文雀(2008/香港)
東京フィルメックスに参加するようになって今年で5年目。
この映画祭に行ってよかったのは、4年前の『柔道龍虎房』やその上映前に行われたジョニー・トー親分のトークショーに参加したことで、親分の作品のよさを改めて認識したということ。
それまでは、『Needing You』や『フルタイムキラー』のような、いわゆる“商品”として作っている娯楽作品ばかり観ていたし、作品の完成度としても好みではなかったので、彼のよさがイマイチわからなかったのだ。でも、同じ年に盛岡の大画面で観た『やりび』や国際の『ブレイキングニュース』、そして『柔道』とどれもが面白かったので、やっぱり親分っていいかも、と思うようになった。もっとも、この流れの作品でも黒社会2部作(特に『エレクション2』)はあまりにもへヴィすぎて、半分泣きたくなったんだけど…(苦笑)。
昨年のフィルメックスで観客賞を受賞した『エグザイル/絆(放・逐)』に続いて(どうか東京で当たってください、そうすれば地方でも上映されるから!)、今年上映された『文雀』は今年のベルリン映画祭に出品されたピッカピカの最新作。スリと女性の話らしい、というのは当時聞いた話であるけど、その話がどう転がっていくのかわからないのは了承済み。『放・逐』だって、まさかああなるとは!って話だったもんね。
主人公は4人のスリグループ(ヤムヤム、カートン、羅永昌他)。毎朝行きつけの茶餐庁でモーニングを食べて作戦を練り、通行人から財布をすって生計を立てていた。
ある朝、スリのリーダー(ヤムヤム)の家に文鳥が迷い込み、彼はその文鳥を飼い始める。彼は旧式の一眼レフで街の風景を撮ることを趣味にしていたが、撮影中に写りこんだ、何かに追われている様子の女性チャンレイ(ケリー・リン)の姿に気を留める。さらに彼女はスリ仲間3人にも接近し、思わせぶりな行動をとる。再び彼女を目にしたリーダーが追いかけると、何者かに襲われて腕を折られる。襲撃の次の日、リーダーが茶餐庁に行くと、やはり足を折られたり頭に包帯を巻いた仲間達が待っていた。
実は、チャンレイはマフィアのボス、フーの愛人だった。中国から来た彼女は、大陸に残した恋人の元に戻りたい。そんな思いから何度もフーの元を逃げ出そうとするのだが、そのたびに失敗しては連れ戻される。彼女のパスポートはフーのもとにある。だから、チャンレイはスリたちに協力してもらおうと、彼らに近づいたのだ。彼女の力になるべく、スリたちはフーからパスポートの入った鍵を盗み出そうと試みるが…!
常に緊張感をはらむ親分の作品にしては、オープニングからどこか軽やか。中環(多分)のアパートの1室で出かける準備をするヤムヤムのもとに、1羽の文鳥が舞い降りてくる。そのタイトルからとっさに思いついた邦題が「泥棒すずめの恋」。…いくら英題が「sparrow」だからって、泥棒すずめはどーよ、自分よ。
それはさておき、同じ男の友情ものでも『放・逐』とは全然違う。殺し屋とスリという立場の違いももちろんあるんだけど、仲間のために命を賭ける男たちの緊迫感がカッコよさを呼んで「かかかカッコいい…」としか言えなくなるのが『放・逐』のよさなら、惚れた(?)女を助けるために、あまりいい特技とはいえないスリのテクニックを生かし、ボコにされたり裏をかかれたりしながら奮闘する男たちの姿が微笑ましく、思わず「かわいいわー」と言ってしまうのが、この作品のよさ。
ヤムヤム、カートン、林雪のお馴染だけどどこか余裕を感じさせてくれる演技に加え、『私の胸の思い出』やPTU2こと《機動部隊・警例》の監督、羅永昌の女装もハマるコミカルなオッサーーンぶり(nancixさん、使わせていただきました)、『フルタイムキラー』で薄幸なヒロインを演じていたケリー・リンのやっぱり薄幸気味な小悪魔ぶり(?)、これもまたいい味を出していたので、楽しく観ることができた。悪役もおらず(腹黒そうなオッサンのウーさんですら愛おしい!と思わされる場面もあり)、誰も死なず、暴力場面もちょっと血が流れたり腕を折られる程度、という作りもまた良し。
そして、なによりも魅力的なのが、香港の街並み。3年がかりで撮られたというこの映画だけど、中環のクラシカルな建物群から、わざわざ郊外の街まで行って撮ったクライマックスシーンまで、香港でありながらどこか現在的でなく、古き善き時代にオマージュを捧げて作られたことがよくわかる。『放・逐』のメインロケ地となったマカオも、世界遺産周辺の街並みをうまく生かして撮っていたけど、急激にスクラップ&ビルドが進む現在の街を映すのも必要最小限にし、かつての香港が持っていたヨーロピアンな雰囲気をフィルムに映しこもうとして作ったのは、古きものが失われつつある現在に対する彼なりの異議申し立てなのかな、なんて深読みしてしまう。
フランスのミュージシャンに依頼したという音楽も、中華な音色を交えながら、その物語をオシャレに彩っている。この音楽の効果もあって、全編にフランス映画の小品のような味わいがある。親分がヨーロッパ人に評判がいいのも、次回作をフランスで撮るというのも、なんとなくわかるなぁ。
今回は初フィルメックス参加となる地元の友人Hさんと、フィルメックスには行っていたけど香港電影からしばらく離れていたという東京在住のMさんと一緒に鑑賞した。個人的に親分作品はオススメだけど、黒社会みたいにキッツイのもあるから、この作品をどう感じてもらえるかは正直ドキドキもんだった。観終わった後に感想を聞いてみたら「ジョニー・トーがこういうしゃれた映画を撮るとは思わなかった」とか「ヤムヤムがステキすぎる、見直しちゃった」など、好評だったのが嬉しかった。
ええ、もちろん『放・逐』もオススメですよー。>Hさん、Mさん
英題:sparrow
製作&監督:ジョニー・トー
出演:サイモン・ヤム ケリー・リン ラム・カートン ラム・シュー ロー・ウィンチョン
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