これがゼロ年代香港映画の到達点か。今年の金像奨の結果に思ふ。
昨日は、香港で第29回香港電影金像奨が行われた。
結果は、もにかるさんのblogをご参照ください。
と、今年は手を抜かせていただきます(笑)。
今年はTwitterでハッシュタグを打ちながらの、リアルタイムの実況つぶやきを初体験。時間帯的には毎週観てつぶやいている某大河ドラマとがっつりかち合ってしまったため、一時期つぶやきのタイムラインがかなり混沌としていたので、非中華系のフォロワーさんはビックリしたに違いない(すみません、とこの場で謝るなよ)。RTHKを聴きながらつぶやいたので、中華趣味系フォロワーさんたちとその場にいて大騒ぎしたような楽しさを味わった次第。
以前ノミネートについて記事を書いたとき、「今年は何が獲ってもいいよ」的なことを書いたけど、後で「いや、やっぱり《十月圍城》の圧勝じゃないの?」と言われ、ああそうかあれがあったか、こりゃ某アバターよりも受賞ラッシュは堅いわけだわね、と思い直した次第。
そんなわけで結果は《十月圍城》が最優秀作品賞・監督賞(テディ・チャン)・助演男優賞(ニコ)を始めとして、とにかく圧勝であった。この映画は、昨年秋のNスペ「チャイナパワー」でも紹介されていたから、映画や香港に関心がなくても聞いたことがある人は多いんだろうな。
香港でUFOを設立して90年代に秀作を連発し、その後ハリウッドデビューも果たし、タイや韓国の映画のプロデュースも行ったピーターさんが『ウォーロード』に続いて大陸と組んで作り上げたこの映画、きっとtiffの特別招待かアジアの風で観られるだろうと思って未見なのだけど、かのドキュメントを観る限り、ピーターさんがこの映画にかける意欲に並々ならぬものを感じ、「100年前の香港で、孫文を守るべく立ち上がった人々の群像劇(でいいのか?)」といった内容の映画を、大陸と香港キャストのコラボレーション&各国から集まったスタッフで作り上げるのならば、意地でもヒットさせないと大変だよなあと思ったからである。
で、実際大陸ではヒットし、香港でもこれだけ高く評価されたのだから、心身的に大変だったテディさんはもちろん、サポートで入ったアンドリューさんやヴィンセントさん、ド兄さんやニコのような香港キャストたち、そして全てのスタッフも感慨深げだろう。
一見すれば、この作品は赤壁二部作のように、香港映画界が大陸と合作して作り上げた典型的な中華電影大作だが、よく考えてみると、大陸の力をうまく利用しながら、香港映画としてのアイデンティティを失わせることなく仕立てあげた作品じゃないかと思える。ま、観てないから推測でしか書けないけど、もしこの推測が間違っていなければ、ピーターさんって実は相当したたかな人ではないだろうか。いやあ、さすがプロデューサー、流れをうまく読んでいるよってね。
しかし、ここ数年大陸側のネットメディアでは金像の結果が出るたびに「香港映画の時代は終わった!」的な論議がでてくるんだけど、はたして今年も出たのかなあ。
この大陸側の意見(もしかして香港側も同意見?)に対して、ワタシは「否」と言いたい。
それは、ここ数年細々とした流れでつながれてはいたけど、今年の電影節あたりから、久々にローカルな香港(広東語)映画が復調してきたと感じるところがあるからだ。それを象徴するのが、脚本賞(アレックス・ロー)・主演男優賞(ヤムヤム)・新人賞&主題歌賞(共にアーリフ・リー)を受賞した《歳月神偸》。近日中に感想をアップさせるけど、中心街に現存する古い街並みをロケに使い、再開発ラッシュの香港で古いものを見直そうという動きに同調するかのように作られた映画だと思ったけど(注・意見には個人差があります)、このような香港人のアイデンティティに訴えながらも、映画としてよく作られた作品が高く評価されたのは本当に喜ばしい。しかも香港だけでなく、ベルリンで未来の観客=子供たちにも支持されて賞を受けたという国際的なお墨付きがあればなおさらである…って、これこそこじつけかな(笑)。
今年の金像奨の結果から考えたのは、《十月圍城》がここ10年ばかりの香港映画が目指してきた道の到達点といえるべき作品であるのに対し、《歳月神偸》は今後のローカル香港映画の未来を示すきっかけじゃないかということ。香港映画をこよなく愛する身としては、経済や産業の急成長でその存在を見せ付ける大陸に、娯楽面で呑み込まれることなく、ローカル作品を積極的に作っていくことでアイデンティティを保たせて、世界に打って出る可能性もないわけではないと思っているので(今回ノミネートが少なかった《復仇》なんてまさにそうだよね)、やっぱり香港電影迷はやめられないなあ、と思いを新たにしたのだった。というわけで、長文は以上。
最後に、その他の受賞作に対して、二、三思うことがあるので言ってみる。
○主演女優賞のクララ・ウェイさんは久々の銀幕復帰だとか。しかも受賞作がマレーシア映画『心の魔』。…ああ、今後チェックすべき国の作品が増えたのはいうまでもないけど、やっぱり去年tiffに行っておくべきだったかしら(泣)。
○最優秀アジア映画賞を受賞した『おくりびと』、オスカー外国語映画賞を始めあらゆる映画賞を獲り尽くした感じで「へー、またかよ…」と最初は幾分醒めた目でみてたんだけど、よく考えれば大陸の《建国大業》と《南京!南京!》がもろドメスティックな愛国映画だったので、このへんを選ぶんだったらむしろ日本映画に、でもさかなのこはどうよって感じでノーチョイスだったのかもね。
○その映画の監督、滝田洋二郎監督のスピーチは日本語。この監督、最近の仕事があまり好きじゃないのだが、かつてはピンク映画で一世を風靡し、80年代から90年代初旬まで面白い作品を次々と作っていた人。それを思い出させてくれたのが、「ボクがかつて作った《Yen Family(木村家の人びと)》が香港で公開されて大ヒットで…」という言葉だった。そうだ、この方、決して万人受けの映画ばかりを作っているわけじゃなかったんだ。今度ちゃんと木村家観なきゃ!と思わせてくれた。
で、件の受賞作。うーん、いい映画だってのはわかるんだけど、それでもやっぱり…とモニョモニョ言いたいことはあるんだけど、中華とは全然関係ないのでここは閉じる(苦笑)。
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