香港四重奏(2010/香港)&香港四重奏Ⅱ(2011/香港)
昨年春に香港へ渡った時、HKIFFのプログラムに掲載されていて気になっていた『香港四重奏』。題名通り、4作のオムニバス。詳細はもにかるさんこと水田菜穂さんのblogでも紹介されているけど、こういう映画は一般公開で観る機会ってあんまりない。今年のTIFFでは、最新作の続編と合わせて上映してくれたので、これはどんな作品であっても観なきゃ!と思い、平日に休みを取って上京した次第。
「もち米炒飯」
幼いころ、少年は近所の路地で屋台をやっているおばあちゃんの作るもち米炒飯が食べたくてしょうがなかったけど、行くたびに小銭が足りず、悔しい思いをしていた。
ある日、定価分の5セントを払って、少年はもち米炒飯を買うことができたのだが、違法の摘発を受け、おばあちゃんの屋台は没収されてしまった。
それから20年以上が過ぎた現代。成長した青年(杜宇航)は飲茶レストランの蓮香居でもち米炒飯を注文する。それをぺろりと平らげると、店員に10食分のテイクアウトを頼む。あきれる店員。
それから数日後、青年はあの路地にテーブルを出し、自らもち米炒飯を作り始める…。
古くは『インファナル・デイズ』『人肉饅頭』『ロンリーウルフ』『愛は波の彼方に』、最近は《性工作者十日談》《Laughing gor之変節》など、長いキャリアと多産を誇るハーマンさん。日本でいえば誰に当たる?SABUあたりかな?堤幸彦とか言ったら思いっきり否定されそうだな(苦笑)
もち米炒飯って食べたことあるかな?揚州炒飯や蓮の葉おこわくらいは食べるけど、多分ないはず。観た時間が時間だから、しょっぱなからなんてお腹のすく話を!今度行ったら絶対食べる、と思った人は多数だろうなあ。
香港の魅力は高級グルメよりやっぱり街角フード。それに加えてノスタルジックな裏町(ロケはおそらく《歳月神偸》と同じ永利街)とくれば、もうぐっと胸を掴まれっぱなし。蓮香居にやってきた買い物に血眼な大陸女性を皮肉っぽく描写したり、青年がおばあちゃんの遺志を継ぐように街角に立ち、昔と変わらぬ値段でお客の少女に炒飯を売ったり(でも支払いは八達通!)するラストが粋でかわいい。葉問2部作に登場した杜宇航の青年もナチュラルでよかった。
ハーマンさんの作品はロンリーウルフしか観てないけど、前回の旅行で《Laughing gor》を買っているので、近日鑑賞することにしよう。
英題&原題:Fried Glutinous Rice(生炒糯米飯)
監督:ハーマン・ヤオ 出演:トー・ユーハン
「レッドアース」
世界中を飛び回る華人カメラマン(彦祖)は、機内で出会った女性と香港のグランドハイアットで一緒に夕日を見る約束をした。ハイアットのスイートに部屋を取り、約束の時間にくる彼女を待つ彼。しかし、いつまでたっても彼女はこない。それでも彼女を待つ彼だが、不思議なことに夕日も落ちず、空は赤いままだった。やがて電波障害が起き、携帯電話が使えないことを知る。その原因は大気中の放射線の値が異常に上昇したことからだった…。
陽の落ちない異常な毎日の中、それでもただただホテルで彼女を待つ彼。10日、20日、60日経っても彼女はこない。ある日、彼女がやってきたのを知った彼は逃げた彼女を追ってホテル中を駆け巡る。
ついに放射線量が低下して電波障害が解消され、夜が戻ってきた。香港中の人々は夜にもかかわらずどんちゃん騒ぎ。しかし、その喜びもつかの間、今度は電力がすべてストップし、気温も急低下する。生命の危機を感じながら、彼はカメラのバッテリーが切れるまでシャッターを切り続ける…。
アジアンビートシリーズの《秋月》や、RIKIYAのデビュー作《The Goddess of 1976》など、日本がらみの作品が多い割にはなぜかメジャーに紹介されないクララさんの監督作。もちろんこれが初見。グランドハイアットをメインロケ地に、全編ほぼスチール写真のショットで構成されたアーティスティックな作り。彦祖の役がカメラマンということもあり、彼の英語の語りで進行する。
近未来SF+ロマンティックな恋愛ものという作りだけど、放射線云々や誰もいない香港の風景には、どうしても先の大震災や原発事故がかぶってしまう…。これは去年作られた作品だから予言でも何でもないんだけど、あれがなければまた違ったんだろうな。
