《童夢奇縁》(2005/香港)
※すみません、今回はネタバレさせないと感想が書けないと判断したので、完全ネタバレです。もしかして日本公開もありえるかもしれないけど…。
この映画を観る予定がある人は、以下の記事を読まないようにお願いします。
「ボクの名前は光仔。
ボクはパパなんか大っキライだった。
だってパパのせいでママが死んだし、あんなクソ女と一緒に住むことになったから。
だからボクは早く大人になって、自立したかった。
そして、思いがけずにそのチャンスが来たんだ…。
だけど、早く大人になって、ボクは幸せだったのかな?」
昨年の金像奨でアンディとカレンがそれぞれ主演賞候補にノミネートされた《童夢奇縁》の予告では、主人公を演じる子役のハワード・シッ君(『1:99電影行動』のテディ監督編で主演を張った男の子だ。ちなみに光仔の弟役のジャッキー・ウォン君は同じくメイベル監督編で秋生さんの息子役をやった子…のはずだ)とアンディが上のように語っている。子供が大人になっちゃうファンタジー作品は、米映画の『ビッグ』などがあるけど(すまん、実は観たことがない…)、はたしてどんな作品に上がっているのだか。
12歳の中学生光仔(ハワード)は3年前まで大好きなママ(リー・ビンビン)と一緒に暮らしていた。しかし、中学校でバスケットのコーチをしているパパ(フェリックス)に別の女性がいることを知ったママは光仔と無理心中を図る。光仔は命を取り留め、パパと継母(カレン)のもとに引き取られるが、ママが死んだ原因がこの二人にあることに腹を立て、特に継母には反抗的になり、いたずらと家出を繰り返していた。早く大きくなってクソ女のいるあんな家から出て行きたい、というのが彼の目下の願いだった。
そして継母の誕生日についに二人は激突し、彼女はこらえきれずに「家から出て行け!」と怒鳴りつける。家を飛び出した光仔は、ヴィクトリア公園で暮らす謎の男(フォン・シャオカン)に出会い、彼が発明した生物の成長を速める薬を見せてもらう。光仔はその薬を盗み出したが、逃げる途中で瓶を割ってしまって手に傷を作ってしまう。
翌日、公園では突然成長した樹に取材が集まっていた。野宿をした光仔(アンディ)が目を覚ますと、傷に染み込んだ薬の効果で自分の身体が大きくなっているのを知る。光仔はそれを利用して、家をメチャクチャにして継母を困らせたり、自分の中学校に行ってバスケのチームメイトの大雄と大暴れしたり、憧れのリー先生(チェリー)がイヤミな副校長(カートン)と付き合っていることを知って仲を引き裂こうとし、彼女とデートをしたりと好き放題に暴れまわる。大人であることを大いに楽しむ光仔だが、彼の肉体は、薬による老化が急速に進んでいくのであった…。
なんと、アンディ映画には珍しくレイティングがⅠ級(大笑)。まー彼は老若男女のスターだからね、いっつも無間道シリーズや江湖や《門徒》のような息詰まるサスペンス映画にばかり出ていてしかめっ面をしていては疲れるだろう。…しかし、個人的には同じ年に作られた『愛と死の間で』よりもこっちの方が作品としては好みだなぁと思うんだけど、どーだろうか?
それはさておき、子供が急に大人になってしまうファンタジーは数あれども、だいたいはファンタジーなので(やや意味不明?)、ラストには元に戻ったりしていることがあるのだろう。しかし、この作品はそうじゃない。光仔はクスリでどんどん老化していく。また、肉体と同時に精神も成長しているらしく、青年に育ったばかりの頃は継母を困らせて満足するガキっぽさがあるのだが、自分が人より早く命が尽きてしまうことを悟って初めて、一度死んだはずの自分を受け入れてくれた家族の大切さを知る。子供の頃にわからなかったことは、成長してからやっとわかるものだが、光仔も人間の80年をたった4日で体験することにより、それを強く知るのである。メイキングでアンディが「これは禁断の望みをかなえてしまった人間が味わう罪の物語だ」というようなことを言っていたけど、それよりも人生の不思議さや命の大切さがテーマとして現れているんじゃないのかなーなんて思ったりして。
しかし、寿命が早く来てしまう未来と同じように、光仔の背負う過去はあまりにも重い。ママ役が大陸女優のリー・ビンビンということで、おそらく郊外(というか大陸?広州?)で暮らしていたという設定なのかもしれないけど、こっちの方がもともと香港人であるパパの愛人と見るべきなのかな、とも思ったんだけど…それにしてもパパはひどいよ、教育者のクセに(泣)。かといって継母が悪役なのかといえばそうでもなく、大人の自分から見ればホントにかわいそうな人だった。血のつながらない息子を育てる大変さもあるし、彼女もまた光仔のママ同様にパパに裏切られることになるし…。しかし、こんな家族の状況は香港では珍しくないことなのだろうか?いくら香港ではシングルマザーの家庭が多いとはいえ…。家族といえば、大きくなった光仔が親友の大雄の家に泊まった時、彼と父親は母親と妹のネット電話を観ながら一緒にご飯を食べていたけど、これも香港の家族の“今”を現しているのだろうか。
