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《赤壁》(2008/中国・香港・韓国・日本)

 以前、この映画―『レッドクリフ』の日本の前売り販促についてこんなふう(リンク元)に文句を言ったことがある。ぼやいた理由はいたって簡単だ。いくら近頃の若者が○○○(伏字失礼)だからといって、この映画のターゲット層がみんな『三国志』を知らないということはないだろう、と思ったからなのだ。キューピーに罪はないが、こんな見当違いのプロモなんてするなよav○x、と改めて思う次第。

 最近マスコミやらいろんな方面で中国に対してネガティブな焚きつけがあるが、そんなことをおいといても、古代中国史で最もスリリングでドラマティックな時代を綴った『三国志(と三国志演義)』は、昔から日本で人気が高かったことは、ワタシが説明しなくてもいいだろう。
 後漢末期の黄巾の乱から始まり、曹操(張豊毅)率いる魏・孫権(張震)率いる呉・そして漢王室の末裔である劉備(尤勇)率いる蜀が広大な中国大陸―天下を三分して闘いを繰り広げ、呉の軍師・周瑜(トニー)や三顧の礼をもって蜀に迎えられた天才軍師・諸葛亮孔明(金城くん)がときには敵として、時には結託しながら知略を巡らし、劉備亡き後、孔明が中原にて病で倒れながらも、魏の司馬仲達を圧倒したという“死せる孔明、生ける仲達を走らす”という故事で幕を引かれるまで、さまざまなエピソードが語られる。

 ワタシが『三国志』を初めて知ったのは、中学生の頃にNHKで放映された人形劇
とはいっても、これを観たから中国語に興味を持ったわけじゃないし、もっとも全編をきちんと見たのは中国語を学んでから観た何度目かの再放送だった。でも、大好きになった。日本を代表する人形作家・川本喜八郎さんによる人形たちが素晴らしかったもの。成都に短期留学した時には孔明を祀った武侯祠に足を運んだが、川本さんの孔明がいた(当然レプリカなんだけど)のが嬉しかったっけ。

 その他にも、中高生のときにちょうど横山光輝氏のマンガが完結して話題を呼んだこともあったし、日本映画『敦煌』が公開された時に、製作を手がけた徳間康快氏が「次は『三国志』を作りたい!」と言って「できんのかよ!?」と突っ込まれていたっけなーなんてことも一緒に思い出した(笑)。

 忘れちゃいけないのが、吉川英治のこれ↑
三国志にハマった多くの殿方(もちろん女性も)が読んだのはこれなんだろう。ワタシも読んだけど、中国の事情もよく見える演義の方が好きだったかな。三国間のスリリングな駆け引きや孔明の突飛な戦略、そして理想的リーダー論などが語られるので、ビジネスマンに人気なのはよく分かる。キャラも魅力的だしね。吉川版では曹操が関羽に抱くホモソーシャルな感情がストレートに描かれていて、そこが面白かった。
 このほかにゲーム(門外漢なのであえてパス)でも人気な作品なのに、なんで若者や女性には知名度が低いなんて判断しちゃうのかなぁ。宣伝担当の人は原作を読んだことないのかな?

と、まぁついつい思い出話で長い前振りをしてしまったけど、『三国志』で一番人気を誇るエピソード「赤壁の戦い」の映画化がウーさんの悲願だというのは有名な話だった。確か、ハリウッドに行く前から言っていたような気がしていたんだが、ちがったかな?
 『ハードボイルド』を最後に香港を離れ、ハリウッドに新天地を求めていったウーさん。『フェイス/オフ』や『ミッション:インポッシブル2』を取ってヒットを飛ばし、ハリウッドで名声を揚げた後、ついに撮ることができたのがこの作品。
 ウーさんがハリウッドでブレイクした後、同じアメリカでもインディペンデント界で名声を博していた李安さんが中華電影界を巻き込んで『臥虎臓龍』を作り、ワイヤーアクションがハリウッドにも取り入れられて注目された。さらに中華圏ではアメリカ資本が入ることから超大作映画が作りやすくなり、張芸謀が『英雄』や『十面埋伏』を作って大ヒットさせたことも追い風になり、ついにウーさんが中華圏に帰って、悲願を達成することができたのではないか。
 もちろん、ここに至る道に苦難があったのはいうまでもない。資金繰りの問題、トニーとユンファの降板、そしてトニーの再登板。これは説明しなくともいいだろうけど、それがあったからこそ、lここに念願の作品を作り上げることができ、ウーさんも一層感慨深いのではないだろうか。

