マイ・ブルーベリー・ナイツ(2007/フランス・香港)
写真は前記事で書いたカフェの入口。
王家衛は村上春樹の影響を受けている。それは藤井省三さん(藤井さんの著書『村上春樹のなかの中国』実は未読です。そのうち買って読みます)や毎日新聞で「銀幕閑話」を連載している紀平重成さんも言及している通り、有名な説である。さらにワタシが勝手に付け加えるならば、ハルキと家衛はあるテーマにこだわり続け、それを自作でよく反復するという点でもよく似ていると思っている。『2046』のときに書いた“セルフオマージュ”ってーアレである。悪く言えばまたオマエは同じことやってんのか!(爆)
それを王家衛初の英語映画『マイ・ブルーベリー・ナイツ』で改めて確認した次第。
ニューヨークでカフェのオーナーになったイギリス人のジェレミー(ジュード・ロウ)。彼の店にやってきた失恋したてのエリザベス(ノラ・ジョーンズ)。いつも注文するのは売れ残りのブルーベリーパイ。カフェの外で一緒に吸うタバコ。毎日繰り広げられるおしゃべり。ジェレミーに預けたアパートの鍵。それぞれ喧嘩に巻き込まれて鼻血ブー。酔っ払ってカウンターで寝てしまうエリザベス。
ふと思い立って旅立ってしまうエリザベス。旅先からエリザベスの手紙を受け取るジェレミー。最初にたどり着いたのはメンフィス。不眠症のまま昼はダイナー、夜はバーで働くベティことリジーことエリザベス。ダイナーで知り合ったアル中の警官アーニー(デイヴィッド・ストラザーン)。美しい元妻スー・リン(レイチェル・ワイズ)が忘れられないアーニー。そんな彼を冷たくあしらうが、実は彼をどうしようもなく愛していたスー・リン。彼らの愛の結末を見送り、ふたたび旅立つエリザベス。
ネバダのカジノホテルのダイナーに流れ着いたエリザベス。その間に元恋人との間に決着をつけたジェレミー。カジノで出会ったのは若いギャンブラーのレスリー(ナタリー・ポートマン)。彼女とともに旅に出るエリザベス。人を信じず、自分にギャンブルを仕込んだ父親の危篤をも信じないレスリー。ラスベガスに着き、父親の死を知るレスリー。
旅立ちから300日、初冬のニューヨーク。かつての恋人の部屋が空き部屋になったのを知り、ジェレミーのカフェに足を向けるエリザベス。
こうやって体言止め(一部例外あり)で書いてみると、それがすべて過去の王家衛作品につながってくる。初めて王家衛作品に触れる人はこれらのモチーフをどう感じただろうか。そして、ワタシたちのような王家衛オタク(こらこら)はそれを心地よく感じるか、または「あああまたやってるよー」とつっこむかどちらかの反応になるのだろうか。ワタシはもちろん後者なのであるが、これはもともと彼の映画に対してはツッコミになってしまうのでしょうがない。
ワタシが好きな王家衛作品は『花様年華』や『ブエノスアイレス』なので、そのへんが好みなら明らかに物足りなさを感じると思われるのではないだろうか。『恋する惑星』が好みの人はおそらく好みなんじゃないかと思われるけど、ワタシはむしろアレのほうが王家衛の本質と離れる作品って思っているからなぁ。でもこの国じゃ後者のほうが人気だもんね。それはしょうがないとしよう。
そんなワタシが印象的だったのがメンフィスのパート。身も心もボロボロになるアーニーと、ふしだらで束縛を嫌うものの彼を愛していたスー・リンに、ブエノスのファイとウィンを重ねてしまったからだ。たぶん、何パターンも撮られていたというブエノスの話の一つのバリエーションだったのかもしれない。しかし、傷つけあい、離れながらもお互いを狂おしく思う恋人同士の物語は、確かに男女間では生々しく、痛々しい。生真面目なのに自分を傷つけるアーニーにファイが、艶めかしくも繊細なワンピース姿のスー・リンに、ウィンと合わせて『花様年華』の麗珍も重ね合わせてしてしまった。
