新少林寺(2011/香港)
昨年の今頃の香港旅行で、よく見かけていたのが坊主頭のアンディ、軍服姿のニコ、そしておっちゃんの成龍さん(笑)が描かれたこの『新少林寺』のラッピングバス。当時は絶賛公開中だった。この旅行では映画を観る暇はなく、ついでにバスの写真も撮れなかったのだけど、このメンツを揃えてベニーさんはどんな映画を作ったのだろう、とずっと思っていた。
『少林寺』といえば、どーしても30年前のあの映画―リンチェイが名を成した作品を思い出させるのだろうけど、残念ながらワタシは観ていない。だから、少林寺映画についてあれこれ語る資格はない。しかも、本格的な少林寺映画を観るのはこれが初めて。まあねー、偏っているからしょうがないか。
(広東語版予告を見つけたので、今回はこれを)
辛亥革命の翌年にあたる1912年。民主主義国家の中華民国が建国され、新しい時代が到来したというのに、中国各地では軍閥同士による内戦が多発し、国土は荒れ果てていた。
少林寺を擁する嵩山では、軍閥の将軍候杰(アンディ)が猛威を振るっており、助けを求めて少林寺に逃げ込んだ敵の霍龍を撃ち殺し、淨能(呉京)、淨空(釋延能)、淨海(余少群)ら僧侶たちを侮辱する。
極悪非道な候杰だが、彼はまた妻の顔夕(范冰冰)と一人娘の勝男(嶋田瑠那)をこよなく愛する家庭人でもある。同じ年代の息子がいる将軍の宋虎を義兄弟の契りを交わしたものの、彼を暗殺しようともくろんでいたのだが、家族総出で出かけた宋虎の息子との縁談の時に、腹心の部下曹蛮(ニコ)が彼を裏切り、刺客を放つ。その手に勝男がかかり、一家が命からがら駆け込んだ少林寺で僧たちに応急処置を施してもらうもむなしく、小さな娘は息を引き取った。そして失意の妻は夫の前から姿を消す。
かつて自分が無礼を働いた少林寺に匿われたまま、何もかも失って茫然とする候杰。淨能たちも彼をどう扱っていいのかわからない。そんな中、候杰は厨房係の悟道(成龍さん)と出会う。修行僧になれずに少林寺に勤める彼や幼い僧たちと行動を共にすることで、候杰の心には今までの非道を悔み、罪を償いたいという気持ちが芽生え、出家を決意する。自ら剃髪して少林寺方丈(于海)に申し出た彼は、入門を許され、淨覚という新たな名前を授かる。
淨能たちとも和解し、日々鍛錬に励み、街に出て救済活動に当たる淨覚。しかし、その穏やかな生活も長くは続かなかった。彼を追い出して将軍の座につき、西洋人と手を組んで遺跡の盗掘に民を借り出していた曹蛮が生存を知り、少林寺へ襲撃をかけようとしていたのだ…。
この物語の時代設定は『1911』のちょうど翌年。これまでの少林寺映画は隋や唐、清が舞台になっているものが多いらしい。もちろん、民国時代が舞台の作品もあるらしいけど、この時代に設定されたことで、時代のうねりも頭に入れながら楽しめた。確かに少林寺だけで観るとキツイと思う。先に書いた通り、ワタシは少林寺映画をまともに観てきていないからね。これは『孫文』にもつながるし、もっとさかのぼれば日本の幕末にも関連付けることができる。
なにせ題名が「少林寺」なので、必然的に少林寺の修行僧たちにスポットが当たるのは当然だし、淨能・淨空・淨海の三坊主が真の主人公といえるのは確かかもしれない。三人兄弟のようにコントラストがはっきりしており、武術チャンピオンから俳優に転じた呉京(今回は悪役じゃないのがポイント高し)、実際に少林寺の弟子である釋延能(『功夫』の平井堅似の人夫!)、越劇出身の余少群(『梅蘭芳』やドラマ『蒼穹の昴』も印象的だった)という、身体能力の高い3人の大陸俳優が演じているので非常に説得力がある。これは非常に満足。
それに加えて、先ほどの舞台設定と、主人公の候杰が悪から善へと目覚めた者であることがドラマ性をぐっと強める。悪役もヒーローも僧役もお得意なアンディだからこそ、この役どころだろうし、ちゃーんと演じきって見事なまでの「ザ☆スター・アンディ劇場」を展開させている。
敵がニコというのも素晴らしい。それも美しき悪役。このところずっと辮髪やらスキンヘッドばっかり見てきたので、髪もある(ヒゲもだが)のがさらにうれしい。こういうところに香港明星を配置して盛り上げても、少林寺の場面から浮くことはないので、うまいつくりだと思う。
あくまで特別出演なのに、案の定日本では前面に押し出されていた成龍さんの役どころは、まああれでオッケイでしょう。あと、今回はファンビンちゃんが悲惨な目に遭わなかったのでほっとした。
もっとも、やっぱり面白く見たのは、ちゃんと少林寺映画のツボを押さえながらも、クライマックスではこれまたいつも通りの大爆発に持ち込んだベニーさんの力技(笑)。実際に少林寺が焼打ちされたのは1928年の軍閥の襲撃で、この時代にはなかったのらしいけど、監修を務めていてもそれを許した少林寺本山の心の広さには敬服する。阿弥陀佛~。
英題:Shaolin
製作&監督:ベニー・チャン 製作総指揮:アルバート・ヨン&ハン・サンピン 撮影:アンソニー・プーン 美術:ハイ・チョンマン アクション監督:ユン・ケイ&リー・チョンチー
出演:アンディ・ラウ ニコラス・ツェー ファン・ビンビン ウー・ジン ユイ・シャオチュン シー・イェンネン 嶋田瑠那 ホン・ヤンヤン ユエ・ハイ ジャッキー・チェン
| 固定リンク | 0
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 【ZINE新作】『台カルZINE Vol.2』ほか(2023.06.26)
- エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(2022/アメリカ)(2023.04.06)
- 花椒の味(2019/香港)(2022.07.11)
- レイジング・ファイア(2020/香港・中国)(2022.02.21)
「香港映画」カテゴリの記事
- 【ZINE新作】『台カルZINE Vol.2』ほか(2023.06.26)
- 花椒の味(2019/香港)(2022.07.11)
- レイジング・ファイア(2020/香港・中国)(2022.02.21)
- 第58回金馬奬受賞結果について、いろいろ考える。(2022.01.05)
- 大阪アジアン映画祭とこれからの中華電影上映(2022.03.21)
コメント