チャウ・シンチーのゴーストバスター(1995/香港)
アジアの喜劇王、周星馳。英語名スティーブン、通称星仔または星爺。
すでに40も半ばを越え(そりゃトニーと同い年だからな)、未婚ではあるものの前途有望な少女の契爺にもなっているのだから、今のシンチーは星爺と呼んであげるにふさわしい立場なのであるが、それでも未だに星仔と呼んでしまう。
監督も兼ねるようになった『少林サッカー』以降、だれにでもわかりやすいグローバルなコメディを作りながらも、相変わらず我が道を行っている星仔だが、彼の本領発揮は、90年代に大量生産された“無厘頭(ナンセンス)”コメディにあるような気がする。様々なパロディを盛り込み、アドリブも連発して、香港ローカルすぎる笑いのてんこもりに香港&広東語圏では大ヒットになった作品群だが、広東語もろくにわからない身分でこれに向かうとかなり大変。今回の映画祭で登場した星仔作品3作も、字幕翻訳が大変そうで、これを日本語で観られることに感謝せねば、と思った次第。
そんな無厘頭コメディのひとつが、『ゴーストバスター』である。
香港のとあるマンションでは、1週間前にレイ夫妻の母親が謎の死を遂げて以来、毎日のように空から物が振ってくるため、警備員たちは戦々恐々としていた。そのマンションに住むオレンジ色の髪の女性クン(カレン)は失恋してやけくそになり、『恋する惑星』のビデオを観ながら暴れていた。クンが外に飛び出すと、黒いロングコートと帽子姿、手に鉢植えを持った若い男が歩いているのを見かけ、こっそり後をつけてみる。
警備員のもとに、レイ夫妻の一人息子がいなくなったと連絡が入った。息子は戻ってきたのだが、彼には死んだ祖母の霊がとりついていて、レイ夫妻を恐怖に陥れる。そこに現れたのがロングコートと鉢植えの男。この男レオン(星仔)は霊を見る能力があり、電気ショックを使って霊を成仏させた。
一見プロフェッショナルの除霊師に見えるレオンだったが、実は脱走した精神病院の患者。しかしクンは彼に一目惚れし、『レオン』のヒロイン、マチルダのコスプレをして彼に弟子入りを志願する。
マンションに戻った二人は、警備員たちが再び悪霊現象に慄いていることに気づく。レイ夫妻の母親は実は息子たちに突き飛ばされたことで墜落死していたので、夫婦を恨んで化けて出ていたのだ。真相をレオンたちに知られた夫妻は彼らと対決するが、追いつめられて夫婦もろとも墜落死。その際、レイ夫人はレオンの処置ミスで悪霊となってしまったので、クンと警備員たちはレオンに悪霊退治の特訓を受ける。
しかし、その特訓はどれもこれもお下劣でナンセンス。ホントにこれで悪霊退治ができるのか?と警備員たちはレオンに不信感を抱くようになる…。
ブラックユーモアあり、精神病院ネタあり、『ミラクル7号』にも登場するウ〇コネタあり、李健仁あり、黄一飛ありと、いつもの星仔を知ってる身としては王道中の王道だな、と感じさせられる出来。それに加えて監督が王家衛とは真逆の(笑)ジェフ・ラウなので、王家衛ネタも容赦ない。
しかーし、いつもの星仔ワールドとはわかっているんだけど、それであってもなんとなく後味が…と思っちゃうのは、ダークなホラー風味が強くて、ブラックなネタも笑い飛ばせなかったからかな。ワタシはホラーが嫌いだし、マンションに幽霊がというシチュエーションといえば、かつて『The EYE』でえらい怖い思いをさせられたもんな。あと、ラストがねぇ…。まーブラックユーモアであるのは間違いないけど、このオチはある意味結構痛いっすよ。
ま、このへん、あまり深く考えるのはよした方がいいか。だって“無厘頭”なんだから。
そんな複雑な思いで観ても、決してつまらなかったってわけじゃないのよ。もちろん、笑えるところは大いに笑わされましたからね。黄一飛さんをはじめとする、役に立ってんだか立ってないんだからわからん警備員の皆さんや、『食神』ほどのぶさキャラじゃないけど、スキンヘッドまでご開帳したカレンの根性は楽しい。ナタリー・ポートマンのコスプレ、似合ってたねー。
先にも挙げたとおり、この映画には『レオン』がネタになっているわけだが(香港でも人気だったんだ)、そのレオンのコスプレで登場している星仔。こっちも出っ歯やらなんやらと捨て身の爆笑演技なんだが、無精ひげは似合ってもジャン・レノみたいなゴーティひげが似合わないことを発見。…なんか、星仔に見えないんだよなー。それも違和感の原因だったのかもしれないな。
そういえばこの映画祭でワタシが観た星仔作品は、いずれも幽霊ネタだったな。もう一つの幽霊ネタ、『ゴーストハッスル』の感想は書けたらアップいたします。
原題&英題:回魂夜(Out of the dark)
監督&脚本:ジェフ・ラウ 製作:モナ・フォン 音楽:ウィリアム・フー
出演:チャウ・シンチー カレン・モク ウォン・ヤッフェイ リー・リクチー レイ・キンヤン
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