また、ネバダ→ラスベガスパートに登場するレスリーは、当然その名前に胸をつかまれたのだが(もともとLeslieという名前は男女どちらにも通用する名前。日本で言えば「薫」みたいなものだな)、彼女の刹那的なたたずまいにはなぜか『欲望の翼』の旭仔が重なって見えた。
ノラ小姐は、歌声が素敵で好きなシンガーだけど(『Don't Know why』はよく自分でも歌うんだ)、いざ演技に入るとどこか少女っぽい。あと、これも何度もいってるけど、…やっぱりすーちーに見える。ノラ自身にアジアの血が入っているせいかな。
ジュードの演技は見てて安心するなー。あとは腕毛がすごいなー、ともう乳毛腋毛並みのくだらないコメントをしてみたりする。投げやりでスマン。
そんなわけで全体的な感想は相変わらずなんだな家衛よって一言で済ませたいんだが(その結論までが相変わらず長いな自分よ)、それでもやっぱり香港に戻ってこようよ、そして早いところトニーの体が空いているうちに《一代宗師》を撮っちゃえよ、と思うのであった。やっぱり王家衛は香港に必要よ。
【おまけの超蛇足】そんなわけで勝手に中華版(というか王家衛の常連版)でリメイクキャストしてみる『藍苺之夜』
ジェレミー:張 震(トニーじゃないの?といわれそうだけどね)
エリザベス:董 潔(最初はツーイーにしようと思ったが…)
アーニー:トニー・レオン(警官だし、アル中だし、眉間にしわ寄せて思いつめてるし)
スー・リン:マギー・チャン(うーむ、定番で申し訳ない。かといってレスリーに女装してもらうのも…)
レスリー:チャン・ツーイー(コン・リーよりは重々しさがないからいいでしょ?)
でも、中華リメイクするのならどこを旅させるの?中国華南地方で後半はマカオ?
製作&監督&原案&脚本:ウォン・カーウァイ 製作:ジャッキー・パン 脚本:ローレンス・ブロック 撮影:ダリウス・コンジ 美術&衣装&編集:ウィリアム・チャン 音楽:ライ・クーダー
出演:ノラ・ジョーンズ ジュード・ロウ デイヴィッド・ストラザーン レイチェル・ワイズ ナタリー・ポートマン
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コメント
いつものことながら、感想、早っ!(感動)
わたくしは、香港リメイクなら
ノラの役は、イザベラ・リョンちゃんかなあと思ってたのですが
意外と、エリザベス=阿嬌、レスリー=リョンちゃん、でも
いいかなあ、と今、思いました。
あとで自分のところに書くつもりなんですが
この映画のジュード・ロウ、ところどころ、とある香港俳優さんに見えて仕方なかったんですけど・・・
(てことで、ワタシの脳内リメイクは、その彼で)
書いちゃうと、もう、そうとしか見えなくなる気がするので
頃合を見計らって書きます(笑)
とりあえず、ブルーベリーパイが食べたい!(笑)
投稿: grace | 2008.03.23 03:17
早いというよりも短い感想を心がけたら、やっぱり案の定長くなってしまいましたよ(苦笑)。
王家衛常連メンバーで香港リメイクを考えてみたら、案外いろんな香港明星を出してイメージキャストできるんじゃないか、たとえばジョニー親分版とか(爆)なんて思ったので、このへんは今週中にまた記事にしようかなーと思ってます。
ところでジュードは以前からワタシも某香港明星に似ていると思っていたのですが、…まさか同じ人じゃないでしょうね?長身でハンサムで監督もできるけど歌が果てしなく下手なあの人では?
とりあえず、これからブルーベリーパイを食べに行ってきます。それから『死神』を観に行きますわ。
投稿: もとはし | 2008.03.23 11:11