ボディガード&アサシンズ(2009/香港=中国)
ワタシたちが生きてきた歴史には、多くの人々の血が地に流され、その死体が埋められてきた。そして、歴史の転換に係わった人は、ほとんどが無名の庶民である。
あの坂本龍馬だって、本当は無名の庶民として生きたかったんじゃないかな、などと思ってしまう。
お分かりの通り、今年の大河ドラマには結構ハマっているのだが、主演の人は好きじゃないし(ファンの人スマン!)、だいたい龍馬自体にも思い入れなんか全然ない。それじゃあなんで観ているんだと問われたら、主人公以外の人物が魅力的だからと答える。もちろん、龍馬以外の人々も名前は残しているのだが、志半ばに早逝してしまったり、凶刃に倒れた人もいたりしたわけだから(龍馬もそうだったし)、評価されていない人物だってきっと多いのだろう。でも、有名/無名、評価の有無にかかわらず、だれもが歴史を支えて生きてきて、その中で死んでいっているのだ、なんて無理やりスケールでかすぎることをいいながら、『ボディガード&アサシンズ』の感想を書きたい。
日本の大政奉還・明治維新から約40年が過ぎた1906年の中国。
イギリス植民地である香港では、自由港としての発展を遂げながら、民主的な政治が行われていたため、没落しつつある清国をめぐっての政治活動も活発に行われていた。その活動家の1人である陳少白(梁家輝)の元に、革命を目指して日本に滞在していた孫文が香港を訪れるという知らせが入った。それは彼を危険視する清王朝にも伝わり、朝廷は閻孝國(胡軍)をリーダーとした暗殺団を結成して彼らを香港に送り込む。
少白は親友であるパトロンである新聞者主の李玉堂(王學圻)と接触し、協力を取り付ける。始めは渋っていた玉堂だが、息子の重光(王伯杰)が少白に心酔して革命にのめりこんだことを知り、使用人の車夫阿四(ニコ)たちの気持ちも知って、協力を受ける。
玉堂と少白は孫文の警護に協力してくれる人物を訪ね歩く。天津から追われてきた元軍人の京劇団のリーダー方天(ヤムヤム)は要請を承諾するが、いち早く潜入していた暗殺団によってほとんどが惨殺される。一人生き残った団長の娘方紅(李宇春)は復讐を誓い、玉堂の仲間に加わる。また、かつては腕利きの武闘家にして高い身分だったが、地位を追われて浮浪者になった劉(リヨン)も彼らに協力する。そして、暗殺者のスパイであった警官沈重陽(ド兄)も、かつての恋人だった玉堂の後妻月茹(范冰冰)と再会したことで、孫文警護団に身を投じることになった…。
いきなり登場した學友さん、と思ったらいきなり退場ー!という衝撃的な幕開け。
画面には、不穏な空気が漂っている。日本の幕末でなくても、ひとつの時代が終わろうとしているときは、全世界共通のものがあるのだろう。だからなおさら龍馬がかぶる。そんでもって思わずテーマ曲を替え唄したくなる。
♪ほん~こ~ん~に~、へええ~、そんぶんきたよ~、おおおお~。
まあそんなことはどうでもいいとして、何度となく暗殺が試みられたという孫文。
もし彼が東京やサンフランシスコ、そして香港で殺されていたら、中国は今とは全然違っていたのかもしれない。…もしかしたら、今より悪くなっていたかも(笑)。
彼は確かに辛亥革命の英雄、そして中華民国の初代総統(かつて台湾では「国父」と呼ばれていた)であるのだが、それを支えたのは多くの名もない人々。孫文の映画ならいくつも作られているのだけど、この映画ではあえて彼でなく、無名の人々に光を照らしたのがいい。それは多分、プロデューサーのピーターさんとテディさんの狙いだと思うし、大陸主導でお約束な歴史大作にするのなら、ド兄さんやニコのアクションを盛り込んだ、王道的香港映画らしい作品にしてやろう!なんてったって舞台は香港!なんて思いながら撮ったのかなあ、と思ったりして。約1年前、「チャイナパワー」を観たときには、いったいどうなるのだろうかと心配していたことを思い出したりして。
まあ、実際に観た作品は、「中国映画」として出品されたこともあって、台詞はオール北京語、クレジットは簡体字、そして字幕はまさに“伝説の字幕”だったわけだが、このへんへの思いはまた別記事にでも。日本配給のギャガさんのtwitterによると、言語は北京語&広東語の国際版、字幕も別版になるとのことでひと安心。
キャストはアンサンブル。誰にでも見せ場がある。
今年のTIFFはド兄さん祭りか!といいたくなるほど出まくっていたわけだが(葉問二部作もあったもんね)、この作品では辮髪姿を披露。新鮮だ~♪かつて愛した女と、暗殺団との間で板挟みになりながら、結局愛を選んでそれに殉ずる重陽。毎度ながらの白熱アクションにドラマティックな役どころが加わって魅力的。
この作品で金像奨助演男優賞を受賞したニコは、おぼっちゃまではなく泥まみれの車夫という意表をついた役どころ。しかし、丸い頭とにっこり笑顔が愛らしく、久々にかわいい~と思っちゃったよ。
実質上の主人公といえるのが王學圻さんと家輝さん。學圻さん演じる玉泉さんは、あまりにも物分かりがよすぎないか?と拍子抜けするところがないわけじゃなかったけど、香港の良心というべき人物を体現していた。家輝さんの少白もまた然り。
そして、設定上では最強の武闘家である劉…。なんかこのりよん、ものっそくりよん谷原、つーか「劉よ、あんたは木戸寛治か!(注:りよん谷原が龍馬で演じている役柄)」といいたくなってしょうがなかったんですけど(笑)。そして、彼の見せ場がまるで『風雲』の風だったのに笑った。
いかんいかん、このままだらだらと書いていたら、かなりネタバレしちゃいそうだ。>いや、もうかなりしている。
こまかいことはまた正式公開決定時にでも書くとしても、最後にこれだけは言っておくか。
…しかし、孫文といえばある意味国民党の創設者だから、台湾に拠点を置く現在の国民党とはライバル関係にあたる党が政府となっているかの大陸で取り上げちゃっていいのかなー。
なーんて思ってwikipediaをみたら、…あらー、ある意味ずるいわねー、なんて思っちゃったりしたのだった。ははははは。
※なお、この一文についての政治的コメントは、毎度ながらお断りしております。
♪こ~れ~で~、おわりよお~お~お~お~お~おぉぉぉぉぉぉぉ!(龍馬のテーマのラストのメロディで歌ってくれると嬉しい)
原題:十月圍城
製作:ピーター・チャン 監督:テディ・チャン 音楽:チャン・クォンウィン&ピーター・カム
出演:ドニー・イェン ニコラス・ツェー ワン・シュエチー フー・ジュン レオン・ライ ワン・ポージエ クリス・リー ファン・ビンビン ジャッキー・チョン レオン・カーファイ サイモン・ヤム エリック・ツァン
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