《深海尋人》(2008/香港)
『セブンソード』以来、徐克さんが3年ぶりに撮った長編《深海尋人》は、ほとんど香港のエ○カ様と化していたイザベラ・リョンの映画復帰作だったり、与那国島での大々的なロケが敢行されたり、撮影に『墨攻』の阪本善尚さんが参加されていたりと、なかなかに注目度たっぷりな映画。
精神科医の高静(アンジェリカ・リー)は、友人の小凱(イザベラ)の兄で、海洋考古学者兼カメラマンの陳國棟(郭暁冬)と恋に落ちる。國棟は高静に、与那国島の海底に眠る古代都市の話をする。いつか二人で与那国の海に潜り、愛を語りたいと…。そして、二人は小凱と、台湾人の考古学者阿木(張震嶽)とともに与那国島に行くのだが、そこで國棟が溺死してしまう。
國棟の葬儀の席に、病院長(梁家輝)がやってきて、悲しみにくれる高静を励ます。しかし、葬儀場には異変が起こっていた。僧侶が葬儀場に現れたある人物におびえ、小凱は高静に「兄の遺体のDNAを調べて。首のないあの遺体、もしかして兄さんじゃないかもしれない」と告げる。
國棟と常に一緒にいた高静には、彼の死の前後の記憶がなかった。院長が彼女に催眠を施したところ、憑依状態になった彼女は突然上海語を喋りだした。さらに高静は与那国島に飛び、海の奥底に國棟の首を見つけた。
高静は香港に戻り、自分の患者のサイモン(張震)の治療にあたる。しかし、彼は「自分は死者が見える」といい、高静の近くに死者がいる、と告げる。彼女は、兄の死後、どこかおかしなそぶりを見せる小凱に悪霊がとりついている、と思いこむ。サイモンが小凱の運転する車にはねられ、親友の死の原因を探って香港にやって来た阿木が刺殺されたことで、その疑惑は高まる。さらに高静は、國棟が死んだ場所で、以前上海人の女性が溺死していることを知る。その女性の悪霊が与那国島から香港へやってきて、小凱にとりついて自分を殺そうとしているのではないか?そう思った高静は、ある日病院で黒衣をまとった國棟の霊と出会う…。
海に囲まれた香港なのに、なぜか海を舞台にした映画は少ないような気がする。
それは香港の都市部が海峡を挟んでいるという土地柄が原因なのかなぁ。
ランタオ島やレパルスベイだとイマイチインパクトにかけるのか。
それはともかく、この映画のキーになっているのは、秦の始皇帝時代に、多くの子供を連れて東方の海の彼方にあるという極楽の地“蓬莱”に不老不死の薬を求めて旅立った徐福の伝説。この“蓬莱”にあたるのが、実は与那国島であるという説があるとか(参考として「美ら島物語 与那国島情報」サイトのこれを)。ただ、ここでいう“蓬莱”には、伝説の理想郷であっても、不老不死云々という意味合いは消え、國棟と高静の愛を確かめ合う“約束の場所”というような位置づけがされていると思われる。それを考えれば、この映画は、愛し合いながらも死によって分たれた運命の恋人たちが、ギリシャ神話のオルフェウスとエウリディケのように死んでもなおお互いを求めあい、あの世でも結ばれてようとするファンタジックでロマンティックなラブストーリーになる、ということだ。
んが!これは観終わった後にあれこれ考え、ワタシが勝手に導き出した結論である。
本来はこういう物語になるはずだったのだろうけど、観ている間はとてもそういう映画だとは思えなかった。もうねー、徐克さんは相変わらずのサービス満点っぷりを見せてくれているのはいいんだけど、そのやりたい放題がこの映画に関してはマイナスになっちゃっていたようで、そこが惜しいって思ったんだ。
最初の見せ場では香港人が大好きなホラーテイストになり、いくら『The EYE』シリーズのヒロインが二人出ているからってそれはやめてくれよー、うわーイザベラちゃん、その顔イッちゃってるよ!と慄き、黒衣の國棟の霊が登場していきなりファンタジーと化す。しかし黒國棟、なんかハリポタのディメンターみたい。彼と上海の女の子の霊の対決を始めとしたくだりには、そんなハリウッドのB級ホラーみたいなのじゃなくて、チャイゴーみたいな幽玄な感じを漂わせてくれればよかったのに。そして、サイモンの意外な正体が明かされ、全ての謎が明らかになるクライマックスはサイコスリラー的であっけにとられ、すべてを失った高静が永遠の愛を求めて國棟の待つ与那国島に旅立つラストでやっとラブストーリーになる。この結論に至るまでが、あまりにもサービス過剰すぎて、そこまでやんなくてもいいんだよ徐克さん!と言いたくてしょうがなかったのよ。
久々のアンジェリカは、髪を短くしても大人っぽくしても相変わらずホラーっぽい?彼女が出てくると、やっぱりホラーなんじゃ、って思っちゃうんだよね。『ディバージェンス』の時もちょっとそう思ったよ。
イザベラちゃんも相変わらずで嬉しかったけど、もっと見せ場が欲しかったよ…。アンジェリカの恋人役が『故郷の香り』や『愚公移山』の郭暁冬で、なんで?と思ったら『ムービング・ターゲット』の続編で香港デビューしてたのね。しかし、イケメンだとは、とても、思…っていうのは暴言かしら?張震はエキセントリックさと知的さを、言葉の使い方もあわせて演じ分けていて、手堅かったなぁ。あ、そういえば彼の広東語、初めて聞いたよ(あ、《天下無双》で喋ってたか。でもあれは吹替くさかったぞ)。
今回初めて演技を観た、台湾の個性派シンガー張震嶽。役名も先住民族っぽかったなぁ。麦わら帽子がよく似合っていい味出してたよ。
ああ、いつかちゃんと観てみたいよ、徐克さんによる本格的なラブストーリーが(苦笑)。いや、彼はそんなもんは作ってくれないか。
英題:missing
製作&脚本&監督:ツイ・ハーク 製作:レイモンド・ウォン シー・ナンサン ハン・サンピン 撮影:阪本善尚
出演:アンジェリカ・リー イザベラ・リョン チャン・チェン クオ・シャオトン チャン・チェンユエ レオン・カーファイ
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