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《我要成名》(2006/香港)

 この冬は地元で香港映画の上映がなく、あっても月末の『僕は君のために蝶になる』(でもこれ、親分のお仕事映画だし、北京語なんだよな…)まで待たなきゃいけないので、「香港電影天堂」の上映を行う東京のシネマート六本木に対抗して、“ひとり香港電影天堂inみちのく”を開催することに決定(爆)。
 よーするに、今まで観ないでいた香港映画のソフトを、時間の許す限り観まくって感想を書くってだけです。

 その第一弾作品に選んだのが、この《我要成名》。
 選んだ理由は次の通り。

 1・新年早々、へヴィな作品は観たくなかったから。

 2・2年前の金像奨において“無冠の帝王”だったラウチンに、最優秀主演男優賞をもたらした作品だから演技、もとい縁起がよさそう。

 3・劇場でソダーバーグ監督の『チェ』2部作の予告を観ると、チェ・ゲバラを演じるベニチオ・デル・トロが時々ラウチンに見えるので、ラウチンの映画が観たくなった。 

 両方の迷の皆さんすみません、やっぱりベニチオってラウチンに似ていると思います。

 潘家輝(ラウチン)はデビュー作でいきなり金像奨の最優秀新人賞を受賞した天才俳優だったが、ここ最近はテレビドラマの端役ぐらいしか仕事がもらえず、かつての俳優養成所の同期が経営する車の修理工場で愚痴をいいながら、エキストラ出演などで食いつないでいく日々を送っていた。
 ある日、家輝は自分が被告役として参加した法廷ドラマの撮影で、彼の演技に憧れのまなざしをおくる若手女優のフェイ・ン(霍思燕)と出会う。杭州から香港に出てきたばかりで広東語もおぼつかず、仕事にも恵まれないのに女優になる情熱を秘めたフェイは、家輝を「師匠」と呼んで慕う。家輝は成り行きで彼女のマネージャーを務めることになり、自分が芸能界で学んだことを彼女に教えていく。フェイはみるみるうちに彼の教えを飲み込み、街の娼婦役のエキストラ、芸術映画での愛にゆれる人妻、グラスホッパー(本人たち)のグラビアフォトなど、あらゆる場面で違う表情を見せるようになって、魅力を増していく。時が経つにしたがって、家輝とフェイは師弟関係を越えて思いを寄せ合うようになる。
 しかし、フェイのブレイクへの道は厳しかった。ある芸能プロダクションのボスがアイドルユニットの一員として彼女を売りたいと言う申し出を家輝が断ったことで、二人の間に行き違いが生じる。自分の納得いく仕事を見つけたいと願ったフェイは、ある日、ゴードン・チャン監督(本人)が日本で撮る文芸映画のヒロインのオーディションを受ける。ヌードや性愛が前面に出された野心作に家輝は抵抗感を覚えるが、監督の事務所で身体を晒す彼女を見て、決意の固さを読み取る。しかし、日本に渡るのは予算の都合上、彼女ひとり。家輝は彼女のために旅の準備を整え、見送る。その後、彼女は日本でブレイクし、家輝とはすっかり縁が切れてしまう。
 愛と生きがいを失い、仲間の修理工場を手伝う家輝の元に、顧客としてなんと梁家輝(本人)がやって来た。先輩である彼の言葉に刺激され、家輝はもう一度俳優として花を咲かせようと一念発起。アパートを改装し、身体を鍛え、オーディションを受けては落ち続けるが、家輝はめげない。ある日、アン・ホイ監督(本人)作品へのオーディションに出かけ、監督に演技に対する自分の思いを思いっきりぶつけてみる。それが気に入られ、彼女が撮るアクション映画で、ジョー・コック(本人)の相手役に抜擢される…。 

 期待の新人としてデビューしながら、大成する人っていったい何人いるのだろう。
香港映画界で現在活躍する俳優たちも、金像奨で最優秀新人賞を受賞するよりも、長い下積み期間を経て今に至る俳優の方が大多数なのではないか。逆に、若い頃に大きな志が評価されても、こだわりが過ぎて時代の変化についていけずに苦労する新人賞受賞者もいるにちがいない。
 トニーと同じTVBの俳優養成所の出身であるラウチンが、この映画で演じた家輝とどこまでキャリアがダブるかはわからないのだけど、自分のこだわりで演技を突き詰めたい、それを評価してほしいという思いはどんな俳優でも持っている願望なのではないか。どんな仕事でも、若手スタッフに馬鹿にされても演技をして評価されたい。自分が邪険にされても、若い俳優に自分の思いを受け継いでほしい。
もう若くもない家輝だから、劇中からそんな気持ちも読み取れる。  
 自分が育てた若手女優と恋に落ち、でも別れ…というのはお約束だよなー、と思うけど、その失意から立ち上がるには、やっぱり演技に打ち込むこと。そう悟った家輝の立ち直りが描かれるクライマックスには、やっぱりそうこなくっちゃ!と喝采を送りたい。これまた王道的な展開だけど、こういう作品にはふさわしい。そして、実際の金像奨授賞式で撮影されたというラストの続きには、撮影の1年後にラウチンが助演男優賞ならぬ主演男優賞を受けるという真の結末が用意され、ノンフィクションになっちゃったよ!という驚きをもって映画を締めくくるという流れになったのが面白い。

