クレイジー・ストーン(2006/中国)
ダサい!
かっこ悪い!
でも面白い。
『モンゴリアン・ピンポン』のニン・ハオ監督と、大プロデューサーアンディ先生のフォーカスが手を組んだ『クレイジー・ストーン』ってこんな映画。
四川省重慶にある破産直前の工芸品工場のトイレから高価な翡翠が発見された。謝工場長はこれをビジネスチャンスとみて市内のお寺で翡翠の展示会を決意し、元警官の保安主任包(グオ・タオ)に会場の警備を依頼する。工場長から給料を貰えず、さらに前立腺炎に悩まされている包はしぶしぶ任務に就く。翡翠を狙うのは、市内で引越し業者を装っては空き巣を繰り返す道兄貴(リュウ・ファ)とマヌケな子分のこそ泥トリオ、工場の跡地と翡翠を一緒に手に入れたい不動産業者が雇った香港から来た怪盗マイク(テディ・リン)、そしてほれた女性(実は道兄貴の愛人)の気を引きたくて翡翠を欲しがる工場長のドラ息子。一見完璧に見えて隙だらけのセキュリティをかいくぐり、翡翠を手にするのはいったい誰か…じゃなくて、果たして包はダメダメのセキュリティと前立腺炎の二重苦を克服して翡翠を守れるのか?
個人的には、中国映画に“洗練された”という単語はないと考えている。もちろん、美しい作品はないこともないのだが、美しいと洗練はたとえ似ているところがあったとしても、ものすごく遠い。とにかく、ダサいとか泥臭いとかいう言葉しか思い浮かばない。
しかし、この映画に関しては、「ダサい」はほめ言葉として捉えたい。むしろ「洗練」に近いくらいの位置にある言葉ととってもいいと思う。そういってもホントの意味でダサいのは事実であるが。
なにしろ物語の舞台からしてダサい。四川省省都の成都ではなく、第二の都市(といっても直轄市)重慶。まーこの都市は歴史的には重要な場所ではあるのだろうが、工業都市としても上海などからも比べて発展が立ち遅れてしまったという。大気汚染もひどいそうで、それはダサいというよりかわいそうといった方が正しいんじゃないか?とwikipediaの重慶の項目を見て思ったくらいである。
そんな重慶を揺るがす大事件がでっかい翡翠の発掘。これまたダサいし、トホホな状況に追い込まれた人々がその翡翠を手にすべく悪戦苦闘する。さらにダサい。欲望をむき出しにして翡翠強奪計画をたくらむ人々は、どんなに用意周到な計画を講じても、どっかで必ずヘマをしたり、偶然が呼んだ悲劇(本筋以外でも最初からその“偶然の悲劇”が頻繁に登場する。そのくだりにどことなく伊坂幸太郎の初期作品に通じるものを感じたけど、これもまた偶然よね)に巻き込まれる。道兄貴の三人組はもちろんだが、香港帰りのカメラマンを名乗りながら次々と女性に振られていくドラ息子や、クールに登場してみっしょんいんぽっしぼーなアクロバットにまで挑む香港のプロ強盗マイクまで思わぬ詰めの甘さで悲劇に見舞われる。とにかくみんなかっこ悪い。
だけどこれが面白いのは、やっぱり脚本のうまさかなぁ。些細な出来事が次々と連鎖して悲劇を呼ぶ喜劇をベースにしたストーリーテリングの他、妙なところで感じさせられる大プロデューサー様の影(笑。繰り返し流れる『忘清水』のサビや三人組の一人が「これはバレーノだぜ」という言葉など)も面白い。そして『モンゴリアン』にも感じた、いつも小さなことから始まる人々のとんでもない大騒動を一歩下がってみることで、現代中国社会を皮肉っぽくというよりは客観的にみて笑うという意外と冷静な視線があるってことが、この監督の作品の特徴なのかもしれない。
…なんて最後はまじめになってしまったかな。
いずれにしろ、このダサさは意外とクセになるのだ。是非一般公開もしてほしいなぁ。
原題:瘋狂的石頭
製作総指揮:アンディ・ラウ 製作:ダニエル・ユー ハン・サンピン 脚本&監督:ニン・ハオ 音楽:ファンキー末吉
出演:グオ・タオ リュウ・ファ テディ・リン
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