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傷は涙で癒すものか、それとも復讐で荒療治するか。

 

「城市(まち)も人も、心に傷を抱えて生きている。」
…コピーはこんな雰囲気がよかったと思うんだけど、ありふれすぎているかなぁ。

 はい、愛と哀しみと妄想とツッコミで綴る『傷城』裏感想その1の時間です。本blogによる公式感想はこちらをご覧あれ
 なお、前回の感想は極力ネタバレ厳禁で書きましたが、今回からはバリッバリのネタバレでお送りしますので、未見の方は読まないでね。
 いいよね?答えは聞いてないよ。(こらこらこらこら!)

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 今回は、傷と復讐をめぐるあれこれを考えてみた。
 1978年のあの瞬間から、“復讐するは我にあり”な人生を送ってきた劉正煕こと陳偉強。無間道パターンを踏襲すれば、劉という苗字が裏切り者を表わすと思うけど、今回はアンドリューさんの中国名である“偉強(ワイキョン。確か『恋する惑星』の頃、彼はまだ英語名を使ってなかったような気がする)”まで登場してやや驚く。普通なら“キョン”と聞けばどーしてもチャッピーの顔が思い浮かぶもんなんだが(そうか?)、 今回は劇中ダイアログでワイキョン連発なので、初見時は友人と「うわー、アンドリューさんの本名連発だよー」とキャピキャピ(死語)してしまったのは言うまでもない。しかしこのネーミングは脚本のアランさんとフェリックスさんが意図したものなんだろうか。
 nancixさんは正煕のキャラクターには無間道三部作の劉建明と楊錦榮が反映されていると書かれているけど、ワタシはそれに加えて、実は陳永仁も多少は加わっているのではないかと思う。いや、正確に言えば彼の父親に、か。まーそれは父親の名前が陳永福で、同じ麻薬捜査官だった文に殺されてしまったってところからかぶる部分があると感じたんだけどね。クライマックスの台詞に「オレは家族を失い、名前まで失ったんだ」というのがあるけど、この映画における名前は重要なポイントなのかもしれない。陳永福が潜入までしていたかどうかはわからないけど、かなり似た立場にあったのは案外外れていないような気がする。…もちろん、正煕とヤンのキャラクターが全く違うのはいうまでもないのだけどね。
 残りの人生を復讐に捧げてきた彼も、何をもって復讐を終わらせるつもりだったのか。香港映画によく出る「裏切り者は一族根絶やし」の恐ろしさや非情さは改めて説明する必要がないと思うけど、たとえ周氏の娘とはいえども、偽りとはいえ愛してはいた淑珍を手にかけることが終結だったのか。それなら彼が淑珍に言った「初めての家族を失いたくない」の言葉が、いま妙に気にかかる。もし、淑珍が周氏の本当の娘ではないと早くにわかっていれば、淑珍は彼を救うことができたのかもしれない。でも、できなかった。そして、愛する人を失いかける時に限って、それが自分の求めている愛だとわかるのだけど…、結局、正煕を最後の最後で拒んでしまったもんね(泣)。それを思えば、あのラストは不自然ではないということか。
 復讐だけに人生を捧げることにより、わずかな希望も打ち砕かれてしまう悲しさ。それを知ってしまったら、絶望しか感じられなくなる。やはり復讐は心を迷わせ、それを果たしても虚しさだけがついてまわる。そんなことをぼんやり思っていた。

 一方、愛する人をなんとか繋ぎ止めたいと願っても、結局彼女を自分の胸に戻らせることができなかった丘建邦。そのために彼は堕ちてしまい、飲んだくれと化すわけだが、そんな彼を救うのが細鳳であり、始めはワンナイトスタンドだった二人の関係が深まるに連れ、建邦は自分を取り戻していき、かつての恋人を死なせた原因を作った人間に対しても赦せるようになった(といってもその当人は事故で昏睡状態にあったわけだが)のだが、このくだりには傷を受けた相手に対してどう出るかという点で正煕との比較をしたかったのかなと思う。復讐については、まだ公開中のはずの蜘蛛男くんその3(笑)でも「復讐は良心を失わせる」というようなことが描かれていたので、それも思い出しながら観ていた次第。

 自分を傷つけた相手を赦すことは難しい。建邦はそれができたが、もしかしたら正煕も、淑珍を愛することで赦されるチャンスがあったんじゃないだろうか。でも、それが出来なかったのはあまりにも悲しい。
 そして、建邦も敬愛していたに違いない正煕を救えなかった。しかし、たとえ彼を救えたとしても、正煕を待っているのは無間地獄なのかもしれない。やはり、彼は復讐に殉じるしかなかったのかな…。

 ややヘヴィになってしまって失礼します。ネタバレなしだとここまで書けなかったから、やっと書けてちょっとはスッキリしているんだけど。
 次はややおちゃらけた面からいろいろ書きます。こうやってバランスを取らねばね。

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