 演技に対する自分のこだわりを捨てきれず、愚痴ばっかり言っていた家輝が、ひとりの少女との出会いで甦り、初心に戻って真の演技者として目覚めていく。一見いつものラウチンだけど、俳優を演じるということで観る側はそれを意識して彼を見る。俳優が俳優を演じるのは難しいと思うけど、小規模撮影が多い香港映画でそれを見せられると、ついつい本人と二重写しになって思わず応援してしまう。それを考えれば、ラウチンの金像受賞には大いに納得するのである。 
 お相手の霍思燕小姐は大陸の女優さんなの?最初のうちは広東語の喋りを馬鹿にされるという場面があるけど、吹替だったのかな?言葉にそんなに違和感がなかった。香港の女優さんだったらよかったのに…。
 そして、この映画で一番楽しいのは、実名で登場する俳優や監督の皆さん。冒頭の陳果さん(多分)の「梁家輝じゃないの?潘家輝って誰よ?」という場面にはちょっと笑う。家輝とイーキンが同じ事務所だったという設定、フェイのメイクにいろいろアドバイスをするばったの皆さん、アクション派なのに「性愛をテーマにして国際映画祭への出品を考えている」映画を撮ろうとするゴードンさん、それに対してアクション映画を撮影するアン・ホイ姐さんなど、現実とちょっとしたずれ(?)が多少あるんだけど、そのせいか皆さん楽しそうな感じだった。
 あ、そういえば、アン・ホイ姐さんが劇中で着ていたえんじのTシャツは、『生きていく日々』ティーチインで着ていたシャツと同じだったのでは?お気に入りなのか、姐さん?

英題:My name is fame
監督:ローレンス・ラウ 脚本:ジェームズ・ユエン アクション指導:スティーブン・トン・ワイ
出演:ラウ・チンワン フォ・シーイン キャンディス・ユー デレク・ツァン レオン・カーファイ イーキン・チェン ニキ・チャウ グラスホッパー ジョー・コック クー・フェン ゴードン・チャン アン・ホイ フルーツ・チャン

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コメント

おお、そういう内容だったのですか。未見だったので大いに参考になりました。
アン・ホイ許鞍華監督は日本ではフェミ系文芸佳作の監督として位置づけられていますが、若い時に撮った「清朝皇帝 風と興亡」は、堂々の時代劇・武侠アクション大作であります。「獣たちの熱い夜/ある帰還兵の記録」も銃撃戦があるし「極道追踪 暴龍in歌舞伎町」も「スタントウーマン/夢の破片」も(だからなぜそこでどうしてもアクションを展開しなければならんのかー! 本筋と離れてるじゃないかー!)といぶかしむところがあります。以前は製作者の要望で仕方なく入れさせられているのかと同情していましたが、ご本人の意向もかなりあるのかと最近は思うです。陳嘉上監督も器用なタチだし、本当に、いつかは性愛をテーマにした野心作でベネツィア国際映画祭での賞獲りを狙うことになるやもしれませんよね(爆)。

投稿: nancix | 2009.01.10 11:39

すびばせん、ここで感想を書いたのに、『極道追踪』のことをすっかり忘れてました…。確かにあれはアン姐さんの映画だった。どうも『生きていく日々』の印象が強いのですが、彼女もちゃんとエンタメ作品を作れる方ですもんね。
 最近撮りあげたというヤムヤム&張静初共演のものすごーいダークな(らしい)天水圍の映画がどうなるかというのが気になります。唐突にアクションが入ったりするんだろうか。でもそれをフツーのニュータウンである天水圍でこっそり撮るのは難しいか(苦笑)。

 ゴードンさんが作る国際映画祭狙いの性愛をテーマにした文芸映画、もしそういう話があれば観てみたいなぁ。この映画でラウチンがホントに金像獲っちゃったので、もしかしたら実現したりして(いやぁ、ないんじゃないか?と自分ツッコミ)

投稿: もとはし | 2009.01.10 23:29

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