英題&原題:Red Earth(赤地)
監督:クララ・ロー 出演:ダニエル・ウー
「恋は偏屈」
太子に降り立ち、彼女に電話をかけて待ち合わせをする男(徐天佑)。尖沙岨でぐでんぐでんに酔っぱらい、彼氏に電話を試みる女(ケイト・ヨン)。二人とも、恋人になかなか会えずに九龍の夜の街をさまよっていく…。
物語はこれだけ。でも、ありふれた香港の夜が美しく撮れていて、とっても魅力的な作品。いや、それ以前に香港であっても東京であっても、夜の光景が美しく魅力的に撮れている作品が好きだったりするんだ、実は。昨年観た日本映画『鍵がない』をなぜか思い出していたなあ(参考としてこちらを)。
徐天佑といえば元Shineで、相方は昨年のTIFF上映作品に出まくっていた黄又南。
監督のヘイワードさんは、『恋の紫煙』の脚本も書いている若手の女性監督。これまた前回の香港行きで監督作《前度》を買っているので、これも観るー。
英題&原題:We Might as Well be Strangers(偏偏)
監督:ヘイワード・マック 出演:チョイ・ティンヤウ ケイト・ヨン
「黄色いサンダル」
香港で生まれて9歳まで育ち、母の死により外国の親類に引き取られた章漫肉(ジョーイ・タン)が、久々に故郷に戻ってきた。彼は香港映画が大好きだった亡き母を追想する。
章には父親がいなかった。母は毎日のように幼い彼を映画館に連れて行った。彼女曰く、父親は映画の中にいると。章は李小龍や周潤發、成龍を父親だと思うが、それは違うらしい。母は自らを女優と言うが、街の人々はそんな彼女を気が触れていると言って相手にしなかった。そんな母はある日、章の体に頭を預けたまま、映画館で亡くなった。
香港に帰還した彼は、山のように香港映画のソフトを買い、自分の父親を探し始める。ふと、生家の近所の雑誌スタンドで母の履いていた黄色いサンダルを見つけた彼は、スタンドのオヤジから真実を聞く。彼女は本当に女優で、かつて劉徳華と共演したことを一番喜んでいたという。章はそのサンダルを買い求め、それを劉徳華に渡す…。
『メイド・イン・ホンコン』で鮮烈なデビューをしておきながら、最近は大陸の仕事が多くてなんかガッカリだったフルーツさん。ゴルァフルーツ!オマエは香港映画の希望の星じゃなかったのか!大陸で金稼いでなんで本拠地で映画作らねーんだ!とまで言いかけたことがあったが、そんな彼が久々に帰ってきた。…それもアニメで。なんでアニメ(笑)。まあ、引用した映画の著作権云々の問題があったからだろうと考えたいけど。
そんな作りでも内容はストレートな香港映画讃歌。主人公の名前なんてもうニヤリとさせられちゃいますからね。最近の香港映画の状況を思えば、この作品で言及された作品群のようなパワーがまた戻ってきてほしいとは思うんだけど…。つーかそれと共に、早く香港映画に戻ってきなさい、フルーツさん(苦笑)。
英題&原題:The Yellow Slipper(黄色拖鞋)
監督:フルーツ・チャン 出演:ジョーイ・タン
ベテランから若手まで、香港人監督で構成された前作から一転し、今年作られた『香港四重奏Ⅱ』は東南アジアの監督3人+大御所のスタンリーさんで構成。
「パープル」
香港郊外の漁村で暮らす、妻を亡くしたフィリピン出身の老漁師。高層アパートに住むフィリピン系の少年。漁師は死んだ妻の声を聞きながら九龍でショッピングを楽しみ、少年はガールフレンドに電話をしながら街に出る。彼らはともに、花を買い求める。愛する人のために…。
ブリランテ・メンドーサ?フィリピン映画に明るくないのは当然だし、初耳だなーと思ってググったら、2年前のカンヌで監督賞を獲った『キナタイ』の人かあ。アイディアや構成は「恋は偏屈」と同じなので、印象が薄かった。愛の形を描いたいい作品なんだけどね。惜しい。
英題&原題:Purple(紫)
監督:ブリランテ・メンドーサ 出演:レネ・ドゥリアン
「機密洩れ」
キャリーバッグを引きずって、マレーシアから香港にやってきた怪しい男と、香港警察と共にそれを追うマレーシア警察。男は不機嫌な女性二人が経営する安ホテルに投宿する。明らかに怪しい男の周囲を探る二人は男の部屋に入り込む。そこで二人が見たものは?そして、男はいったい何をしでかしていたのか?