また、この映画はキッズムービーであるのは確かだけど、同時に大人の気持ちもきちんと描かれている。パパと副校長は同僚にして親友同士で、学校では副校長はバスケチームの実績を上げられないパパに辛く当たるけど、職を離れれば仲良しであり、立場を忘れて(笑)ゲーセンで遊びまくる。この二人と光仔がゲーセンでシミジミ語り合う場面は気に入っている。ここで光仔はパパや副校長の意外な一面を見たり、大人だって子供の戻りたい気持ちがあると気付くのだから。こういう場面を入れたのはいい。
アンディはこの映画で20歳から80歳まで演じたわけだけど、ちゃんと演じ分けができていたのでワタシ的には合格点あげるざんす(生意気ー)。大人になったばっかりのはしゃぎっぷりはちょいとキツイ?と思ったけど、中盤からどんどん老けていく時には演技にも重みが加わって、ありえない設定の嘘っぽさも薄められているみたい。
カレンはもうお母さん役も演じられるのね…(^_^;)。でも、久々に彼女の演技が見られた(といっても『エンター…』以来じゃないか?)のは嬉しい。最近は歌手活動がメインになっちゃっているもの。パパ役のフェリックス・ウォン(黄日華)は、以前書いたベリーダンサーに出演の湯鎮業と同じく、トニーやアンディも含むかつての“五虎将”の一人…ということはアンディと同年代か?あ、ちょっと上かも。メイキングでカレンが「黄日華が夫でアンディが息子っていうのはすごいわ!」と興奮していたから、彼女がティーンエイジャーだったころ(つまり80年代)の人気TVタレントだったってことがよくわかるのね。
アンディ映画にもれなくついてくるカートン、今回は眼鏡に蝶ネクタイのいかにもーな教頭先生(でも副校長か)っぷりに笑いました。フェリックスさんがずっとジャージ姿なのと対照的にずっとトラッドスタイル、だからゲーセンで遊びまくる時も眼鏡にトラッドスタイル。妙にウケるよ。こういう役は普通ならホントに憎まれ役なんだけど、ゲーセンのシーンが効果的で、決してただの悪役に終わらない。考えてみれば悪役がいないのよね、この映画。
中国娯楽電影界のドン、フォン・シャオカンはギャングではなくて謎のホームレスとして登場なんだけど、顔わかんないです(爆)。何者ですかこのオッサンは、と大監督をオッサン呼ばわりする自分。これはアンディが彼の『天下無賊』に出た縁でのゲスト出演と考えるのね。ゲストといえばチャッピー&クリスタルの夫婦警官もわずかな出演ながらいい味出してました。チャッピーだけでも笑えるのに、おいおい嫁も一緒かよ!って勢いだし(ちなみにこの二人ってこの頃に結婚したんだよね?)
あと書くとすれば、御馴染ピーター・カムのスコアと、最近よく名前を聞くようになった文念中によるポップで色鮮やかな美術デザインも印象的。非常に模範的なⅠ級電影って感じだったわ(笑)。
英題:wait 'til you're older
監督&製作:テディ・チャン 脚本:チョン・チーコン&スーザン・チャン 音楽:ピーター・カム 編集:コン・チーリョン 美術:マン・リムチョン
出演:アンディ・ラウ カレン・モク フェリックス・ウォン チェリー・イン ラム・カートン ハワード・シッ リー・ビンビン チャップマン・トー クリスタル・ティン ニコラ・チャン フォン・シャオカン
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コメント
こんにちは。コウとデレクのそっくりさに「双子だろーー!!ありえねーーよ」と心の中で暴言を吐いてる私も、こっちの方が好きです。(でもチーチンは可愛かった)童夢奇縁には違う意味での「ありえなさ」はありますが・・。でお気に入りが大人になったばかりのアンディが部屋を荒らしまくって、マンションから出て行く時にカレンとマンション入り口で遭遇するシーン。あの時の二人の間の「やるかコイツ?」みたいな目の演技がなんとも好きですね~オレンジ蹴飛ばしてはしゃいでるお馬鹿アンディが好きです。
投稿: はた | 2007.03.14 10:03
『愛と死』がファンサービス映画なら《童夢》はファミリーサービス映画といったところなのでしょうか(笑)。
子供向けにしてはかなり切ないラストですが、家族の大切さを謳っているテーマなので、これでもいいのかな。
香港製のキッズムービーは『マクダル』もそうですが、大人の目線もうまく盛り込まれているところが面白いと思います。
(3年前に東京国際で観た『ベッカム、オーウェンに出会う』も「先生も一人の大人なの」的目線の場面があったし)
アンディとカレンの対決シーンはホントにお馬鹿でしたねー。
『愛と死』で泣かせの象徴になったオレンジを蹴ったのがもし意図的ならば、それはそれですごいセルフパロと思ったのですが、多分偶然なんでしょう(笑)。
投稿: もとはし | 2007.03.14 21:10