桑桑と小猫 -『それでも生きる子供たちへ』(2005/イタリア・フランス)より-
誰だって子供時代がなかったことなんてない。でも、ワタシたちは子供だったころをいつの間にか忘れてしまう。そして自分のことを棚に上げて、子供たちをないがしろにしてしまう。子供のころと比べて、今の世界(特に先進国)は便利で快適になったが、そんな中でモノに囲まれている今の子供たちは、本当に幸せなんだろうか?そして、先進国の発展と対照的に、発展途上国の子供たちはどうなんだろうか?
2年前のヴェネチア映画祭でお披露目されたオムニバス映画『それでも生きる子供たちへ(All the invisible children)』は、WFPの飢餓撲滅大使を務めるイタリア人女優の呼びかけにより企画されて、ユニセフのサポートと企画意図に賛同した8人の監督たちが“世界の子供たち”をテーマに作った映画。カンヌの常連エミール・クストリッツァ、ハリウッド映画からドキュメンタリーまでこなすスパイク・リー、父であるリドリー・スコットと共同で監督したイギリス人CMディレクターのジョーダン・スコット、そしてアジア代表として我らがウーさんから日本初紹介の方まで監督のメンツもすごい。そんな映画のエンディングを飾ったのが、意外にも初めて中国大陸で撮影した(しかも12年ぶりの中華電影!)というウーさんの『桑桑(ソンソン)と小猫(シャオマオ)』だった。
時と舞台は現代の北京。お城のような家に住む桑桑(チャオ・ツークン)はピアノとお人形が好きな女の子。でも、パパとママ(お久しぶりです、小豆子ママまたは陸一心の妻ことチアン・ウェンリー)はいつもけんかばかりしている。どうやら自分には弟がいるみたいだけど、ママがあんなに怒っているのはただごとじゃない。パパは家を出て行ってしまった。桑桑は自分に弟がいてもいいとママに言うと、ママに激しく怒られる。離婚寸前の両親に心を痛めた桑桑は心を閉ざし、ママと一緒に乗った車からお気に入りのフランス人形を投げ捨てる。
片手が砕けた人形は屑拾いのおじいさんに拾われる。おじいさんは数年前、同じ場所に捨てられていた孤児を拾い、小猫(チー・ルーイー)と名づけて貧民街で育てていた。自分のいた場所で発見された人形をもらった小猫は大喜び。そして、あともう少しでおじいさんが自分のためにためてくれたお金で学校に行けることを知り、彼女の顔は明るく輝く。
そんな喜びもつかの間、ある日市場に屑拾いに出かけたおじいさんが、トラックに轢かれて死んでしまった。天涯孤独の身になった小猫は花売りの親方の元で、多くの少女たちとともに花を売ることになる。町の花売りの仕事は子供にはとても厳しく、一毛でも多く儲けないと親方にひどく殴られ、ご飯を投げ捨てられる。しかし小猫はめげなかった。彼女の明るさとかわいいフランス人形は、同じく厳しい環境で生きる少女たちの心を癒していく。
一方、裕福であっても満ち足りず、心を閉ざした桑桑は人形をすべて壊してしまう。ママも人生に絶望し、死を考えることになる。思いつめた顔をしたママにより車に乗せられた桑桑は、通りかかった広場で花売りに苦労する小猫の抱く人形に目が釘付けになる。その人形の壊れた手には接木がしてあった。それを見てなにかを感じ取った桑桑の唇がとあるメロディを口ずさんだとき、ママは車のアクセルをふかし、湖に突っ込もうとしていた…。
ウーさん映画での子供の描写で一番印象的なのは、なんといっても『フェイス/オフ』のあの「虹の彼方へ」が流れる銃撃戦の場面。宿敵キャスターの息子アダムに、彼の銃撃が原因で死んでしまった息子を重ねたショーン(でも顔はキャスター)が彼にショックを受けさせないよう、ヘッドホンをかぶせて逃げさせたあの場面は、ヘッドホンから流れるあの曲にのせて繰り広げられる阿鼻叫喚のバイオレンスも、子供を生きさせるためと思うと非常に高貴に感じてしまう。…のか、ホントに?まーそれはともかく、バリバリのアクション映画が多いウーさん作品で、メインキャラに子供がいる設定の映画があまり思い浮かばないので、なおさらそれを考えてしまうのかも。いずれにしろこの場面、ひいては『フェイス』という映画では、ウーさんは子供を守るべき存在であり、未来を託す象徴としてみているということがわかると思う。
バイオレンスの詩人と呼ばれるウーさんだけど、こう呼ばれることは多分彼の本意じゃないだろう。ホントは恋愛ものも『狼たちの絆』のような軽妙なコメディも撮りたいだろうし、銃撃も暴力もなくて子供にも観てもらいたい映画だって作りたいに違いない。そんな彼が《赤壁》を前にして撮りあげたこの映画には、鳩も飛ばなければ暴力もなく‐あ、約2ヵ所あったか‐、困難な状況に面しながらも希望を失くさない二人の少女の姿があった。
もうひとつ注目すべきなのは、彼女たちの生きる背景のリアルさと、その過酷さに絶望を抱かない子供の力かな。かつての高度成長期の日本を彷彿とさせ、おそらくその時以上のスピードで発展していく中国とその象徴である北京。今こそ食品問題や公害問題であれこれ言われている中国だが、これは高度成長期の日本でも同じことが言われていなかっただろうか。そして、あまりにも急スピードで変化する社会では、貧富の格差は想像以上であり、豊かであっても決して幸せではないことも示される。一方、貧しい子はお金がないと学校へ行けないから、小猫の一番の願いは学校へ行くことであり、その夢をかなえるために必死で働く。自分の育ての親は失っても、彼女には人形があったから、決してさびしくはなかった。
学校に行けば字も習える、友達もできる、勉強すれば今よりもう少しよくなる。『男たちの挽歌』の英題じゃないけど、小猫には“Better Tomorrow”を信じる力があったから、貧しくても笑っていられた。そんな彼女と自分の捨てた人形を見た桑桑も、もしかしたら知らず知らずに小猫の気持ちが伝染し、絶望から自力で這い上がって、ついには死に急ぐママを引き止めたのかもしれない。
物質的に満たされた日本の子供たちから見れば、この話は結構ベタなのかも知れない。でも、桑桑のようなさびしい子供たちが日本にいないわけじゃない。ワタシたちは今の世の中に失望してしまって「こんな世の中はいやだよね」といつも言ってしまうけど、子供たちはこれより先の未来を生きなければいけない。20年後の彼らに同じ言葉を言わせちゃまずいよね。
主人公の二人の少女もまたそれぞれに印象的。汚れた赤い頬に乳歯の抜けた歯をみせてにっこり笑う小猫はもちろんかわいいし、ピアノの間の床に仰向けになってズリズリする(公式サイトの予告編動画参照)桑桑の動きにも愛されない孤独がにじみ出ている。彼女たちを演じた子役ちゃんたち、将来はきっといい女優さんになれるよ。
監督:ジョン・ウー 製作:テレンス・チャン リー・シャオフン リー・シャオワン
出演:チャオ・ツークン チー・ルーイー チアン・ウェンリー
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