コスモポリタン李安先生の、クールな視線
李安(アン・リー)先生の作品は以前も書いた通り、中国語映画はデビュー作の『推手 プッシングハンズ』以外すべて、英語映画は『いつか晴れた日に』と『ブロークバック・マウンテン』のみ観ている。朝日新聞や毎日新聞のアジア映画コラムのインタビューにあるように、90年代後半のようにすっかり英語映画に行ってしまうのではなく、今後は欧米と中華圏でそれぞれ映画作りをしていくという嬉しい話があったので、李安先生からますます目が離せない。いずれは『アイス・ストーム』に『楽園をください』(両方ともトビー・マクガイア出演作か)、そして公開時はスルーしてたけど、今になったらなにか深いテーマがあるんじゃないかと思えてきた『ハルク』もDVDでフォローするか。そーいえばワイズポリシーblogで「アン・リー・コレクション」なるDVDセットを見かけたけど、ちゃんと『ハルク』も入っているのか?(そりゃないだろ)
それはともかく『ラスト、コーション』話に戻る。
普通、トニー出演作品だと、やはり迷の贔屓目ということもあって、ついつい過剰に感情移入して見入ってしまうのだが、この映画に限ってはそれがなかった。あんなにハマって観ていたのにもかかわらず!そして、気がついたことがある。物語は非常にメロドラマ的であるのに、その演出は全然ウェットじゃないのだ。それを感じたこともあるから、セックスシーンに色気がないと思ったのだろうし(いろんなところの感想を拾い読みすると殿方はそうでもないみたいだね。これは性差だ、しょーがない)、易先生や佳芝どころか、誰にも感情移入せずに、まるで神もとい李安先生の視点になり代わったかのように眺めていられたのかもしれない。
アメリカで許されざる恋に落ちた男たちを描いた『ブロークバック』が彼じゃなきゃ撮れないと思わされたのは、米国以外の文化圏で幼少期を過ごしてあの国に腰を落ち着けることになった李安先生が、ハリウッドにとって完全に“異人”であったから撮れたんだ、と思ったことがあったのだが(リンク先の感想参照)、それは本人が“姉妹作”と言い切るこの映画でも言える。彼が台湾人であっても外省人であることから、国民党を追い出した中国共産党政府は彼に対して、もしかしたらあまりいい顔をしたくないんじゃないかなーなんて変に政治的な勘繰りをしたくなるんだけど(これに関してのツッコミはやめてねー)、彼は中国においても“異人”なのかも、と思っていたら、雑誌『すばる』に掲載された野崎歓先生によるインタビューでもそのことについて触れていたので、はっきり確信した次第。
言い換えれば、李安先生はどこにおいても“異人”なのかもしれないけど、それは裏返せばコスモポリタンであるわけで、その視点が映画作りに生かされているんだと思ったのである。
あとは、2000年以降の作品に見られるんだけど、大作はちゃんと大作として作り上げ、エンターテインメントに徹しているという点も特徴的かな。『ハルク』もきっとそうなんだろうし(推測で言うなよ)、ブロークバックも『色、戒』も立派なエンターテインメント映画よね、って乱暴すぎるかしら。
そして忘れちゃいけないのが俳優の使い方。
李安監督作品でブレイクした若手俳優さんって、実は結構多くないか?
例えばケイト・ウィンスレット(いつか晴れた日に)、ヘタレの蜘蛛男ピーターくんことトビー・マクガイア(アイス・ストーム&楽園をください)、『初恋のきた道』とこれで知名度を上げたツーイー、実質上除隊後初の映画出演となった張震(以上臥虎蔵龍)、『トロイ』や『ミュンヘン』に出演したエリック・バナ(ハルク)、ブロークバックの主要キャスト4人全員(でもヒースの新作はもう見られない)…。
もしかして李安さん、欧米人でも華人でも、若手(or無名)の才能を引き出すのには長けているんじゃないか?湯唯小姐や宏くんの好演を観るたび、なんだかそんな気がしてきた。だから今後彼らにも注目がもっと集まるのかもしれない。
それに対して、ベテラン俳優には堅実さと同時にちょっとした意外性を求めるのかな?弁髪姿のユンファにカンフーを、ミシェル姐にはオトナの恋を、そしてトニーには中年の狡猾さと残忍さを。そしてみなさん、確実にその役柄を演じきっていらっしゃるので、ベテラン俳優には絶大な信頼を寄せているような印象。あちこちの感想を拾うと、今回のトニーは王家衛作品ほど個性を出していないという評も多少見受けられるので、そんなふうに思ったりするし、「別に易先生はトニーじゃなくても…」という声があったのも、なんとなくそんなことからなのかな。
でも、確実にいえるのは、ブロークバックとこの映画で李安先生が欧米圏と中華圏の両方で十分な実力を発揮した映画を作り、さらに芸術性とエンターテインメントを両立させたスタイルを築いたってことかな。
そんな彼は次に英語圏でまた映画を作ることになると思うのだけど、いったい何を作るのだろう。
以前、個人的には『ゲド戦記』のル=グウィンの書いた傑作SF『闇の左手』を映画化して是非SFに挑戦してほしいなんてここに書いたことがあるんだが、実はこれ、ただのSFじゃなくて、料理次第では先の2作品に通じる愛の物語に仕立てることができると考えているのだ。だけど、以前日本で映画化された『ゲド』がいくらヒットしようが内容としてはダメダメで、彼女はそれに激怒したということを聞いたから、もしかしたら簡単に映画化を承諾しないと思うし、ハリウッドもこの企画はやらんとは思うから、アタシの妄想だけで終わりそうだけどね(苦笑)。
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