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エンター・ザ・李小龍

 しばらく前から思っていたことだが、だいたい30代以上の男子は、ほとんどが007シリーズとブルース・リー(以下李小龍、または李さん)を通って大人になっているような気がする。同世代の女子がオードリー・ヘップバーンの映画を通ってきているのと同じように(しかしワタシは成人するまでオードリーの映画を観たことがなかった…)、男子の定番はボンドさんと李小龍なのだとワタシは勝手に固く信じている。

 さて、今年はそんな李さんの生誕70周年。ちなみにジョン・レノンも同い年(のはず)。 
それもあって、春の香港国際電影節では李小龍特集が組まれ、金像奨でも李小龍トリビュートが設けられた。そして、彼の伝記映画も作られると聞いた次第。李さんもすでに世界的な文化英雄であるので、どこでどんなイベントがあって当然なのだが、今年はちょうど区切りのいい年ということもあるので、特に周辺が賑々しくなっている模様。

 それは日本でも同じで、彼の命日の翌週から、NHK-BSでは李小龍主演5作のうち、香港での初主演作『ドラゴン危機一発(唐山大兄)』、米国映画初主演にして遺作『燃えよドラゴン』そして死後残されたフィルムに追加撮影を行った『死亡遊戯』の3本が放映された。
 先に書いたとおり、実はワタシは香港映画ファンでありながら李小龍をいままでスルーしてきている。いや、ほら、彼ってすでにレジェンドじゃないの。ワタシごときの場末の弱小bloggerがあれこれ言っちゃいけないような気がするし、彼の存在は香港映画界の中でもあまりにも唯一無二であって、どうも他の作品と結びつきにくいところがあると想っていたからである。
 しかし、この春に中国語教室で羅[上/下]さんの『香港電影類型論』で李小龍論を読み、やっぱり香港映画に関心を持ったら、彼の存在は避けて通れないものなのかなあと思い始め、これをいい機会にと思ってみることにしたのである。

 この3本で、個人的に一番面白かったのは『危機一発』かな。
 初主演でとっても初々しい李さんが広東語をしゃべり、例の雄叫び(怪鳥音とは言いたくない)をあげず、アクションも実に香港映画的で観ていて親しみがわく。李さん以外の皆さんのアクションもしっかりしてらしたしね。
 あと、この作品では李さんが義理堅く明るい青年だったのもポイント高し。純朴でよく笑っててお母さん思い。「ケンカはしない」とお母さんから言われたことを堅く守っていたけど、工場のいざこざに巻き込まれてお母さんのペンダントを壊されてしまったことで怒りが爆発、麻薬を密売している社長と対決することになる。後半からはもう血みどろな対決場面が続くのだが、前半から中盤で快活なキャラクターを打ち出してくれたこともあって、事件に巻き込まれて命を落とした同僚達との友情や、友人の妹に寄せるほのかな想いなどを交えつつ、クライマックスに持っていくドキドキ感が高まるのであった。ま、お約束的な流れなんだけどね。
 李さんをめぐる二人のヒロインも対照的でよかった。純情可憐なマリア・イーと、妖艶で肉感的なノラ・ミャオ。李さんが酒の勢いでノラさんと事に及んでしまった場面(と言っても直接的描写はないよ)なんか、えー!とビックリさせられたけどね。

 それで、2本の米国作品である『燃えよ』と『死亡遊戯』なんだが…。
うーん、はっきり言っちゃえば、李さんの超絶アクション&肉体の美しさと、70年代香港のライブな雰囲気を眼いっぱい味わえるところしか見所がなかったなあ。ストーリーとか、李さん以外の人の演出とかは、なんだかどーでもいいって感じ。
 例えば、『燃えよ』では李さんのライバルの皆さんは、んー、ホントにすごいの?って思って流し見てたし(注:当人は基本的に格闘技というものに全く関心がないために、かなり失礼を承知で暴言を吐いてます。だからファンの方は怒らないで下さい)、名優・石堅さん演じる悪玉のホーはすっごく趣味が悪くてドSな男だなー、だから自分の趣味じゃないわ、なんて思ったのも事実。ま、それでも、格闘大会に参加する西洋人のファイターたちが熱気あふれる香港の街角に降りたつ姿に例のテーマ曲がのっかるオープニングタイトルには、観ていて結構テンション上がったんだけどね。
 それは『死亡遊戯』でも同じで、香港やマカオの風景と(マカオは今とあんまり変わってない感じ)、クライマックスの李さんの3連戦は見どころあるけど、あとは…って感じだったのはいうまでもなかったりする。あとはあのトラックスーツがなぜオールインワンタイプなのかなー、スニーカーがオシャレだなー、なんて思ってみていたんだが、それはつぶやきながら教えてもらった。足元のスニーカーは李さんが普段から愛用していたオニツカタイガーのもの。そして、この映画にオマージュを捧げた『キル・ビル』で、やはりトラックスーツタイプのジャージ(こらこら)をまとっていたユマ・サーマンが、これまたこれに似せたデザインのスニーカーをはいていたのでそれを限定で出したことがあるとか。まあ、周知の事実だけど一応書いておきました。
 閑話休題。で、結局『燃えよ』と『死亡遊戯』に共通しているのは、作り手の李さんに対する強い愛と、それに応じて熱演した李さんの意気込みだけはよく伝わってきているってことだろうか。映画自体としてはものすごくつっこみたいし、物語も演出も完璧じゃないんだけど、それはすべて李さんがいればオッケイであり、許されてしまう。やっぱすげー人だよ、李さんは、と改めて思うのであった。

 さて、李さん亡き後の中華なアクションヒーローといえば、われらがリンチェイとド兄さん。
これは映画放映に先立つ特集番組で取材されていたゴードン・チャン監督が「中国におけるアクションスターの最高峰は李小龍、次にリンチェイ、そしてドニー」とも言っていた。そのゴードンさんがプロデュースを務め、アンドリューさんが2年ぶりに監督し、ド兄さんの主演による新作映画《精武風雲》は、李さんの『ドラゴン怒りの鉄拳(精武門)』の続編にあたるという物語。これは件の特集番組でもちゃんと紹介されていたんだけど、なんとこの映画が、今年のヴェネチア映画祭のオープニングナイトを飾るということらしい!
 これ以外にも今年のヴェネチアには香港がらみの映画が多く上映されるので、このことについてはまた次回以降の記事で書きますよー。

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