 物語は孔明を軍師に迎えたばかりの劉備軍が曹操軍を相手に苦戦を強いられ、さらに息子阿斗の母親である靡夫人を失うことになる長坂の戦いから始まる。これがきっかけで弱小の劉備軍は呉と手を結ぶことになるのだけど、まさかここから始まるとは思いもよらなかった。実はこのエピソードも結構長いんだよね。でも、夫人から阿斗を託された趙雲(胡軍。ハマり役!)が赤子を胸に抱いて敵陣を突っ切るお約束のエピソードはちゃんと見せてくれたし、この映画では完全に脇に回ってしまうのではないかと心配した関羽(バーサンジャプ。登場シーンがカッコイイ!)と張飛(臧金生。なんとなく頭の中にせんだみつおの声が勝手に響く…)にもちゃんと見せ場があった。これは嬉しい。劉備の義兄弟&部下たちにはファンが多いから、おざなりにするわけにはいかない。このへんは日本の三国志好きも満足できるに違いない。

 そんなこともあって、主人公が登場するのはだいたい40分くらい経ってから。しかもかなりもったいぶった登場っぷり(苦笑)。いやートニー目当てでこれを見ちゃうと確かに待ちくたびれちゃうかも。アタシもトニー好きとしてわかるよその気持ち、でも許してー、そうしないとこの物語は語れないもんね、などとウーさんに代わって謝りながら(なぜ?)周瑜の人となりが現れたファーストシーンを楽しんだ。
 孔明が訪ねた呉国の孫権はまだ若く、偉大だった父と兄を次々と失ったことに心を痛め、曹操の襲来に立ち向かう勇気がなかった。それを気に病んだのが義兄弟として育った周瑜と、男勝りでしっかり者の妹尚香(ヴィッキー)。二人は孔明の訪問をきっかけに孫権に勇気と誇りを自覚させ、周瑜は孔明と結託することを決意する。そして、曹操の放った先軍との戦いに向けて策を練る、といったところが今回の山場。

 トニー演じる周瑜は“美周郎”と呼ばれる美形。本人の実年齢を考えるとアレなところもあるけど(あ、聞かなかったことにしてー。ユンファでもなおさらあれだもーん)、当初のキャスティング予定だった孔明よりはずーっとあっている。孔明と智略合戦を繰り広げる策士というイメージが強いのだけど、ユーモアがあって意外にもアグレッシブな一面も見せてくれて、今までどーも周瑜に愛がなかったワタシもその活躍を認めたくなります。
 金城くんの孔明も負けていない。川本さんの人形の醸し出すような色気はないものの、当時27歳という若さを考えれば、ああいうキャラクターになるのは必然的。でも、孔明には熱烈的なファンが多いから、賛否両論な感じも否めないな。
 張震の孫権とヴィッキーの尚香、適材適所って印象。おてんば娘がはまるヴィッキーは納得。しかし、尚香って確か政略結婚で劉備に嫁ぐんだよねー。自分よりずーっと年上の劉備に突っかかる気の強さを見せ、それに劉備が惚れこみそうな描写があるのは今後語られる策略の生臭さを弱めるための伏線か?

 コーリー・ユンが担当したアクションはワイヤーアクション控えめな実戦型。張芸謀の大好きな人民解放軍総動員の人海戦術型でもなく、チン・シウトンの空飛び系でもなく、どちらといえば日本の時代劇や大河ドラマ的な作りなのがよい。流血も過多ではないし、荒っぽさもない。やればできるじゃん。
 大河ドラマといえば、音楽は大河ドラマ『義経』を担当した岩代太郎さん。韓国映画『殺人の追憶』ですでにアジア映画のスコアを担当されていて、中華圏の映画はこれが初めてらしい。公式サイトのトップで流れているのがオープニングテーマなんだけど、とっても大河ドラマ的。盛り上げどころにもいい曲をつけていて、それぞれの場面で「おおー、大河だったらここで『第1話・曹操の襲撃』のラストだな」なーんて思いながら楽しんでいた。そうやって盛り上げどこをチェックしていたら、大体この映画は大河ドラマ6話分ぐらいのボリュームがあることに気がついた。てことは後半と合わせたらちょうどワンクールくらいの分量になるってことかしら、なんてね。

 そんなふうにあれこれいいところを中心に、なるべくネタバレなし(といってもストーリーは有名だからネタバレも何もないんだが)で最初の感想を書いてみたが、どーしても引っかかるのが上映時間。全編だけで2時間半はいくらなんでも長すぎる。あまりにもボリュームが大きすぎる物語なので、前後編にするのは問題はないんだが、それでも40分くらいは削れるだろう。特に周瑜と…、というのは完全ネタばれになるので、これ以上は日本公開時まで言わないでおきましょうか。
 ツッコミに関してはもっと書きたいけど、またさらに長くなるからねー。てなわけで、第1次感想終了。 

邦題:レッドクリフ
製作&監督:ジョン・ウー 製作:テレンス・チャン アクション指導:コーリー・ユン 美術&衣装:ティン・イップ 音楽:岩代太郎
出演:トニー・レオン 金城 武 チャン・チェン ヴィッキー・チャオ ユウ・ヨン フー・ジュン チャン・フォンイー バーサンジャプ ツァン・ジンシェン ホウ・ヨン 中村獅童 リン・チーリン

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