中華系マレーシア人のホー・ユーハン監督(『心の魔』)が、全編モノクロで撮った香港的サスペンス映画…のはずが、なんと意外な展開に。怪しい男をめぐる事件の顛末はいかにも香港の社会現象にありがちで笑える。でも、ちょっと惜しいかなと思うところも多少。ホー監督には今後香港でもどんどん作品を撮ってもらいたいなー。そうすればなかなか観られないマレーシア映画に触れる機会も増えそうだもの。
この作品には再び徐天佑登場。意外とモテてるな、天佑。
英題&原題:Open Verdict(天機洩)
監督:ホー・ユーハン 出演:クララ・ワイ チョイ・ティンヤウ
「Mホテル」
街中のMホテルに投宿した二人の若いタイ人。彼らは室内でカメラを回し、窓際で戯れる。それを見つめているのは、室内に置かれていた水槽の中の魚…。
幻想的な珠玉の名作『ブンミおじさんの森』で、昨年のカンヌにてパルムドールを獲得したアピチャッポン。最近は河瀬直美さんの呼びかけによる3分11秒の短編「3.11 a sense of home films」にも参加している。
この夏観たブンミおじさんはステキな作品で、それなりに好きなんだけど、だけど…。感想はこれしか言えん。
…辛い!からいじゃなくて、つらい!
英題&原題:M Hotel(M酒店)
監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン 出演:チャイシリ・ジワランサン
「上河図(じょうがず)」
昨年の上海万博で公開された、デジタル加工された宋代の書画「上河図」。それが香港の展覧館で公開され、各地からツアーが組まれた。そのツアーに参加した青衣の団地の主婦二人、大陸からやってきたお坊ちゃん&お嬢ちゃん3人組、作家らしき男(林家棟)が空港経由青衣方面のバスに乗り合わせた。空港からはスケジュールをミスった韓国人ミュージシャン朴(テレ)と日本人マネージャー(葉山豪)が乗り込み、バスの中はますます賑やかに。おばちゃん二人は観てきた絵について語り合い、坊ちゃんたちは英語のできる香港人を嫌味に思い、金儲けの話に興じる。男はそれらの話を聞き、思い浮かんだ言葉をスマートフォンのメモに書き留める…。
二部作の掉尾を飾るのは大ベテランのスタンリーさん。久々に香港に帰ってきた彼が切り取る風景は、たった13分間の乗り合いバスの旅。カートンやテレをサラッと画面に馴染ませ、大陸坊ちゃんズ&典型的郊外のおばちゃんズとアンサンブルを奏でる。乗り合わせた人々の人生を短い時間に描きだし、いい味わいを染みださせる。テレが名前からして韓国人なのに、英語でしゃべる彼を見て「香港人って英語しゃべってて気障ー」とか言っちゃう坊ちゃんたちがいかにもって感じ。そして、さりげなく重大な話題を切り出すおばちゃんも印象深い。これぞまさしく、現代香港の「上河図」なんだろうな。
英題&原題:13 Minutes in the Lives of...(上河圖)
監督:スタンリー・クワン 出演:ラム・カートン テレンス・イン 葉山 豪
以上、8作品の感想でした。この中でベスト3を挙げるとしたら、3位が「恋は偏屈」、2位が「上河図」、そして1位が「もち米炒飯」だな。次点は「機密漏れ」。
ところで2には「外の人から見た香港」というテーマもあったみたいで、東南アジア各地の3監督が招かれたみたいだけど、それは成功していたのかな?そして、もし日本人監督がこの企画に招かれるとしたら、誰に撮ってもらいたいかなあ。ちょっと考えてみるか。
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コメント
「恋は偏屈」って、日本語題名がミスマッチに感じませんでしたか?
わたしはこれが一番好きでした。
投稿: 香港フリークOno | 2011.10.30 22:58
確かに、ちょっとした工夫があってもよかったですね。二部作を通して思ったのは、香港の現場でキャリアを積んできた監督の作品はやっぱり面白いってことでした。勝手知ったる我が街ですからね。
投稿: もとはし | 2011.10.30 23:03