目。かつては「ジェイド・レオン」と表記され、ミシェル姐を継ぐアクションスターだった方か。代表作は「BLACK CAT」ね。実はこのあたりはことごとく見逃し、「リョン」表記で見つけた未公開映画も全然手は付けていなかった。あまりにも普通の美しい奥さんだったから、アクションやってたとは思えなかったもんな。後でなんか観てみます。いつになるかわからないけどね。
原題:我的路
監督:アン・ホイ
出演:ン・ジャンユー(フランシス・ン) ジェイド・リョン
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