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出エジプト記(2007/香港)

 祝、パン・ホーチョン、『恋の紫煙』脚本賞受賞@金像奨
 そして祝!監督作品『ドリーム・ホーム』一般劇場公開…。
 え、後者がなんかどこかやる気なさげだって?いやー気のせいっすよー(棒読み)。
 しかしいくら映画祭未公開だからとはいえ、なんでこれが(強制終了)。

 …これは失礼いたしました。つい、投げやりになってしまって。
 なんかあの手の映画がお好きな方に大絶賛されてるみたいだけど、いっそのことホーチョンはあの手の作品の人だと思いこませてやって、『イザベラ』観せて思いっきりガッカリさせてやりたいなあ、ってホントにやる気あるのか、オレ(大苦笑)。

 はいはい、仕切り直し。
あーでも、ドリーム観た人は、これはのれるかもしれないねー、なんてちょっと思ったのが、ホーチョンの2007年作品『出エジプト記』。これは当時のTIFFでチケット争奪戦にことごとく敗れ、ずっとVCDで出ないかどうか探していたところ、昨年の春にやっとVCDを見つけたといういわくつきの作品。

 詹建業(ヤムヤム)は勤務20年近くになる警察官だが、なかなか昇進できないでいる。ある日建業は、女子トイレをのぞいていて公衆わいせつ罪で逮捕された關炳文(ニック)を取り調べていたところ、關は信じがたい自白をする。―女子トイレで、女性ばかりの地下組織が夫を始めとした世界中の男性を殺そうと計画しているのを聞いてしまった、と。
 始めは冗談だろうと思っていた建業だが、それが気になって再び關を取り調べてみると、彼の自白は全く変化していた。あの後彼は、彼の上司の警官方(マギー)から取り調べを受けたのだ。それ以来、建業は「女性の地下組織」が気になり始めてしまい、釈放された關のもとに通ってはそれについて聞き出そうとする。しかし、關は頑なに口を閉ざす。
 建業には3年前に結婚した若い妻(アニー)がいた。彼女は新しいマンションに引っ越したがっているが、事件に没頭している建業は彼女のいうことに耳を貸そうとしない。常に家を空ける夫のことが気になった妻は警察に行き、方と通じるようになる。
 やがて、關が謎の死を遂げる。彼には大陸から来た妻(アイリーン)がいた。失意の彼女を気にかけた建業だが、いつの間にか二人は愛し合うようになり―。

 オープニング、海パンにシュノーケル姿の屈強な男たちが、逃げる男を押さえつけ、ボコボコにリンチしている場面。こ、これは一体なんだ!と一瞬思ったが、そーいえば異常な場面で幕を開けるのは、ホーチョン作品ではすでにお約束。すぐに制服姿のヤムヤムが登場し、あーステキ、ヤムヤムの警官の制服姿って(はぁと)なんてミーハーしていた。
 物語は一種サスペンス調に進行していく。些細なわいせつ罪、奇妙な自白、その撤回と怯える容疑者、背後にある「謎の組織」、そして夫ばかりが殺される事件―。夫の抹殺を至上目的とする「女性ばかりの地下組織」は、果たして存在するのか!?

 これ、観ていて「googleで『夫 死んで欲しい』と検索している妻が多い」っていう有名なネタを思い出しちゃったなー(笑)。
 tiffのティーチインでは、この映画を撮ったきっかけは「女性はなぜ数人まとまってトイレに行くのだろうか?もしかしてトイレでは、彼女たちは夫を殺す計画でも練っているのかもしれない!」と妄想したことからだと聞いたけど、いくらホーチョンが妻帯者でありながら、頭の中はほとんど中学生男子(注:誉めてますよー)とはいえ、それはちょいと違うんじゃん?なーんて思った次第。実は女子トイレでは、愛と欲望が渦巻いてドロドロしてるのよーん、なんて言いたかったかもね、もしその場にいたら。
 男性のすべてを女性が理解できないのと同じように、男性もまた、女性のすべてを理解できない。かつて『大丈夫』で、女性には理解できない男性たちの欲望をホモソーシャル風味で描いたホーチョンだけど、そこからつながりを読みとれば、この作品にはちょっとミソジニー風味もある…わけないか?ま、あくまで中学生男子的観点をもちながら男と女を描くとこうなるっていうように考えるべきなんだろうな。
 それでも中盤に出てくる、ヤムヤムの隣人である障害を持つ夫(ソイマン)とその妻の背景をちょっとした描写で見せたところなどは決して中学生男子的発想ではないな、と思った次第。いやー、人間って時としてゾンビやエイリアンより恐ろしいよね、なんてちょっと思ったりして(冗談)。

 主演ヤムヤム、彼と対決するのがニックさん、女性警官にマギーとかなりトーさんテイストなキャスティング。ヤムヤム妻が『姐御』『幸福のスープはいかが?』のアニーちゃんだったので、なんかものすごく年齢差が激しいカップルじゃないか?と思ったんだけど、成長してどこか某常盤姫にも似てきた感がある(苦笑)彼女とヤムヤムはちゃんと釣り合っていたから、まあいいかな。
 印象的だったのが、二人が髪に触りあい、建業が奥さんの髪を洗ってあげるという場面。ベッドシーンもフツーにあったけど(この二人の、じゃないが)、男性が愛する女性の髪を洗ってあげるという行為には一種の官能的な親密さを感じてしまう。そういえば昔観た『愛と哀しみの果て』での、ロバート・レッドフォードがメリル・ストリープの髪を洗ってあげる場面も、エロさこそ感じなかったけどステキだなーと思ったもんでね。

 あとは、ライティングの陰影、画面の切り取り方はまさに香港映画。最近日本のTVドラマや邦画ばっかり観ていると、どーしても平たんな画面構成や明るすぎるシーンが物足りなく感じるので、やっぱりこういうのが好きなんだなあと再確認。
 そうそう、音楽を担当するガブリエル・ロベルトは、日本で活動しているイタリア人音楽家。中島哲也監督や堤幸彦監督の作品で活躍していて、代表作としては堤監督の手掛けたドラマ『SPEC』がある。(これ観てました。面白かったー♪)

原題(英題):出埃及記(EXODUS)
製作&原案&脚本&監督:パン・ホーチョン 音楽:ガブリエル・ロベルト 音響:キンソン・ツァン 美術:マン・リムチョン
出演:サイモン・ヤム ニック・チョン アニー・リウ マギー・シュウ アイリーン・ワン キャンディス・ユー ラム・カートン チム・ソイマン

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